魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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海鳴市滞在編
第七十八話:新章開幕ってなんかわくわくする


 海鳴市。

 喫茶翠屋の裏手にあるなのはの実家の門の前には金髪の少女――フェイト・テスタロッサ。その左隣には姉であるアリシア・テスタロッサと、手に紙袋を持った母であるプレシア・テスタロッサが立っていた。そしてフェイトの右隣には使い魔であるアルフが狼姿でお座りしていた。

 

 テスタロッサ姉妹は荷物がパンパンに詰まったボストンバックをそれぞれ持っており、アリシアは握り手を片手で、フェイトは握り手を両手で持っている辺りが二人の性格の違いを表している。

 プレシアがインターフォンを押し、フェイトが緊張した面持ちで待っていればすぐに玄関の扉が開き、なのはが姿を現す。

 

「フェイトちゃん、アリシアちゃん、アルフさん、プレシアさんいらっしゃい!」

 

 待ってましたと言わんばかりに笑顔で出迎えるなのは。

 対してアリシアは、

 

「おはよう! なのはちゃん!」

 

 と天真爛漫な笑顔を見せる。一方の妹たるフェイトは若干頬を赤く染めながら軽く頭を下げる。フェイトの後ろではアルフが舌をペロッと出して尻尾を軽快に振っている。

 やって来たなのはに対してプレシアは少し腰を曲げて微笑みを浮かべる。

 

「お出迎えありがとう、なのはちゃん」

 

 プレシアがお礼を言うと同時に、玄関の奥からなのはと同じ髪色をした女性が姿現す。その長い髪を揺らしながらテスタロッサ一家の前までやって来た女性は、人当たりの良い笑みを浮かべる。

 

「こんにちはプレシア・テスタロッサさん。私が高町なのはの母、高町桃子です」

 

 深々と頭を下げる桃子に倣って、プレシアも社交的に頭を下げる。

 

「どうも初めまして。フェイト・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの母。プレシア・テスタロッサです」

 

 プレシアの挨拶を受けてから、桃子は視線をフェイトとアリシアの二人に向ける。そしてしゃがみ込み、優しく微笑みを浮かべた。

 

「こんにちはフェイトちゃん、アリシアちゃん。なのはから色々と話しは聞いているわ。これから数日間よろしくね」

「は、初めまして……」

「こんにちは~!」

 

 フェイトは気恥ずかしそうに、アリシアは元気いっぱいに手を上げて挨拶をすれば、桃子も「こんにちは。これからよろしくね」と笑顔で言葉を返す。

 テスタロッサ姉妹と挨拶を済ませれば、桃子は顔を横に居る娘へと向ける。

 

「それじゃ、なのは。アリシアちゃんとフェイトちゃんを家に案内してあげて」

「うん!」

 

 なのはは笑顔で元気よく頷けば、フェイトの右手とアリシアの左手をそれぞれ手に取って「二人共、こっちだよ!」と言ってリードする。

 お互いの顔を見合わせる姉妹。妹は若干頬を赤くして薄く笑みを浮かべ、姉はニコリと元気よく笑顔を作る。そしてそのままなのはに手を引かれて、案内されながら家の中へと入っていく。

 

 フェイトは若干の気負いを感じさせるが、問題なく他人の家でも過ごせそうだと感じたプレシア。彼女は桃子へと少し申し訳なさそうな表情で話をかける。

 

「すみません、ご厚意に甘えさせてもらって。所用が終わるまでの間、大きな娘の二人の面倒を見てもらう形に……」

「いえいえこれくらいなんでもありません。こちらも娘から話を聞いた上で決めた事ですから」

 

 と桃子はなんでもないと言わんばかりに笑顔で右手を左右に振る。

 一方、テスタロッサ姉妹を家の中へと案内させるなのはの目は輝いていた。

 楽し気な娘の姿を見た桃子は、プレシアへと顔を向けて人当たりの良い笑顔で言う。

 

「それに、これからもお互いに色々とお世話になると思いますから」

(やっぱり……なのはちゃんの母親ね……)

 

 目の前の高町桃子と言う人物。なのはの話では、フェイトとアリシアを家に宿泊させる事をあっさり了承したらしい。まだ年端もいかない子供二人を責任を持って預かる事を即決するあたり、やはり高町なのはの母親なのであると再認識する。

