場所は時の庭園――玉座の間。
「プレシア・テスタロッサ!」
回廊を渡り、ついに玉座の間へとやって来たクロノはデバイス――『S2U』を構えながらあたり見渡す。
玉座の前にはプレシアと、うつ伏せで倒れ伏す白衣の男、白髪少女に、カエルのようにひっくり返った蜘蛛に似た形状の謎の生物。
他のクリミナルのメンバーの姿は確認できず、玉座の間に誰かいる気配を感じない。
やがてクロノの入って来た回廊から新八、土方、近藤、沖田、神楽、アリサ、すずかも少し息を切らしながら中に入って来る。
クロノがチラリと倒れ伏す白衣の男とトランスに目を向けた。二人の衣服は至るところが焦げ付き、破け、受けたであろう電撃の凄まじさを物語る。
やって来た者たちにプレシアの視線が向き、クロノは大魔導師へと声をかけた。
「ここに来るまでに、この事件の主犯格がほぼ全員集まっているとあなたの使い魔から念話で聞いたんだが……」
するとプレシアは「フッ……」と笑みを浮かべ、
「見ての通り、電撃食らわして一発KOしておいたわ」
とても清々しい笑顔でサムズアップ。
クロノは微妙な顔で汗を流しながら「そ、そうか」と相槌を打ち、戸惑いながらも更に問いかける。
「他のメンバーが時の庭園に潜伏している可能性はありそうか?」
「わかりません」
と代わりに応えるのは、首を横に振るリニス。彼女は周囲を視線を配りつつ、口を開く。
「まだ、あの黒いアサシンのような人物が残っている可能性も考慮しなければなりませんね」
「アイツか。トランスたちとチームを組んでいるようだったが」
そう言ったクロノは、辺りを見渡して警戒の色を強めながら疑問を投げる。
「それにしても、今の時の庭園の防御システムは誰が動かしているんだ? 彼らはだいぶ前に気絶させられているのに、僕たちはさっきまで傀儡たちに襲われていたんだが」
クロノの問いに答えるのはリニス。
「時の庭園の防御システムは一度作動すると、オートで不法侵入者を排除するように設定されているんです」
「なるほど。だが、今は傀儡が出ないようだが、君たちがシステムを停止させたのか?」
「ええ。ただ、システムが乗っ取られて書き換えられていたので取り戻すのに大分時間がかかりましたが」
説明を聞いてクロノは「わかった」と頷く。
「だが、現状の時の庭園が安全とは限らない以上、あなたたちはすぐにアースラに転移してくれ」
クロノは空中にホログラムのウィンドウを開き、オペレータールームにいるエイミィに通信を繋ごうとしだす。
すると、プレシアは不満げに告げる。
「私としてはもし連中が残っているなら追撃して殲滅し――」
「ダメだ」
クロノはピシャリと反対の言葉を投げ、ジト目を向ける。
「これ以上の深追いは危険過ぎる。どんな罠が仕掛けられているかわからない。それに犯罪者逮捕は僕たち時空管理局の仕事である事を忘れないでくれ」
クロノの正論を聞いて眉間に皺を寄せ始めるプレシアの肩に、リニスが手を置く。
「プレシア。私はあなたがど~~~しても連中に一泡吹かせてたいと言うから、次元航行艦船ではなく玉座の間に行く事を了承したんです。これ以上のわがままは母としても大魔導師としても大人としてもはっきり言ってみっともないですよ?」
プレシアは深くため息を吐き、「わかったわ……」と渋々了承。
クロノ、リニス、プレシア三人の会話を黙って聞いていた新八は土方に耳打ちしだす。
「(なんか、リニスさんから聞いた時も思いましたけど、プレシアさんて想像以上に根に持つタイプですね)」
「(子煩悩だからな。娘たちを散々オモチャにされた事が相当頭にキてんだろ?)」
土方は耳打ちはしないが、小声で言葉を返す。
すると今度はすずかが隣にいるアリサに耳打しだす。
「(アリサちゃん。ホントにプレシアさんて50歳近いくらいなのかな? 私には20台くらいに見えるよ)」
「(魔法世界のすんごいエイジングケアで頑張ったんじゃないの?)」
アリサは小声でかなりふわふわな返しをすると、今度は少女二人に神楽が耳打ちする。
「(きっとアレネ。ドラゴンボール使ってシェンロンに若返らせてもらったに違いないアル)」
「いやいやちげェな」
と沖田が小声じゃない声で。
「ギャグマンガ的にきっと顔だけはピチピチだが、服の下は実は皺くちゃのババア――」
「あッ?」
モロに声が聞こえたであろうプレシアが、おっそろしい眼力浴びせてくる。なので沖田と神楽とアリサとすずかはサッと顔を逸らす。
ちなみに少女三人はプレシアが人殺してそうな顔を向けてくるので汗ダラダラ流しているが、沖田は平然とした顔のまま。
