魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第六十九話:決戦の始まり

 時の庭園の玉座の間。

 

「そろそろ始まるか」

 

 パラサイトは空中に表示された、ホログラムのウィンドウを操作。そうすれば、決戦の舞台となる結界内の映像が映し出される。

 

「さァて、どうなるか……」

 

 目を細め、腕を組んで決戦の場を静観する人外の怪物。

 すると、

 

「あ~、ちょっといいかしら?」

 

 横からトランスが話しかけてきた。

 パラサイトはアンニュイな眼差しを薄褐色の肌の少女へと向ける。

 

「まーた肌の色を変えてんのか」

 

 トランスは「まー、なんて言うか、やっぱこの色がイイかなー?って」と呟く。

 自身の腕の肌を見て苦笑を浮かべる相方の反応に、パラサイトはやれやれと肩を竦める。やがて視線を、空中に投影されたウィンドウへと戻す。

 

「それでなんだ?」

 

 トランスはため息を吐き、汗を流しながら告げる。

 微妙な表情を浮かべるトランスから聞かされた情報。対して、パラサイトの眉間に皺が寄っていった。

 

 

 場所は変わり、アースラ艦内。オペレーター用のルーム。

 

 画面に映った結果内の映像をチェックしながら操作パネル弄るエイミィ・リミエッタとその後ろにはリンディ・ハラオウン。

 

「結界はちゃんと機能しているみたいね」

 

 リンディの言葉を聞いてエイミィは後ろ振り返り、ニコリと笑顔で答える。

 

「上空まで伸ばした二重結界に戦闘訓練用のレイヤー建造物までありますから、もし戦闘が始まっても大丈夫です」

 

 そしてすぐにエイミィは表情を引き締めて操作パネルを弄りながら後ろのリンディへと話しかける。

 

「やっぱり、フェイトちゃんとの戦闘は避けられないんでしょうか?」

「フェイトさんが持たされたデバイスの特性上、彼女との戦闘を避けられる可能性は低いでしょう」

 

 エイミィは操作パネルをカチカチと弄りながら苦笑し、汗を流す。

 

「そうすると銀さん……あの『無茶な作戦』やっちゃいますよね?」

 

 リンディは呆れたようにため息を吐く。

 

「クロノほどではないですけど……彼の突拍子もない案を聞かされた時は正気を疑いました」

「アハハ……」

 

 エイミィはなんとも言えない苦笑いを零しながら操作を続ける。

 

(皆さん。どうかご無事で……)

 

 リンディは銀時たちの無事をアースラ艦長として祈るばかりであった。

 

 

 

 森の結果内。

 

「――なぜ、あなたが此処に?」

 

 フェイトがなのはに向かって冷たい眼差しを向けていた。

 気迫の籠ったフェイトの眼差しを受けて、なのはは一筋の汗を流す。やがて黒衣の魔導師の視線は銀髪の侍へと向く。

 

「銀時も、なぜ此処に来たの? アレだけ痛い目にあったのに」

 

 銀時、そして彼と一緒に自分に対峙する白い魔導師――高町なのは。二人に対し、フェイトはいくつもの疑問を抱かずにはいられなかった。

 

 なぜ魔力を吸収するデバイスを恐れないのか? どうしてここまで強い意志を持って自分の前に何度も立ち塞がる事ができるのか? なぜ傷つことを、死ぬことを恐れないのか? 

 

 銀時だけじゃない、白い魔導師やその仲間たち――彼らが自分の凶刃によって傷つかないように、できるだけ怖がらせてきたつもりでいた。

 だがしかし、銀時もなのはも、そしてその仲間の誰一人として立ち向かう事を止めないのだ。

 

「銀時もあなたもアルフも。後そこのー……」

 

 アルフから次に見た金髪の少年を見てフェイトは眉間に皺を寄せ、少年は苦笑しながら自己紹介を始める。

 

「ユーノ。ユーノ・スクライア。この姿で君に会うの始めてだったね。なのはと一緒に居たフェレットだよ」

「やっぱり白い魔導師の使い魔?」

 

 フェイトは小首を傾げ、ユーノは苦笑いしながら頬を掻く。

 

「いや、僕は使い魔じゃなくて、アレは魔法で変身した姿だから」

「ソーセージに変身できる魔法か、珍しい」

「ちがぁぁぁぁぁぁう!! この流れで加工食品扱い!? なんで若干感心してるの!? つうかここでボケる普通!?」

 

 ツッコミまくるユーノの肩に手を置くのは銀時。

 

「まぁまぁ、落ち着きな。お前はソーセージじゃねェよ」

「銀時さん……」

 

 意外な人物からのフォローにユーノは若干感涙を受けている様子。そして銀時は真剣な眼差しで告げる。

 

「どっちかって言うと淫獣と言う名のちん――」

 

 ユーノの膝蹴りが銀時の右すねに炸裂!

 銀時は痛みのあまり足を抱えながらもんどり打つ。

 

「話が逸れてしまった」

 

 頭を横に振るフェイトの発言に、ユーノがジト目を向ける。

 

「いや、話が逸れた原因君でしょ?」

 

 ユーノの言葉はスルーしてフェイトは鋭い眼差しを四人へと向ける。

 

「なぜ、あなた達は私と勝負しに来たの? 銀時となのは(あなた)は特に私が持っているデバイスの恐ろしさを身を持って知ったはず」

「だからどうした」

 

 銀時はすねを擦りながら片足立ちとなり、あっけらかんとした表情でユーノに親指向ける。

 

「おめェの持ってるデバイスに頭ん中弄られるよりも、こいつのすね蹴りの方がいてェから」

「強がりもほどほどにしないと、身を滅ぼすよ?」

 

 フェイトは冷たく言い放てば、なのはが一歩前に出た。

 

「フェイトちゃん。私は本音を言うとフェイトちゃんが持ってるそのデバイスがすっごく怖い」

 

 右手を胸の前で握りしめながら、なのははぽつりぽつりと気持ちを吐露する。

 

「正体が分からないし、私の魔法がまったく通じない。なにより体を操られるちゃう上に自分自身まで消されちゃうんだもん。怖がるなって方が無理だよ」

「ッ!?」

 

