魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第六十八話:決戦前

 母、そして〝アリシア〟にお別れを告げたフェイト。部屋を後にして扉を開ければ、案の定トランスが廊下の壁に背を預けて待っていた。

 

 彼女のはからいで家族とじっくり話す事ができた――ワケだが、そもそもこうなっている原因も目の前の少女とその仲間たちである。だからこそ、トランスを含めた組織に心を許すなんて感情はまったく生まれない。

 

「……暇なんだね」

 

 フェイトの皮肉交じりの言葉を聞いてトランスは「お陰様で」とため息交じりに言葉を返した後、フェイトへと近づく。

 

「それじゃ、すぐに玉座の間に戻るわよ。あなたにはやってもらう事があるし」

 

 そう言ってトランスがフェイトに背中を向けて歩く――その瞬間、フェイトは待機状態のバルディッシュを起動。その切っ先をトランスに向け、魔法陣を展開、魔力弾を生成。

 あと少しでトランスに魔力弾を撃ち込める寸前、

 

「ッ!?」

 

 フェイトの動きが停止。

 そしていつの間にか後ろを振り返っていたトランス。その顔は涼し気なまでに無表情だ。

 一方、フェイトの身に起こる異変は体の自由が効かないだけではない。意識まで朦朧とし始めている。

 

「くッ!! これは……!」

 

 自分が自分でなくなっていくような感覚。

 バルディッシュを持つ手が震え、意識を保つのに必死で脂汗を垂れ流すフェイト。そのままデバイスを持つ手に力が入らなくなり、相棒を地面に落としてしまう。片膝を地面に付き、頭を抑えながら呼吸を荒くさせる。

 苦しむ様子を見せるフェイトに、トランスは呆れと感心が混ざったような視線。

 

「ふ~~ん……まさかのここで不意打ちかー。ちょっと性急過ぎかなー?」

 

 少女の軽い口調。だが、その声には若干の冷たさが感じ取れた。

 

(くッ……また、体が思うように……!?)

 

 まるで夢の中にいて思い通りに体が動かせない、そんな感覚だ。憤りを覚えるほどの不自由さにフェイトはなんとか体の主導権を取り戻そうと歯を食いしばる。

 

 確かに忠告も込めてトランスからこの刀型のデバイスの能力については改めて説明された。基本的に自分の自由意志で体を動かせる。が、いざ戦闘で自分自身が追い込まれたり、もしくはクリミナルの面々に危害を加えるようなマネをすれば、体を乗っ取られると説明は受けていた。

 

 トランスはジト目をフェイトへと向けたまま、落ちたバルディッシュを拾う。

 

「とはいえ、非殺傷設定の魔力弾打つつもりだった? ……刃で攻撃すればいいのに」

 

 バルディッシュの先端を指で弄るトランスの言葉を聞いて、フェイトはギリィと奥歯を噛みしめ、鋭い眼光を向ける。

 トランスは両膝を曲げて腰を下ろし、太ももに肘を乗せて頬杖を付く。

 

「にしてもいきなり無謀なことするなー……勝算あった? それとも自暴自棄?」

「お前を倒して……他の奴らも倒せば……すべて解決だ……!!」

 

 いますぐ倒してやる! と言わんばかりに、強い意志を視線を使ってぶつけるフェイト。

 

「あ~……なるほど。やっぱりあの母親の娘ってことか」

 

 変なとこで遺伝子受け継いでるなー、と言いながらやれやれとため息を吐くトランス。

 片膝を付いて今にも噛みついて来そうなフェイトに対し、

 

「ふ~~ん、敵意はともかく殺意が薄いかなー。まー、歳と性格考えたらそんなもんかー」

 

 トランスはその冷たい眼差しでじっくりと黒衣の少女を見下しながら観察する。

 

「優しさなんて持ち続けたって足枷にしかならないし、自分を助けることなんてないんだよ――優しい優しいフェイトちゃん」

 

 なんのつもりで説教じみた言葉を送るのか。トランスは冷めた声で語り続ける。

 

