魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第七十九話:時空管理局本局

 次元と次元と繋ぐ海に浮かぶ超巨大な建造物。まるでそれは小さな惑星一つと呼んでも遜色ないほどの圧倒的な大きさを誇る。この次元の海に浮かぶ建物こそが時空管理局本局である。

 

 管理局本局内にあるカフェテリアの一角。机の両側を挟むように配置された長椅子に座る銀髪天然パーマの男が一人。

 

「へ~……これが時空管理局の本局ってとこなんだ。まるでデススターみてーだな」

 

 銀時は長方形の長机に頬杖を付きながら、空中のウィンドウに映し出された管理局本局の全体像を見て感想を漏らす。

 

「管理局って実は銀河帝国だったんだな」

「なに!? そうなのか!?」

 

 と驚くのは銀時の隣に座るゴリラ似の偉丈夫――近藤勲。

 近藤は握り拳を作って声を張り上げる。

 

「ではこの世界にフォースがあるのか! よし! 早速ヨーダに会いに行くぞ!」

「ねーよ」

 

 と冷静にツッコムのは、近藤の隣に座るちょっと顔が怖い煙草を咥えた二枚目――土方十四郎。

 土方は腕を組みながら冷静に告げる。

 

「つうかこの世界にはフォースよりすげェ魔法(ちから)があるだろうに」

「つってもですよ土方さん。少年にとってフォースとライトセイバーは永遠の憧れじゃありやせんか」

 

 近藤の正面の席に座る童顔の青年――沖田総悟はそう言ってサンドイッチを口に運びもぐもぐ食べる。

 沖田の言い分を聞いて土方はため息を吐く。

 

「つまり俺らの大将は少年の心を手放せない大人って事になるぞ? お前それでいいの?」

「とりあえずダースベイダーが出てくる前に反乱軍立ち上げるか?」

 

 と銀時が軽口を叩く。

 そんなフリーダムな会話を彼らがする中、沖田の隣に座る背の低い黒髪の執務官――クロノ・ハラオウンは、会話を無視するかの如くジト目でA4サイズの用紙に目を向けている。

 

「………………」

 

 そして金髪の少年――ユーノ・スクライアは、クロノの左隣に座ってジュースをちびちび飲みながら、銀時たちの話を聞いている。

 

 銀時、土方、近藤、沖田、クロノ、ユーノは本局のカフェテリアの一角で机を挟んで座り、それぞれ飲み物や軽食を食べて話をしていた。

 そもそもなぜこのメンツが本局に集まり、こうやって仲良くカフェテリアで机なんぞ挟んで雑談にふけっているのか? と疑問思うところであろう。

 

 事の発端は銀時たちが源外の凡ミスというか自業自得というか、とにかくとんでも科学者が原因で江戸に帰る手段が途絶えてしまった。

 あれだけ、『これからさようならだけど、また会おう』的な雰囲気醸し出しといて結局帰れないというオチにはさすがの銀時も恥ずかしさのあまり、新八にアッパーカットで八つ当たりしたほどである。ついでに土方も怒りのあまり桂をドつきまくったのも良い思い出だ。

 

 そして帰れなくなったのだから当然、これからどうする? という疑問が浮上する。

 

 そこで銀時は「なら、折角だしプレシアと一緒にミッドガルドにでも行くか」と言い出した。理由としては前々から魔法世界なるものを見てみたいと言う事。もちろんメテオが降って来るようなリメイクされた魔法世界に行くワケではないのであしからず。

 

 銀時と同じように真選組のお三方もミッドチルダを見たい――というワケではなく、近藤が次元世界の法と秩序を守る組織を見学してみたいと言い出した。なので、お付きとして土方が同行。ついでに沖田が暇だからという理由で付き添う事になった。

 

 ユーノがやって来た理由としては、遺跡や過去の歴史の調査を本業とするスクライア一族としての優秀な能力をリンディやクロノに買われて、本局でとある仕事をする為に誘われたから。

 