 目を見開き、驚くフェイト。

 なにせなのはが知っているはずのない情報を口にしたからだ。彼女らが知りえるはずのない情報を。

 

「……なぜ、あなたがあのデバイスの情報をそこまで……!」

 

 フェイトは声を震わせながらなのはへと問いかけると、銀時はニヤリと口元を吊り上げる。

 

「おいおいどうした? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔してよ? なのはがオメェの事情を知ってる事がそんなにおかしいか?」

「銀時!! どうして!? なんで話したの!!」

 

 フェイトは瞳を震わし、動揺し、思わず声を上げてしまう。

 

 銀時から出た言葉。

 間違いなく知ってしまっている――銀時やアルフだけではない。なのはと言う少女、更にはこの場にいるユーノでさへ、〝自分が母と姉を人質に取られ、命令を強制されている〟事を。

 そしてこんな発言をしてしまえば十中八九、連中(クリミナル)の耳にも届く。そうなれば母も姉もこれからどうなってしまうのか――すぐに最悪の未来予想図が出来上がってしまう。

 

 狼狽するフェイトとは対照的に、銀時は不敵な笑みを浮かべたままだ。

 

「安心しな。今日でオメェの頭痛の種はぜ~んぶ解決すんだからよ」

「えッ……? それって……どういう……」

 

 意味がまるでわからず言葉が出てこないフェイトへ、銀時は気だるげな表情で告げる。

 

「こちとらもううんざりってことだ。おめぇの三文芝居見せられんのも、裏でこそこそ隠れてる連中に頭悩まされんのも」

 

 頭をボリボリと掻く銀時はやれやれと首を横に振る。やがて、強い意志という芯が籠った眼差しをフェイトへと向けた。

 

「なにより、必死に泣くの我慢してるガキを目の前に差し向けられんのもな」

「ッ……!」

 

 息を飲むように瞳を大きく見開くフェイト。

 一方、銀髪の侍は天に向かって顔を上げて一気に息を吸い込み、吠える。

 

「耳かっぽじってよく聞けや悪趣味変態ロリコン共ッ!! このままプレシアのお古の城で高みの見物決め込めると思ったら大間違いだぞオラァ!!」

 

 

「おい何がどうなってる!!」

 

 玉座の間ではパラサイトが慌て、トランスへと詰め寄る。

 

「なんだこの状況ッ!! 話が違うだろうがッ!!」

「こればっかりは私も予想外!! マジでどうしよう!!」

 

 トランスも汗を流しながら動揺し、声を荒げて反論している。

 

「予想外で済むか!! どうすんだどうすんだ!! 計画が色々と狂っちまったじゃねェか!! フェイトどうすんだよ!? 決戦中断させて今から連れて帰るか!? このまま続行か!? どうすんだッ!!」

「おちおちおちおおおおおおお落ち着きなさい!!」

「お前が落ち着け!!」

「とりあえずタイムマシンで過去に行きましょう!! そうしましょう!!」

「現実逃避すんな!! もう後戻りできねェんだよ!!」

 

 慌てる二人があーだこーだと言い合っていると、

 

 ドカン!! ドカン!! ガシャンッ!!

 

 と時の庭園の入り口方面から何かが爆発する音やら、何かが壊れる音。そして、大勢の人間の声が小さくではあるが聞こえてくるのであった。

 

 

 時の庭園の入り口。

 

 そこでは大量の傀儡兵(くぐつへい)――時の庭園を守護する防衛システムとも言える戦闘用の意志を持たぬ兵士――が、ところ狭しと召喚されている。

 その種類は複数。空を飛び両手が槍となったモノ、地上で斧や剣を持ったモノなど様々。だが、個々の戦闘能力はそれなりに高く、魔力ランクだけならC~Aと様々だ。

 

 決して弱くない傀儡兵。だが次々とその戦闘に特化した意思を持たぬ兵士たちは壊されていく。

 そしてまた新たに、集団の先頭にいた金色の斧型傀儡兵が爆発し、粉塵が舞う。そんな巻き起こる爆煙など関係ないとばかりに複数の影が飛び出す。

 

「「「「「うォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」

 

 粉塵の中から飛び出したのは近藤勲、新八、神楽、土方、沖田。

 

 近藤が上から木刀を振り下ろし、新たに襲ってくる斧を持った傀儡兵の頭を叩き割る。

 すると隙を付こうと言わんばかりに、近藤に襲い掛かろうとする剣を持った傀儡兵。だが、胴に新八の木刀が叩き込まれ、そのまま横に吹き飛ばされる。

 

 今後は空飛ぶ両手が槍と化した傀儡兵三体が二人に向かって襲い掛かる――が、神楽が新八の頭を踏み台にして高く飛び上がり、手に持った番傘で三体の傀儡兵を薙ぎ払うように粉砕。

 続いて、二体の大剣を持った傀儡兵が新八に襲い掛かる。神楽に頭を踏まれ転びそうになる新八は反撃できない。だがしかし、すかさず沖田と土方が刀を振って敵の胴体を横に一刀両断。

 

 接近戦は不利と判断してか、遠くにいる二体の傀儡兵が斧を投げようと振りかぶる。だが、斧が投げられる前に、鳥のような形をした魔力弾が傀儡兵たちを破壊。

 魔力弾――『スティンガースナイプ』による援護射撃は、杖を構えたクロノによるものだった。

 

 執務官の後ろには複数の杖を持った局員たちが傀儡兵たちを魔力弾で攻撃し、牽制を行い、前線で戦う者たちを援護している。

 クロノはオペレーター室のエイミィから通信を受け、話を聞いてから前で戦う土方たちに声を掛ける。

 

「どうやら銀時の奴、大声で奴らに宣戦布告してるようだ」

 

 時の庭園の入り口から廊下に向かって走るクロノ言葉を聞いて、土方は傀儡兵を頭から一刀両断。そしてチラリとクロノに視線を向ける。

 

「あの野郎。まさか勢いに任せてこっちの作戦までバラしてんじゃねェだろうな?」

「いや、さすがにそこまでアホな事はしてないが、思いっきり大声で連中に喧嘩売ってる」

「ま~、銀ちゃんらしいっちゃらしいアル」

 

 神楽は斧を持った傀儡兵のどてっ腹に蹴りを放ち、そのまま遠くまで吹き飛ばす。

 