「家族を守りたいなら、優しさも甘さも人間らしさも全部捨てて、もっとバケモノにならないと、ね」

 

 そして怪物は黒衣の少女の両肩を手を置き、耳元へとゆっくり顔を近づけた。そして薄っすらと含みのある笑みを浮かべ、ささやく。

 

「――あなたには、できないだろうけど」

「ッ……!」

 

 あまりにも冷酷に発せられた言葉。そして自分を舐め切った発言。

 フェイトは血が出そうなほど奥歯を噛みしめることしかできない。どこまで無力な自分に、怒りを覚える。

 

 徐々にだがデバイスが自分の体を操ろうとしている感覚が薄れていく。どうやら、デバイスが自分を極力操らないようにしていると言うトランスの言葉は本当らしい。

 

 デバイスの乗っ取りが薄れてきたとはいえ、精神的な疲労が大きい為に息も絶え絶えのフェイトは立ち上がる。

 

「こんな……命も奪えない私に……なにせをさせたい……」

 

 立ち上がった同時に、皮肉と自嘲を交えた言葉をぶつける。

 トランスは頬を掌でつぶしながら視線を逸らす。

 

「う~ん……そうね……。あなたとあなたのお母さんには私も私の組織のメンバーも不意打ちくらわされたし、ジュエルシード集めのお仲間にはパラサイトがボコボコにされちゃったし罰の一つでも与えたいところなんだけどー……」

(私の仲間が……ボコボコにした……!)

 

 やはりあの時、なのはと名乗った白い魔導師と自分のデバイスが衝突してジュエルシードを暴走させた時――現れた謎の襲撃者はこいつらの仲間。

 現在に至るまで銀時や長髪の男によって再起不能状態にされたあの男を〝一度〟も見てはいなかった。さらに言えば、クリミナルという組織に関りを持ってからも目にしてはいない。

 だがしかし、目の前の少女の言う事が本当なら、あの襲撃者はクリミナルの一員と言うことになるだろう。

 フェイトは謎の襲撃者の正体がやっとわかり、トランスに鋭い視線を浴びせる。

 

「なぜ……あの時……銀時を襲った……!」

「あら、やっと気づいたの? って言うか、あんまりおっきな声出してるとアリシアちゃんに聞かれちゃうわよ?」

 

 フェイトはチラリと後ろにあるアリシアの部屋に視線を戻した後、声の音量を小さめにしながら更に視線を鋭くする。

 

「答えろ……! 私の仲間を……銀時を……なんでお前たちの仲間が襲うんだ……!」

「だって邪魔だから」

「銀時もジュエルシード集めをしている私の仲間の一人なんだぞ……!」

「だって後々邪魔になりそうだしィ~」

 

 とトランスは口を尖らせてどこ吹く風と言わんばかりの答え。どこまで人を小ばかにしたような態度を取る白髪の少女に、フェイトは「くッ!」と歯噛みする。

 憎しみと怒りを隠さずぶつけてくるフェイトに、トランスは満足げにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「――それじゃ、あなたにはこれからとっても、と~っても悪い子になってもらおうかしら」

 

 

 

 

 海鳴市の海辺が見える高層マンションの屋上。

 そこに腰を下ろすフェイトは、顔を上げて思い出し、目から一筋の涙を流す。

 

 ――まさか最初にやらされた事が……。

 

『母が娘に変態プレイを強要する場面を演じろ』――

 

 ――だとは予想もしなかった……。

 

 自分を思い通りに動かして悪党に仕立て上げ、表の世界から分断するつもりだと思ってはいた。が、まさか母にとんでもねぇ風評被害与える役目を担わされるとは思ってもみなかった。

 

 ――銀時とアルフにわざわざどう考えても異常な場面を見せてしまった。精神がガリガリ削れた! 吐きそうになった!! ほんッッッとに良い思い出だ!!

