Infinite/0   作:ルルガルウ

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第2話

(も、もの見事に女の子ばっかりだな…)

 

場所はIS学園、1年1組の教室。

居心地の悪さを感じつつ、そう心の中で呟くのは日本で発見された第一の男性IS操縦者、織斑一夏。

 

女、女、女。

見渡す限りの女の園である。

ここまでくると鼻の下を伸ばすとかそういうレベルではない。自分がひどく場違いなのではないか、と心配してしまう。

そして周りからの好奇の視線が痛い。

と、一夏の目に机に突っ伏している人物が映る。

短い金髪。新学期早々机で爆睡をかますその姿はいっそ清々しさすら感じさせる。

周りの少女たちはその人物を興味津々に、あるいは訝しげに見つめている。

(…また随分と度胸が座ってるのがいるなぁ。ん?ズボン?ってことは…)

 

その人物がズボンを履いていることに気づき、話しかけようとする一夏だが、そこでHRを知らせる鐘が鳴る。

ガラリという音を立てて教室の扉が開かれる。入ってきたのはスーツに身を包んだ女性。非常におっとりとした雰囲気を醸し出しているその女性は、しかしながら緊張で可哀想なぐらいガチガチになっていることが一夏でもわかった。

 

「え、えー、今日から皆さんのクラスの副担任になります、山田真耶(やまだまや)です。これから一年間、よろしくお願いします。そ、それでは、その、自己紹介の方をしてもらいましょうか。えーっと、出席簿は…」

 

そうして、出席番号順での自己紹介が始まる。

最初は呑気に構えていた一夏だったが、段々と自分の番が近づくにつれて緊張してくる。

 

(あれ?確か前に読んだ雑誌だと高校デビューってのは第一印象で決まる、とかなんとか書いてなかったか?そうすっと下手なことは言えねぇぞ、えーっと…)

「…らくん、織斑一夏くん!」

「へ?あ!はいっ!」

 

考え込んでいた一夏は真耶の呼びかける声に気づき、反射的にガタン、と立ち上がって応える。だがその声の大きさに真耶はビクッ、とすると、

 

「あっ、あの、お、大声出してごめんね?お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね!で、でもね、自己紹介は『あ』から始まってて今『お』の織斑くんなんだよね。だからごめんね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」

 

などとしどろもどろに謝り始める。

 

「あ、いや、その、自己紹介しますんで、そんなに謝らなくても…お、落ち着いてください」

 

一夏は引きつった笑みで真耶に落ち着くよう宥める。

そして一息吸うと、自己紹介を始めた。

 

「え、えと、織斑一夏です。………」

 

第一の男性操縦者は何を言うのか。

ゴクリ、と誰かの生唾を飲む音が聞こえる。

注目が否が応でも集まっていく。

さあ、何を話してくれるのか。

 

「……以上、です!」

 

ズコー!

 

そんな音が聞こえてきそうなほどに全員が崩れる。

まあ仕方あるまい。あれほどのタメの後にこれでは、どんな人でも力が抜けるだろう。

 

「何が以上だ馬鹿者め」

 

その時、そんな声と共にパァン!という音が教室に響く。

音源はとある男子生徒の頭。すなわち、一夏の頭だった。

出席簿で肩をトン、トンと叩いているのは千冬。

 

「げ、げぇっ!関羽!」

「誰が三国時代の英雄か。」

 

スパァン!

 

またもや快音が教室に響く。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押しつけてすまなかったな」

 

頭を抱えて悶絶する一夏を尻目に真耶と話す千冬。

 

「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと…」

「いや、山田君。よくやってくれたよ。さて諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで付き合ってやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛えぬくことだ。逆らってもいいが、言うことは聞け。いいな?」

 

その凜とした雰囲気にシン…と教室が静まり返る。

 

「キャーーー!本物の千冬様よーー!!!」

「うおわっ!?」

「ずっとファンでした!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて感激です!」

「私、千冬様のためなら死ねます!」

 

と思ったらこれである。

流石は"ブリュンヒルデ"のネームバリューと言ったところか、凄まじい人気である。

 

「…毎年、よくもこれだけの馬鹿者を集められるな。呆れを通り越して感心させられる。それとも何だ?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

嫌がらせか?あん?と若干死んだ目でチンピラのようなことを言い出す千冬。

 

「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」

「やさぐれた表情も素敵です千冬様!」

「でも時には優しくして!」

「アウトローなお姉様…イケる!」

「そしてつけあがらないように躾をして!」

 

際限なく高まっていく教室のボルテージ。

ハァ、と疲れた顔をした千冬は弟へと矛先を向ける。

 

「…で?織斑。お前、まともに自己紹介すらできんのか?」

「いや、でも千冬姉…」

 

バゴッッッ!