 こうやって相対し、目を見て話すと、人と言うか母親として一皮むけている事や、懐の深さなどが伺い知れる。

 やがてプレシアは再び深く頭を下げる。

 

「色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、フェイトとアリシアの事をよろしくお願いします」

「はい。責任を持ってお預かりさせていただきます」

 

 ゆっくりと桃子もまた頭を下げて応じるのだった。

 するとプレシアは「これ、良かったら食べて下さい」と言って持っていた紙袋を桃子へと手渡し、「これはどうも」と言って高町家の母は手土産を丁寧に受け取る。

 ちなみにプレシアが持っていた紙袋の中身はリンディ提督おススメの和菓子(結構高いやつ)詰め合わせ。

 

 

 二人の母と言うかプレシアの一連の様子を見ていた狼姿のアルフは、

 

(へ~、こんな社交的な一面もあるんだ……)

 

 プレシアに対してちょっと感心していた。

 なにせアルフが知っているプレシアは冷徹――かと思いきや、娘一筋うん十年と言う言葉が当てはまるような娘以外どうでもいいと考えてそうなとんでもねぇ親バカ。と言う、かなり失礼な印象しかもっていなかった。(否定し切れないが)

 

 アルフとしてはプレシアの社会人的対応を見たのはこれが〝初〟である。

 

 とは言えだ。アルフには予想できる。プレシアが内心どう考えているのか。

 口や態度では娘たちが人様の家に上がり込む事に対して申し訳ないという体を装っているかもしれない。だが、実は頭ん中は娘たちの元を離れるのが嫌で嫌で仕方ないという思考で埋め尽くされているであろうと。

 現にプレシアは桃子に気付かれないように、ちらちらと娘たちの姿を目に焼き付けようとしている。

 プレシアの秘めた思いに気付いてか、桃子は安心させるように笑顔を作る。

 

「お気持ちはお察ししますが、安心してください。これでも三人の子供を持つ母ですので」

「えッ? あッ……いえ……その……」

 

 あっさり自身の子煩悩な部分がバレて、困ったように顔を赤面させるながら作り笑い浮かべるプレシア。対して桃子はフフと笑みを零す。

 

 

(ププ……まさかこ~んなプレシアの姿が見れるなんて思わなかったよ)

 

 一方のアルフ。いつもは高圧的な態度が多かったプレシアの間の抜けた姿を見て、内心では意地の悪い笑いを零す。

 

(まぁ、あんたには悪いけど、あたしはこのままフェイトと一緒になのはん家にお邪魔せてもらうよ~♪)

「それでは、私はこれで」

 

 三度目の礼をしてアースラへと戻ろうとするプレシアを尻目に、アルフは意気揚々とフェイトとアリシアに付いて行こうと歩き出すのだが。

 

「ほらアルフ、帰るわよ」

(……えッ?)

 

 内心なんで? と言わんばかりにアルフは顔をガバっとプレシアへと向ければ、大魔導師は冷たい目でもう一度。

 

「ほら、帰るわよ」

(えッ? ……いや……えッ?)

 

 なに言ってんだこのババア? とアルフは思考を停止させる中、念話を飛ばす。

 

【ぷ、プレシア……。あたし、フェイトと一緒になのはの家に――】

【ダメよ】

 

 バッサリ返すプレシアにアルフは食い気味に。

 

【なんで?】

【フェイトとアリシアの面倒を見てもらうのに、あなたのお世話までしてもらうのは申し訳ないでしょ? そもそも、あなた自分の〝大きさ〟を理解してる?】

【ぐッ……!! しまったぁぁぁぁ……!!】

 

 自分の狼としてのデカさを失念していたことに気付き、ガーン! と項垂れるアルフ。

 めっちゃ落ち込む狼を見て桃子はよしよしと頭を撫でる。たぶんフェイトと離れる事に対して気落ちしていると察しているのだろう。

 

 やがてフッとアルフは思いつく。ようは『大きな狼』じゃなければいいのだと。

 

【なら、人間の姿に戻って――!】

【今から人間姿のあなたが押しかけて来たら不自然な上に迷惑でしょ。諦めてアリサちゃん家でお世話になりなさい】

 

 あえなくフェイトとの楽しいお泊り会と言う名の未来を砕かれた事実に、アルフはず~んと頭を垂れてしまう。が、すぐさま玄関にいるであろう愛しの主へとうるうるとした瞳で念話を送る。

 

【フェイトォ! あたしもフェイトと一緒にお泊りした――!】

 

 しかし愛しの主の姿はどこにも見えない。

 

(もういねぇぇぇぇ!!)