 

 ちなみに玉座の間で手錠掛けられた見知らぬ男女。それについて聞いたらトランスは、

 

『捕まえた侵入者。どうでもいいけどあの坂田銀時と同じ出身らしいわね。まァ、なんにせよハードなプレイさせる役者が必要だったからちょうどいいわ』

 

 と紹介した。あと二人はトランスの要求が終わった後は解放されたらしい。

 

 ――銀時と同じ世界の出身である謎の二人の顛末は分からないが、今はどこかの次元に飛ばされて無事であると願おう。

 

 兎にも角にも、最初の命令は予想外だったが、後々の指示はある意味予想通りだった。

 

 自分をクローンと知り、さらには母に裏切られ親を殺して自暴自棄になった少女を演じさせられた――ようは紛いなりにも犯罪者という悪人に仕立て上げられたのだ。 

 理由はいくつか考えられる。

 自分を後戻りさせない為。人を操るデバイスの存在を管理局から隠す為。ただ単に嫌がらせ。

 

 デバイスに自分(フェイト)を演じさせればいいのでは? と思った。

 だがこのデバイス、宿主であるフェイトの人格を再現するほどの機能は備わっていない。っというか、する気がまったくないのが意識を乗っ取られながらもなんとなく分かった。

 

 なんにせよ、意識のないまま自身の手によって数多くの罪のない命が失われていたかもしれない。想像するだけでも身の毛がよだつ未来予想図だ。

 だがらこそ、自分の意識を保ちつつ他人に重傷を負わせないように加減したかった。が、自分が持たされたデバイスは想像以上に宿主である自分の体を乗っ取ろうとしてくる。挙句の果てには勝手にアルフとの魔力リンクまで切ろうとしてくるくらい、融通が利かない始末。

 

 色々と最悪の事態を想定し、このままではアルフが不味いと考えた。

 だからトランスと交渉をしたのだ――〝銀時に魔力補充用首輪を預ける〟ための交渉をだ。

 

『あなたの使い魔をどうしても存命させたい? ん~~……なるほど。まー、協力の対価&サービスとして、消滅しないようにサポートアイテムも渡してもいいわよ? ただし、使い魔の口止めは忘れない事。それなら使い魔にだけ、本音でもなんでも話して良いし』

 

 拍子抜けするくらい、取引に素直に応じてくれた。ありがたい事ではあるが。

 ただ、自分を悪役にしたい計画の穴を更に増やす事を向こうがすんなり了承したことに関しては、疑問も残るところではある。

 そもそもバレる事が前提なザルな計画なのでは? と疑ってしまうが、気にしてもしょうがないだろう。

 

 とにもかくにも、連中のサポートアイテムは受け取らなかった。母にアルフの事を相談した時に教えてもらった保管場所(フェイトの私室)で手に入れた首輪が役に立ったのだから。

 

 自身の真意を綴った手紙と一緒に銀時に渡した首輪が、アルフの存在を生かしているとわかった時は、とても安堵した。

 

 ――本当に、このデバイスは厄介だ……。いらない苦労ばかり増えていく……。

 

 思い出せば思い出すほど文句と鬱憤ばかり増えるデバイスに対し、深く深くため息を吐くフェイト。

 

 だがしかしだ。実力が数段上の執務官に、暴走した複数のロストロギア。とにかく、フェイト一人では手に負えない相手を難なく制してきた。

 だがその分、このデバイスは勝手に判断して自分を操って排除しようとしたのだ。お陰で何度意識を手放しそうになり、心をかき乱されたか分かったもんではない。

 かと言って下手に捨てられるワケもなし。前に一度コッソリ時空の狭間である虚数空間に捨てようともしたが、結局は体の自由を奪われた。もし仮に捨てたられたとして連中にバレたりでもしたら、奴らが母や姉に何をするか分かったもんではない。

 

 家族の命がかかっている以上は八方ふさがりだ。デバイスを手放すワケにはいかない。

 

 クリミナルの言う通りに命令を遂行し、せめて被害者を最小限に抑えた上で、まだ連中の手の中にある母と姉の命を守る他ない。

 だがしかし、もし連中が家族に手を出すような事があったのなら、

 

 ――精神が壊れたとしても連中に一矢報いてやる!

