魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

89 / 95
第七十五話:姉と妹

 ――私はアリシアと何度も会い、話をしている。

 

 当時、フェイトがトランスにもちかけた取引が『これから時間がある時はアリシアに会わせて欲しい』と言うもの。

 最初、トランスは渋っていた。が、フェイトは『この取引を承諾してくれた上で母と姉とアルフの安全を約束してくれるならあなたたちの要求を呑む』と提案。

 それが決め手になったのかは定かではないが、トランスはフェイトにアリシアを合わせる事を許可したのだ。

 

 とは言え、当初のアリシアの居場所はクリミナルの本拠地であろう場所。母の監視が行き届いている時の庭園では転移魔法で別の場所に行こうものならすぐにバレる。

 しかし、トランスの所属している組織にはどうやら転移魔法以外での別の地点に移動できる手段があるらしい。だからトランスは時の庭園の防御装置にも引っかかる事なくフェイトの部屋までやって来る事ができたようだ。

 

 アリシアと会う日取りは、夜が最適であると考えた。

 ちなみに、アルフにはトランスたちが用意した睡眠薬を飲ませる事ですぐさま寝かす。

 その上、プレシアなどの急な来訪も危惧して変身能力を持ったトランスがフェイトの代わりをするという念の入れようである。

 

 フェイトは家族を騙すような形でアリシアに会う事に対し、後ろ髪をひかれるような思いを引きずる。だが、どうしても会いたいと思ったのだ――自分が生まれるきっかけとなったアリシア・テスタロッサに。

 

 そして彼らの拠点である建物の屋内へと転移したフェイト。パラサイトの先導で、そのまま見知らぬ施設内を歩きながらアリシアが居る部屋へと案内された。

 

 無論、フェイトはこの時物凄く緊張していた。今まで存在すら知らなかった、自分の元となった人物に会うとなると心境はとてもつもなく複雑で、おおよそ言葉では表現できないような気持ちを心が覆いつくしている。

 

 〝長期の治療の為〟に実家から連中のアジトたる施設に滞在していると言う『設定』を〝信じ込まされている〟アリシア。

 

 アリシアは既に、トランスからフェイトがやって来ると事前に知らされているはず。もちろん、妹であるという前提情報も。

 なので、中に入っていきなり困惑&混乱されると言う事態には陥らないはずだ。

 

 ――とは言えこの時の私は、いきなり歳の近い妹が現れたと言う事実に対してアリシアはどう思っているのか? やはり受け入れられずに自分を拒絶するのではないだろうか? と言う不安を抱いていた。

 

 だが、緊張と不安で足踏みしている時間はさほどない。面会するための時間は有限だ。

 悩んで足踏みしていても答えは出ないと論理的に思考を巡らせたフェイトは決意を固め、ゆっくりと扉を開ける。

 

 そして彼女の目の前には――白い椅子に座り足を組み、白いティーカップでオレンジジュースを優雅に音も立てずに飲む事実上の姉の姿であった。

 そしてティーカップに少し口を付けた後、アリシアは流し目で。

 

「――あなたが私の妹ね。よろしく」

 

 アレ? (以前までは自分と思っていた記憶の)アリシアってこんなんだったっけ? とポカーンとするばかりの妹の反応など露知らず、

 

「わざわざお見舞い会い来てくれて私、とっても嬉しいわ。さ、どうぞ」

 

 これまた優雅な所作で丸机の前に置かれた端にフリルの付いた座布団へフェイトを促す。

 更には机の上にあるジュースが入ったコップとお菓子が敷き詰められた皿を手で指しながら、「お菓子と飲み物もあるからどうぞ」と告げるアリシア。

 

 なんか記憶に残っているアリシアとはおもっくそ違うのだが、年齢が上がって成長したのかな? と考え、とりあえず自分を納得させるフェイト。そして座布団に腰を下ろし、勧められたジュースを飲む。

 するとアリシアはフフフ、と笑みを零し、

 

「どう? おいしい?」

 

 なんてどこぞのお嬢様キャラみたく聞いてくるもんだから、フェイトは「は、はい……」と困惑しながら返事する。

 

「フフフ……それはよかった」

 

 アリシアは口元に曲げた指をあてながらまた優雅に笑みを零す。

 一方のフェイトは、アリシア・テスタロッサのキャラが想像以上に斜め上だったことに対して、汗を流す。

 やがてアリシアは口元に指を当てながら少し小首を傾げ、

 

「フェイト、ちょっといいかしら?」

「な、なんですか?」

 

 アリシア一旦溜を作った後にニコリと笑顔で。

 

「このキャラ――疲れるから止めるね』

 

 へ? と呆けた声を出すフェイトをよそにアリシアは「よいしょ」と言って白い椅子から立ち上がり、フェイトと対面するように丸机の前に腰を下ろす。もちろん彼女の座っている場所にもフリルが付いた座布団が敷かれている。

 

 またしてもポカーンとするフェイトをよそにアリシアは皿に乗せてあるクッキーを一掴みし、「おいしい♪」と頬を綻ばせながらクッキーボリボリ食べる。

 

「フェイトも食べなよ! このクッキーすっごくおいしいから!」

 