 

 内に秘める思いが届かない事実に、内心悲痛な声を上げるアルフ。だが、すぐさま玄関廊下にある二階に繋がる階段からフェイトと、不思議そうな顔をしたなのはが後ろに付きながら一緒に降りてくる。

 

【あッ! フェイト!!】

 

 アルフは思わず嬉し気な声で主へと念話を飛ばす。そりゃもうビーム如く。

 

【フェイトォ!! プレシアとなのはの母親説得しておくれよ!! あたしも一緒にお泊りした――!!】

 

 すると突然にフェイトは真顔でビシッと親指立てる。訳が分からずアルフは目をパチクリさせる。

 そのままフェイトは一切の躊躇いなく二階へとすたすた登っていく。

 

【いや今の一連の動きなに!? さっきの親指なに!? 何の為に下降りて来たの!?】

 

 念話でツッコミ入れるアルフと同じ気持ちなのか、フェイトの謎の行動になのはも若干汗を流して戸惑っている。

 そして二階に上がったであろうフェイトが念話を飛ばしてくる。

 

【アルフ、ガンバ】

【いやガンバってなに!? なにを頑張るの!?】

 

 やっとフェイトが自由になって元の『使い魔と主』と言う関係性に戻れた。戻れたのはいいのだが、なんか最近はますます主の気持ちが分からなくなってきた狼の使い魔。精神リンクが繋がっているのはずのに、まったく気持ちが通じ合っていないのは気のせいであろうか?

 

「ほら、行くわよ」

 

 呆然として動かなくなったアルフのリードをプレシアは引き、桃子に軽く挨拶してからアリサの住むバニングス邸へと向かうのだった。

 道中、アルフはプレシアに引かれながら気の抜けた念話を飛ばす。

 

【……プレシア。フェイトって……なんか変わったよね……】

【…………どっかの天パのせいかもしれないわね】

 

 アースラのラウンジでは、どっかの天パは「ぶへっくしょん!」とどこぞの執務官の顔面に向かってクシャミしていた。

 

【だけど、フェイトの行動もあながち意味不明ではないのよ?】

 

 とプレシアは続けて念話を飛ばす。

 

「えッ?」

 

 周りに人がいなかったのでアルフはつい不思議そうに声を漏らしてしまうが、プレシアの言った意味をすぐに理解する。

 そう、なにせバニングス邸には……。

 

「ハッハッハッハッハッ……」

 

 たぶん現存する犬の中で最もデカくて危険な定春(いぬ)がいるのだから。

 

「ハッハッハッハッハッハッハッ……」

 

 アルフはお座りしながら、自分の前で舌を出して犬特有の荒い呼吸をする定春と見つめ合う。クマのようにクソデカい犬と相対して、アルフのオレンジ色の顔が一気に青くなっていく。

 

 なぜだか自分を見つめる定春の目がキラキラと輝いている気がする。

 だがいくら定春のつぶらな瞳が星のように輝こうと、狼である自分よりも一回りも二回りもデカいからただただ怖い。

 

「…………」

 

 アルフはチラリと視線を別の方向へ向ける。アリサが飼っているか保護しているであろう大型や中型の犬たちが、遠く離れた草むらで「これから大変だけど頑張ってね……」と言いたげな視線で自分の様子を伺っている。

 やがてポンと自身の背を叩く手が一つ。手の主に顔を向ければ、アリサが優し気な笑みを浮かべ。

 

「ガンバ」

 

 アルフは咄嗟にそうだ! と思いついて後ろで様子を伺っているプレシアへと狼なのに猫撫で声で念話を送る。

 

【ぷ、プレシア~! せ、折角だから新しい銀時(ごしゅじんさま)と一緒にミッドチルダの観光に行きたい~!】

【無理~。だってあなたまで一緒だと面倒見切れないから~】

 

