望が目を覚ましたのは、U.A.基地の医務室のベッドだった。
ベッドの傍らには看護師と南川、そして望の父の弘文が座っていた。
「気が付きましたか?」
「は、はい。あの、ここは……」
看護師にそう答えると、望は体を起こした。
「望、気分はどうだ?」
「父さん、ここは一体何なの?それに、さっきの巨人は……」
「望君、君は螺旋体の攻撃に巻き込まれ、巨人に変身したんだよ」
「!!」
驚いた望は自分の手を見つめた。確かに腕には巨大な何かを殴ったような感触が残っており、さらに妙な熱がこもっている。そして人差し指には謎の声がした例の指輪がはまっている。
「あれは夢じゃなかったのか……。一体俺に何が起こったんですか?」
「それは……」
「そのことについては僕が説明するぱむ」
その声は望のすぐ上から聞こえた。みると小さな羽の生えた謎の生き物が頭上を旋回していた。生き物は両手に花束を持ってこちら側に降りて来た。
「な、何者?」
「僕はジロウ。光の国の使者ぱむ」
ジロウと名乗ったその生き物は、望の足の部分にゆらゆらと着陸し、ぺこりと頭を下げた。
「安心しなさい望。ジロウは我々の味方だ。警戒する必要はない」
「そ、そうなのか」
「そうぱむ。九重望君、君は自分の身に起こった出来事について知りたくはないぱむ?」
「君は何か知っているのかい?」
「知っているぱむ。それに君のお母さんに関係する事でもあるぱむ」
望は飛びあがりそうになった。あの巨人たちと自分の死んだ母に関わりがあると言うのか。
望の母のひなたは望が幼い頃にこの世を去った。望の指輪は元々母が持っていたもので、その綺麗な色とデザイン、矢印のような模様を気に入り、ことあるごとに欲しいと言った。
ひなたは望の7歳の誕生日に指輪をくれることを約束し、そして約束通り7歳の誕生日に指輪をくれたのだった。
そしてひなたは死ぬ前にもう一つの指輪を形見にと望に渡した。母の死以来、望は母の事を決して忘れないよう両手の人差し指に一つずつ指輪をはめるようにしていた。
「聞かせてよ。あの巨人と螺旋体が母さんとどう関係するのかを」
「解ったぱむ。でもその前にこれを渡しておくぱむ」
ジロウは望の顔の高さに飛ぶと、花束を差し出した。
「おめでとう、今日から君は新しいエース、ウルトラマンエースサジタリウスぱむ!」
「ウルトラマン」と言えば、長きにわたって放送されている特撮テレビシリーズだ。シリーズ第一作が放送されると社会現象に発展するほどの大人気シリーズとなり、数多くのファンを獲得した。
望もまた夢中になった人間の一人だ。幼少期に見た「ウルトラマンガイア」に一喜一憂し、それ以降のシリーズもまた続けて視聴し、悪と戦う身長0mもの巨大なヒーローの姿に魅了されていった。父が借りて来た昔のシリーズも一緒に視聴した。親子で一緒に視聴するたびに、望は弘文やひなたに向かって「将来はウルトラマンになる」と言ったものだった。
「ウルトラマンって、あのウルトラマン?それと母さんに何の関係が……」
「あのテレビ番組の出来事が、すべて並行江会の宇宙で現実に起こった出来事だと言ったら信じるぱむ?」
「何だよそれ?」
「数年前、我々人類はついに別の次元の生命体達と接触することに成功した。接触した生命体のうちの一つが、光の国と呼ばれる世界の住人ウルトラマンだったというわけだ」
南川が重々しい口調で解説した。
「その通りぱむ。僕たち光の国の住人は、並行世界とはいえ地球人の皆と仲良くしていこうと友好的に対応したぱむ。そして地球に特使として僕が送り込まれたぱむ」
ジロウはぱたぱたと羽を動かして、少し自慢げに言った。
「でも地球人は自分たちと少しでも違うものを怖がるようにできているぱむ。僕もいきなり出て来た未知なるものを信用しろと言われても難しいぱむ。そこで、プロパガンダとしてウルトラマン達の活躍を架空の番組としてテレビ放送することにしたんだぱむ」