クロノはウィンドウを操作している途中で「あぁ、そうだ」と呟き、プレシアに恨みがましい視線を向ける。
「あなたは今回の事件の被害者ではあるし、犯人逮捕にも貢献した――だが、勝手な行動をした件についてはアースラに戻ったら『厳重な注意』が待っているから、そのつもりで」
プレシアは「…………チッ」と舌打ちして顔を逸らし、クロノは「おい」と言って青筋浮かべる。
どうやら大魔導師の奥底に宿る怒りはクリミナルを殲滅するまで収まらないらしい。お陰でまた心が荒れている様子。
すると、笑顔を浮かべつつも目元に影が差すリニスが、プレシアの後ろに回り込み、主の首と頭に腕を回してヘッドロックをキメだす。
「い い か げ ん に し て く だ さ い」
さすがの主もさすがに苦しいのか、使い魔の腕をバシバシ叩いてタップ開始。
あれ? 主従逆転してね? と言った光景に新八たちはジト目向ける他なかった。
そうこうしている間にクロノが出現させたウィンドウにエイミィの顔が映り込む。
オペレーターは青年執務官の顔を見て笑顔を浮かべた。
『あッ、クロノ君! アリシアちゃんはもうこっちに居るけど、プレシアさんは助け出せたの?』
「あぁ。本人はかなり不満げだけどね」
いまだにリニスにヘッドロックされているプレシアを見てクロノ呆れた表情だ。
通信先のエイミィから朗らかな声が聞こえてくる。
『よかった~! 実はフェイトちゃんのとこも決着が付いたみたいだから、ある意味ナイスタイミングだね!』
報告を聞いて、クロノは少し表情を険しくさせた。
「なに? それは本当か? っで、結果はどうなったんだ?」
『うん。それは――』
「フェイトは助かったの!」
突如、プレシアがウィンドウの前に凄まじい勢いで割り込むので、通信先のエイミィは「うわッ!?」と驚く。
少し仰け反るエイミィ。対して、リニスのヘッドロックから抜け出したプレシアは物凄い剣幕で再度聞く。
「フェイトは助かったの! どうなの! 答えなさい!!」
血走った目で詰問する母の顔に、さすがのエイミィも驚き呆けている様子。
『…………え……えっと~……た、たぶん助けられたと思います』
だがやがて、相手がプレシアだと頭で理解したのか、戸惑いながら答える。
「〝たぶん〟てなに!? 助かったの!? 助かってないの!? 絶対に助かったの!? 確実に助かったの! 百パーセント助かったんでしょ! 間違いなく助かったんでしょうね! つうか助かったと言え!!」
『あわわわわ……!』
凄まじい剣幕な上、最終的に支離滅裂な発言をするプレシアにオペレーター怯えて何も言えないようだ。
すると、大魔導師の使い魔がまた主にヘッドロックかます。
「プ レ シ ア~~~~!」
娘命の困った主に黒い笑顔を見せる使い魔のプロレス技がまた炸裂し、主はまたしても腕をバンバンバンバン! と叩いてタップ。
「一応確実でなくてもいいから銀時たちの現状を教えてくれ」
クロノが冷めた目で言い、苦笑するエイミィは頬を指で掻きながら答える。
「えっとね……」
*
アルフに木刀で吹き飛ばされ、森の中にいたデバイスのAIはもちろん無事だった。
だがしかし、高町なのはの桜色の砲撃に飲み込まれてしまった宿主の体と意識は強制的にシャットアウトされたような状態。とてもじゃないが、操ることなどできそうにない。
とは言え、もしフェイト・テスタロッサが目覚めたのならまた体を借りて戦闘を続行する事も可能だろう。
だがしかし、それはもうできそうにない。
なぜなら、桜色の砲撃によって出来上がった、半径数十メートル以上の大きなクレーターと化した爆心地から、爆煙の中をゆっくりと進む影が一ついたからだ。
衣服の至るところが焦げ付き破れ、今にも倒れそうなほどおぼつかない足取り。
そんな状態でありながらもゆっくりとこちらに向かってくる銀髪の侍が一人。
カツ……カツ……と牛歩に近いであろう足取り。間隔が長い靴音を鳴らしながら、木刀を右手に握りしめ、ゆっくりと刀型のデバイスまでやって来る――坂田銀時。
俯き、体を猫背気味にさせながら歩いていくるその姿はまるで幽鬼のよう。だが、はっきりとした強い意志が垣間見える。
――なぜ?
デバイスにはまるで分からなかった。
魔法も使えず、特殊な
いやそもそも、あの男を人間と言う枠に収めていいのかすら分からなくなるほどの精神力。安易な言葉では説明しきれないほどの何かを持っているのだ。
ついにデバイスの元までやってきた銀時は靴でガチャッ、とその刀身を踏みつける。
若干視線を細めた後、手に持つ木刀を逆手に持ち、柄頭に左の掌を乗せ、上に向かって大きく持ち上げ――振り下ろす!