 と無邪気に言ってくるアリシアを他所にフェイトも戸惑いながらクッキーを摘まんで一口、サクリ。

 あッ、おいしいとフェイトは純粋にクッキーの味を評価しながら、ふいにアリシアへと質問を投げかける。

 

「あ、アリシア……ちょっと聞いていいかな?」

「ん? な~に?」

 

 アリシアはクッキーをポリポリ食べながら微笑みを浮かべて返事をする。

 

「さ、さっきのは……その……」

 

 と曖昧に問いかけるフェイト。

 なんで演技をしていたの? と問いかけたいが、少々混乱気味なので上手く言葉が出てこない。

 対して、アリシアは腕を組んでう~んとワザとらしく唸った後、人差し指を立て笑顔で。

 

「〝姉〟として威厳ある姿を見せようかなーって……思ったの」

「そ、そうなんだ……」

 

 戸惑いつつも相槌を打つフェイト。

 

「でも、やっぱりフェイトと距離を感じちゃったし、あとメンドクサイから素の性格の方がいいかなーって、思っちゃって」

 

 失敗、失敗、と言いながらアリシアは苦笑しつつ後頭部を掻く。

 

「そ、そっか……」

 

 なんという行き当たりばったりなのだろうか、と思いつつ汗を流すフェイト。

 だが、こういう無邪気な感じの方が記憶のアリシアっぽいのは確かである。

 

「フェイトも心配しないでね。私って結構お茶目なお姉ちゃんだから、フェイトも取っつきやすいと思うよ」

 

 アリシアは自信満々にエヘンと胸を張り出せば、

 

「アハハ……自分でお茶目って言っちゃうんだ」

 

 とつい笑いを零してしまうフェイト。

 気の抜けたような笑顔を見せたフェイトに対し、アリシアは微笑みを浮かべる。

 

「良かった……笑ってくれて」

 

 アリシアは両肘を机の上に乗せ、両の頬を掌で支える。

 

「私の妹は、クールで気難しい優秀な魔導師のタマゴだって聞いてたから、もっと笑わない子なのかな~って心配して損しちゃった」

「私はアリシアの事をわがままで基本的に思考放棄しててとりあえず常に拾い食いしている絵が壊滅的に下手な子だって聞いたけど、全然違ったね」

 

 と笑顔で言うフェイトに対してアリシアはギョッとする。

 

「いや、それ誰が言ったの!? もしかしてママ!? それともトランスちゃん!? 私のマイナス要素半端なくない!? 泣いちゃう!! お姉ちゃん泣いちゃうよ!!」

「本当に、思ってた以上に……」

 

 フェイトは姉のツッコミをスルーして噛み締めるように言葉を告げた後、優し気な笑顔で。

 

「私の家族(あね)は凄く明るくて優しい人だった」

 

 フェイトの言葉を聞き、アリシアは目をパチクリさせた後『アハハ……そっか』と気恥ずかしそうに頬を掻く。

 

「私も、初めて会った(かぞく)がこんなに素直な良い子だなんて思わなかったな~」

 

 ――私はアリシアが……姉が自分を妹として接してくれようとしていると言う事実に嬉しさと同時に感動を覚えた。

 

「あと、私の妹はあいぴーなんちゃら細胞でママとどこかの女の人の間に生まれた妹だなんて思わなかったな~」

 

 ――(アリシア)にとんでもない嘘を刷り込んでくれたトランスには怒りと同時に憎しみを覚えた。

 

 ほどなくしてフェイトとアリシアの初の会話は無事に終わる。それから二人は毎日とはいかずとも何度も何度も会合をし、会話を繰り返した。

 積極的なアリシアが会話の主導権を握って、ぎこちないフェイトの心をほぐしていく。

 

 徐々に打ち解けていくうちにアリシアが持っているゲームで遊んだりしたのも記憶に新しい。

 

「フェイト! 折角時間ができたんだし!!」

 

 アリシアは部屋に備え付けてある机の引き出しを引き、中からプラスチックのケースにしまわれたカードの束を取り出す。

 

「一緒にカードゲームしよ!!」

 

 そう言ってニコリと爛漫(らんまん)な笑顔を浮かべるアリシア。

 

「……うん」

 

 フェイトは少しぎこちないが、嬉しそうに微笑みを浮かべて頷く。

 

 今の今までお互いに顔を合わせたことすらまったくないこの二人。短い間に、こうやって交流ができているのはひとえに、アリシアが持つ前向きな明るさと積極性のたわものだろう。

 アリシアがフェイトのようにクールで感情をあまり表に出さない性格だったのなら、このような交流などまだ先の話になっていただろう。

 

 アリシアはベットに腰かけながらカードの束をケースから取り出す。そしてフェイトに顔を向けると同時にニヤリと勝気な笑みを見せる。

 

「今度は負けないよ~」

 

 シャッフルが終わり、アリシアはカードを自分とフェイトの前に一枚づつ交互に七枚配り、残ったカードの束をお互いの真ん中に置く。

 

「さぁ、勝負!」

 

 とアリシアは楽しそうに七枚の手札を構えながら言い、フェイトも配られたカードを手に取って少し儚げだが嬉しそうな顔でカードを構える。

 