「つうかプレシアさんのロボット軍団が攻撃してくるってどうなってるんですか!?」

 

 新八は傀儡兵の斧を必死に木刀で受け流しながら声を荒げる。

 

「僕てっきりクリミナルたちとだけ戦うと思ったのに、結局映画と同じ展開ですよコレ!!」

 

 新八に襲い掛かる傀儡兵が斜めに切り裂かれ、倒れればその後ろには煙草を咥えた土方が立っていた。

 

「どうせ連中が時の庭園の防御装置を乗っ取ったとかそんなところだろ」

 

 煙草を吹かせる土方の後ろでは沖田が向かってくる四体の傀儡兵を再起不能にする。

 

「こりゃ、この機械(からくり)人形共の上にバケモノ共の相手もしなきゃならないみたいですねェ」

 

 沖田は疲れたようにため息を吐く。

 近藤は目の前の傀儡兵の一体を上から叩き伏し、更には上空から突撃してくる傀儡兵に突きを放つ。その後、愚痴を漏らす沖田や土方に対してやれやれと首を振る。

 

「おいおいお前ら、このくらいで弱音か? 異世界に来て、随分(たる)んでしまったのではないか? こりゃ、元の世界に返れた暁には一から鍛えなおしだな」

「なら、土方さんを鍛え直す為にまずはヒラ隊士にすべきですね」

 

 沖田が刀で傀儡兵を切り裂き、

 

「だとコラ! ならお前はヒラ隊士どころか雑用係だ!」

 

 土方が刀で傀儡兵を切り倒し、

 

「ぱっつぁん。そもそも私たち元の世界に帰れるアルか?」

 

 神楽が拳で傀儡兵を粉砕し、

 

「神楽ちゃんやめて! こんな時にいきなり不吉な事言うの! 不安になるから!」

 

 新八が木刀で空飛ぶ傀儡兵を叩き落とし、

 

「君たち口じゃなくて手を動かしてくれ! 戦場だぞここは!」

 

 クロノが魔力砲で空を飛ぶ傀儡兵たちを次々粉砕していく。

 

 まさに破竹の勢い。後ろで戦う管理局員たちも善戦しているが、前線で戦う彼らの戦いはまさに砲弾。

 向かってくる傀儡を凄まじい勢いでガラクタへと変えていく。魔法陣によって出てくる傀儡兵の追加は追いつかず、どんどん数を減らされていく。

 傀儡兵たちによる数の壁などまるで意に介さないかの如く、彼らは時の庭園の奥へと進んでいくのだった。

 

 

「これは……いったい……」

 

 時の庭園で戦う江戸の者達と管理局員たちを映し出す、空中に映ったホログラムのウィンドウ。

 空中の映像を見て瞳を揺らすフェイト。ありえない光景に、筋肉が弛緩したかのように口が開ている。

 茫然自失の少女に対峙している銀髪の侍は、告げる。

 

「まァ、見たまんまだ。つっても、色々疑問だらけだろうから――」

 

 そこまで言って、銀時はパンパンと手を叩く。

 

「せんせ~い、説明お願いしま~す」

『はい、了解です』

 

 すると新しいウィンドウが空中に出現。そこに映った人物を見てフェイトは信じられないとばかりに両目を見開く。

 目に映るのは、子供の頃から魔法を教えてくれて、料理を作ってくれて、いつも自分を気にかけてくれていた第二の母と呼んでもいい使い魔の顔。

 

「リニ……ス……」

 

 フェイトの目からは自然と涙が零れていた。

 

『はい』

 

 プレシアの使い魔は優しく笑みを浮かべる。

 

「なん……で……。どう……して……」

 

 疑問の言葉を口にするフェイトの目元からは涙がぽろぽろと零れ落ち、瞳は揺れ動く。

 もう少女の思考は目の前で起こる事態に付いていけず、情報の辻褄合わせをするだけの思考すらできていない。

 ただただ混乱する少女が感じるのは、喜びに似た感情。

 

『そうですね……。あなたに話したい事、教えたい事はいっぱいあります。ですが、少々猶予がありません』

 

 映像に映るリニスは感慨深そうに話した後、人差し指を立ててニコリと頷く。

 

『だから今あなたに伝えたい事を……』

 

 ただ涙を流し続けるフェイトにリニスは優しい声で語り掛ける。

 

『私はプレシアの命によって消滅したように見せかけ、今の今までずっと姿を隠してきました……』

 

 

 

 時の庭園内にある、天まで届くほど高く長い螺旋階段の部屋。

 そこでは江戸住人と管理局員の合同チームが戦っていた。

 

 土方が横薙ぎに刀を一閃し、二体の傀儡兵の胴体を泣き別れさせる。

 土方から少し離れた場所では、抜刀の構えを取り腰を低くした沖田。彼は凄まじい速さで刀を引き抜けば、すれ違い様に傀儡兵たちの足や胴は切断され、次々と倒れ伏していく。

 

 螺旋階段の上では神楽が壁を走り、そのまま空中に躍り出る。

 

「ホワチャァーッ!!」

 

 番傘を振るいながら空を飛ぶ傀儡兵を一気に蹴散らしていく。

 別の場所では、傀儡兵を倒した近藤の隙を狙って一体の傀儡兵が斧を彼に振り下ろそうとするが、

 

「でりゃァァ!!」

 

 新八が近藤に襲い掛かった傀儡兵の腕に木刀を振り下ろして粉砕。そのまま近藤が攻撃手段を失った傀儡兵に力強い突きを放つ。

 だがそこで、

 

「くッ、やはり特性の木刀でも限界があるな……!」

 

 近藤の木刀はかなりの耐久度をすり減らし、傷が目立ち、少しでも固い物を叩けば折れそうになっていた。

 

「僕のもそろそろヤバそうです!」

 

 何度も鉄の塊を叩いていたせいで、新八の木刀も危うくなってしまっている。

 新八は局員たちの方へ振り向き、一人が抱えている長尺のバッグたちに目を移し、走り出す。

 

「すみません! 新品と交換します!」

 

 持っている木刀を投げ捨て、バッグの口を開けば、中にはギッシリ敷き詰められた大量の木刀。それは、高町家特性――耐久性抜群の木刀たちだ。

 