ガラスが割れる音に似た破壊音が響く。デバイスの刀身は、垂直に振り下ろされた突きによって真っ二つに折れていた。
銀時は折れた刀身をいくばくか見つめた後、ゆっくりと後ろに倒れ込む――が、地面に背中が付く前に、その体を狼の使い魔が優しく後ろから支え、抱きしめる。
銀時は自身を支える後ろのアルフにチラリと視線を向けた。
「……胸……当たってんぞ?」
「頑張ったご褒美」
ニッと笑顔で歯を見せるアルフの顔を見て、銀時は「そりゃ、役得だな」と疲れたように半笑いを浮かべながら前を向く。
正直もう今の銀時には全身の感覚があるんだかないんだか分からない状態だ。だから、アルフの胸を実感する余裕などないが、軽口叩く使い魔の顔を見るだけで少しは疲れと痛みが和らぐ感覚を覚える。
アルフはゆっくりと地面に腰を下ろしながら銀時の体を座らせ、体を後ろから支えながら楽な姿勢にさせる。
今回、アルフには世話になりっぱなしだな、とつい銀時は考えてしまう。
こうやって自分の体を支えているのもそうだが、最後にデバイスをフェイトの体から引き剥がしたのも彼女だ。
もっと言うなら、デバイスにトドメを指すための木刀が欲しいと言えば、無言で持ってきて、渡してくれもした。
「……これで、終わり?」
折れたデバイスを睨みつけるアルフの問いに対し、
「…………さぁな」
と言って、左足だけを伸ばす銀時。ゆっくりと後ろに顔を向け、さきほどできたばかりのクレーターの中心で眠っているフェイトに顔を向ける。
少女の傍には心配そうな表情のなのはと、エイミィに報告を行っているユーノが付いていた。
「……オメーのご主人様が起きれば分かんだろ」
と銀時が言えば、アルフは苦笑を浮かべる。
「こんだけして、フェイト助けられなかったらあたしら間抜けもいいとこだね」
「冗談言うな……。俺がなのはの〝アレ〟喰らって何度走馬燈が頭過ったと――」
そこまで言って座っている銀時の体がぐらりとふらつき横に倒れそうになり、アルフは慌てて体を支え、心配そうな声を上げる。
「ちょっと、本当に大丈夫かい?」
「……やべ……今マジで一瞬死にかけた……」
「いや、非殺傷設定のはずだから気絶しそうになったの間違いだろ?」
アルフはやれやれとため息を吐き、呆れように笑みを浮かべる。
「普通あの砲撃食らって意識保ってられる方がありえないんだから、おとなしく今は寝てなって」
アルフの言うように普通は意識を失って当然なのだ。なのに、現に意識を保っていられる銀時は、はっきり言えば異常な状態であり、かなり精神ギリギリの瀬戸際を彷徨っているようなもの。
銀時自身、さすがに今回ばかりは無茶し過ぎたと考えた。
「それもそうだな……」
アルフの言葉に相槌を打つが、寝ようとはしなかった。
視線の先は、なのはとユーノのいる場所――つまり、フェイトがいるであろう方向に向いているのだ。
「たく……」
言葉とは裏腹の行動を取る男に、アルフは笑みを浮かべつつやれやれと頭を振る。
ふと、アルフは何かが届いたかのような表情をしだす。念話が届いたのだろう予測する銀時。
「…………そっか」
感極まったような表情で、安堵の笑みを浮かべる使い魔の顔。
彼女の顔を見れば、おのず念話の内容は察せられ、銀時は薄く笑みを浮かべた。
「どうやら……もう大丈夫みてェだな」
「うん……」
瞳を潤ませながら、頷くアルフ。
銀時は空を見上げながら、心の中で満足げに呟く。
――たく、メンドーかけさせやがって、バカ魔導師……。
しばらく空を眺めながらこれまでの事に思いを馳せていた。
異世界に送り飛ばされ、よくわからない宝石集めを命じられ、謎の犯罪集団が現れ、謎の刀を持つフェイトと対峙し、刀に頭を弄繰り回され、最後はこの決戦……。
本当にここまで来るのに骨が折れた。
今までの疲れがドッと押し寄せてくる感覚を覚えながら、銀時が地面に寝ようとした時だった。
「銀さーーーん!!」
後ろから聞こえるなのはの大声。
天然パーマは一切疲れを隠さず、ため息を深く吐き、声の方へと首を曲げた。
手を振りながらこちらに走って来るなのはに、気だるげな視線を向ける銀髪天然パーマ。
少女の表情でもう答えは分かっているが、銀時は念の為に聴く。
「……どうだ? まだロボットダンスとかしそうか?」
「大丈夫です! お話ししましたけど、もうフェイトちゃんは操られてません!!」
「そうか」と返す銀時。若干笑みを浮かべ、右手を軽く上げる。
「なら、銀さんは正直しんどいで、このまま昼寝させてもらいますか」
「あの……ちょっといいですか?」
少し申し訳なそうに言うなのはの声を聞いて、銀時はまた顔を向ける。
「なんだ?」
「フェイトちゃんが……銀さんと〝二人〟でお話しをしたいそうです」
「二人……か……」
視線を少し逸らしながら呟く銀時に、なのはは両手を出しながら若干焦り気味に話す。
「も、もちろん銀さんが無理なら後でも構わないってフェイトちゃんは言ってました! ただ、できる事なら〝今〟銀さんとお話ししたいってお願いされました!」