 こうやってぐいぐい積極的にコミュニケーションを取ろうとするアリシア。対して、彼女の気持ちを静かに受け止めようとするフェイトの素直さ。

 姉妹の異なった性格は大きさの違う歯車のように噛み合い、交流を深める速さを後押ししているのである――。

 

 

 

「ドローフォー」

 

 フェイトは手札に残った最後のカードを出してウノ勝負に勝つ。

 

「また負けた~!」

 

 アリシアは手札に残ったカードを自分の前にばら撒きながら後ろに体重を傾け、両手をベットに付いて体を支えながら天井を見上げる。言葉ではカードゲームに負けたことに対して悔しそうだが、声音も顔もただただ嬉しそうだ。

 

「フェイトはゲーム強いよね!」

 

 と言うアリシアは体を前に傾け、両手を膝の間に挟みながらニコニコ顔。

 

「やっぱり、魔法が上手だとこう言う、せんりゃくゲーム? って言うのかな? 限られた手数で勝つゲームに強いよね~!」

「う、う~ん……どうなんだろ?」

 

 きらきらした瞳を向けてくるアリシアに対して、フェイトは困ってしまいぎこちない笑みを浮かべる他なかった。

 

「でも、アリシアだって遊戯王は強いよね。私、一度も勝てないから」

 

 フェイトの言葉を受けてアリシアは「へっへ~ん!」と自慢げに腰に手を当て胸を張る。

 

「凄いよね。いつもアリシア、大体二ターン以内にエグゾディア召喚して勝っちゃうから、場面を整える暇すらないよ」

「まッ、運も実力のうちだよ」

 

 アリシアは自慢げに鼻を高く上げ、フェイトは純真な眼差しを瓜二つな姉へと向ける。

 

「アリシアって、いつもゲームする前にリストバンドして気合を入れてるから、勝つ事に対する気合の入れ方が違うよね」

「そ、そうだね」

 

 アリシアは汗を流しながらあからさまに視線を逸らす。(ちなみにアリシアちゃんはリストバンドからカードをドローすると言う反則技をやっていることをフェイトちゃんはまったく知らない。ただ純粋にお姉ちゃんを褒めているのであしからず)。

 

「ふぇ、フェイト! 次はリバーシやろう!!」

 

 アリシアはいたたまれなくなったようにボードを持って新しいゲームをするよう提案するが、フェイトは申し訳なさそう顔で。

 

「ごめん、アリシア。そろそろ時間だから」

 

 ベットから立ち上がり、フェイトの言葉を聞いたアリシアは少し残念そうな、そして悲しそうな表情になる。

 

「そっか……。また、『魔法の訓練』なんだね」

「私ももっとアリシアと一緒に遊びたかったけど、こればっかりは……ね」

 

 数か月の間に一二時間程度の会合を繰り返す二人。

 

 ――この頃から……いや、最初に会った時から私の中に対するアリシアを守りたいという気持ちは大きく、会う度にその思いが増していったのは私自身も自覚していた。

 

 だからこそ、母もアリシアも見捨てられない、諦めきれないと言う気持ちは日増しに強くなる一方だった。

 

 当時のアリシア。時折無邪気な笑顔を見せてくる姉は自分が人質であることも、フェイトとプレシアの事情だってまったくと言っていいほど知らない。

 彼女は昔起こった事故により、仮死状態から目覚め、現在は体の治療の為に学校にもいかず、外出もできずに部屋で生活を送っていると言う偽の情報を与えられている。

 

 無論、アリシアにはプレシアがお見舞いに来ているらしいのだが、それは母に化けたトランスだろう。

 

 裏の事情を何も知らないアリシア。だがなにより、フェイトはこの純真な姉の笑顔を曇らせたくなかった。

 

 ――わがままかもしれないが、後々すべての事情を知らされる事になったとしても、今だけはなんの憂いもないお姉ちゃんとの時間を過ごしたい、そう思ったのだ。

 

 アリシアと他愛無い話をしたフェイトはアリシアに「そろそろ時間だ」と区切ってベッドから立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

 アリシアに背を向けて扉に向かおうとした直後、

 

「あ~あ……今日は〝お姉ちゃん〟って言ってもらえなかったな~……」

 

 冗談交じりだが少々残念そうな声で言ったアリシアの言葉を聞いてフェイトは立ち止まり、思い出す。

 それは銀時がやって来る少し前、アリシアの部屋へと訪れた時。

 

『――フェイト。もし、フェイトがいいなら……なんだけど……私の事をお姉ちゃん、って呼んでみてくれない……かな?』

 

 もう何度も会っているアリシアが初めて見せた顔はとても自信がなさそうで、とても不安そうだったの覚えている。

 

 その言葉を聞いてフェイトは感じ取った。

 

 普段は明るく、そして優しく接してくれるアリシアが見せた弱み。

 きっと彼女もまたフェイトに――妹に本当の家族と思ってもらっているのだろうか、と言う不安を抱いているのだと。

 

 あの時のアリシアの言葉を聞いてからフェイトは気恥ずかしく思いながらも、とても小さな声で、初めて姉を「お姉ちゃん……」と呼んだのだ。

 耳がとても良かったのか、フェイトの言葉を聞き逃さなかったのか。あの時の、喜びを体現したかような姉の顔は脳裏にしっかりと刻まれている。

 