 他の江戸の面々は地球に残っているのだが、もちろん神楽も魔法世界であるミッドチルダに行きたいと言い出した。

 銀時以上に何しですか分からん上に怪力超人たる神楽。彼女がミッドに到着した暁には興奮した挙句迷子になって問題を起こす可能性は大だ。危険だと判断したクロノは新八に地球に残るよう説得して欲しいとこっそり頼む。

 そこで新八が「暗躍しているクリミナルがなのはちゃんやフェイトちゃんに何をするか分からないから残ろう」と説得し、神楽は「なのはとフェイトは私が守るネ!」と意気揚々と地球に残る事を決意。なんとも単純な思考回路――もとい、純真な少女であった。

 

 そして残った江戸出身者たちの今後の行動指針はこんな感じ。

 

 柳生家――元の世界では有数の名家(セレブ)も異世界では文無し、宿無し、仕事無しのトリプル役満なので、すずかのボディガードとして寝床と就職先ゲット。

 

 猿飛と服部――とりあえず足の速さを生かしてピザ屋に就職しようとしたが、こっちの世界では履歴がまったく使いモンならないんで、結局柳生家同様にボディガードに転職して寝床と就職先ゲット。

 

 他の面々もジュエルシード事件同様やる事はほとんど同じ。つうか、一人を除いて全員がお嬢様のボディガードという、なんとも珍妙な状態になった。だって仕方ない。彼らはこの世界じゃ国籍すらもたねぇ不法入国者なのだから。

 お嬢様たちのお情けでお仕事斡旋してもらうしかないのである。

 

 そもそもなぜ銀時はすぐにでもミッドにいかず、本局のカフェテリアで毛嫌いしている真選組の面々とこんな無駄な会話を続けているかと言えば。

 

「――待たせたわね」

 

 と言って銀時たちが座る席に近づくのは大魔導師の称号を持つフェイトの母親――プレシア・テスタロッサ。簡素なスーツを来たプレシアの一歩後ろを歩いて追従するのは彼女の使い魔であるリニス。

 待っていたプレシアの姿を確認して、銀時は軽く手を上げる。

 

「よー、話は終わったか?」

「ええ。後はミットチルダで用を済ませるだけ」

 

 満足げに笑みを口元に笑みを浮かべるプレシア。彼女の言葉を聞いてから、銀時はプレシアの横に立つ見慣れない女性へと目を向ける。

 

 眼鏡をかけ、リンディと同じように額には四つの模様。三角形のマークがまるでロックオンでもするかのように四方に展開し、髪の色は薄紫色の知的でクールそうな女性だ。

 リンディと同じく青い制服に白いスーツのようなズボンを履いているので、管理局の人間――しかも役職が高い人間である事が伺える。

 

 銀時と同じように謎の女性局員の存在が気になってか、近藤、土方、沖田、ユーノもまた視線を向けている。

 書類に対して不満げな視線を向け続けていたクロノもまた眼鏡を掛けた局員に気付いて、席を立ち、軽く会釈してから銀時たちへと顔を向ける。

 

「こちらはレティ・ロウラン提督。本局運用部を取り仕切っている方だ」

 

 クロノの紹介を受けて、眼鏡の女性――レティは軽く頭を下げる。

 

「初めまして。管理局提督レティ・ロウランです」

 

 レティがあいさつすれば、ユーノと近藤は立ち上がり深々と頭を下げる。

 

「初めまして。ユーノ・スクライアです」

「お初にお目にかかります! 真選組局長近藤勲です!」

 

 デカい声を出す近藤にならってか、土方も立ち上がり、クールに軽く頭を下げる。

 

「真選組副長土方十四郎だ」

 

 一方、ちゃんとした社会性を見せる三人と違い、残った二人は座ったまま。

 まず銀時は「どうも~」と言って軽く手を上げ、沖田はなんの反応も見せないというか挨拶なし。社会性に欠如したドSコンビを見て執務官は頭痛を覚えたように眉間を右手でつまみながらため息を吐く。