 新八は二本の木刀を取り出し、一本を近藤に渡そうとする。

 

「近藤さん、新しい木刀に取り換え――!!」

「でりゃああああああッ!!」

 

 近藤は〝斧〟を使って傀儡兵を上から叩き潰すように両断。

 

「…………」

 

 その光景に呆然とする新八に構わず、近藤は持った斧を見てうんと頷く。

 

「うむ、中々使いやすいな」

 

 二度三度、斧を右に左に振りかぶる近藤。偉丈夫な彼だけに、大きな斧がよく似合う。

 やがて近藤は、頭の上で両手を使いながら斧をクルクルとピザのように回転させる。

 ブンブンブンッ!! と斧を横回転させ、風を巻き起こす。

 その姿に、心なしか傀儡兵たちがたじろいでいるように感じてしまう。

 

「いくぞ人形共よォォォオオッ!! 侍の力、しかと見よォォォォオオオオッ!!」

 

 斧装備近藤を見て、新八は思った。

 

 ――あんたそれじゃ侍じゃなくて、ウォリアーだよ……。

 

 ついでに、その辺に落ちてる剣を使えと思った。

 

 集まった戦士たちは次々と敵を倒していく――だが、螺旋階段の壁を突き破って巨大な傀儡兵が姿を現す。

 

 姿は手が槍となった飛行型の傀儡兵に似ているが、その大きさが桁違いだ。

 瓦礫を押しのけながら出てくるその巨大な姿を見て新八は驚きの声を上げる。

 

「やっぱり出て来たけど、想像以上に大きい!」

「マジでデカいネ! モビルスーツくらいあるアル!」

 

 神楽は巨大ロボ的な敵を見てちょっと目を輝かせている。巨大な敵の姿を一瞥した沖田は後方へ――局員たちへの方へと目を向ける。

 

「出番だぜバーニング。折角魔力を温存させてやったんだ、いっちょ派手にブチかましてやんな」

「バニングスよバカ沖田!」

 

 局員たちの上を飛びあがり、出てくるのは赤を基調とさせたバリアジャケットを着込んだ金髪の少女。

 アリサ・バニングスが手に持つのは、穂先から(つば)に掛けて膨らむように細長い円錐の形となった西洋風のランス。さらに穂先から柄には螺旋状の突起が浮き出ている。

 彼女が手に持つ槍こそ、形態を炎剣から槍へと変化させたフレイア。

 

《アリサさん! 敵は防御が固いのでとにかく貫く事に集中してください!》

「了解!」

 

 アリサは一切の躊躇などせず、槍を両手に持ってまっすぐ突き立てながらスピード上げ、大型の傀儡兵に向かって直進する。

 

《Storm Rush!》

 

 フレイアから音声が発される同時に、槍の螺旋状の突起に炎が纏いはじめ、まるで炎がアリサを守るかのように包み込む。

 それにより、赤い少女は一つの巨大な槍と化した――。

 そして巨大な炎の槍は大型の傀儡兵のバリアによって突撃を阻まれるのが、すぐにその防御壁にヒビが入り始める。

 

「いッッッけぇーーーー!!」

 

 アリサの気合に応えるように防御壁は粉々に破られ、そのまま炎の槍は大型傀儡兵の腹を融解させるように貫通し、巨大な風穴をこじ開ける。

 傀儡兵の体を貫通したアリサは炎を消し去りながら勢いを殺すように空中で前転し、そのまま地面に着地。同時に槍を横薙ぎに振ると、胴体に巨大な風穴が空いた傀儡兵は崩れ落ちるように地面へと落ち、爆発する。

 

 強敵を倒した事で安堵したアリサ。彼女は手に持つ、西洋ランスとなったフレイアに目を向ける。

 

「なのはやフェイトのデバイスの変形はまぁ、納得できるけど……あんたとホワイトの変形はマジでデタラメね。剣から槍だし」

《だって私たちは特別製ですから♪》

 

 大型の傀儡兵が倒された事を確認したクロノは声を張り上げ、指示を飛ばす。

 

「よし! あらかたの敵は片付いた! このまま奥に突き進むぞ!」

 

 執務官の言葉を皮切りに彼らは玉座の間へと続くであろう回廊へ向かおうと走り出すが、そうはさせんと言わんばかりに魔法陣がいくつも展開された。そこから傀儡兵たち現れ、廊下の奥や空かも次々と追加の傀儡兵たちが現れる。

 

「うっわ、どんだけいんのよこいつら!」

 

 もう百近く倒しているのに、まだ出てくる傀儡兵にアリサは顔をしかめ、沖田は軽口叩く。

 

「セコ〇もビックリのセキュリティだぜ」

「言ってる場合か!」

 

 と土方は怒鳴り声をあげる同時に、螺旋階段の壁を破壊しながら新たな二体の大型の傀儡兵が姿を現す。

 

「またデカいの出たァーッ!!」

 

 まさかの大型のおかわり×2に新八は度肝抜かれる。

 今度の二体の大型は斧を持った地上戦用の傀儡兵と姿は同じだが、肩に二門の砲台が取り付けられている。

 

「キャッフォーイ! カッコいいアル!」

「関心するな! 状況を考えろ!」

 

 とクロノが怒鳴る。

 近藤が斧を持った傀儡兵を叩き伏した後、大型の傀儡兵を指さしながら大声を上げる。

 

「アリサちゃん! もう一度ドリルアタックだッ!!」

「無理です近藤さん!! アリサちゃん複数の傀儡兵に囲まれてさっきの技してる暇ありません!!」

 

 代わりに答えるのは傀儡兵に一撃を浴びせる新八。

 

 今アリサは複数の傀儡兵の攻撃を防御魔法で防ぎ、炎剣となったフレイアで切り裂くと言う作業に追われている。その為、さきほど放った強力な一撃を放てるほどの余裕はまったくないのだ。

 新八と神楽もまたアリサをサポートする為に彼女を囲む傀儡兵を排除している最中だ。

 神楽は番傘で斧を持った傀儡兵を上空に叩き飛ばしながら近藤を叱責する。

 

