魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第10話 運命の日①

 西暦200X年7月20日――

 

 

 

 強烈な光が消えていくのをまぶたの裏から感じ、恐る恐る目を開く。

 目の前にはアリスの家。

 ついさっきまでそこに居たアリスとパチュリーの姿は影も形もなく、さらに周囲の木々から聞こえるセミ達の鳴き声や、先程までの爽やかな秋風が夏の蒸し暑さに変化している事から、時間移動に成功したのはまず間違いない。

 

(でも一応確認しておくかな)

 

 意を決してアリスの自宅の玄関に立つと、ドアを思いっきり叩き続けた。

 

「アリスいるかー? いるなら返事しろー!」

「うるさーい! そんなにドアをバンバンと叩かないでちょうだい!」

「すまんすまん、ちょっと急いでたもんで」

 

 怒りながら家の中から出てきたアリスに、私はとぼけるように口を開いた。

 

「……はあ、全く。それで用は何?」

「今日は何年何月何日か分かるか?」

 

 呆れた表情のアリスに訊ねると一転して怪訝な顔になり。

 

「なんでそんな事聞いてくるの?」

「え? じ、実はカレンダーがどっかいっちゃってさー、分かんなくなっちまったんだ。アハハ……」

 

 咄嗟に言い訳を述べると、再び呆れた様子で。

 

「部屋の掃除くらい定期的にしなさいよもう。大体魔理沙はずぼら過ぎるのよ。前だって――」

「待った! 小言なら後でいくらでも聞くから、今は私の質問に答えてくれ!」

 

 小言が長くなりそうだったので、私はアリスの言葉を遮るように改めて問いかける。

 

「――200X年7月20日よ。これで満足かしら?」

「そうか……!」

 

(やった、長時間の時間遡行に成功した!)

 

 いよいよ念願が叶い、私は満面の笑みを浮かべた。

 正直な所こんなに長い時間を〝跳ぶ”のは初めてで不安だったけど、今のアリスの発言で吹き飛んでしまった。

 

「なんでそんな喜んでるのよ」

 

 急に笑顔になった私の様子にアリスは失笑していた。

 

「いやー助かったぜ。サンキュな! それじゃ私は行くぜ!」

 

 アリスに礼を述べ、私は博麗神社へ飛んで行く。

 

「えっ、本当にそれだけの用なの!? ――変な魔理沙ね」

 

 アリスの驚きの声を背に。

 

 

 

 

 

「よし、着いたな」

 

 私は今博麗神社の上空にフワフワと浮かんでいる。

 辺りに誰もいない事を確認したところで、そのまま神社の境内に降り立とうとしたが、行動に移す前に思いとどまる。

 

「そういえば今の時間だと過去の私に会っちゃうな。どこか隠れられそうな場所はないか?」

 

 私はキョロキョロと辺りを見回し、神社の傍の森に当たりを付け、そこへ降りる事にした。

 その後、気配を殺しながら慎重に縁側の手前の茂みまで移動し、こっそりと様子を窺う。

 過去の私と霊夢が、隣同士に座りながら会話している様子がはっきりと見え、自然と涙がこぼれてしまった。

 

(霊夢……! くっ、絶対助けてやるからな!)

 

 生きている霊夢に飛び出していきそうな気持ちをぐっと堪え、裾で涙をぬぐいつつ霊夢と過去の私の様子を注視する。

 

『おいおい、なんか今日はテンション低いな。もっといい反応を期待してたんだが』

『今はそんな気分じゃないのよねぇ。はぁ』

 

 それからも過去の私が色々話題を振っていくが、当の霊夢は記憶の通り無関心のようだった。

 

『なんだか霊夢と一緒に居るとこっちまで気分が暗くなってくるから今日はもう帰るぜ』

『あっそ。じゃあねー』

 

(ここで私が別れたからあんな事になったんだよな……この先何があったのか見極めないと)

 

 過去の私が箒にまたがって自宅の方角へ飛び去って行った後も、私は茂みに隠れたまま霊夢の様子を見守リ続けていく。

 霊夢は縁側に座ったまましばらく虚空を見つめていたが、ふと何かを思い出したかのように口を開く。

 

「『テンションが低い』か……参ったわね。しょうがないから、あの方法を試してみましょ」

 

 そう言って霊夢は懐から博麗の名が書かれた札を出し、右手に持ったまま詠唱を開始する。

 直後、霊夢の前の空間がチャックのように開き、八雲紫がスキマの中から現れた。

 

「霊夢、むやみやたらに結界を緩めるのはやめてって言ってるでしょ!」

「だってこうでもしないと来ないじゃない」

 

(へぇ、霊夢はそんな方法で紫とアポを取ってたのか。知らなかったぜ)

 

 私が心の中で感心している間も、2人の会話は続いていく。

 

「……はあ、もういいわ。それで私を呼び出した用って何?」

「ぐっすり眠れる薬とかない? 最近夜の寝つきが悪いのよ」

「あら、きちんと規則正しい生活を送っていれば自然と眠れるはずだけれど?」

「それでも治らないから困ってるんじゃない。いいからよこしなさいよ」

 

 霊夢が右手を差し出すと、八雲紫は呆れた様子で。

 

「……はいはい、そういう事ならこれを差し上げますわ」

 

 彼女がスキマから取り出したのは、睡眠薬と書かれたラベルが貼ってある1つのガラス瓶。

 蓋の部分がビニールで包装されており、中にはびっしりと白色の丸薬が詰め込まれていた。

 

「いい霊夢? 寝る前に一粒だけ飲むのよ? その中の薬を大量に飲んだら人間は死んでしまうからね? 気を付けなさいよ?」

「はいはい、分かったわ」

 

 そう注意喚起をして、八雲紫はすぐにスキマの中へと消えていった。

 そして一人になった霊夢は、もらった薬を懐にしまい、ぼんやりとお茶を飲んでいた。


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