 クロノが「ちゃんとあいさつしろ」と注意しない辺り、なんやかんやで江戸の野蛮人共の性格を把握しているからだろう。

 銀時と沖田の態度にレティはなんの不快感も不満も見せず、江戸の人間たちを値踏みするように眺めてから口を開く。

 

「リンディ提督やクロノ執務官からあなた方の事は伺っているわ。こと近接戦闘に関する能力だけなら、魔導師にも劣らない能力を持っているそうね」

「まぁ、ようわからんがそうらしいな」

 

 そっけないというか曖昧な返しをする銀時に、クロノは呆れた表情を向ける。たぶん内心では敬語使え! とか何度も思っているに違いない。

 レティは眼鏡のフレームに指を当ててクイッと持ち上げる。

 

「もしあなた達の情報を『陸』の〝彼〟が知ったのなら、放っておかないかもしれないわね」

 

 レティの含みある言い方に銀時、土方、近藤、沖田、ユーノは訝し気に眉を寄せ、小首を傾げる。

 提督の意味深な発言にあまり興味がない銀時は、プレシアへと顔を向ける。

 

「それじゃ、用も済んだしとっとと魔法の世界とやらに行こうぜ」

「あら、書類の方は終わったの?」

 

 プレシアの言う書類とは、異次元の人間であり次元漂流者でもある銀時がミットチルダに渡航する為のいわゆる出入国書類みたいものだ。

 

「おう、バッチリよ」

 

 と告げて立ち上がる銀時に、クロノは「いやまだだ」と言うので、銀時は若干不満げな眼差しを向ける。

 まだなにかあんの? と言いたげな銀髪天パにクロノは持っていた書類の表面を見せる。そこにはいくつも記入欄があり、まるでやる気の感じられないミミズがのたくったような手書きの文字が書かれていた。

 

「書き直しだ。あなたのきったない文字のせいで、誤字脱字を機械が判断できない部分が多い。これじゃいつまで経ってもミッドチルダに行けないぞ」

「ええ~、マジかよ。誠心誠意書いたのに?」

 

 肩をガックリ落としてすんごく不満げな声を出す銀時にクロノは「あぁ、そうだな」と言ってジト目向ける。

 

「あなたの字からは怠惰と惰性が如実に伝わってきたよ」

 

 とにかく書き直しだ、と言ってクロノは新しい用紙を机の上で滑らせながら銀時の前へと置く。

 

「はいはい分かりました」

 

 と言って銀時は頭ガシガシ掻きむしながら座り直し、ボールペンを握る。

 審査書に悪戦苦闘する銀時を見てプレシアはやれやれと首を横に振りながら呆れたように笑みを浮かべる。

 

「これじゃ、地球に戻るにはまだまだ時間がかかりそうね」

 

 主の軽口を聞いて山猫の使い魔はクスリと笑いを零すのであった。

 

 

 

 

 ミッドチルダ式魔法の発祥の地でもあり、第1管理世界と呼称される次元世界――『ミッドチルダ』。

 その中央区画は多くの近代的な様相を思わせるビル群や家屋が立ち並び、走る車も技術力が高い事を伺わせる。

 

 空港からミッドチルダ中央区へとやって来た銀時は街並みや走る車をきょろきょろと見渡す。そんな彼の口からは自然とへ~やふ~んやほ~と言った声が漏れる。

 おのぼりさんと揶揄されてもおかしくない銀髪天然パーマの様子を横から見て、プレシアはクスリと笑いを零す。

 

「どう? 魔法世界に来た感想は?」

「やはり、色々と鮮烈に映りますか?」

 

 プレシアの一歩後ろには、銀時の様子を見ながらニコニコと笑顔を携えるリニスがいた。山猫の使い魔もまた、江戸出身の侍がミッドチルダに対してどのような感想を抱いているのか期待している様子。

 右横に立つプレシアの問いかけに対し、銀時は横を振り向いて答える。

 

「最初ハリーポッターを予想してたけど、どっちかって言うとスターウォーズぽいな」

「うん、そう……」

 

