魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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今回の話でとうとう100話に到達しました。
ここまで応援してくださった読者様には感謝しかありません。

※一部誤字を編集しました


第100話 相談

「さて、ボイジャー1号破壊は達成できたわけだし、次はアンナの番だな」

 

 むしろここからが大詰め。タイムトラベラー霧雨魔理沙という痕跡を、この宇宙から無くすために必要なことだから。

 

「念のためにアンナについて再確認するね。アンナは39億年前に生きる宇宙人で、仕事で遠く離れた1億光年先のプロッツェン銀河から太陽系の調査に来たんだけれど、エンジンが故障したことで地球に不時着しちゃって、そこで偶然魔理沙と出会ったんだよね」

「そうそう。よく覚えてるなにとり」

「えへへ、彼女の宇宙船を修理したのは私だからね」

 

 少し得意げなにとり。間髪入れずに妹紅が口を開く。

 

「――そしてアンナと別れ、原初の地球での出来事を母星に持ち帰ってしまったことで、巡り巡って地球が滅びる原因となった……つまり、アンナと出会わないように、歴史を変えればいいんじゃないの?」

「どうやって?」

「エンジンの故障で地球に不時着したんでしょ? だったらさ、アンナが太陽系に出発する前の時間に戻って、そこからアンナの星へ行って、本人に『しっかりと宇宙船の整備をしなさい』みたいな感じで忠告すればいいんじゃない?」

 

 妹紅の提案、それはつまり“私達の出会いそのもの”をなかった事にするというもの。

 

 しかし私としては、この方法に賛同はできなかった。何故なら、あの時、あの私があったからこそ今の立ち直った私がいるのであり、言い換えれば昔の私を裏切るような形になってしまうから。

 

 さらに付け加えるならば、せっかく前の歴史で宇宙飛行機に関しての因果を成立させたのに、再びややこしいことになりかねない。

 自分の考えを伝えようと私が口を開く前に、にとりが妹紅に反論の言葉を述べる。

 

「それは難しいと思うよ? 39億年前のアプト星についての記録は現代には殆ど伝わってないからさ、アンナのパーソナルデータ――どこで、何をしていたかについての記録が全く残ってないんだ」

「アンナは惑星探査員だって自己紹介してたし、そこから絞り込んでいけばいいんじゃないの? 私が居た頃の地球ですら現実・バーチャル問わず、個人を探す手段は山ほどあったし」

「当時のアプト文明がどんなものかも分からないのに? 外の世界だけならいざ知らず、私達とは価値観も、文化も、常識すらも違う惑星で、人一人探しだすのにどれだけの時間と労力が必要か分かってるの?」

「む」

 

 矢継ぎ早に否定材料を持ち出された妹紅は少し不満げな表情をしていて、このまま会話を見守っていると何となく険悪な雰囲気になりそうだったので、私は口を挟むことにした。

 

「私もにとりの意見に賛成だな。まずはさ、地球に不時着したアンナに直接会って、未来の事情を話して私達のことを口外しないように頼み込んでみようよ。それがダメだったら妹紅の方法で行こう」

「まあ、そういうことなら」

 

 私のフォローが効いたのか、妹紅も渋々納得してくれたようなので、原初の地球で起こった出来事そのものを改変するのは後回し。

 

 時系列的に考えれば、例えここで失敗したとしても、それより前の時間に戻ってしまえば失敗そのものがなかったことになる。できればそうなってほしくはないけれど、もしそうなった時には覚悟を持って行なうつもり。

 

 もちろん、アンナの宇宙船の破壊という外道じみた選択肢は端からない。それをみんな分かっているからこそ、さっきの会話にも出てこなかったし。

 

「でも、それならどうやってアンナと会うつもりなんだ? 原初の地球では、アンナが地球に不時着した時から出発するまでを過去の私達が見届けたわけだし、その間、少なくとも私の記憶では未来から来た別の私達に会っていないんだけど」

「どうだっけ?」

「私も見てないね」

 

 あの時の私は世界に絶望していたので、周囲に気を配る余裕がなく、未来の私が近くに居たのかどうか確信が持てない。だけど、にとりや妹紅も口を揃えて〝未来から来た自分″を見ていないと言っているので、本当のことなのだろう。

 

 そう考えると、妹紅の疑問は割と筋が通っている気がする。

 

 仮にもし、過去の整合性を考えなかった時――例えば、その日その時間で会った記憶が無いにも関わらず、未来の私が過去の自分と直接顔を合わせるようなこと――咲夜の理論では〝その出来事と辻褄が合うように歴史が再構成され、未来の自分と会話をした記憶が追加される″と話していた。

 

 つまりそうなってしまうと、これまでの歴史が途切れて、新たに構築された未知の歴史に別の記憶を持って突然放り出されることになり、知らない間にバタフライエフェクトの種が埋め込まれることになる。

 

「そのことだけどさ、私に良い考えがあるんだよ」

「なんだそれ?」

「アンナが地球を旅立って、その後私達が宇宙に出て時間移動するまで、ちょっと時間が空いたわけじゃん?」

「あれ、そうだっけ?」

「ほら、宇宙飛行機の発射準備の最中にさ、アンナが別れ際にくれたプレゼントを見ようって話になってさ、その中身が宇宙飛行機の設計図だったって」

「そういえばそんなこともあったような……」

「あの時の魔理沙はいろいろとメンタルがヤバそうだったからなー」

 

 繰り返すことになるけど、あの時の出来事は私にとって衝撃的すぎて、いまいち記憶に自信がない。

 

「まあとにかく私が言いたいのはさ、アンナが地球を脱出してワープを開始する直前の時間と、過去の私達が地球を脱出して未来にタイムトラベルする時間、その僅かな隙間を狙ってコンタクトをとってみたらどうかな? って思ったんだけど」 

「なるほど。よし、その案で行こう」

 

 確かにそれなら過去の自分に会わずに済みそうだし、条件は厳しいけどやるしかない。

 

「でも相手は宇宙船に乗ってるんだろ? ちゃんとコンタクトは取れるのか?」

「通信機能は壊れてなくて大丈夫だって話してたし、多分平気。修理の時、『周りに何もなくて助けを呼ぶこともできなかったので、本当に感謝しています』って話していたよ」

「あ~宇宙は広いもんねぇ」

「それでどの時間に跳べばいいんだ? にとり、分かるか?」

「いや~分かんないなぁ。あの時代は時計なんて無かったしねぇ。というか、魔理沙がタイムジャンプしたのに覚えてないの?」

「……覚えてないな。分からん」

 

 西暦200X年8月1日に跳ぼうとしたのは覚えているけど、どうせこの時間にはもう来ないだろうと思ってたし、時間移動しようとした瞬間の時刻なんて確認していない。

 

「紀元前39億年前の7月31日正午に時間移動したのははっきりしてるんだが……」

 

 跳ぶ時刻に困った時や、適当でも構わない時はとりあえず正午を指定している私。特に指定がない限り、年月日すらも無意識的に選んでしまってるので、結構偏っている。

 

「ん~だとすると、原初の石の捜索やアンナの宇宙船の修理に掛かった時間を踏まえて、午後3時以降がいいんじゃないかな」

「なるほど」

 

 そうして話がまとまり、一度地球を肉眼で見下ろせる場所までワープした後、そこから39億年前の7月31日午後3時にタイムジャンプを行った。


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