「おいゴリラ! 女の子頼りするなんて情けないネ!! お前が倒すくらいの気合見せてみろ!!」

「よし分かった! ならできるか分からんが俺の股間のドリルで――!!」

「「せんでィィィィ!!」」

 

 とクロノと土方が同時に怒鳴る。

 各々が現れた傀儡兵の対処に追われている中、そうこうしている間に二体の大型傀儡兵の肩に付いた二対の砲門に魔力が充填され始める。

 

「クソッ! アレをこんな狭い場所で撃たれたらマズイ!!」

 

 クロノは傀儡兵の斧と槍を防ぎながら、大型の傀儡兵が攻撃のモーションに入ったのを見て汗を流す。

 眼下に広がる者たちを蹴散らそうと、二体の大型傀儡兵は魔力が充填された砲門を下へと向ける。

 今にも撃たれようとしたその時、

 

「――氷の歌」

 

 少女の声と共に二体の大型傀儡兵が足から徐々に体が凍り始め、すぐに頭のてっぺんまで体全体が氷によって下へと凍り付く。

 

「お待たせみんな!」

「すずかッ!」

 

 アリサは救援に駆け付けたすずかを見て喜びの声を上げる。すると沖田は傀儡兵を切り倒しながら言う。

 

「あッ、その嬉しがりよう。お前やっぱり同性愛――」

「黙れサディスト!」

 

 とアリサが沖田に向かって火炎弾を放つ。だが、腹黒ドS侍は首をひょいと横に傾けて炎の魔力弾を避け、そのまま後ろにいる傀儡兵に火炎弾が直撃し爆砕。

 クロノは傀儡兵を倒しながら現れたすずかに顔を向ける。

 

「すずか! 人質たちは!」

「う、うん! だ、大丈夫!!」

 

 少々微妙な顔で返事をするすずか。

 示し合わせたように彼女のやって来た廊下の奥から山崎、九兵衛、東城と簡素の服を着た男が姿を現す。

 

 山崎は背中に〝アリシア〟を背負っており、フェイトそっくりの少女の顔は少々不安そうだ。

 

 そして彼らの中に混ざる見知らぬ男とは、以前にクリミナルたちに返り討ちにされた挙句にスパイと入れ替わりの為に捕まった局員の男性だ。命に別状はなさそうで、一人で歩けるほど元気な様子。

 アリシアを背負う山崎は安心させるように人当たりの良い笑みを浮かべる。

 

「ごめんアリシアちゃん。ちょっと混乱して不安かもしれないけど、今は〝君のお母さんの言葉を信じて〟、俺らに任せてくれないかな?」

「う、うん」

 

 アリシアは少々戸惑いながらもしっかり頷く。

 プレシアのもう一人の娘を助けた出せた事を確認でき、新八はガッツポーズをする。

 

「よし! 陽動作戦成功だ!」

 

 そう新八の言う通り、時の庭園に堂々と突撃しながら戦っていた彼らこそまさしく囮であり陽動なのだ。

 彼らの目的はアリシアとプレシアの閉じ込められている部屋にたどり着くことではない。派手に騒ぎを起こして、山崎たち救出部隊がテスタロッサ親子と囚われた局員を助けるまで敵の目を自分たちに向けさせておく事。

 無論、密偵専門の山崎一人ではさすがに心許ない。救出した後、敵との遭遇を考えて魔導師のすずかと剣の腕が立つ九兵衛や東城も護衛として付かせたのだ。

 

 山崎の戦果を聞き、神楽も「さすがジミーネ!」と新八同様にガッツポーズ。

 

「潜入ミッションさせるなら常時〝影がめっちゃ薄い〟お前ほど適任な奴はいないアル!!」

「いや、それ褒めてる!?」

 

 とツッコム山崎。

 

「あぁ、彼は凄いよ」

 

 と語るのは山崎の護衛に付いていた九兵衛。彼女は腕を組んで感心した声を出す。

 

「なにせ機械(からくり)兵の視線に入ったのにそのままスルーされたほどだからね」

 

 腕を組む東城も「えェ、まったくです」と言って、頷く。

 

「黒バスの主人公より遥かに影が薄い彼こそまさに幻のシックスマンですな」

「いや、あんたら褒めてねェだろそれ!!  いくら影薄いの自負してる俺でもさすがに傷つくから!!」

 

 山崎がツッコム中、捕まっていた局員が感極まったように涙を流しながらお礼を言う。

 

「薄崎さん!! 本当にありがとうございます!! あなたは私の命の恩人です!!」

「いや薄崎さんて誰!? 影薄と山崎がごっちゃになってんじゃん!!」

「影薄さん!! このご恩は一生忘れません!!」

「いや恩の前に俺の名前を忘れないで!! 名前を心に刻んで!! つうか影薄さんて原型残ってねェし!!」

 

 

 ツッコむ山崎をよそに場所は代わり、海鳴市近くに広がる結界内の森林。

 

『少々時間はかかりましたが、プレシアとアリシアを……なによりあなたを助けてくれる方々をようやく見つける事ができた』

 

 戦う彼らの様子をまるで見て語るかのようにリニスは話す。

 

『それぞれの目的も考え方も闘い方も能力も歳も性別も、それどころか住む世界や種族すら違う。でも今この時に集まった力は一つの目標に――あなた達を助ける為に向かって突き進んでいるんです』

 

 ウィンドウ越しのリニスの言葉を聞いて、緊張と力が抜けたかのようにペタンと腰を地面に付け、俯くフェイト。

 

 小さな少女の頬から流れるのは――涙。ただただ、頬に滴が伝う。

 

 リニスの言葉と、そして時の庭園で戦う者たち姿がフェイトの疑問に答える。彼らの戦いが自分の縛る鎖を断ち切っていく。

 

『そう。だからあなたがこれ以上苦しむ必要はないの』

「ッ!」

 

 フェイトはウィンドウから聞こえてくる優し気で聞き覚えのある声にハッとなり、顔を上げた。リニスが映っていたウィンドウには別の女性の顔が。

 

「かあ……さん……」

 

 リニスの主である母――プレシア・テスタロッサの顔が映っていたのだ。

 プレシアは優し気な笑みを浮かべながら告げる。

 

『私もアリシアも、彼らのお陰でようやく自由になれた。感謝してもしきれないわね』

「つうことだ」

 