 意味は分からないがなんか斜め上な感想が返って来たので、プレシアは曖昧で気のない相槌を返す。

 兎にも角にもようやくミッドチルダに着いた銀時、プレシア、リニス。

 

「じゃあ私はこのまま用事を済ませるから、あなたはリニスと一緒にテキトーにミットチルダを観光してて」

 

 銀時は「りょ~かい」と言って軽く手を上げる。

 プレシアはバスの発着所へと向かおうとするが、すぐに足を止めて振り返る。

 

「あと、木刀は無暗に出さないこと。こっちは質量を持った武器に対してかなり目が厳しいって事を忘れないで」

「へいへい」

 

 と言う銀時。彼は頭を掻きながら左手に持った竹刀袋を持ち上げて見せつける。もちろん、中身は木刀だ。

 あんま問題起こすなよ? と言いたげ視線を送った後に、プレシアはバスの発着所へと向かって行った。

 

 これからの予定としては、プレシアはもろもろの手続きを終えてから引っ越しの準備をした後に、娘たちの為に一刻も早く海鳴市に戻る予定。とはいえ、いくら技術が発展している魔法の世界とはいえ、手続きやら引っ越しの準備には数日は要するらしく時間はそれなりに掛かる。

 

 そして真選組の面々は時空管理局本局の観光と言うか、見学を済ませたらそのまま海鳴市に帰るらしい。

 真選組の連中は気が済めば帰れるが、銀時の方はプレシアの手続きが終わるまでミッドでのんびり観光をしゃれ込む気だ。

 ちなみに、観光が終わってもプレシアの準備が終わらない場合は、そのまま海鳴市に戻るつもりでいる。

 

 銀時は自分の案内役というか、お目付け役をプレシアから仰せつかった使い魔へと顔を向ける。

 

「……そんじゃま~……案内たのまー」

「はい」

 

 ニコリと笑顔で頷くリニスを見て、銀時はちょっとしたやりづらさを感じて頭をぼりぼり掻く。空中に出現させたウィンドウをタッチし地図を見ている猫の使い魔とはあまり接点というのが少ないが為に、どうにも居心地が悪さを感じてしまう。

 まぁ、そのうち慣れるだろ、と考えてから銀時はリニスが出す地図を覗き見ながら訊く。

 

「なんかおススメスポットとかあるか?」

「では……」

 

 

「動物園です」

 

 とニコリと笑顔でリニスが紹介するのはミットチルダ中央区画『クラナガン』でも有数の動物園だ。

 

 横幅が広く、とても長い廊下を歩く銀時は「へ~」と声を漏らす。

 左右の壁に目を向ければ、所狭しと並べられた横に長い長方形のガラス。そのガラス越しから飼育されている動物たちの生態を観察することができ、しかも外ではなく室内と言うこともあって換気もばっちり。だから暑い日だろうが寒い日だろうが問題なく動物たちをゆっくり眺める仕様となっており、廊下のいたるところに座り心地のよさそうなソファーが並べられている。

 長い廊下を歩いて行けば、まるで写真が移り変わるように別の動物とその動物が暮らしやすいであろう環境に合わせた人工の自然が銀時の目に映る。

 

 リニスは銀時の横を歩きながら動物園の説明を始める。

 

「あらゆる次元世界から集めた多種多様な動物たちが飼育されていますね」

「そう言うのってちゃんと飼育できんのか? あっさり早死にすんじゃね?」

 

 安直な疑問を持った銀時にリニスは「心配ありません」と飼育員でもないのに得意げに指を立てる。

 

「綿密な生体調査を元に再現された環境スペースと栄養価の高い餌を与えられて飼育されているので、寧ろ自然で生きるよりも長生きしている動物の方が多いくらいです」

「パンフ読みながら力説されてもなー……」

 

 手に持った色鮮やかな少々厚めの折り畳み式のパンフレット。その説明文を淀みなくすらすら言うリニスをジト目で見ながら銀時はガラス越しの動物たち目に向ける。

 