フェイトを気遣ってか、慌ててフォローするなのは。考え込む銀時に対し、少し不安そうに待っている。
たぶん、フェイトの願いを聞いて欲しいという思いが無意識に顔に出てしまっているのだろう。
銀時はやれやれとため息を吐きながら気だるげに答える。
「……なら、アルフと一緒に松葉杖役だ」
「はい!」
フェイトの願いにぶっきらぼうながらもちゃんと応える銀時。対して、なのはは花が咲くような笑顔を向けた。
ゆっくりと立ち上がる銀時を支える笑顔のなのはとアルフ。
三人はフェイトの元へとゆっくり向かって行く。
*
地面を背にしながら空を見上げるフェイト。
彼女の黒衣のバリアジャケットは、なのはの砲撃を受けて損傷だらけだ。服の至る所が破け、穴が開き――一言で言うならボロボロだ。
そんなボロボロ彼女の元に、アルフに肩車され、なのはに支えられたボロボロの銀時がゆっくりとやって来る。
少女の傍でアースラと交信していたユーノは彼らに気付き、笑みを浮かべた。
フェイトの横までやって来た銀時は気だるげに声を出す。
「……よー、元気か?」
フェイトはゆっくりと視線を銀時の顔へと向け、薄く笑みを浮かべる。
「……うん」
「そうか……」
と銀時は短く答え、自身を支える二人に顔を向ける。
「そんじゃま、わりィがフェイトの横に頼む」
「了解♪」
笑顔で答えるアルフ。なのはも笑みを浮かべつつ、銀時の体を気遣いながらゆっくりとフェイトの隣に座らせる。
そして腰を下ろした銀時はゆっくりと背中を地面へと付ける。
「あ゛~、しんど……」
清々しい青空を見上げながらダミ声を出す銀時。
するとアルフは手を上げ、
「そんじゃ、迎えが来るまであたしら向こうで待ってるからさ」
「銀さんはフェイトちゃんとゆっくりお話ししてください」
なのはは両手の拳を握りしめ、ユーノは軽く一礼して場を離れる。
やがて青空を見上げ続ける銀時とフェイトに静寂が訪れるが、
「んで? 俺に話したい事があんだって?」
銀髪の侍が沈黙を破り、金髪の魔導師はゆっくり「うん」と頷きながら言葉を返す。
「ただ……いま感じている事、言いたい事、したい事をそのまま言葉にするから……もしかしたら支離滅裂な言葉になっちゃうかもしれないけど、いいかな?」
「別に支離滅裂だろうが文脈滅茶苦茶だろがちゃんと付き合ってやるから、とっとと全部吐き出してスッキリさせろ。あんま前置きグダグダしてっと、銀さんマジでお前の話聞く前に意識飛ぶからな?」
「わかった……」
フェイトは銀時の言葉を聞いておかしそうに薄く笑みを浮かべた後、少し息を深く吸って吐き、告げる。
「……ごめんね……銀時……」
悲しみと憂いを帯びた謝罪の言葉を耳にして、銀時はゆっくりと目を閉じた。涙声交じりの悲し気な声、それを絞り出すように発せられた言葉に耳を傾ける。
「本当に……ごめんね……銀時……ごめん……。迷惑かけて……いっぱい傷つけて……」
「記憶……あんのか?」
呟くように問いかけた銀時の言葉に対し、フェイトは弱々しく「うん……」と首を縦に振る。
「必死に、抵抗していたからかな……? 薄っすらとだけど……記憶が残ってる、感じなんだ……」
「そうか……」
操られている時、どんな感じだった? と野暮ったい事は訊かない銀時。
傷つけたくない人たちを無理やり傷つける感覚など、酷く味わいたくないモノのはずだ。
「まァ、反省すんのは大いに結構だ……」
銀時は目を瞑ったまま「でもよ……」と言って口を開く。
「俺は別にオメーに謝らせる為に体張ったワケじゃねェんだぜ」
言葉を受けて黒衣の少女はギュッと唇を紡ぐ。やがて息をゆっくりと吐き出し、銀髪の侍へと顔を向け、涙目になりながらも笑顔を作って言葉を贈る。
「――ありがとう……銀時……」
チラリと少女の儚げな笑顔を見た銀時は、フッと笑みを浮かべつつ「おう」と短くぶっきらぼうに言葉を返す。
そこからまたフェイトは空を見上げ直し、二人の間にいくばくかの沈黙が流れる。
だがやがて穏やかな顔のフェイトがゆっくりと切り出す。
「……銀時たちって……ズルいよね……」
「……なんでだ?」
「だって……私の不安も悩みも苦しみも全部、無くして……楽にしてくれた……。それこそ……あっという間に……」
「ふ~ん……オメーの言いてェことは分かったけどよ、なんでそれがズルいって言葉に繋がんだよ?」
銀時の言葉を受けてフェイトは困ったように笑みを浮かべる。
「なんてー……言うの……かな? 私の言うズルいって……言葉通りじゃないと言うか……適当な言葉が見つからないって言うか……」
どう説明したらいいのか分からず、言葉を探り探り選ぼうとするフェイトを見て銀時は深くため息を吐く。
「……とりあえず、なんでもいいから思ったこと迷わず口に出せ。ちゃんと最後まで聞いててやるから」
「……うん」
フェイトは笑顔で頷いた後、空に顔を向けて息を深く吸い込み、語り始める。