 とここで銀時がプレシアの言葉に続くように頭を掻きながら語る。

 

「もうオメェみてェなガキがなんでもかんでも背負って傷つく必要はどこにもねェ」

 

 銀時の言葉を皮切りに、フェイトは蹲るように頭を垂れ下げ、両手で口元を抑えながら出てくる嗚咽を抑えようとしてしまう。

 だが、次々と涙がとめどなく溢れ出してくる。自分たちの為に戦ってくれる者たちへとの嬉しさ、母と姉が助かったと言う安堵が、涙の雫を零させる。

 

 もう、自分が戦う必要はない。彼らが取り戻してくれたのだ、大切な家族を……。

 

 銀時は感涙のあまり泣き崩れるフェイトを見てため息を吐いた後、ウィンドウに映るプレシアに顔を向ける。

 

「……つうかプレシア。お前何やってんの? なんでザキヤマと一緒に逃げてねェの? お前そのネコと一緒に何やってんの? つうか……お前どこに居んの?」

 

 銀時の言葉を受けてプレシアは平然とした顔で。

 

『何をしているか? もちろん――』

 

 

 

 場所は玉座の間。

 

 そこにはああだこうだと言い合っているトランスとパラサイト。そしてそんな二人を静観している謎の男である博士がいた。

 すると玉座の間――その玉座にある後ろの扉が開き、現れる人物が二人。

 玉座の間に現れたプレシアはリニスを後ろに引き連れながらウィンドウに映る銀時に向かってニコリと笑顔で一言。

 

「お礼をするに決まってるじゃない」

 

 通信相手の銀時は呆れたように頬を引くつかせる。

 

『ちょッ、えッ、おまッ……。お前バカじゃねぇの? 俺たちはお前とお前の娘助ける為に色々作戦用意してこんな回りくどい事してんだけど?』

「ありがとう」

『いや、ありがとうじゃねェよ! すぐに時の庭園から脱出しろつってんの!』

「坂田銀時」

 

 フルネームで名前を呼ばれた銀時は一旦口を閉ざし、プレシアは満足気な顔で告げる。

 

「私は怒り任せの蛮勇で動いてないし、ましてや自分の実力を過信しているつもりない」

『気持ちはわかるけどよ、さすがにアースラに逃げるべきじゃねーの?』

「私もそれは考えたわ。でもね……」

 

 すると突如として、指先に小さな針を生やしたパラサイトが奇襲を仕掛けていた。

 

 プレシアが銀時と話している隙を狙って、右腕を引いて襲い掛かる怪物。

 だがしかし、プレシアは杖を構え、パラサイトに雷と見間違うほどの電撃を放つ。

 大魔導師に襲い掛かった怪物は紫電の波に押し流され、そのまま一直線に壁まで叩きつけられていた。

 あっさり倒されたパラサイトを見て目を見開くトランスと、倒れた仲間を無表情で見つめる博士。

 プレシアは倒した敵に一瞥もくれる事無く、銀時に向かってニコリと笑顔で。

 

「この状況なら、どう考えても逃げるでしょ? あいつら」

 

 プレシアの反撃の一部始終を見ていた銀時は若干頬を引き攣らせていた。

 

『あれれー? おかしいなー? 人質が一番強そうだぞー』

 

 なんの枷もなくなったプレシアはクロノやなのはよりも強いかもしれないと、銀時は思ってることだろう。実際問題強いのだから性質が悪い。

 

 やがて銀時は頭を掻きながらやれやれと首を振った。

 

『まー……オメェの言い分もわかるっちゃわかるけどよ』

 

 現状、クリミナルは追い詰められている側。

 足止めを食らっている管理局の突撃を待っていては、連中を逃がす可能性は大いにある。だからって、人質が犯人確保にノリノリで乗り出すというのは、かなり奇妙な光景ではあるが。

 

 銀時は気だるげな視線を強き母へと向ける。

 

『だからって、娘を泣かせるようなマネはすんなよ?』

「散々娘を悲しませてきたのよ。これ以上あの子たちを悲しませるような事は死んだってしないわ」

『そうか。ならこっちは俺たちに任せてテメェはテメェのやりたいようにやんな』

「悪いわね」

 

 と言って微笑みを浮かべるプレシア。ウィンドウの画面を切ろうと手を動かすが、何かを思いとどまったようにピタリとその手が止まる。

 

「……ねぇ、銀時。あなたは確か、頼まれればなんでも請け負う万事屋のはずよね?」

『ん? あァ、最初に会った時に説明したな』

 

 訝し気に片眉を上げる銀時にプレシアは問いかける。

 

「なら、前の依頼を破棄して〝新しい依頼〟、頼んでもいいかしら?」

『いいぜ。ただし、キャンセル料と更には新規の依頼料はちゃ~んと受け取るがな』

 

 人差し指と親指をくっ付けて〇を作り、金のジェスチャーをする銀髪天然パーマを見て、プレシアは笑いを零す。

 

「フフ……あなたホント口が減らない男ね」

 

 そこまで言ってプレシアはふぅと一息吐いて、銀時へと真剣な眼差しを向ける。

 

「大魔導師ではなく、一人の母として依頼するわ――私が戻るまでの間、フェイトをお願い」

『――承った』

 

 深く頷く銀時。

 答えを聞いて満足げな笑みを浮かべたプレシアはウィンドウを閉じる。大魔導師の一歩後ろに控えるリニスは、ニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「さて……」

 

 プレシアは鋭い視線をトランスと博士に向ける。

 

「まさかあなた達……」

 

 すると今度は、パラサイトの後頭部がメスを入れたように内側から切開され、頭部から本体であるクモのような生物が這い出た。そして、使えなくなった体を置いて、走るクモのように逃げるパラサイト――対し、プレシアが非殺傷の電撃を一直線に浴びせる。

 まるでクモのように、ベチョリ! と壁に叩きつけられて、のびるパラサイト。そして残った抜け殻の体は、緑のドロドロとした塊へと変化していく。

 

「この大魔導師(わたし)にアレだけ色々して……」

 

 大魔導師は一歩一歩足を進め、トランスは一歩一歩と抜き足差し足で逃げようとする。が、すぐさま白髪の少女に向かって雷撃が直撃。そのまま褐色肌の少女は燃えるように体から煙を吹き出しながら気絶してKO。