「つうかよ……」

 

 銀時は立ち止まり、チラリと一つのガラスへと目を向ける。ガラス越しに見える岩山に似た地形の展示場には青い毛を持つ猿に似た生物――と言うか、見たまんまのおサルの群れが果物を食ったり、ぐでっと寝っ転がったりしている光景が広がっていた。

 次に銀時は後ろのガラスに顔を向ければ、赤い毛のゴリラがバナナ食ってる光景が目に映る。

 

「毛の色が違うだけじゃん……。いや、たしかに色違いポケモンみたいなレア感あるけど……」

 

 銀時の肩透かし具合を見て苦笑するリニス。

 

「まー、ちょっと見てみれば何かしら面白いかもしれませんよ」

 

 言われて銀時はチラリと青い猿の方に目を向ける。

 するとモヒカンみたいな頭をした猿が銀時に気付いたと思うと、

 

「ィキィ~~~!!」

 

 両手の中指立てながらバカにしたような顔を向けてきた。

 ブチっと青筋浮かべる銀時に対して、リニスは朗らかな声を出す。

 

「あッ、あのおサルさん愛嬌を振りまいてますよ」

「んなワケねェだろッ! あれが愛嬌だったらその辺のヤンキー兄ちゃんも愛嬌の塊だわ!」

 

 とツッコミ入れる銀時。

 

 あの猿の腹立つ顔を見ただけイラつくので、今度は赤いゴリラの方に銀時が視線を向けると、四人の親子連れがふと目に留まった。

 青い髪を短く切りそろえた少女が「うわぁ~……」と目を輝かせ、長い青髪の少女も興味深そうに動物たちの姿を観察している。ちなみにこの親子連れ、母と娘が青に近い髪の色しているの対し、父親だけが白髪っぽい髪だった。

 

 子供の様子を見て、俺もあんな風に純粋に楽しめる心があればよかったかもな……、と内心で考える銀時。

 とは言えぶっちゃけ銀時にしてみたらこんな色違い動物たちなどすぐ飽きるしムカつくし、ゴリラなんてさきほど本局で別れてきたばかりなのだからもっと物珍しい動物を見てみたい。

 

「なんかもっとこう……すんごいのいねェの?」

「そうですねー……」

 

 リニスはパンフレットを開き、銀時をある動物元へと案内した。

 またしても飼育スペースに入っていたのはゴリラなのだが。

 

「なんと絵を描く事のできるゴリラ。クウチくんです」

 

 笑顔のリニスが掌を向けた先のガラス越しには胡坐をかいて座り、段ボールの上に乗せられた白紙にせっせとペンを動かして絵を描くゴリラの姿が。

 

「うん。めっちゃ珍しいけど、めっちゃ見覚えあんなおい」

 

 銀時は気だるげな眼差しを絵を描くゴリラから、柔和な笑みを見せるリニスへと向ける。

 

「もう類人猿じゃねェ動物にしてくんね?」

 

 リニスはパンフレットを開き、思案顔で言う。

 

「分かりました。では次は水の生き物にしましょう」

「水?」

「はい。こちらが水の生物……」

 

 クウチくんから少し離れたガラスには水辺が映っており、なんの種類か分からないが一匹の眼鏡をかけたワニがいた。水面に浮かぶ段ボールに乗せた白紙に、前足で握ったペンでせっせと絵を描く姿を見せている。

 

「――絵を描けるワニのコトハルさんです」

「結局お絵かき動物じゃねーかッ!!」

 

 怒鳴る銀時。職員でもないリニスに言っても仕方ないが、さすがにお絵描き動物二連続に対しては声を上げずにはいられなかった。

 

「なにこれ宣伝!? 映画とかやったからか!?」

 

 銀時はちょっと疲れ気味に腕をだらけさせる。

 

「つうかもう絵を描くのはいいから、もうちょっとベタに珍しい奴いねェの? ドラゴンとかペガサスとかグリフォンとかよ。もっとこうファンタスティックビースト的な? 魔法って感じの生物いねェのかよ?」