 ぶっちゃけた話し、本当にフェイトにとってアリシアをお姉ちゃん呼びするのは気恥ずかしくて仕方なかったので、今に至るまで本当に数えるほどしか呼んでいない。

 だからこそ扉の前まで歩いたフェイト振り向き微笑みを浮かべ、

 

「じゃあまたね……お姉ちゃん」

 

 と言った。

 目をパチクリさせるアリシアを尻目にフェイトはドアノブに手を掛ける。だがしかし、ガバっと後ろから何者か……いや、アリシアが抱き着いてきた。

 

「――ありがとう……。お姉ちゃんを〝お姉ちゃん〟て呼んでくれて」

 

 抱き着かれ驚くフェイトをよそにアリシアは優しい声で。

 

「でもそんな気を使って言う必要なんてない。私とフェイトは普通の姉妹と違って心の距離はまだまだすっごく遠いかもしれないよ? でも、私とフェイトは姉妹だもん。家族だもん」

 

 優しく自分を抱きしめる姉の言葉はまるで心にしみ込むように。

 

「だからフェイトにちょっとでも近づけるように私いっぱいフェイトと話すし、いっぱい遊ぶ。何回だって何十回だって何百回だって何千回だって、それこそ毎日お姉ちゃんて呼んでもらえるように頑張る。だって私はフェイトの……」

 

 そこまで言ってアリシアはピタリとフェイトの背に頭を預ける。

 

「――お姉ちゃんだから」

 

 姉の実直なまでのまっすぐな言葉を受けて、妹は顔を俯かせる。

 口元を右手で抑えこみ、必死に嗚咽を――弱音を姉に聞かせないように努めるフェイト。

 

 ――私が今まで欲しくてたまらなかったものをたくさんくれる。ずっと一人で抱え込んでいた不安も苦しみも悩みもさも当たり前のように軽くしてくれる。……私の家族は本当にズルくて……優しい……自慢の家族……。

 

 

 

 

「こうやって……アリシア……お姉ちゃんとは……いっぱいお話ししたんだ」

 

 時間は現在に戻って、アースラの食堂内。

 アリシアとの思い出を語り終えたフェイトはニコリと笑顔を浮かべる。

 

「…………なるほどな」

 

 話を聞き終えた銀時は気だるげな眼差しをフェイトの姉へと向ける。

 銀時の視線の先では、ニコニコ顔のアリシアが同じくニコニコ顔のプレシアにあ~んをしている最中であった。

 

「なんつうか……アレだな。姉妹の割に、性格は全然似てないんだな」

「アハハ……うん、そうだね……」

 

 苦笑い浮かべながら相槌を打つフェイト。

 

「でもよ……」

 

 と銀時が言えば、フェイトは「ん?」と言葉を漏らす。

 銀時はとても薄い笑みを浮かべて言う。

 

「良い姉貴だな」

「……うん!」

 

 まるで我が事を褒められたかのように、笑顔を浮かべるフェイトだった。

 

 

 

 

 そして慰労会が始まる一週間後まであっと言う前に時間が過ぎていく。

 この一週間で行われたことは様々だ。

 

 クリミナルたちの今後の動きや痕跡を掴む為に局員による時の庭園と海鳴市の入念な捜索が行われたが、手がかり一つ発見できなかった。

 まるでクリミナルと言う組織など最初から居ないと言わんばかりの徹底的な隠蔽ぶりでだ。

 

 まだ全容も分かっていない組織が五体満足で残っていると言う事実に対して新八、山崎、なのは、アリサ、すずか、フェイトなどは不安と焦燥を覚えもした。

 だが、テスタロッサ一家は無事に助かり、今回の事件の主犯メンバーのほとんどは捕らえられてる上、これからクリミナルと言う組織に対して管理局がより目を光らせると言う事実がいくばくかの安心感を与えた。

 

 もちろん事件の重要参考人であるテスタロッサ一家の事情聴取も随時行われていた。

 母であるプレシア・テスタロッサを代表として、事件についての事情聴取をプレシアやフェイトが順次受ける形となる。いくらリニスから事前に事情を聞いたと言っても、得る情報はいくらでもあるのだ。

 もちろん、テスタロッサ一家の中で一番事件についてまったくと言い程知らなかったであろうアリシアも事情聴取を受ける事になったのだが、さすがに何も知らないアリシアに事件の全容を教えるのはプレシアもフェイトも迷ってしまう。だが、リンディに隠し通せるものではないと諭され、二人はアリシアに事件の全容を教える事を決意。

 

 テスタロッサ一家が借りているアースラの一室。

 プレシアとフェイトから全ての真実を聞かされたアリシアは、

 

「ママ……ごめん……。フェイト……ごめんね……。わたしのせいでいっぱい……いっぱい……傷ついたよね……」

 

 と涙を流しながら謝り続けるアリシアを二人の家族は優し気な表情で。

 

「――あなたが謝る必要なんてないわよ。お母さんはあなたの為ならどんなに辛い思いをしたってどうってことないのよ?」

 

 涙を流す娘の頭を母が何度も撫で、

 