「母さんは再会した直後に、私が欲しく欲しく仕方なかったモノをくれて……」
今、アースラではクロノが独断で動いたプレシアに対して注意をし、リニスが必死に頭を下げ、当の本人は言い訳し出すが使い魔がグイッと主の頭を下げさせている。
「アリシアが私に元気をくれて……」
アリシアはアースラ内を見て目を輝かせ、フェイトがどこにいないかアリサやすずかに質問している。
「そしてあの白い子――高町なのはと……銀時たちが……」
そこまで言ってフェイトが顔を向けながら笑顔を浮かべる。
「――私の大切なモノを全部取り返してくれた」
自分の顔を見つめる銀時の顔を見て、フェイトは少し頬を赤くさせた後、再び空を見上げる。
「だからこの人たちには敵わないなー、って。それで銀時たちの事を凄いなって、強いなって……思っちゃった」
「んで、ズルいか……」
と銀時が呟きながら空を見上げると、フェイトは困ったように苦笑いを浮かべながら告げる。
「なんで、だろうね? 銀時にもあの子にも感謝しの気持ちしかないのにはずなのに、ズルいなんて言葉が出てくるなんて……」
「別におかしかねェだろ」
「えッ?」
呆けた声を出すフェイトに銀時はめんどくさそうに語る。
「人間ってのはマジでめんどくせェ事に、自分でも理解できねェ部分が感情にしろなんにしろたくさんあんだよ」
「そう、なの?」
小首を傾げるフェイトに銀時は「あぁ」と頷き、語り始める。
「嫌いだ嫌いだと思ってんのに、いつの間にかその相手の事が気になってしょうがなかったり、頭ん中では色々冷静なのに結局感情で動いてたり、前まで否定してたもん肯定し始めたり……まー、とにかく色々だ」
空を見上げる銀時は頭をボリボリと掻き、フェイトへと顔を向ける。
「単純に見えて複雑な、だけど結局単純だと思ったらまた複雑と言う、ホントよくわかんねェ生き物なんだよ人間なんて。いやマジで」
銀時の言葉を聞いてフェイトは噴き出す。
「アハハ……銀時の言う事が分からないよ」
「だけどよ、オメーがさっき言った気持ちくらいはまー、なんとく分かるぜ」
「え?」
フェイトは目をパチクリさせながら顔を銀時へ向けると、銀髪の侍はぶっきらぼうに告げる。
「ようは嫉妬だな、それ。単純に考えりゃ、他人をすげェと思って出てくる感情で『ズル』となりゃ、嫉妬ってのが一番しっくりくるしな」
「やっぱり……そうだよね」
フェイトは自分の胸に手を置きながら若干悲しそうに告げる。
「家族や銀時たちに助けてもらってばかりなのに……こんな黒い感情が湧いて出るなんて……私ってやっぱりダメな――」
「はいネガティブ発言禁止~」
銀時は手をパンパンと叩いてフェイトの言葉を遮り、また顔を少女へと向ける。
「つうかよ、ちょっと嫉妬したくらいで一々自分の事ダメダメ言うのホント止めろ。オメーの悪いとこな、そこ」
「う、うん」
フェイトは銀時に顔を向けながらぎこちなく頷く。
「それによ、嫉妬ってのは裏を返せばオメーの前向きな感情の顕れかもしれねェだろ?」
「どういう、こと?」
「他人の強さを羨むってのは、そいつみてェに強くなりたいって事の裏返しだ。ならまー、向上心って奴がオメーにもっと強くなれって後押ししてんだろ」
銀時は顔を背けながら「俺にはまったく湧かねェ感情だけど」と呟き、フェイトは地面に頬を付け、視線を向けながら小さく訊く。
「強く……なれるかな?」
「さーな。俺がオメーの可能性ってのを知ってるワケねェだろ」
腕枕して空を見上げる銀時にフェイトは苦笑しながら「そう、だよね」と返す。
すると、銀髪の侍は「だけどよ」と言って言葉を続ける。
「オメーはいくら頭良くたってガキだ。だから体にしろ、頭にしろ――魂にしろ、いっくらでも成長できる見込みってヤツが高いだろ。それに、強くなるのだって、ガキだろうが中年のおっさんだろうが爺だろうができる事だ」
銀時は視線を逸らしながら「まァ、俺に言えた義理じゃねェけど」と小さく呟く。
やがて、フェイトへと顔を向け、地面に肘を付けながら頬杖をついてニヤリと笑みを浮かべる。
「スーパーエリート魔導師フェイトちゃんは、そんじょそこら侍に後れを取るほど、軟じゃねェと思いますけどねェ」
銀時はワザとらしく憎たらしいニヤけ面を作る。それ見たフェイトは、またクスリと噴き出してしまう。
そして銀時は体をまた仰向けにして顔を空へと向けた。
「まーとにかく、嫉妬にしろ向上心にしろ、ほどほどにな。オメーはすぐ感情やら重責とかに振り回されて無茶しそうだからな」
そして、本当に、それこそ本当に稀な――普段の銀時が出さない、優し気な声で。
「だからなにか困った事があったら頼みな。これからできる友達でも、一緒に暮らす家族でも誰でもいいから一人くらい頼れる奴によ」
「……銀時、とかは?」
「俺か? 俺は万事屋だからちゃんと料金請求するぜ? まー、今回のオメーの
銀時のぶっきらぼうでそっけないながらも、優し気な言葉。
