ちょっと不動遊星はハイスペックすぎる。 作:らんま
物心をついた時には、“マーサハウス”と呼ばれる場所で僕は育てられていた。
市街地と分断された、荒涼としたスラム地区“サテライト”。僕はそこで暮らしていた。
全体を含めてネオドミノシティと呼ばれる僕の住む街は、市民の間に上下の差を敷く階層社会を築いている。
つまりサテライトに生まれた僕はいわば、“下の下”の身分というわけだ。生まれながらにして落伍者の烙印を押された人間。
現在12歳の、スラムの少年──それが僕、“
「うっ……」
頭が響く。何か、記憶の底からささやきかけるような感覚が僕を襲う。
少し休もう。何が起きたのか、一旦冷静に考えてみよう。
廃棄処分された物品が山積みにされた“ジャンク山”の、その頂上に僕はその腰を下ろした。
右手で頭を抱える。
左手には、純白に輝く竜の描かれたカード“スターダスト・ドラゴン”が握られている。
「僕は……」
──今日のことを振り返る。僕は今日この場所にシティからの廃棄処分品で送られてきた“ジャンク品”を探しにやってきた。
廃棄品の中にはまだ動いたり、使えたりするものがあるので、それを見つけては日々の生計に役立てているというわけだ。
生活の苦しいサテライトにおいて珍しいことではなかった。既に日頃の日課となり身についた習慣となっていた。
ビルの廃墟を抜け、いつもながらにジャンク広場へとやってきた。
歪んだ鉄クズや、錆びついたパイプ、ボロついた電化製品などが集まって幾つもの山を形成している。
今日もまた、ゴミを漁る毎日……廃棄品を品定めして山々を歩いているときだった。
一際高いジャンク山の頂上が、ひとつ煌いた気がした。
一瞬だけ、何か反射したような。珍しく金品がシティから運ばれてきたのだろうか。
滅多にない機会だ。もし貴金属の類であれば幸運な出会いに他ならない、日々の生計に大きく役立つ。
僕は惹かれるようにそちらに向かっていった。引き寄せられたような感覚だ。
そしてそばによってようやく、その煌きの正体に気づいた。
「これは……シンクロモンスター?」
間違いなく、サテライトにおいては珍しいものだった。
シンクロモンスター。真っ白な枠のカードに納められた、デュエルモンスターズ界隈においては高値で取引されている代物だ。
拾い上げたカードに描かれた名は“スターダスト・ドラゴン”。破けた翼を織りなす純白の竜が描かれている。
「うっ──!」
カードを拾い上げた瞬間、頭に痛みが奔った──そして今に至る。
未だ治まらない痛み、頭の奥底を揺り動かすような衝動。
そして……ふと、知らない記憶が蘇ってきた。
平凡な家庭に生まれ、暖かな両親の間で育ち、それなりの少年時代を送っていた記憶。
身に覚えのないはずの記憶だった。だが、間違いなく僕の記憶だった。
そして何より、僕はその記憶の中に、液晶画面の向こうに映る僕自身、“不動遊星”を見た。
「僕は……」
僕が画面の奥に見た不動遊星は──器量がよく、利発的で、頼りになって機械に強い。
デュエルモンスターズの腕前もかなりのもので、ウォリアーと呼ばれる低級モンスターにシンクロンと呼ばれるモンスターを“調和”させ、様々なシンクロモンスターを生み出して戦ってゆく。
その力量からゆくゆくは現代のデュエルキングにまで上り詰め、サテライト人だというのに皆から尊敬の眼差しをも送られることとなる。
そしてその後は、世界をまたにかけて戦うことになる。
“ダークシグナー”と呼ばれる者達との戦い。“イリアステル”と呼ばれる未来人との因縁。
そして最後は、エネルギー生成装置“モーメント”の暴走を抑える為のシステム“フォーチュン”の完成を遂げネオドミノシティの未来に貢献する──まさに英雄だ。
間違いなく、僕とは正反対の人間だった。僕にそんなステイタスは存在しない。
僕の能力はただただ、平坦だ。
「そうだ……思い出した」
僕は──この世界とは別の場所で生きていた。僕は本来この世界の人間じゃない。
“現実”と呼ばれるその場所で不慮の事故に遭い、そして新たな人生を望んだ。
その時、僕はこう願った。憧れの“不動遊星”のように強くありたいと。
そして……僕はマーサハウスで目覚めた。その時には記憶を失い、そのまま育っていった。
そして今、僕はここにいる。不動遊星として新たな生を受けている。
不動遊星としての能力など、持ち得ないのにだ。
「それは……まずいんじゃないか」
僕はひとり、胸の奥から不安を呟いた。
それは何故か。何故ならここは間違いなく、“あちら側”で見た遊戯王5d‘sの世界であるからだ。
考えてもみよう。もしこの世界でも僕が見てきた不動遊星の英雄譚が繰り返されるとしたら、ゆくゆく僕はモーメントの暴走を止める為の“フォーチュン”システムを完成させる責務が待っているだろう。
先程述べたイリアステルの住む未来ではそのシステムが完成を遂げなかった事でモーメントの暴走を許し、そして世界は破壊されてしまった。
ではこちらの時間軸で“フォーチュン”を作れなければどうなる? 当然破滅は繰り返す。
つまりだ。このままではこの世界にも滅びの運命が来てしまうということだ。
不動遊星の“皮”だけしかない僕に“フォーチュン”を作れる頭などない。
それどころかあの“D・ホイール”さえ作れない──そんな僕に彼ほどの、淡い将来など期待できない。
だが僕は彼と同じく今、純白の守護竜”スターダスト”と出会いを果たしてしまった。
”あの”不動遊星もスターダストと出会い、世界を救うための戦いへ巻き込まれていったのだという。
これは恐らく予兆だ。こちら側でも戦火が起きる予兆だ。やはり僕の知る運命がもうすぐやってくることを確信づける。
「どうすれば……D・ホイールさえ作れないのに……!」
僕にとって、ちょっと”不動遊星”はハイスペックすぎる。
不動遊星として転生してしまった少年の、無謀な戦いが始まろうとしていた。