「たしかに、過去にあった事は消せない。けど、これからは家族一緒に暮らせる。だから、過去を振り返って悲しむよりも、幸せな未来に向かって少しづつ歩いていこう……」

 

 悲しむ姉の背中を妹が優しく擦り続ける。

 

「うん……うん……!」

 

 アリシアは何度も何度も優しい家族の言葉に頷くのだった。

 フェイトとプレシアはアリシアの心を楽にする為の努力を惜しまず、ゆっくりとではあるが少女の笑顔を失せなわせないように力を尽くした。

 その甲斐あって、アリシアの心が深く傷ついたり自責の念の囚われる事はなく、心の整理も思った以上に済み、事情聴取に進んで応じるほどであった。

 

 フェイトの話によれば、『病人として』軟禁されていたアリシアはまったくと言っていいほどにクリミナルたちについては知らなかった。

 知らなかったのだが。

 

「クリミナルって人たちは悪い人たちの集まりかもしれないけど、トランスちゃんは優しかったよ!」

 

 と、アリシアがあのトランスと言う少女に対して好意的な呼び方をするでのクロノは唖然としながら「トランス……ちゃん?」と呟く。

 真剣な表情でアリシアは熱く語る。

 

「だって四年も私に勉強を教えてくれたんだもん!」

「なに!? 君は四年前から起きていたのか! しかもあいつらは君に勉強を教えていただと!?」

 

 アリシアが四年前から目覚め、あまつさへあんな悪質な連中のメンバーの一人であるトランスが人質たる少女に勉強を教えていたと言う事実にクロノは驚きを隠せない。

 

「それに色んな事を私に教えてくれた!」

「一体、トランスは君に何を教えたんだ?」

 

 もしかして人質にするついでにアリシアを洗脳でもしようとしていたのではないか? と危惧したクロノは真剣な表情で問いかける。

 

「トランプ!」

「…………はッ?」

 

 カードの束を見せながらのまさかの回答にクロノは呆けた声を出し、アリシアは次々と言っていく。

 

「リバーシにウノにジェンガに――」

「待て待て待て待て!」

 

 次々とゲームの名前を言うと同時に遊具を見せてくるアリシアの言動にクロノは慌てて待ったをかけるが少女は止まらない。

 

「遊戯王にスマブラにマリオにソニックにロックマンに――!」

「おい! さっきから教えられてるのゲームばっかじゃないのか!?」

「あとお菓子もいっぱいくれた!」

「甘やかされ過ぎだろ! なんなんだその好待遇!」

 

 アリシアは五体満足どころか軟禁されている四年間は大分良い暮らしをさせられていたようだ。理由は不明だが。

 その情報は今回の事件に関わった地球組や江戸組にも伝わり、うち何人かの驚きとツッコミが炸裂したのは言うまでもない。

 

 そして問題の『人を操るデバイス』を持っていた辺りの記憶をクロノは訊くことした。

 

「前もって言っておくが、これは話し辛い事だったら無理に話さなくていい。君は人を操るという特殊な剣型のデバイスを持たされていたんだが、何か覚えている事はないか? 持つ前後の記憶でもいいんだ」

 

 アリシアは腕を組み眉間に皺を寄せ「う~~ん」と唸り声を上げた後、口を開く。

 

「……なんていうのかな……声が聞こえたんだ」

「声?」

「うん。ママのお仕事中にね、『来てください』って声が聞こえてきたの」

「それで、どうしたんだ?」

 

 真剣味のある表情で聞くクロノに対し、アリシアはまるで遠くの景色を眺めるかのような表情で説明を続けた。

 

「『私の元まで来てください』って声を頼りに外を探していたら、落ちてたんだ。見た事ない剣の形をしたキーホルダーを」

「それを……拾ったんだな?」

「うん……。『手に取ってください』って言われて。それで、後は眠っちゃった時みたいに、記憶がなくなっちゃって……」

「そうか……。次に意識が戻った後の事は覚えているか?」

 

 問いに対し、アリシアは視線を斜め上に向けながらゆっくりと口を動かす。

 

「白い……部屋。天井も壁も白くて、窓がなくて、ベッドだけの〝寂しい〟部屋にいたの」

「…………」

 

 話を聞いていくうちに、クロノは少し暗いをするのだが、

 

「――〝リニス〟と一緒に」

「んん!?」

 

 アリシアの口から出た言葉で、一気に表情を変化させる。

 今なんて言った? と言わんばかりの顔をするクロノは、右手を出す。

 

「ちょッ、ちょっと待ってくれないか? えッ!? リニス? リニスって、プレシア・テスタロッサ――君の母親の使い魔の事か? それとも――」

「うん……私とお母さんが育ててた猫のリニスだよ」

 

 さも当然とばかりに言った言葉に、クロノは頭を抱えだす。

 

「えええええええッ!? き、君の猫、そ、それだと二十年生きた事に!? いやそもそもトランスが食ったんじゃないのか!? ど、どういうことだ!?」

 

 頭の回転が速い執務官も色々と辻褄の合わない情報に混乱しまくりであった。

 そうこうしている内に彼女が持っていた情報や身体に関するデータを列挙するとこのようになる。

 