それを聞いたフェイトは、頬を地面に付け金色の髪を垂らし、頬を赤く染め瞳を潤まし、小さく呟く。
「――銀時って……ホントにズルい……」
銀時は目を瞑りながら「大人はズルいもんなの」と言葉を返せば、しばしの静寂が訪れる。
だがやがて、
「ねぇ、銀時」
フェイトの言葉が耳へと届き、銀時は目を瞑りながら答える。
「なんだ?」
「ちょっとこっちに寄ってもらってもいいかな?」
「悪いが、銀さんはオメーの子守で体が悲鳴を訴えてるからちょっと無理です」
「………………わかった。じゃあ、私が行くから動かないでね」
「へいへい」
そして、フェイトが何をするのかも分からず銀時が目蓋を閉じていると、
「――ありがとう」
と言う少女の優し気な声と共に――〝頬に何か当たった〟感触がした。
それはまるでほんのりと温かく、どこか湿っているのに柔らかいような、なんとも表現しにくい感覚。
銀時はパッと目を覚まし、慌てて上半身を上げてフェイトへと顔を向ける。
そして金髪の少女を見れば、こちらに背を向けて寝転がり、体を丸めている。しかも地味に距離が離れていると言うおまけつき。
フェイトの態度はこうまるで、何か恥ずかしいのを必死に我慢している――そんな感じが伺える。
銀時はなんとなく何かを察し、感情の籠ってない声を出す。
「…………お前、なにした?」
フェイトはとても小さくか細い声で。
「…………依頼料」
「……うん、今回の? 銀さん……お金貰ってないよ?」
「………………現物支給」
「…………うん。銀さん…………お前に何か貰ったっけ?」
銀時の言葉を受けてフェイトはより体を丸めてしまう。
「…………………」
「おィィィィィ!! そこで黙るなァァァァァ!!」
溢れんばかりに叫んでドッと汗を流してフェイトへと詰め寄より、肩に手を置く。
「つうかお前はホントなにやってんだ!! つうか何考えてんだ!! 誰に教わったそのお礼の仕方!!」
「……アリシアに……教わりました」
「オメーの姉ちゃんどんだけおませさん!? つうかスルーしてたけど、お前が姉貴と会ってた新事実発覚してんじゃねェか!! いや、問題はそこじゃなくて!!」
「…………ごめんなさい。すみません」
「急に謝んな!! 敬語止めろ!! すんごい微妙な空気になんだろうが!! すんごい複雑な感情が芽生えるだろうが!!」
「だって気持ちを抑えきれなかったんだもん!」
「急に乙女になんな!! もんってなんだもんって! フェイトちゃんはそんな事言う子じゃないでしょうが!!」
「………………」
「ちょッ!? あげく無言になるとかホント止めて!! 丸まってないでこっち向いて!!」
銀時に言われ、フェイトはちょっとこちらに顔を向ける。
少女の顔は――真っ赤に火照り、口を固く結び、目に涙を溜めていた。まるで、嬉しいやら恥ずかしいやら、今ある感情を全て表現したような、なんとも言えないモノ。
フェイトが一度として見せた事のない顔――それを見た銀時はパッと手を離し、視線を逸らしながら告げる。
「…………ごめん。やっぱり……そっち向いてていいから……」
言われた通り、フェイトはまた銀時に顔を背けて体を丸める。
そしてなんとも言えない空気の中、銀時は自然と正座をし、汗をだらだら流す。
――なんでこんな事になってんのォォォォ!?
一体全体、どんな紆余曲折して十になったかどうかも分からん小娘に、アレな事させる結果になったのか。
銀時は表情筋を強張らせる。
――ちょッ!? ホントなにこれ!? なにこのテンプレベタベタエンド!! お姫様助けて結婚しました的なエンドッ!? ベタベタで気持ち悪いんだけど!! 俺は天空の花嫁派だってのに!! 道中の絆を大切にする男なのに!!
そして自身の周りには犬、魔砲少女、淫獣ウィンナーが居た事を思い出す。
慌てて彼女たちがいるであろう後ろを振り向くが、時間つぶしに遊戯王に興じていた。なので、さきほどのとんでもイベントは見られてない――っと言いたいのだが、なのはがこっちの視線に気づいた時、
「ッッッ!」
すんごい顔を赤くして気まずそうに思いっきり顔を逸らしたのだ。
アルフはアルフで黒いオーラ出し、白い目を向けて手に持つカードを思いっきりクシャリと握りつぶす。
ユーノはなぜか汗を流しながら苦笑している。
たぶんあの
そして極めつけは、三人の横にある空中のホログラムのウィンドウ。
なんだかものすご~く嫌な予感がした銀時は、一番まともに話ができそうなユーノにちょいちょい手招きをする。
少年は色々察してか、何度か頷きながら早歩きでこちらまでやって来て、早々に答えを教えてくれる。
「……オペレーター室では一応映像による一部始終の〝監視〟があったので、話はともかく、みんなに〝なにをした〟のか、全部バレちゃったみいです」
――あの
超絶口軽いオペレーターに銀時は呪詛の念ぶつけるが、
――つうか、み……ん……な? 今コイツ、『みんな』って……言わなかった?