 普段のプレシアさんから絶対出ないであろう軽い口調でバッサリ切り捨てられた。そのままプレシアはアースラに向かう為にすたすた歩いてどっかに向かう。

 すると自身を見つめていた定春の目がキュピーンと何かをロックオンするように光り出し、体が始動しだす。なのでアルフもまた流れるような身のこなしで定春から離れようとロケットダッシュ。

 

「アハハハ~! こっちくんな~! マジで!!」

「ワンワ~ン!」

 

 なんと微笑ましいことか。アルフが走れば定春も凄まじい速度で走る。

 とにかく捕まったら100%ヤバいと感じてるアルフはダッシュ。続く定春もロケットダッシュ。

 バニングス低を走る二匹のスピードは素晴らしいの一言。

 犬と狼が仲良くドックラン(片方命がけ)している微笑ましい様子。それをアリサは生暖かい同情の眼差しで見つめ続けていた。

 

 

 

 

 次元航行艦アースラ。取調室。

 簡素な白い囚人服に着させられ、腕を四角い手錠で拘束され、パイプ椅子に腰かけるのは博士と名乗る男。

 そして向かいのパイプ椅子に座る男が一人。

 

「さて……」

 

 と言って無機質なパイプ椅子に腰を掛けるのはぴっちりと折り目正しく黒いスーツを着こなした近藤。いや、違う。

 

――彼の名は、特命係ゴリ下ウホウ。

 

そしてこれから始まるのは……。

 

パッパラパ~♪ パ~パ~パ~♪

 

――『ゴリ棒』

 

「いやちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 そして取調室の外でシャウトするのは執務官クロノ・ハラオウン。

 取調室の中の様子を空中に投影されたウィンドウで眺めるクロノ。彼はビシッと近藤に指を向け、隣に立つ土方と沖田にガバッと顔を向ける。

 

「なんでいきなり近藤さんが尋問しているんだ!! なんだゴリ下って!? なんだゴリ棒って!?」

「見ての通り明晰な頭脳を持って難事件を解決へと導くゴリ谷ウホウさんの尋問だ」

 

 と沖田。

 

「いやわからん! まったくわからん!」

 

 簡単に解説すると、クロノはミッドチルダに出発する前に、何度目になるかわからない博士の取り調べをしようとした。すると、真選組の三人が登場。そんで勝手に近藤が尋問しているというわけである。わけわからん。

 

「つうかさっきからなんだ! ゴリ下ウホウって!!」

 

 ツッコミをしたクロノは勢いもそのままに、静観している真選組副長へと顔を向ける。

 

「土方さん!! なんであなたがいながら彼の暴走を止められなかったんだ!! 上司が何か問題起こしそうになったらフォローするなり止めるなりするのが部下の役目でしょう!!」

「いやまぁ……もっともな意見なんだが……」

 

 まったくの正論に対して土方は言いずらそうに頬を掻く。

 

「とにかく局員でもない者に尋問させるなど言語道断だ! すぐに彼を取り調べ室から追い出さなければ!」

 

 ずかずかと取調室に向かおうとするクロノを沖田が「ちょっと待ちな」と言って、肩に手を置いて引き留める。

 

「ゴリ棒のウホウさんは、ガキのオメーが危険な犯罪者の尋問するのを見かねて出しゃばってくれたんだ。黙って見守ってやんな」

「いや公的機関の人間でもない彼が尋問している時点で見守れるワケないだろ!!」

 

 とクロノは怒鳴り返す。

 

「つうかウホウさんてなんだ? ただの鳴き声じゃねェか。ゴリ棒ってアレか? ゴリラのアレの事じゃねェだろうな」

 

 土方がさり気ないツッコミをする中、沖田は分かったような顔でうんうんと頷く。

 

「確かに出しゃばりまくって常に相手の都合も事情もおかまいなし。相棒と一緒に事件に首を突っ込むゴリ下のやり方は認められないかもしれねェ。だが、あの人はあの人なりの信念があるんだ」

「知るか!! そもそもそれフォローしてるのか!? マイナスな印象しか受けないんだが!!」

 

 クロノはバッサリ切り捨てれば、今度は土方が冷めたツッコミを始める。

 

「そもそもゴリ下ってなんだ? ゴリラの(シモ)ってことか? つうか相棒どこだよ? 股間か? 股間に相棒いるって言うんじゃねェだろうな?」

 