・使い魔の方じゃないリニスは二十年以上(元の年齢加味せず)生きていた。

・白い部屋では飼い猫の方のリニスと一緒に暮らしていた。

・母親とは会っていた。(トランスの変身疑惑あり)。

・アリシアのお世話係のトランスにはお菓子を与えられ、一緒にゲームをして、勉強を教えてもらった仲。

・病気だったと嘘を教えられていたので、外には一切出ていない。

・軟禁状態だった割に、筋肉量は特に衰えていない。それどころか平均より高い。

・アリシアの肉体年齢は九歳前後。

 

 という感じである。

 

「なんじゃこりゃ……」

 

 思わずそう普段の口調も忘れて言ってしまうクロノ。

 記憶に関する処置でも行っていたのか、アリシアの情報はかなり出鱈目というか、辻褄が合わないというか、違和感ありまくりというか、無茶苦茶なものであった。

 

 兎にも角にもアリシアへの事情聴取が終わった後。

 特にリニスの部分が謎だったが、一応は伝えなければならないので、プレシアに伝えたところ。

 

「そうなの……あのクソ白髪、私を騙しやがったわね……」

 

 目をギラリと光せながら、恐ろしい赤黒いオーラを出す。

 そして間髪入れずにトランスに詰問するプレシア。

 

「オラァァァァァッ!! クローンじゃない方のリニスが生きていたってどういうことだゴラァァァァアアアアッ!!」

 

 体どころか髪すら拘束具で固定されたトランスにアイアンクローをかます。

 

「いだだだだだだだだだだだだだだッ!!」

 

 強引にトランスの拘留室に入り込んだプレシアに対し、

 

「コラァァァァアアアアアッ!! 被疑者を拷問するなぁぁぁぁああああッ!!」

 

 クロノは必死に体を抑えて止めに入るだった。

 プレシアの強引な拷問が功を奏したのかわからないが、トランスは素直に教えてくれた。

 

「言ったじゃない。可愛いから〝いただいちゃった〟って」

「いただくって、頂くって意味かぁぁぁぁぁッ!!」

 

 プレシアはトランスの脳天に肘打ち(エルボー)を叩きつけた。

 

「アウヂッ!!」

「だから攻撃するなぁぁぁぁッ!!」

 

 クロノが怒鳴る中、プレシアは更なる問いかけたをした。

 

「そもそも、なんでまだ寿命で死んでないの?」

「ほら、それはウチの超技術で仮死状態(コールドスリープ)させてアリシアちゃんが目覚めた頃に会わせる予定にしてたから」

 

 プレシアは「はッ?」と呆けた声を出してしまう。

 

「それ……あんたらになんのメリットがあるの?」

 

 対して、トランスは少し顔を背けながら口を開く。

 

「そうしないと、アリシアちゃんがグズッてうるさいから、あの猫ちゃんが必要だったの」

 

 まさかの理由に、プレシアは少しあっけにとられてしまっている。

 

「………そ、そう。わかった。……じゃあ、猫のリニスはあなた達の本部にいるってことかしら? それとも、もう処分したの?」

「アルがあの猫ちゃん気に入っちゃったから、たぶん大丈夫じゃない? 悪いようにされてないと思うわよ」

 

 アル。

 プレシアを監視していたプラチナヘアーの女性であり、クリミナルの研究員の一人。

 

 話を聞くうち、プレシアは少し複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「なるほど……。わかったわ」

「それで、これでもう話は終わり?」

「まだあるわ」

「え~~、まだ~~?」

「なんでアリシアの世話をあなたがしてたの? いや、そもそも四年前からアリシアを育ていた意味がわからないわ」

 

 プレシアの意見にはクロノも同意する。

 アリシアを長期間育てたところで、クリミナルの益になるような事はほぼないはずなのだから。

 デバイスのために育成していたのならまだ理由としてはわかるが。

 

 プレシアの投げかけた問いに対し、トランスはため息を吐き、ぶっきらぼうに答えだす。

 

「デバイスが操ってない時は、アリシアちゃんは自由でしょ? だから余計な反抗心持たせたくなくてお世話してたの。あの頃は暇だったし、私がアリシアちゃんを押し付けられて、面倒を見るハメなっただけ」

「…………随分、しっかりアリシアをお世話してたようだけど、あなたって子供好きだったのかしら? 子供が子供のお世話をするってのも、変な話しね」

 

 皮肉を混ぜたプレシアの言葉。納得できない、そんな感情が彼女の表情からありありとわかる。

 

「…………」

 

 対して、トランスは顔を逸らしながら口を紡ぐ。これ以上は何も喋らないという心情を現すポーズだ。

 また拷問(こうげき)が始まるのかと、身構えるクロノ。さすがに今度は止めねばならないと待機状態のデバイスを構えるが。

 

「そう。もういいわ」

 

 と言って、プレシアは踵を返す。どうやら、彼女は訊きたい事は訊けて満足したらしい。

 だが、思い出したように振り返り、

 

「そのうち、リニスは返してもらうから」

 

 落ち着いた声でトランスに告げた。そして拘留室から出ていく。

 

 嵐が去った、と思いつつ深くため息を吐くクロノ。

 おもむろにトランスへと視線を向ける。

 