 

 だがそれは最後の手段であり、ただ自分が犠牲になるだけで済むなら無理に逆らう必要はない。

 連中だって自分の捨て身の反逆を望んでいないはずだ。なら自分がやる事は決まっている。

 

 ――ジュエルシードを全て集める。

 

 少し強い風を肌で感じながら、差し迫った決戦に思いを馳せる。

 あの森に広がった広域結界の中に自分と戦うであろう対戦相手がジュエルシードを持って待っている。結界の中にジュエルシードの反応を確認できたので、確実に目的のロストロギアは結界内に存在する。

 複数か、それとも単騎か。いや、間違いなく複数の人間――それも高位の魔導師が待ち構えているに違いない。

 

 なにせ自分は犯罪者だ。どう考えても正々堂々、一対一で戦って無力化させようなんて管理局側が考えるはずがない。

 

 だがどんな相手だろうと構わない。

 立ち向かってくるなら無力化しジュエルシードを奪う、それだけだ。

 後はどれだけ相手の命を奪わないようにこの忌々しいデバイスをコントロールできるか、そこが今自分が最大限できる抵抗だ。

 

 そう遠くない未来の予想図を思い描き、フェイトは強く深く奥歯を噛み締めた。手に乗せたデバイスを砕くほどの勢いで握りしめるが、デバイスはビクともしない。

 

 こんなとこでいつまで物思いにふけっていても仕方ないと思ったフェイトは立ち上がり、結界へと向かおうとするが、ふっとある事を思い浮かべた。

 

 あの結界には〝誰〟が待ち構えているのだろうか?

 

 ――やっぱり、あの白い魔導師とその仲間の魔導師と執務官? 

 ――それとも……〝銀時〟や〝アルフ〟……。

 

「ッ!?」

 

 そこまで考えてしまったフェイトは、体を硬直させてしまう。

 まるで体全体に静電気を受けたように全身に一気に鳥肌が立ち、不安と焦燥がない交ぜになったように、なんとも言えない苦しみが湧いてくる。

 フェイトは溜まらずバッとしゃがみ込み、体を震わせながら両肩を抱き込む。

 

 ――なに……これ……? すごく……苦しい……!

 

 銀時とアルフと戦う考えた途端、激しいほどの拒絶に似た感情が自分に襲い掛かる。嫌だ嫌だと言う激しい心の訴えが聞こえてくるようだ。

 

 ――思い出してしまう……。母さんの気持ちがまだ分からなかった私を支えてくれた、銀時やアルフ。二人と過ごした楽しい日々を……何度も笑った日々を……!

 

 目の端に涙が溜まりはじめ、頬に滴が何度も落ちる。

 必死に歯を食いしばり、立て! と自身を叱責する。だが膝が立ってくれない。

 

 アルフの心を傷つけた時、もう自分が許せなくて仕方なかった――だから心をかき乱された時、ジュエルシードにまるで八つ当たりでもするように戦った。

 銀時とアルフと戦うのが嫌で嫌で仕方なかった――だから白い魔導師に怒りをぶつけて八つ当たりをしてしまった。

 

 何度突き放しても自分の元にやって来ようとする銀時とアルフ。二人を傷つける行為をこれからするのだと意識する度、拒絶反応にも似た感覚が日増しに大きくなった。

 

 心が苦しくて苦して仕方ない。

 二人を裏切って傷つけた自分が感じていいはずの苦しみではないのかもしれない。

 だがもし、母と姉を選んで二人を傷つけた自分が受けるこの痛みが罰なのだと言うなら、甘んじて受け入れる。

 どんなに足掻いても後悔しても、どうにもならないのなら前に進むしかないのだ。

 

 フェイトはなんとか震える体を奮い立たせ、心を平静に保つことに努め、ゆっくりと立ち上がる。

 息を整えた後、待機状態中の刀のデバイスを懐にしまう。そして変わるように、手の甲に付いた三角形の金色の結晶を顔へと近づけ、指で撫でる。

 それは、今までずっと自分自身を支えてきた愛機(デバイス)