ユーノが言った気になる一単語を思い出し、果てしなく嫌予感を覚えた銀時。
顔を真っ青にして汗をダラダラ流しながらブリキ人形のように金髪の少年に顔を向ける。
「……お前らにさっきのこと教えたの……誰?」
「……沖田さんです」
「あァ~……」
と銀時は何度か頷いた後、ようやく合点がいく。つまり、エイミィがバラしたのは勘違いだったらしい。
そもそもバラすもなにもない。
『銀髪ぅぅぅああああああああああああああああああああああああああ!!』
そもそもたぶんコレ、〝全員〟に見られちゃってるのだから。
凄まじい奇声が斜め上から聞こえてくる。
何もかも嫌だと思いながら銀時が顔を上に向ければ、空中にウィンドウが出現しており、そこには鬼も裸足で逃げ出すような形相のプレシアがいた。
『なにやってんだテメェェェェェエエエエエエエエエエエエッ!! フェイトの世話しろってそういう意味じゃねぇだぞコラァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
――ぎゃああああああああああ!! 出たあああああああああああああッ!!
銀時は心の中で絶叫し、プレシアの怒りの咆哮はまだまだ続く。
『ぐや゛じィィィィイイイイイイイイイイ!! ポッと出のダメ人間に娘の初めて奪われるとか屈辱以外の何ものでもないわ!! 憎さが有り余って憎さ千倍じゃボケェェェェエエエエエエエエッ!!』
――憎しみ以外なにもねェじゃん!! つうかお前ホントにプレシアさんですか!? つうかその表現やめろ!! 別の何か奪ったみてェだろ!!
全てのキャラをかなぐり捨てた母に銀時はドン引き。
鼻息も言葉も大荒れな上に、血走った目で血涙流す大魔導師は天に向かって吠える。
『アースラに帰ったらトドメさしてやるから覚悟せいやぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!』
そして次に画面に顔を映すのは血走った目で血涙流す新八。
『天然パーマてめェェェェエエエエエエエエエエエエエエ!! なにリリカルなのはの超絶人気ヒロインの初めてを奪っとんじゃコラァァァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!』
――奪ってねェよ童貞眼鏡!!
と銀時はツッコム。
そして猛る眼鏡を皮切りに次々とオペレーター室にいる者たちが顔が映ったり、声が聞こえだす。
『旦那ァ~。モテない男たる旦那が幼女の初めて奪った記念おめでとうござま~す』
『大丈夫アルかフェイト!! お前なにそのチャランポラン男に初めてをあげてるアルか!! もっと素敵な男の為に下の初めてはとっとくべきネ!!』
『『下の初めてまで奪ったんかコラァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』』
『なんですと銀時殿!! つまり貴殿は幼いフェイト殿に貴殿のピーをピーしてピーしたと言う事ですかァァァァァァァァ!!』
『東城、僕は銀時ではなくお前を本気で軽蔑した』
『ガッハッハッハッハッハ!! 万事屋も隅に置けんやつよ!! 俺もお前に見習いお妙さんのしょじ――!!』
『なに銀時! 貴様ついにロリコンになってしまったか!! っと言う事はお前は攘夷志士&テロリストとロリコンを兼ね備えた存在たるテロリコンになってしまったのだな!!』
『あーあ。ついにヤッちまったな、お前……』
『フェイトォ~! もう彼氏さんできちゃったの! お姉ちゃんビックリだよ! 今度ちゃんと紹介してね!』
『君たち!! オペレータールームは遊び場じゃないんだぞ!!』
『銀時さん、ご苦労様』
怒りに憎しみに呪詛に弄りにドン引きに冗談に労いに、とにかくああだこうだうるさい通信先の映像と音声にうんざりした銀時は再び寝転び、通信先の声をBGMにしながら愚痴を零す。
「あ~あ……。まさかガキ助けた報酬が袋叩きとは、ホント最後の最後までロクな仕事じゃなかったぜ」
「ごめん……銀時……」
と謝罪するのは、体を横に丸めるフェイト。っというか、丸まり度が更に上がってしまっている。まるくなる発動させて、防御力アップさせてしまっている。
どうやら、さきほどより羞恥心がアップしてしまったのだろう。
「私、本当に何も考えてなかった……。もうちょっと考えて行動すべきだったよね……」
少女の陳謝を聞いて、銀時はふぅー、と息を吐く。
「いやまー……ホントそうだよね……」
「…………ごめん」
フェイトの再びの謝罪を聞いて、銀時は青い空を見ながら口を開く。
「……まー、お前にとっちゃよ、何も考えずに何かをやれるなんて、早々ねェことだろ。それによ……」
そこまで言って銀時は再びウィンドウに目を向ける。
『フェイト待ってなさい!! 今すぐお母さんが母の抱擁であなたの心をその天パの毒牙から救ってみせるから!!』
『あッ、ママ! フェイトのところ行くの! なら私も~!』
『勝手な行動するなァァァァァァ!!』
と言うクロノ怒声を皮切りにウィンドウからプレシアとアリシアの姿が消える。