「それで? プレシアの時みたく、僕たちの質問にも答えてくれるのか?」

「…………」

 

 するとトランスは、ベーッと舌を出して、やだよーっとジェスチャー。

 対話拒否する白髪少女にクロノはため息を吐く他なかった。

 

 

 そして、アリシアに関してもう残る二つの問題がある。

 それはリニスとフェイトに関すること。

 

 まず一つ目の問題。

 アリシアは〝プレシアの使い魔〟ついて何も知らない。いなくなってしまった〝山猫のリニスクローン〟である、リニスについて。

 

 テスタロッサ一家が寝室として使っているアースラの一室。

 そこでアリシアとリニスは挨拶を兼ねた、対面をすることになったのだ。

 ちなみに、この対面はリニス側の申し出ではなく、アリシアの申し出だったりする。彼女がリニスの事をプレシア経由で知った時、

 

『私、リニスとちゃんとお話したい!』

 

 と訴えたのだ。

 一方のリニスはとは言うと、

 

『わ、わかりました……!』

 

 かなり緊張した面持ちで承諾。

 

 そして部屋で二人になったアリシアとリニス。

 お互いにベットの端にちょこんと並んで腰をかけている。そのままいくばくかの静寂。

 

 ――ど、どう切り出せば……。

 

 普段は理路整然とした、余裕ある振る舞いを見せてきたリニス。だがしかし、ことアリシアに関しては別。

 

 ネックは、自身が〝リニスのクローン〟であるという点。

 

 アリシアが今まで可愛がってきた愛猫のなり損ない、という引け目がどうしてもあるのだ。

 こんな考え方のリニスだが、フェイトの事はアリシアの成り損ないなどと、露ほども思ってない。にもかかわらず、自分の事に関して〝だけ〟は色々とネガティブな考えを浮かべてしまう。

 

 そんなメンドーな考えにリニスが囚われていると、

 

「ねー、リニス」

「は……はい!」

 

 アリシアからの会話の切り出し。

 数瞬の遅れを出しながらも、なんとか返事をする使い魔。

 

 何を言われるのだろうか? そう思って、言葉を待つリニス。

 

 アリシアはゆっくりと体をリニス横に寄せていき、やがて腕が届く範囲まで近づく。

 一体なにを? とリニスが不思議に思っている間に――アリシアはギュッと使い魔を抱きしめる。

 

「ッ!?」

 

 目をパチクリさせて驚くリニス。

 体を伸ばして、首の後ろに両腕を回し、抱きしめるアリシア。

 対して、

 

「え、えっと……」

 

 どう対応していいかわからず、困惑してしまうリニス。

 

「私、お母さんから聞いてる。リニスがどうして〝リニス〟って名前なのかって」

「……はい」

 

 悲し気な表情を浮かべるクローンの使い魔。

 二人っきりで話す前、プレシアからは一応は聞かされている。〝自身の正体〟について、『アリシアに話した』と。

 

 だからこそ怖かったのだ。アリシアに拒絶されるかもしれないと。

 だがしかし、アリシアの今している行為は拒絶などではない……。

 

「リニスはリニスで、ママを今まで支えてくれた〝立派な使い魔〟の〝リニス〟だって、わかっているから。だから、大丈夫。心配しなくていいよ」

 

 受け止めるような、抱擁だった――。

 

「アリ……シア……」

 

 目の端に涙を溜めてしまうリニス。

 抱きしめられる中、自身も思わずアリシアを抱きしめ返してしまう。

 

 その後、スムーズとまではいかないが、ゆっくりと過去の話しを交えつつ、互いを知る事が出来た二人。

 もうわだかまりは、ないに等しいほどになっていた。

 

 

 では二つ目の問題であるフェイトの出生ついて。

 フェイトが少し怯えながらもアリシアに真実を話しても、姉はまったく怯まなかった。

 

「ビックリした! だけど関係ないよ!」

 

 アリシアはフェイトの両手をギュッと握りしめ、不安そうな妹を安心させようとする。

 

「フェイトはフェイトだもん!! どんな生まれだって、私の妹は妹だから!!」

 

 太陽のような笑顔を浮かべる姉は、妹の不安の闇を消し去ってしまう。

 

「お姉ちゃん……」

 

 自身の全てを受け入れてくれた姉に、妹はポロポロと涙を流す。

 

 このように二つの問題は――小さな太陽のような少女によって解決するのだった。

 

 

 そして最後に語るのはフェイトとアリシアの海鳴市のちょっとした観光であろう。

 アースラにこもりっきりだったフェイトとアリシアの気分転換を兼ねて海鳴市でのちょっとした観光をさせた。

 もちろん案内はなのはとアリサとすずかであり、更にははやても参加。さすがに心配だったのか、保護者としてプレシアと念のために護衛としてクロノが同行。

 ちなみにこっそりではあるが、江戸組の銀時、新八、神楽、九兵衛、近藤とヴォルケンリッターのシグナムとシャマルが後を付けている。

 この散策で少女六人はそれなりに友好を深める結果に繋がった。

 

 