 

「…………ごめん、バルディッシュ。最後の最後、お前を使うことができなくて……」

 

 悲し気に薄く微笑みを浮かべ、囁くように告げるフェイト。だが、すぐさま軽く頭を横に振る。

 

「って、違うか……。こんなことに最後まで、付き合わせちゃってごめん、て言うべきだったね」

 

 悲しみのあまり、無意識に待機状態の相棒を掌で覆ってしまうフェイト。すると、握られたバルディッシュは点滅する。

 

《いいえ。私はあなたが(マスター)であったことになんの後悔もなければ憂いもありません。傷つきながらも前へと進んできたあなたが私の(マスター)であった事、それこそが私の最大の誇り》

「バルディッシュ……」

 

 愛機の言葉を聞き、フェイトは瞳を潤まし、ギュッと相棒を胸に抱く。

 

「でも私……もうすぐあなたを……捨てちゃうんだよ?」

 

 涙声になりながらフェイトは自身の相棒へと告げる。

 これから自分が罪を犯す以上、この大切な愛機(あいぼう)にその手伝いをさせるワケにはいかない。

 だからこそバルディッシュを最後にどうするのかはもう決めている。だが、今の今までバルディッシュを手放す事だけはどうしてもできなかった。

 今まで一人では、心細くて不安で仕方なかった。だからこそ、最後の支えを手放すことができないでいた弱い自分が招いたわがまま。

 

《充分です。最後の最後まで(マスター)の戦場にお供できるのだから》

 

 優しく点滅するバルディッシュの言葉を聞いてフェイトは歯を食いしばり、彼女の頬をまた滴が伝う。

 

 ――例えもう使う事はなくても、最後の戦いで使うデバイスが別のモノだとしても、決して変わる事はない。

 

 だがすぐに涙をふき取り、鋭い視線を最後の戦いの場へと向ける。

 

「行こう……バルディッシュ」

《Yes sir》

 

 ――私の最高の相棒(デバイス)は未来永劫変わる事はない。

 

フェイトはマントを翻し、最後の戦場へと向かう。

 

 ――アリシア……母さん……。

 

 今は色んな感情が少女の中に渦巻いている。大事なものはいくつもあれど、決して彼女が選ぶ道は変わらない。

 

 ――二人は最後の最後まで私が……守ってみせるから……。

 

 黒衣の魔導師は決して止まる事はない。

 

 ――例え私がどうなろうとも……。

 

 

 

 

 結界が展開された森林内。

 その中では、なのは、ユーノ、アルフ、銀時の四人がフェイトがこの決戦場にやって来るまで待っていた。

 なのはは緊張をほぐそうと何度も深呼吸し、ユーノは世話しなく歩き回り、アルフは胡坐(あぐら)をかいて座りながら腕を組んで何度も膝を跳ねさせている。

 そんな三人とは対照的に銀時は木に腰かけ、両手を枕にしながら空を眺めている。

 ふと、張り切れんばかりの緊張状態の三人を見た銀時は気だるげに声を出す。

 

「おいお前ら、少しは肩の力抜いたらどうだ? そわそわそわそわ、初デートで彼女待つ中学男子じゃあるめェし」

「いや、なにその例え?」

「そもそも銀時さんは肩の力抜き過ぎですよ」

 

 アルフはジト目を向け、ユーノは困ったような表情を浮かべる。だが銀時は構わず言う。

 

「あんま肩ひじ張ってっと本番まで持たねェぞ。フェイトがいつ来るか分からねェんだしな」

「言いたいことは分かるんですけど、これから命がけの戦いが起こるかもしれないのにじっとなんかしてられるほど僕、強くないですよ」

 

 ――命がけ……。

 

 ユーノの言葉を聞いてなのはは杖を持つ両の手にギュッと力が入ってしまう。自身の命の安全すら危う事実に対して、小学生の少女が恐怖や緊張を感じない方がおかしなことだ。

 背筋が凍るような感覚をなのはが覚える中、ユーノは言葉を続ける。

 