 

「――このままただで逃げられると、本気で思っているのかしら?」

 

 プレシアの声から発せられる絶対零度と呼べるような圧倒的な威圧感――大魔導師と呼ばれる母の瞳は、竜や虎なんかよりも遥かに凄まじい迫力を放っていた。

 プレシアが白髪の男――博士に杖を向け、魔法陣を展開。

 

「どうやら、私の出番はなさそうですね」

 

 大魔導師の使い魔は彼女の後ろに控えながら苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 海鳴市近辺に展開された結界内。

 

 銀時はプレシアから通信が切れた後、ゆっくりとフェイトへと顔を向ける。

 黒衣の魔導師はやっと気持ちが落ち着いてきたのか、腕で目元の涙を拭っているが未だに頭を垂れている。

 

 銀時はゆっくりとフェイトの元へと歩き出し、なのはも銀髪の侍の後に続くように彼の後ろに付いて行く。ユーノとアルフは今後の事を考えてか、少し離れた位置で静観するつもりのようだ。

 フェイトの前まで来た銀時はしゃがみ込み、両腕を自身の膝へと乗せる。

 

 心配そうな白衣の魔導師の視線を受けながら、黒衣の魔導師とほぼ同じ目線になった銀時。彼は薄く息を吐いて気だるげな眼差しで告げる。

 

「帰るぞ」

「…………どこに?」

 

 一応反応できるほどの余裕はあるようで、フェイトは言葉を返す。すると銀時は人差し指で頭をポリポリと掻く。

 

「時の庭園はー……今ダメか。ならまー、お前が拠点にしてたマンションでもいいが、ぶっちゃけどこぞの執務官がうるさいからアースラだな。まぁ、食って寝れるならこの際なんでもいいだろ」

「…………ねぇ、銀時」

 

 小さく呟くようなフェイトの声を聞いて銀時は言葉を止める。

 

「銀時は、頼まれればなんでもやる仕事をしてるんだったよね?」

 

 母と同じ質問をする少女は、ゆっくりと顔を上げる。泣いて目元を赤く腫らしたフェイトはニッコリと笑み浮かべているが、その笑顔はとても儚げだ。

 

「――私を放って、逃げて……くれないかな?」

「フェイトちゃん……」

 

 予想外の要求を聞いたなのはは悲しそうな表情で少女の名前を呟く。

 

「母さんもアリシアも助かった。だからもう……誰も傷つけたくない……」

 

 フェイトは諦めたような笑みを浮かべたまま俯く。

 

「この場に居るって事は、私を倒す算段があるって……事だよね? でもたぶん、銀時たちじゃ勝てないよ。だから――」

「フェイトちゃん!!」

 

 なのははたまらず何かを言おうとするが、銀時が右手を出し、チラリと後ろに視線を向けて少女の言葉を止める。

 なのはは静止を受けてなお何か言おうと声を出そうとする。だがやがて、思考を切り替えるように首を横に振り、銀時に向かって無言で力強く頷く。

 どうやら白衣の魔導師は銀髪の侍に任せると決めてくれたようだ。

 銀時はなのはの返答を見た後、フェイトに向き直りめんどくさそうに頭をボリボリ掻きむしる。

 

「たく、オメェら親子は髪の色も性格も似てねェくせに、その頑固で我慢強いとこだけ似ちゃってまァ、ホントめんどくせェなおい」

 

 愚痴を漏らす銀時は深くため息を吐いた後、フェイトへと気だるげな視線を向けた。

 

「……プレシアに頼まれてんだよ。『自分が帰るまでお前の世話しろ』ってな」

「……そっか」

 

 フェイトは困ったようにハハ、と乾いた笑いを浮かべると、銀時は「それにだ」と言って言葉を続ける。

 

「俺はオメェのホントに頼みてェこと――まー、ぶっちゃけオメェの『わがまま』って奴を聞いてみてェって思ってるしよ」

「わがまま?」

 

 フェイトは顔を上げて小首を傾げ、銀時は顎を撫でる。

 

「あァ、そうだ。どうせ昔っからわがままなんざ一切言った事ないだろタマだろ? ああして欲しい、こうして欲しいなんて思ってもすぐに唾みてェに飲み込んで言わなそうだしな、お前」

「…………」

 

 図星を付かれてかフェイトは視線を下へと向け、銀時は「やっぱな」と呆れ気味に声を出す。

 

「だからよ――」

 

 銀時はゆっくりとフェイトの頭に手を乗せる。

 

「オメェの気遣いも我慢も取っ払った着飾らねェ、〝本音(わがまま)〟って奴に興味があんだよ、俺は」

「ぎん……とき……」

 

 フェイトが目の前の侍の名を呼んだ直後――フェイトの手に刀型のデバイスが握られ、その凶刃が銀時目がけて横薙ぎに振るわれる。 

 ――しかし、銀時は自身に刀が届く前、腰に差した木刀を右手に持ち、自身の横に刀身を置く事で、迫る刃を防いでいた。

 

「「ッ!!」」

 

 アルフとユーノは突然のフェイト――いや、デバイスの攻撃に驚き、

 

「銀時さん!!」

 

 なのはは咄嗟にレイジングハートを構えて銀時に近寄ろうとする。

 だが、

 

「ッ!」

 

 なのはの足は止まってしまう。

 

 銀時の瞳――。

  

 振り向き、白き魔導師へと見せつける眼差し。

 それは、まだだ、と言わんばかりの思いを秘めており、彼女の動きを自然と止めてしまうほど。

 

 なのはの足が止まったの見て、再びフェイトとへと視線を戻す銀時。

 腕で受け止める力は、小さな少女の力とは思えないほど。それを刀越しから感じるが、銀時は一歩も引こうとしせず、汗を一筋も流すことなく、口を開く。

 

「はっきり言ってみな。今まで我慢した分」

「わたし……は……」

 

 顔を上げるフェイト――その瞳からは今にも光が消え入りそうなほど。

 黒衣の少女はギリギリのところで意識を保っているようで、刀を持つ右腕を抑え、彼女は搾り出すように声を漏らす。

 