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

「お、おごごごご…」

 

おおよそ出席簿で叩かれているとは思えない鈍い音を響かせる一夏の頭。

 

「…まあいい。さて、自己紹介の続きだったな。次は…」

 

再開される自己紹介。

特徴的な生徒はいるものの、さしたる問題もなく進んでいく。

そしてついに、一夏が見かけた先ほど眠りこけていた短い金髪の人物の番になった。

 

「さて、次だ。…ヴォルケー」

「ん?オレの番?」

 

名前を呼ばれた人物はやや高いながらも間違いなく()の声で応える。

教室の最前列に座っている彼は首をゴキゴキと鳴らしながら立ち上がり、クラスメイトとなる生徒たちの方を振り向く。少年期の面影を残しながらも精悍な顔つき。エメラルドを思わせる緑の瞳。サムズアップと共に口元に浮かぶのは快活な笑み。

 

「ビット・ヴォルケーだ!世界で2人目の男性操縦者、なんて呼ばれちゃいるが、まあ()()()()()()()()()()()()!とりあえず1年間よろしくな!」

「…………」

 

先ほどのようにシン…と静まり返る教室。

ん?と首を傾げるビットと名乗った少年。

 

「「「「「「わ…」」」」」」

「わ?」

「「「「「「ワイルド系キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」」」」」」

「おわっ!?」

 

もはや天丼ではあるが、一斉に沸く教室。

 

「きたよコレ!」

「金髪ですよ、金髪!」

「でもちょっと一夏君とキャラ被ってたり…?」

「嫌味のない笑みが眩しいわー」

「はいはい、質問!ヴォルケー君、ご趣味は?」

 

騒ぎ立てる女生徒のうち1人から質問が飛ぶ。

 

「ん?趣味?…今はISの整備、だなぁ」

 

頭をかきながら答えるビット。

 

「ISの整備だってよ!」

「マジで?もうそんなことしてるんだ〜」

「私、専属の整備士になってもらおうかな〜」

 

そんな彼女たちの反応に頬を引きつらせたビットは、

 

「え〜っと…」

 

と冷や汗を流しながら千冬にアイコンタクトを送る。

うむ、と千冬は頷く。

項垂れるビット。

 

「そこまでにしておけ。ヴォルケーも戸惑っている。何も新学期早々苦手だと思われることもあるまい」

 

と、そこで千冬が彼女たちを抑える。

ちなみに今のアイコンタクトの内容は

『おい!ニッポンの女の子はこう、お淑やかで、ヤマトナデシコ、って感じじゃないのかよ!』

『いや、残念ながらそうではない。まあ早い話がどこへ行こうが変わらん』

『マジか…』

大体こういう感じである。

 

「さあ、続けるぞ。次は…」

 

そして、全ての自己紹介が終了し、諸々の連絡事項が通達され、SHRが終わった。

 

□□□□□□□□

「さて、ここまでで質問はありますか?」

 

SHRの後はいったい何があるのか?答えは簡単である。

授業だ。

 

(ふーん、まあこんなもんか。というか初っ端の授業だしな)

 

色々あってISの整備などもしているビットからすれば既知の知識ではあるが、いかんせん現場で培った知識ゆえに理論とのズレも少々見られた。

 

(一通り読んだつもりだったけど、"つもり"止まりだったみたいだ。読み込まなきゃダメか…)

 

そう反省するビット。

 

「あの…」

 

そこで、そろそろと手が上がる。

一夏だ。

 

「あ、では織斑君。ど、どこかわからないところがありましたか?遠慮する必要はありませんよ。初めは誰でも初心者です」

 

遠慮がちながらもニッコリと笑う真耶。

 

「えっと、その、全部です」

 

しかしその笑顔も一夏の言葉でピシリと固まる。

 

(…は?)

 

真耶の授業は教科書をなぞりながらも所々で真耶なりの注釈が入った丁寧なものだ。

部分部分でわからないところが出てもおかしくはないが、さすがに全部というのは…

 

(てか、あれ?あいつ教科書は?)

 

と、そこでビットは一夏の机上にISについての教科書がないことに気づく。

 

「織斑、お前入学前に渡された参考書は読んだか?」

「え?参考書、参考書…あー、あの電話帳みたいな分厚いやつですか?」

「そうだ」

「古い電話帳と間違えて捨て

 

パァン!

 

「…必読と書かれていたはずだぞ、馬鹿者」

「い、いや、その…」

「再発行はしてやる。一週間で覚えろ」

「そ、そんな無茶な…」

「やれと言っている」

 

スパァン!

 

(・・・すごい男だ。ん?)

 

教室に響く快音に、一夏の方をチラ見しつつそんなことを考えるビットだったが、一夏を憎々しげに見つめる金髪の少女がその目に映る。

 

(ありゃ確か…イギリスの。なんで睨んでるのかは大体想像できるが…んん?あっちの日本人?の子も睨んでんぞ?)

 

金髪の少女とは別に、艶のある黒髪をポニーテールにしている少女も一夏を睨んでいる。こちらは憎々しげに、というよりかは拗ねているようにも見える。

 

(開幕当初からモテモテだな、イチカ君。退屈だけはしなさそうだ)

 

対岸の火事はなんとやら。

どんな騒動が起こるのかを楽しみにしつつ、前を向くビット。

そして、後ろでは尚も千冬の説教が続く。

 

「いいか?ISは過去の兵器を遥かに凌ぐ。そのような『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

(『兵器』、ね…)

 

千冬のその言葉に一瞬顔を顰めるビット。

しかしそれは千冬を含めクラスの誰も気づくことはなかった。

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