「やっぱり、銀時さんて多くの修羅場……と言うか戦いを経験してたりするんですか? だから緊張や恐怖がないほどの心の強さができあがって――」

「バカ言え」

 

 銀時はユーノの言葉を一蹴し、体を起こして腕を膝の上に乗せる。

 

「どれだけ多くの戦場を渡ってこようが、恐怖なんて感じて当たり前だ。結局、土壇場で足震えずに動けるかどうかくれェの差しかねェんだよ」

「そう……なんですか……」

 

 少々納得がいかない様子のユーノの顔を見て銀時は「でも、そうだな」と言って言葉を続ける。

 

「俺がビビらず戦える理由があるとすりゃあ、死ぬよりも怖ェモンがあるってことぐれェだな」

「怖い……モノ?」

 

 と思わず言葉を漏らすなのは。対し、銀時は薄く笑みを浮かべる。

 

「あァ、このままフェイト見捨てて尻尾巻こうもんなら、俺の中にある大事なモンが折れちまう。俺にとっちゃ、それがなにもよりもおっかねェのさ。そういった譲れねェモンがあるから俺はビビらずにまっすぐ戦える」

 

 そこまで言って銀時は不敵に薄く笑みを浮かべる。

 

「だからこうやってまた、性懲りもなく命張っちまうんだよ」

 

 銀時の言葉がうまく伝わったのかユーノは「なるほど……」と言って何度か頷いている。

 

 ――譲れない……モノ……。

 

 銀時の言っている折れてはいけないモノが一体なんなんのか。なのはにそれは分からない。

 だが、なんとなくでも銀時が伝えようとしたことを感じられはした。恐怖なんかよりもずっと強いモノ、譲れないモノがあるということ。

 きっと銀時が今までフェイトの為にここまで頑張れるのも、その折れないモノがあるからこそなのだろう、となのはは思う。

 すると、

 

「おいなのは」

 

 銀時が唐突に声をかけてきたので、なのはは「は、はい!」と慌てて返事をする。そして銀時は少し真剣な声音で言う。

 

「おめェはジュエルシードの為だけじゃねェ、アルフみてェにフェイトの為に決戦場(ここ)にいんだろ?」

「……はい」

 

 なのははしっかりと頷き、銀時は頬杖をつく。

 

「おめェはあいつと話してェんだったかダチになりてェんだったか、まァどっちでもいいけどよ。おめェの戦うワケの一つはそれだろ? なら、こりゃおめェにとっちゃまたとないチャンスなんじゃねェか?」

「えッ?」

「とぼけた顔してんじゃねェよ。だってそうだろ? なんもかんも解決した暁には、おめェはフェイトとなんの垣根もなくとことん腹割って話せるってことじゃねェか」

「あッ……」

 

 銀時の言葉を受けて思わず声を漏らすなのは。少女の反応を見て銀髪の侍はニヤリと薄く笑みを浮かべる。

 

「目の前の戦いで頭いっぱいにすんのも結構だが、少しは終わった後なにができるかくらい考えても罰は当たらねェと思うぞ」

「…………」

 

 なのはは胸の前に拳を置いてギュッと強く握りしめる。

 銀時の言葉を受け徐々にだが、緊張や恐怖といった感情が抑えられ、和らいでいくような感覚を覚え始めていた。

 これならきっとフェイト……いや、あのデバイスとの対決でも満足に戦えるであろうと思った。

 

 ――銀時さん……ありがとう……。

 

 なんだかんだで自身の背を押してくれる銀時になのはは内心お礼の言葉を伝える。

 銀時は「まぁ、とは言えアレだ」と言って、懐をまさぐり始める。

 

「おめェらガキにあーだこうだ言ってビビんなって言うのも酷な話だしな。フェイトが来るまでちょっとばかし息抜きしとこうぜ」

 

 そして銀時はある物を懐から取り出した。

 

 

 空中を飛ぶフェイトは、森に幅広く展開された結界内へとゆっくりと侵入していく。

 そして赤いマントをなびかせながら地上に降り立ち、周りに視線を向ける。

 