 沖田は映像の向こうでパイプ椅子に座る近藤、もといウホウへと指を向ける。

 

「ゴリ下さんは論理思考の理論型刑事(デカ)。見てみな。あの明晰な頭脳から導き出された的確な質問が繰り出されるぜ」

 

 鉄色の無機質な机の上に両手を置いたウホウは人差し指を立てる。

 

「一本、よろしいですかな?」

 

 と言ってウホウは黄色いバナナ一本を懐から取り出し、皮を向いてもぐもぐ食べる。

 

「おい、あれのどこが明晰な頭脳なんだ? やってることほぼゴリラだぞ」

 

 クロノがツッコミする中、もぐもぐ食べながらウホウは語る。

 

「バナナはいっぱい糖分が入ってますからね。頭を良くするならバナナが一番でしょうねェ」

「なにあの頭悪そうな右京さん。語ってる事が薄っぺらすぎて欠片も知性を感じねェんだけど」

 

 と土方の冷めた声。

 ちなみに取調室内の音声はちゃんとクロノ達にも聞こえるのであしからず。

 やがてゴリラはバナナを食しながら語り始める。

 

「これはあまり知られていないのですが、バナナは一本150円くらいなんですよ? ですから遠足時は二本まで持っていくことができます」

「うわすご~い」

 

 と言うのは土方。彼は抑揚のない声で語る。

 

「だってバナナが一本150円なんて俺初めて知ったもん。ひとふさ150円くらいなら聞いたことあるけど。しかも消費税が抜けてるし」

「あなたも一本、どうですか?」

 

 ウホウは新たなバナナを手に持って博士の手前へと置く。ウホウが手を離せば、真っ黒でクソまずそうな見るからに腐ったバナナが姿を見せる。

 

「なにあの小学生みたいな嫌がらせ?」

 

 と土方が言えば、ウホウはあッ、という顔で。

 

「これは失敬。あなたは手足が拘束されて動けませんでしたね。私が食べさせてあげましょう」

 

 ウホウは席を立って博士の元へと近づく。そしてバナナの皮を剥き、実が黒ずんでグチョッとしたバナナを強引に食べさせようと口に突っ込む。

 

「すげェぜあの人は。見事な攻撃で相手の反論を許さねェ」

 

 と沖田が言い、

 

「なに一つ言葉で攻めてないんだが?」

「そもそも物理で言葉封じてる時点で知的どころか野蛮だろ」

 

 クロノと土方がツッコミを返す。

 ジト目になるツッコミ役二人が、地味に鬼畜なことをし出すゴリラを見つめる中、ウホウは席へと座り直し、神妙な表情を作る。

 

「……あなたには、相棒と呼べるであろう人物たちがいたはずですね?」

「…………」

 

 腐ったか腐りかけか分からないバナナの食べカスを口の周りに付ける博士。その顔はウホウの顔をまっすぐ見つめている。ちなみに彼の手前にはバナナの皮が置かれていた。

 ようやく本格的な尋問に入ったのか思ってかクロノや土方も静観を始めるが、

 

「実は僕にも四人ほど相棒と呼んでいた人物たちがいたんですよ」

「いや、あんたにいつ四人も相棒がいたんだよ」

 

 ものの数秒でまたツッコム土方。

 

「うち一人は……」

 

 ウホウはより表情を曇らせ、口を開く。

 

「仮面ライダー3号と名乗り、ショッカーの手足として働いていた」

「別世界(さくひん)の話は止めろ!! ややこしいだろうが!!」

 

 と土方がツッコム。

 

「そしてもう一人はアポロガイストと名乗っていた」

「その人相棒じゃねェよ!! 確かにシリーズ的には古株の幹部的な一人だけども!!」

 

 徐々にツッコミ役が土方になっていく中、ウホウは真剣な顔でボケまくる。

 

「とくにイタミガイストとなった彼は酷かった。ショッカーの大幹部と名乗り、語尾はバカボンのパパのように〝のだ〟と付ける。見るも無残な姿だった」

「イタミガイストってなんだ!! 別に伊丹刑事はショッカーに改造手術されてないからね!! あと地味にキャラ付けダメ出しするような言い方止めてくんない!!」

「だからこそ私は言いたい……」

 