「そうすることで、ウルトラマンが我々の世界で活動しても信頼を得られるようにしたわけだ」
「そして人類が接触したもう一つの生命体。それが……」
「高次元螺旋体、ですか?」
「そうぱむ。君が今日目撃したあれぱむ」
螺旋体の事は学校の教科書やニュース番組でも紹介されているが、「世界を破滅に導く人類の敵」「地球侵略を目論み攻撃してくる生命体」としか公表されていなかった。
「我々は螺旋体とも接触を図り、友好的なメッセージを送った。だが奴らからの返事は、こちらの世界の攻撃だった」
「地球の科学力で奴らと対等に戦う事はまず不可能ぱむ。そこで光の国は地球人に協力して螺旋体から地球を守る手助けをすることにしたんだぱむ」
「光の国から力を与えられ、螺旋体から地球を守る人間。それが現実のウルトラマンなのだ。君の付けているその指輪はウルトラマンの力を引き出す鍵の役割を果たしている。この意味が解るかな?」
「母さんは……ウルトラマンだった?」
望は指輪を見て言った。幼い頃の望は指輪を貰う事ばかり考えていて、どんなものなのかを聞かなかったし、ひなたも指輪の正体を教えなかった。このことを見越しての事だろうかと望は考えた。
「ひなたはウルトラマンとして完全に覚醒する前にこの世を去った。だがその意思はひなたと私の子であるお前が引き継いだというわけだな」
「どうして母さんだったの?」
「全ての人間がウルトラマンになれるわけではないぱむ。その指輪、というよりは光の国の物に触れたことで何らかの反応が出た人間のみがウルトラマンになれるぱむ。君のお母さんは何処かでその指輪を手に入れ、たまたま適応で来たんだと思うぱむ」
「実は今日、お前を基地に呼んだのはこのことを話すためだったんだ。螺旋体の攻撃が始まったため地下シェルターに避難させた。突然で驚いただろう?」
「うん、正直に言うとかなり驚いてるよ。地球を襲う敵がいて、それと戦うのがウルトラマン、さらに死んだ母さんがウルトラマンの一人だったなんて」
「今地球に来ているウルトラマンは、『エース』の名を持つ12人のウルトラマンぱむ」
「じゃあ他にもウルトラマンが?」
「君が見たように、我々の組織にはすでに三人のウルトラマンがいる。今待機させているから、会ってみたらどうかな?」
体の調子も歩けるほどにはなっている為、望は南川隊長とジロウの案内で、U.A.のメインルームにやってきた。そこはまさに昔見た「ウルトラマン」に出てくる防衛組織の秘密基地といった感じの部屋で、制服を着た数名の隊員が行き来していた。
そんな中にいる三人の男女が先ほどウルトラマンとなった人間だった。三人は暖かく出迎えてくれた。
長身の男性、一ツ木清隆がウルトラマンエースアリエス
眼鏡の男性、青木英二がウルトラマンエースオックス
髪の短い女性、五代彩音がウルトラマンエースライオン
英二は自分が初めてウルトラマンになったときの事を話してくれた。彩音は「お前初めての変身の割にはよく戦えてたよ」と褒めてくれた。一ツ木はまだ望の動きには無駄が多いと注意し、教導役を申し出た。
「ウルトラマンとは無限の可能性を秘めている。これから訓練に励めば、螺旋体とも戦っていけるだろう」
「もしかして訓練すんのか?だったら俺も付き合うぜ」
「俺も手伝おう」
綾音と英二もやる気満々だったが、まだ望は迷っていた。
本当に自分がウルトラマンとして戦わなければならないのだろうか。というよりは、未だに自分の脳が状況を処理できていない気がしてしまった。
だが頭上から次ジロウがひらひらと飛んできて、望の前で止まった。
「九重望君、突然こんなことになって付いていけていないのはよく解るぱむ。でも今地球は、別の次元からの脅威にさらされて緊急事態なんだぱむ。これを打開するためには一人でも多くのウルトラマンの力が必要ぱむ。だから」
ジロウは真面目な顔と声色で言った。
「君に、ウルトラマンエースになってほしい」