 自然だけが広がる森林地帯。そこに不釣り合いな高層ビルが立ち並ぶ景色を見渡し、周りにある建物が結界内にある疑似的な建造物であると予想。もちろん触れる事も可能だろう。

 

「…………」

 

 フェイトはゆっくりと森林の中を歩きながら考えを巡らす。

 高層ビルのような建造物が立ち並ぶ事から考えても航空戦闘用の空間である事は明白だ。ならば、相手は少なくとも空中戦ができる魔導師であろう。

 あの白い魔道師を含めた、炎と氷を操る魔導師か? それとも管理局の執務官か? はたまた両方か?

 だが、腑に落ちない点がある。

 

 ――なぜ森を戦いの場に?

 

 海をフィールドにするのではなく、わざわざ森林を戦いの場に選んだ理由。むしろ森林であるなら航空魔導師よりも地上戦を得意とする魔導師が有利なフィールドだ。

 まるで地上で戦う人間の為に用意したかような決戦の場ではないか。

 

「ッ……」

 

 そこまで考え――いや、目の前に映った人物たちですぐに理由など分かった。

 自分の目に映る、草花が生い茂る地面に腰かけた人物。

 

 ――……そっか。やっぱり最後の最後まで私の前に立つんだね……。

 

 銀髪の死んだ魚のような目をした男が十二分に戦う事のできるフィールドなのだから。

 

 銀時の顔を見たフェイトは自嘲気味に、そしてなにより悲しそうな表情を浮かべながら草を踏みしめ彼らの前に立つ。

 よくよく見れば金髪の見知らぬ少年にアルフまでいるではないか。

 そして銀時の前にちょこんと女の子座りしている高町なのはと名乗っていた白い魔導師までいる。もちろんあの白を基調としたバリアジャケット姿で、手には愛機のデバイスも握られている。

 

 どうやら彼らの近くには他に誰もおらず、気配も感じない。つまりあの四人だけが自分との最終決戦の対戦相手という事になるのだろう。

 彼らはまだこちらに気づいてないようで、自分に視線が向いていない。銀時となのはが対面するように座り、周りにいる金髪の少年とアルフが彼らの手元を覗き込むように見ている。

 そして銀時が人差し指を立てながら何かをレクチャーしている様子。

 

「?」

 

 ――作戦会議か?

 

 まだちょっと遠目なので彼らが手元で何をしているのか分からないが、だんだんと銀時の声が聞こえてくる。

 

「――……いいか? アルティメット出されたらクリボー増殖を使って~……」

 

 ――んん?

 

 なんか妙な単語が聞こえてきた。

 それでもっと近くまで寄り、彼らの手元が見えるようになると、

 

「そんで次にまずはマンモスの墓場と魔法の効果の矢を融合すると~――」

 

 銀時は遊戯王カード使ってなんか知らんがコンボのレクチャーしていた。

 今までの悩みはなんだったのだろうか? と言わんばかりに、フェイトの目は死んでいく。

 

「アルティメットと合体ッ!!」

 

 といきなり語気を強める銀時は、カードをバシッ! と地面に叩きつける。

 

「そしてアレがアレしてどうたらかんたらでアルティメットの攻撃力がどんどんダウンして――!!」

 

 バァーン!! とフェイトの手から発射された電撃魔法により銀時のカード爆☆殺!

 舞い散り燃えるカードに唖然とする銀時、なのは、ユーノ、アルフ。そして彼らはゆっくりと電撃魔法が発射された方へと視線と共に顔を向ける。

 

 するとフェイトは目を瞑った後、ゆっくりと目を見開き真剣(シリアス)な表情で。

 

「ごめん。なんかイラっとした」

 

 すると今度はなのはが真剣(シリアス)な表情で。

 

「フェイトちゃん……待ってる間、銀時さんに遊戯王教えてもらってたの」

 

 フェイトは真剣(シリアス)な表情で返す。

 

「待たせてごめん」

 

 そしてアルフとユーノは真剣(シリアス)な表情で。

 

「「なんだコレ?」」




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