 そこまで言ってウホウは目と口を閉じるが、やがてクワッと表情を変化させガバッと立ち上がる。

 

「やられたらやり返す!! 倍返しだッ!!」

「なんでいきなり半沢になってんだァ!?」

 

 急激なドラマの方向転換にビックリしている土方など知らない近藤は怒鳴る。

 

「まだわからないのですか!! 土下座しなさい!!」

「論理思考の理論型はどうした!! 直情型にもほどがあるぞ!!」

 

 とクロノがツッコミ、近藤は捲し立てる。

 

「フェイトちゃんに酷いことしたあんたを私は許さない!! だからフェイトちゃんに土下座しなさい!!」

「おいィ!! 刑事ドラマどこいった!! ネタが取っ散らかってんぞ!! そして残り二人の相棒はどうした!!」

 

 ツッコム土方を置き去りに、威圧されながらも無言を貫く博士を見て近藤はバンッ!! と両手で机を叩く。

 

「いい加減にしなさい!! 事件は取調室で起こっているじゃない!! 現場で起こっているんだ!!」

「あんたがいい加減にしろ! いちいち有名ドラマたちの中途半端なモノマネしてんじゃねェ! むしろあんたが土下座してこい!」

 

 と土方がツッコんだ時だった。

 博士は少し頭を下げ、

 

「一つ、よろしいですか?」

 

 言葉を発した。

 

「「ッ!?」」

 

 驚愕の表情を浮かべるクロノと土方。

 

「バカな!? 今までどんなに詰問しても無言を貫いてきた男がここで口を開くだと!!」

 

 まさかの展開に驚くクロノに続いて、土方も汗を流す。

 

「まさか……! あんな売れないモノマネ芸人みてェな中途半端なモノマネで奴が口を開いたとでもいうのか!?」

 

 映像越しの近藤は「どうだ見たか」と言わんばかりのしてやったり顔。

 やがて、

 

「グボロシャァァァ!!」

 

 博士の口から吐しゃ物が噴射され、近藤の頭から体まで全身にぶっかかる。

 

「倍返しされたァァァァ!!」

 

 まさかの腐れバナナ食わされてからの反撃に土方がシャウト。

 近藤は自分の頭に付いたゲロを触って見てから、

 

「なんじゃこりゃァァァグボロシャァァァァァァ!!」

 

 博士が吐いたゲロの倍近い量のゲロを吐き、相手に頭からぶっ掛ける。

 

「モノマネしてから倍返ししたァァァァァァァ!!」

 

 もうゲロでゲロを洗う展開に土方は絶叫し、博士は真顔で。

 

「たぶん、あなたの食べていたバナナも腐ってる可能性が高いですよ?」

「ゲロ吐かされた上にぶっ掛けられたのに、なにあの無駄な冷静さとクールさ!? あっちの方が知的な感じなんだけど!!」

 

 土方は別の意味で関心してしまう。

 頭からゲロを被った近藤は「フッ……」と薄く笑みを浮かべてからポケットから一本のバナナを取り出す。

 

「僕としたことが……迂闊でした……」

「うん。確かにあんたは常に迂闊だね」

 

 土方がツッコミ、近藤はゆっくりと背を向けて取調室を出ようとするが、振り返り指を立てる。

 

「最後に一つ、よろしいですか?」

「いやよろしくないからとっとと出ろ。絵面が最悪なんだよ」

「なんであなたは、僕と会話をしてくれたんですか?」

「いや、一行たりとも会話できてないからね? 一方通行だったよね」

 

 土方のツッコミを受けながら寂しげな表情で問う近藤に対して、博士は微笑を浮かべて言葉を紡ぐ。

 博士の言葉を聞いた近藤は満足げな表情で取調室を出ていく。

 取調室を出た近藤は監視していたクロノの元へまで歩き、

 

「これで全てが繋がりました」

 

 少年執務官の肩に手を置く。

 

「『喋るゴリラと話せて、中々有意義な体験でした』……と。どうやら僕は人間扱いされていなかったらしい」

「一つ、いいですか?」

 

 クロノが人差し指を立て、

 

「――とっとと風呂行ってこい」

 

 冷たく言い放つ。




第七十八話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/88.html
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