「母、さんや……アリ、シア……それに……アルフや……銀時と……一緒に……」

 

 そしてフェイト薄く――だが、優しい笑みを浮かべて。

 

「――過ごしたい……」

「わかった」

 

 銀時は短く、だがはっきりとフェイトの望みに答えよるように返事をする。

 フェイトはまるで錆びたブリキ人形のように首を動かし、なのはへと顔を向けた。

 

「それに……――」

 

 だがそこまでだった。

 『フェイト』は銀時に向かって掌をかざし、小さな魔法陣を展開させ雷撃を放つ。

 

「ッ!」

 

 銀時は咄嗟に体を横に捻って、雷撃を避け、すぐさま状態を起こす。その頃には、『フェイト』は数歩後ろにジャンプし、距離を取っていた。

 そして、自身の体中に雷を帯電させ――黒いリボンとマントが電撃によって焼け焦げていく。

 

「――代理戦闘行動に移行。不必要な外装の維持は不要」

 

 『フェイト』の髪を結った二つのリボンが炭化してほどけ、長く綺麗な金髪の髪が自由となる。ボロボロとなったリボンが、炭化してバラけ、無機質に地面へと落ちていく。

 『フェイト』は何度か右手の感触を確かめるように、手を見つめつつ開いては閉じるを繰り返す。

 

 突如、無機質な所作をしだす『フェイト』。それを見て、銀時は肩をもみながら軽口を叩く。

 

「俺はもっと早く出てくるモンとばっかり思ってたが、意外に遅かったな なに? 空気読む機能であんの? お前」

 

 銀時はフェイト――いや、デバイスへと気だるげな視線を向ける。一方、刀型のデバイスは視線を向けないまま、フェイトの口を使って言葉を発しだす。

 

「あなたはまた、私に挑むのですか?」

 

 感情を感じさせない無機質な声が銀時の耳へと届く。

 

「……なぜ、他人の為にそこまで命を掛けるのですか?」

 

 やがて、冷たい眼差しが銀時へ向き、射抜く。

 

「――命が惜しくないですか?」

 

 デバイスの問いかけを聞き、銀時は耳の穴を穿りながら平然とした表情で。

 

「わりィが俺ァ、どこぞのエーアイ様と違って利口な行動ってのは中々できない性質なもんでな。守るもんの振り分けなんざいちいちできねェんだよ」

 

 と言ってから、小指に付いた耳クソをピッと刀型のデバイスの刀身に向けて投げつける。すると刀身から雷が放たれ、そのまま耳クソを消し炭させると同時に、銀時の顔の横を雷撃が通過。

 顔の横すれすれに雷撃が通っても、銀時は眉一つ動かすことはない。

 

 やがてフェイトの無感情な瞳がなのは、アルフ、ユーノを捉える。

 

「あなたも方も、挑むつもりなのですか?」

 

 言葉と視線を受けアルフとユーノは銀時となのはの横に並び立ち、戦闘態勢に入っていく。

 戦う気まんまんといった彼らの姿を見てデバイスは目を細めると、手に持った自身の切っ先をなのはへと向ける。

 

「あなたはさきほど、宿主に対して『私』が怖いと言ってましたね? なら、なぜ私の前に立ちはだかるのですか?」

「さっきフェイトちゃんに言いそびれちゃった言葉の続きを教えてあげる!」

 

 なのはは力強く意思の籠った視線をフェイトの体を操る敵へと浴びせる。

 

「怖いからって私が逃げるって答えには繋がらない! 私が立ち向かわないって答えにはならいない!! いくらあなたが強くても怖くても、私は絶対に逃げない!!」

 

 不屈――。

 なのはから感じられる意思と魂の強さの片鱗が垣間見えてくるような訴え。

 

「さ~て、無駄話機能まで付いた不良品はとっとと廃品回収に叩きつけなきゃな」

 

 銀時は肩に木刀を置き、

 

「あたしのご主人様、返してもらうよ」

 

 アルフは掌にバシッと拳を叩きこみ、

 

「言っとくけど、お前は恐ろしいデバイスなんかじゃない。今からそれを証明してやる」

 

 ユーノは少し汗を流しながらも手の平に魔法陣を展開した。

 

 誰一人として尻込みも怯みもせず、立ち向かう意思を垣間見せている。

 

 確かに戦力や戦術的な事を考えるのならば、もっと選抜すべき人間は他にいたかもしれない。

 砲撃型の魔法が主体のなのはにバインドが得意のユーノなんかは、ほぼ攻撃手段が皆無だ。

 近接戦闘できるアルフとて、切られでもして魔力を吸収されるようもんなら消滅だってありえる。

 一番対等に戦えるであろう銀時だって、飛べない、遠距離攻撃を持たない、っと言った点で圧倒的不利を強いられる。

 

 だが、彼らはそんな戦術や理論を越えて集い、この決戦の場に赴いたのだ。

 

「さァて、フェイトを取り戻して祝勝会の一つでも開こうじゃねェか」

 

 フェイトと今までジュエルシードを集めに協力しながら一緒に過ごしてきた銀時――。

 

「あッ。なら、おススメの温泉旅館がありますよ」

 

 フェイトと一番ジュエルシードを掛けて対峙しきたなのは――。

 

「へー、いいじゃないか。あたし温泉とか入った事ないから楽しみだよ」

 

 フェイトの使い魔として、なにより家族として長い時間を共にしきたアルフ――。

 

「うん、なら絶対に勝たないと」

 

 ジュエルシードを見つけ、最初から最後までその回収に力を注いできたユーノ――。

 

 この場で一番フェイトとジュエルシードに対する――因縁、繋がり、思い。それぞれ強い気持ちを持っているであろう四人が、(つど)っている。

 

 デバイスはフェイトの手を操り、首に手を掛け、バリアジャケットの一部であるマントを勢いよく取り外す。続いて、自身の周りに電気を帯びた金色の魔力球をいくつも出現させた。

 

 ダッと銀時は駆け出し、なのはは空に舞い上がり、アルフは拳に魔力を込め、ユーノは手の魔法陣から緑色の鎖型のバインドを出現させる。

 

「いくぞテメェらァァァァァ!!」

 

 銀時の咆哮が森林地帯に響き渡るだった。




第六十九話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/79.html
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