 

 リニスは「分かりました」とすぐに返事をしてパンフレットを見ながら案内する。

 

「それならちょうど銀時さんの要求に応えられそうなエリアがありましたよ」

 

 と言ってリニスの後を付いてある通路までいけば、

 

「グォォオオオオオ!!」

 

 灰色の鱗に覆われたドラゴンや、

 

「ヒヒィィィン!!」

 

 角を生やしたユニコーンたちが草原を走る姿がガラス越しから目に映る。

 

「あー、確かに俺言ったよ。ドラゴンやユニコーン見たいって。でもよ……」

 

 銀時は一旦言葉を止めて、ガラス越しに見える元の世界でもお目に掛かれない生物たちを見る。

 ドラゴンやペガサスなどの生物たちが住みやすいであろう草原地帯や火山地帯がガラス越しの向こうには広がっており、〝ミニカーサイズ〟の幻獣たちがミニチュアの自然環境で暮らしていた。

 

「なんでどいつこいつもシルバニアファミリーサイズ?」

 

 銀時はガラス越しから見える幻獣共にビシビシ指さす。

 

「なんだこれ? ドラえもんのスモールライトでも当ててちっさくしたのか? 迫力もクソもねェぞおい」

 

 一体全体どうなっているんだ? と困惑気味に眉間に皺を寄せる銀時に、リニスは申し訳なさそうな顔で。

 

「すみません。実は説明し忘れていたのですが、この施設で見れるガラス越しの動物たちのほとんどはリアルタイムによる立体映像で、本物は適した自然環境でのびのびと飼育されているんです」

「えッ? マジで?」

 

 銀時はガラスに手を触れながらその先に見えるちっさいドラゴンの群れを眺める。

 

「これ、全部映像なのか? リアリティ半端ねェな……」

 

 確かにサイズ的には現実的ではないのだが、今目の前に映るドラゴンやペガサスがあたかも小人サイズで目の前に存在し、生きているではないかと錯覚させらてしまう。

 まさかの超技術に感心する銀時に、リニスは隣に立ちながら説明する。

 

「どうやらこの展示エリアでは人間大の動物はともかく、大型の魔法生物や群れで動く動物は全体像を見せる為に映像を小さくして見せているようですね」

「じゃあ普通にデッカイこいつらを見れるとこもあんのか?」

「ええ、もちろん。ただそれも立体映像(ホログラム)ですが」

「立体映像の技術はすげェけどよ、なんでわざわざこんなまどろこっしい見せ方してんだ?」

「たぶん敷地の広さや動物たちの健康管理も考慮した結果でしょうね。中央区画は地価がバカになりませんし、かと言って狭い敷地では飼育する動物たちに多大なストレスを与える危険性がありますからね。あと単純に動物が脱走した場合、都市で暴れた時の被害も大きいはずですし」

「魔法の世界つっても、経営と金の悩みってのはどこも一緒だな。ずる賢く工夫しねェと金は稼げねェってことか」

 

 少々毒気を混ぜた銀時の言葉に対して、リニスは苦笑で返す。

 説明を聞いてから、銀時は改めて本物と見紛うほどの立体映像として映った動物たちを見渡す。

 

「確かにすげェことはすげェし、この世界の技術って言うのも痛感できたが、なんかちっと肩透かしだな……」

 

 やはり実物を見てみたかったと言う気持ちもあったが為に、銀時は少々納得できずがっかりした声を漏らす。

 すると銀髪天パの気持ちを察してか、リニスはクスリと笑みを浮かべてパンフレットを広げる。

 

「銀時さんのように生の動物たちを見たいと希望するお客さんの為の展覧場もあるらしいですので、これからそこに向かいましょう」

「へ~、どんなのいんの? まさかまたゴリラじゃねェよな?」

「まぁ、見てのお楽しみにと言う事で」

 

 含みある笑みと言い方をするリニス。銀時はその後を付いていきながら、せめてマシな奴が出て来てくれよと内心で願いながら頭を掻くのだった。

 