 そしてたぶんこれが一番インパクトが強いであろう出来事。

 フェイトたちが海鳴市での楽しい散策を終え夕方になった頃、沖田は思い出したかのようにクロノに「ちょっと合わせた奴がいるんでさァ」と言って、彼を海鳴市の海岸付近で待たせていた。

 

「なんなんだ一体……」

 

 クロノとしては沖田が誰に会わせたいのか問いかけたのだが、真選組一番隊隊長は「ちょっとしたサプライズでさァ」とか言って正体を明かさずにユーノと一緒に会わせたい人物のところに向かってから十数分が経過した。

 夕方の海岸通りで腕を組みながら待たされるクロノは今回の事件について頭の中でまとめようと思い目を瞑る。

 

「おう、待たせたな。連れてきてやったぜ」

 

 と言う沖田の声が前から聞こえて来たので、クロノはやれやれとため息を吐きながら目を開ける。

 

「まったく。一体ぼくに誰を紹介したいん――」

 

 クロノは沖田が連れて来た人物と言うか、光景を見て絶句した。

 顔にはマスクのように女性用パンツを被り、胸には女性用のプラジャーを装着し、それ以外はほぼ全裸と言う完全無欠の変態が沖田に犬の首を付けられ、鎖に引っ張られながらやって来ていたのだ。しかも下にまったく何も履いてないので、思いっきり恥部が露出しているありさま。

 ちなみに沖田の横にはユーノと定春が並んでいる。

 

 上も下も完全なる変態を見てクロノは目を白くさせ、沖田は呑気な態度で鎖を引っ張る。

 

「ほれ、とっとと来な」

「うッ……」

 

 悲し気な声で引っ張られる変態を見てクロノは表情をクワッと変化。

 

「沖田ぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

 と叫び、ビシッと変態男を指さす。

 

「なんだその変態はあああああ!! まさか現地住民を拉致した挙句君の奴隷に仕立てあげたかッ!!」

「ちげーよ、コイツは元々こんな格好でィ」

 

 沖田はジト目で答える。

 

「それはそれで問題だ!! よく通報されなかったな!! まさか地球の法律では外で女性用下着を被って恥部露出させても問題ないのか!?」

「いや、違う」

 

 とユーノが変態から目を逸らしながら説明しだす。

 

「単純に認識阻害魔法で現地の人間には彼が普通の服を着てるように見せてるだけだから」

「いやそれは完全なる魔法の悪用だぞ!!」

「おいおい。こんな格好のヤツを普通に外に出したら、俺らポリ公に捕まっちまうだろうが」

 

 と沖田が文句垂れるのでクロノは正論で返す。

 

「自覚あるなら普通の服着せろ!! そもそもなんなんだその変質者は!!」

「仮面ライダーパンツ」

 

 沖田の回答を聞いてクロノは驚きの表情を浮かべる。

 

「なにッ!? そいつがあの超悪質な変態次元犯罪者か! 噂以上の変態だ!!」

「たまたまこの世界で悪事を働いていたのを銀時さんがやっつけて、僕らが今の今まで捕まえていたんだ」

 

 ユーノが軽く事情を説明をし、沖田は手に持った男の鎖を離す。

 

「ほれ、お待ちかねの管理局だ。ちゃんと豚箱いかねーとまた犬っころの遊び相手させるぞ」

 

 沖田が言えば、舌を出す定春がそのつぶらな瞳を変態へと向け、目をギュインと光らす。

 

「ッッッ!!」

 

 変態はビクリと肩を震わせて顔面蒼白にし、すぐさま涙を流しながら。

 

「管理局ぅぅぅぅぅううううううう!!」

 

 両手を広げてクロノへと走って向かっていく。ちなみに一切なにも履いてないので男の下の棒がぶらぶら揺れる。

 とんでもねェ変態が向かってくるもんだからクロノの顔は真っ青。

 

「ぎゃあああああああああッ!! 来るな来るな来るな来るな来るなああああああああッ!!」

 

 だがクロノ静止も聞かずに男は執務官の胴へとしがみつき、涙声で告げる。

 

「もう牢獄だろうと豚箱だろうと虚数空間だろうとどこへでも行くから!! あの犬の相手だけは本当に勘弁してくれぇぇぇぇぇええええええ!! 命がいくつあっても足りないッ!!」

 

 大の男が恥部露出させながら夕日が差す海岸沿いでわんわん喚きながら小さな青年にしがみつくさまは、あまりにもあんまりな光景であった。

 そして変態に抱き着かれるクロノは嫌悪感マックスな顔で。

 

「わかったぁぁぁぁあああああ!! 情状酌量余地を与えてやるからとにかくとっとと離れろぉぉぉぉおおおおおおおお!!」

 

 すると沖田はどこから出したのかカメラを構え、

 

「はいチ~ズ」

 

 シャッター切り、

 

「撮るなぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 クロノの叫び、沖田は撮った写真を確認し、

 

「安心しな。ちゃんとオメーの親とガールフレンドに見せてやるぜェ」

 

 「恋人ができたぜ、ってな」と言って沖田は親指立てる。

 

「いますぐ消せぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええ!! でないとお前をいますぐに殺してやるからな!!」

 

 クロノの叫び声は、夕日が差す海岸に木霊するのであった。




第七十五話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/85.html
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。