「大切な親バカと大切な姉貴の為に体張る必要もなけりゃあ、もう辛いのを我慢する必要もねェ……」
次に銀時はこちらに向かってくるアルフとなのはに顔を向け、
「無理に誰かを傷つける必要もねェ……」
そして最後に、フェイトへと顔を向けた。
自分へ顔を向け、柔らかい笑顔を作る金髪少女に、銀時は告げる。
「オメーはこれから自分の〝やりたい事〟をやりゃあいい。束縛されてもいなきゃ、もう無駄に我慢する必要もねェんだからな」
そこまで言ってから銀時が「ただし」と言葉を付け足した瞬間、傍に寄って来たアルフが黒い笑顔で銀髪にヘッドロックをかます。
「ぎんとき~♪ あたしらが見ないうちにフェイトに何を吹き込んだか、詳しく教えてもらうよぉ~♪」
「好きな事やって良いと言っても、ちゃんと考えて行動する事も忘れないでね」
銀時は人差し指立てて顔を青白くさせながらアルフの尋問を受ける羽目となる。
そのなんとも閉まらない光景にフェイトはクスクスと笑みを零し、やがて空を見上げた。
「……やりたい事……か……」
と小さく呟き、フェイトはゆっくりと上半身を起こす。
フェイトは顔を動かし、銀時に腕をタップされている使い魔を見る。やがて視線を移し、そんな二人の姿を苦笑して眺めている白い魔導師へと。
フェイトはうんと頷き、再びアルフへと顔を向けた。
アルフはふっと何かに気付きたように顔を上げ、銀時にヘッドロックをカマしたままフェイトを見た。
フェイトが口を開こうとすると、アルフは優し気な表情で首を横に振る。顎を少し動かして自分を助ける為に戦った少女へと促す。
「…………」
目を潤ませるフェイトは、嬉しさと感謝を感じて笑みを浮かべる。
フェイトとアルフのやり取りに気付いたのか、白い少女は二人を交互に見てから小首を傾げている。
フェイトは白い魔導師へと視線を戻し、ふら付きながら立ち上がるので少女は慌ててフェイトの元に駆け寄る。
「だ、大丈夫フェイトちゃん! まだダメージがちゃんと回復してないのに!」
横では銀時は、いや、俺のダメージも相当なんですけど! それなのにヘッドロックされてんですけど! と悲鳴上げ、アルフの腕にタップ中。
フェイトは手を出して「大丈夫」と言いながらゆっくりと立ち上がり、白い少女と対面。そしてゆっくりと息を吐いて気持ちを整え、告げる。
「あなたに、伝えたい事がある……」
真剣な言葉を聞いて白い魔導師は表情を引き締める。
フェイトは溜めたモノを吐き出すように言葉を漏らす。
「……ごめんなさい」
ゆっくりと頭を下げるフェイト。すると白い少女は優し気な表情で。
「うん……」
とただ頷く。
「今まで……本当に……ごめんなさい……」
フェイトはより深く頭を下げ、白い少女はまたうんと頷く。
そして頭を上げたフェイトは、やがて儚げな笑顔を浮かべながら思いの丈を送る。
「わたしやわたしの家族の為に必死に戦ってくれたあなたには、とても感謝している。本当に……ありがとう」
今度は少しだけ頭を下げるフェイト。
少女はまた優し気な笑みを浮かべ「うん」と頷く。
フェイトはゆっくりと顔を上げると握り拳を胸の前へと持っていく。
「こんな事を私から言うのは変かもしれない。だけど……できれば聞いて欲しい……」
独白にも似た言葉に対して、白い少女は優し気な表情で「うん」と相槌を打つ。
そして黒衣の魔導師は決意をあらためるように小さく深く息を吐いてから、口を開く。ぽつりぽつりと呟くように。
「何度も出会って……何度も色んな言葉を掛けてくれた……。だから、かな? そんなあなたに対して持つのは感謝の気持ちだけじゃない……。うまく伝えられないけど……もう一つ……伝えたい言葉がある……」
そこまで言って、フェイトは視線を斜め下に向け、一旦間を置く。だがいくばくかして視線を白い少女へと戻せば、ギュッと胸の辺りを握りしめる。
「いろんなことを話して……伝え合って……分かり合っていきたい……」
黒衣の少女が浮かべる表情は不安げで、儚げで、そして優し気で――。
「――友達に……なってほしい」
「ッ……!」
白い少女の瞳が揺れた。
銀時とアルフもフェイトの発言に呆然とし、お互いの顔を見る。
黒い少女は自信なさげに頬を掻く。
「だめ……かな?」
「……ううん。そんなことない」
白い少女は瞳を潤ましながら黒い少女の両手を握り、黒い少女は「良かった」と言って笑みを浮かべる。
銀時とアルフはその光景を見て薄く満足げな笑みを零す。
白い少女は泣きそうなくらいの顔で、とても嬉しそうな笑顔となり、黒い少女の手を優しく握る。
「……だったらまずは名前から。名前を呼ぶところからはじめよう!」
フェイトは俯き、気恥ずかしそうにし、ついアルフと銀時に助けを求めるように視線を向けてしまう。
するとアルフは「がんばれ」と口を動かし、銀時も同じように「言ってやれ」と伝えてくる。
風が吹き、フェイトの綺麗な金色の髪をなでる。
小さな少女は儚く優しい笑顔で――友達の名前を呼ぶ。
「――なのは」
白い小さな魔導師――なのはもまた、花の咲くような笑顔で新しい友達の名を呼ぶ。
「うん! フェイトちゃん!」
黒い小さな魔導師――フェイトに、初めて友達ができた瞬間だった。