 リニスと銀時は気付かなかったが、二人の少し離れた展示映像にはミニチュアサイズの動物――バッファローに似た生物が、何匹も草原に倒れ伏している映像が映っていた。

 

 

 

 

「クゥ~ン……」

 

 森林を再現したであろう飼育ハウス。そしてガラスを隔てて銀時の顔を見つめてくるのは定春サイズのかなり巨大な白く真っ白な巨大犬であった。

 銀時は目をパチクリさせながら異常と言わざるおえない大きさの白犬を見つめる。だが見てくれは大きいながらもそのご尊顔はとても愛くるしい。クリッとした黒い瞳にペロッと出した舌が可愛らしさをアップさせる。

 ただ銀時はこうなんと言うか、既視感? みたいなモノを目の前の白犬から感じるのだ。なんこう、天使と悪魔が同棲しているみたいな……。

 

「……なァ、目の前のコイツは一応本物なんだよな?」

 

 銀時が視線を犬に向けながら聞けば、後ろのリニスはニコリとした笑顔で「えぇ、そうですよ」と答える。

 言われた銀時は、改めて犬の体全体を見渡すが特に異常は見られない。全体像は完全無欠の白い巨大な犬である。

 

「そうか、わかった。もう見るモンなさそうだし、別のとこ案内してくれや」

 

 どうやら目新しいモノもなさそうなので、とりあえず新しい場所に案内してもらおうと思った銀時に、リニスは待ったを掛ける。

 

「でも、たぶんもうすぐ凄いモノが見られますよ」

「ん? なんか芸でもすん――」

 

 銀時が後ろを振り返って言葉を返した時。ベチャ、と何かが落ちる音。

 音に反応して銀時がまた飼育ハウスへと顔を向ければ、犬の顔の下にはなぜか〝ウ〇コ〟が落ちていた。

 

「…………」

 

 えッ? なんでコイツの顔の前にウ〇コ落ちてんの? と、目の前のありえない光景に絶句する銀時。すると、どこからかスピーカー越しに男性の声が聞こえてくる。

 

『これからサンチィマソにご飯をあげま~す』

 

 放送が終われば天井から紐に吊るされた巨大な肉の切れ端がゆっくりと落ちてくる。

 すると白い犬の背中の毛皮がまるでポテチの袋を開けたようにパカッと二つに割れて開き、そこからいくつもの触手が伸びて巨大な肉の切れ端に巻き付く。

 そのまま触手を使い、吊るされた肉を強引に引きちぎるように引っ張り、開いた背中の中へと入れてしまう。

 肉が背中の中に入れば、パックリ割れた背中は何事もなかったかのように閉じて元のふわふわの毛皮へと戻る。そしてガチュガチュと言う生々しい音が白い犬の中から聞こえだす。

 白い犬は一時停止したように動かなくなっているのだが、微妙にブルブルと小刻みに震えているのがかえって不気味だ。

 一連の光景を見た銀時は、

 

(あ、悪魔が天使の皮被ってやがるゥゥゥ……!)

 

 内心シャウト。

 茫然自失の銀時にリニスは苦笑しながら説明を始める。

 

「このサンチィマソと言う生物はなるべく愛くるしい、つまり害のない外見の動物に擬態することで他の動物をおびき寄せて食べる習性があるそうです。ちなみに顔に見える部分は排泄器官でもあるようで――」

「ぺッ!」

 

 とサンチィマソが口(?)からウ〇コを吐き出す。

 あッ、だからさっきウ〇コが顔の前に落ちてたのか、と納得する銀時。だがぶっちゃけ知りたくなかった事実でもあった。

 あんまりにもあんまりな予想外の珍生物見せられ、精神的にカウンターパンチ食らった銀時に、リニスは話しかける。

 

「では折角来たんですし、最後にカフェで軽食でも取りますか?」

「……いや、あんなもん見て食欲が出るワケねェだろ」

 

 銀時は動物園を出ながら内心、これなら定春観察している方が良かったと思うのであった。




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