魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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高評価ありがとうございます。


第103話 39億年前の真実(後編)

 続いてアンナは、未来の自分の写真を見せながら話し始めた。

 

「次にこの写真についてですが……、きっとこのあたしは、魔理沙さんがタイムトラベラーだと知った時からおぼろげに考えていた事を実行に移した“あたし”なんだと思います」

「?」

「あの時の魔理沙さんは、時間の成り立ちについて非常に苦しんでいるように見えました。あたしには詳しい事情は分かりませんでしたけど、並行世界説を否定できなかったことが、その原因なんじゃないかなって思いました」

「……確かに、そうだったな」

 

 今思い返してもあの時の取り乱しようは酷いものだった。客観的に見ても格好悪かったに違いない。

 

「なのでこのあたしが――魔理沙さん達と出会い、助けられたあたしこそが魔理沙さん達の時代に行けば、時間は一つに繋がっていると証明することになります」

「! まさか、そのためだけに?」

「はい。このあたしは将来の“あたし”の姿なので、何となくわかります」

「何故だ? 私とアンナは生まれた星も違うし、話す言葉も違う。精々数時間くらいしか過ごしていなかったのに、どうしてそこまで出来る?」

「魔理沙さんにとってはその程度なのかもしれませんけど、あたしにとっては命の恩人です。命の恩人が苦しんでいるのなら、力になってあげたい――ただそれだけです。貴女がしてくださったことに比べれば、私がやろうとしたことなんて大したことではありません」

「アンナ……」

 

 何の躊躇いもなく断言したアンナに、私はもはや戸惑うばかりだ。

 彼女にも家族や友達、社会的な地位や故郷への愛着もあるだろうに、私が生きる時代まで来ると言うことは、それらを全て捨てることになる。

 まさかそこまでアンナが私を心配していたなんて、思わなかったな……。

 

「……でも、どうやらその必要はないみたいですね。魔理沙さん、とても元気になったみたいですし。別れる時にどうしても気になっていたので、胸のつっかえが取れたような気分です」

「ちょっと前に過去の私達が乗った宇宙飛行機が時間移動する瞬間を見たろ? あの後に時間の女神様に会ってな。その時に時間の仕組みを教えて貰ったんだ」

「そういえば先程もそんなお話をしてましたね。時間の女神様ってどんなお人なんですか?」

 

 私は自分の主観も交えつつ、咲夜の生い立ちや特徴を好意的に伝えた。

 

「とても素敵な方なんですね~。この星の生命循環システムにも驚きましたが、まさか生前からのお知り合いだなんてびっくりです。仲が良いんですね♪」

「まあ~咲夜とはなんだかんだ言って付き合いが長かったからな。うん」

 

 最初の歴史で、時間移動の研究のために紅魔館に足繁く通っていた時も、御茶菓子を出してくれたり、集中しやすい環境を作ってくれたり、細かい所で気を遣ってもらっていた。あれもきっと、咲夜なりの応援の証だったのだと思う。

 

「それにしても幻想郷ですか……話を聞く限りではとても楽しそうな場所ですね。種族もバラバラ、ましてや捕食者と被食者が共存する世界なんて宇宙でも滅多にありませんよ! 一度隅々まで調査してみたいですねぇ」

「悪いけどそれは無理だろうな。紫に許可なく入れたら怒られる」

「そうですか~残念です」

 

 アンナは少しガッカリとしていた。

 

 

 

「……さて! これで魔理沙さんの疑問には一通りお答えできたと思いますけど、他にも何か質問はありますか?」

「私はもう充分聞けたかな。二人は何かあるか?」

「い~や、特に何も」

「同じく。納得できたよ」

「分かりました。それでは、あたしはそろそろ行きますね」

「ああ」

 

 アンナと共に私達も席を立ち、彼女の宇宙船の正面まで見送りに出る。入り口の扉が自動で開き、乗り込む準備が出来た時、彼女は私の前に立った。

 

「魔理沙さん、これを受け取って貰えますか?」

 

 そう言いながら、アンナは再びメモリースティックを渡してきた。

 宇宙飛行機の設計図が入ったメモリースティックは黒だったが、今回は赤い色をしている。

 

「この中にはアプト星の地図と、あたしの自宅がある住所が記載されています。その……いつかあたしの家に遊びに来てください! あたしが自宅に着くのは魔理沙さん達が使う紀年法で1年くらい掛かっちゃいますけど、もし来てくれたら歓迎しますよ!」

「分かった。今は無理だけど、いずれ行かせてもらうよ」

「絶対ですよ!」

「もちろん。その時は、アンナの住んでる街を案内してくれ」

「はい!」

 

 メモリースティックを受け取った私の快諾にアンナは笑顔で答えていた。

 

「それでは魔理沙さん、妹紅さん、にとりさん。今度こそさようなら! また会いましょう!」

「またな~!」

「バイバーイ!」

「気を付けてね~!」

 

 和やかな雰囲気のままアンナは宇宙船に乗り込み、私達は空高く飛んで行く宇宙船が見えなくなるまで手を振っていた。

 

 

 

 完全に宇宙船が見えなくなった頃、にとりが口を開く。

 

「ねえ魔理沙。最後にとんでもない約束しちゃってたけど、本当にアプト星に遊びにいくつもりなの?」

「今抱えてる問題が全て片付いた後、気が向いたら行くつもりだ。その時はにとりも協力してくれるか?」

「私は別に良いけど……紫がすんなりと外の世界に出させてくれるか――だよねえ。今回は特例みたいなものだし」 

「あ~そうか。まあでも、その時は紫の目が届かない過去にでも跳べばバレずに済むんじゃないか?」

「そっか、その手があったね」

「なんにせよ、もし行くんだったらその時は私も誘ってよね。宇宙旅行なんて面白そうじゃない?」

「はいはい、分かったよ。その時は300X年まで迎えに行ってやるさ。よ~しそれじゃあ私達も元の時代に帰ろう! 今度こそ歴史が変わった筈だ」

「なんか結構デジャブを感じるセリフだね。また何か予想もつかない未来になってたりして」

「その時はその時だ。また頑張ればいい。無駄にネガティブになる必要はないぜ」

「魔理沙の言う通りだ。諦めさえしなければ、何度だってやり直せるんだからな」

「そうそう。妹紅、良い事言うじゃないか」

「希望を捨てなければ何とかなるってのは、これまでの経験で分かってる事だしね」

 

 そんな話をしながらコックピットに戻っていく。

 その後にとりは宇宙飛行機を発進させ、地球をよく見下ろせる位置に再び宇宙飛行機をつけた。

 相変わらずギラギラと輝く太陽に、鏡のようにキラキラ光る地球。体感的にはそれ程時間が経っていない筈なのに、ここの所ずっと宇宙にいるような気がする。そろそろ幻想郷が恋しくなってくるところ。

 私が感傷的になってるその一方で、窓から辺りを見回しながら妹紅が問いかける。 

 

「なあにとり。ちょっと聞きたいんだけどさ。周りに宇宙飛行機の反応はあるか?」

「ん~レーダーで探っても何も無いみたいだけど……。もし未来の私達がいるのなら探知されないような手を打っているだろうし、あんまし当てにならないね」

「言われてみればそうだな。探すのはやめるか」

 

 現在時刻は紀元前39億年7月31日午後7時50分。もし万が一再びこの時間に来る用事が出来た時の為に、この時刻はきちんと覚えておこう。

 私はにとりと妹紅を見回しつつ。

 

「それじゃ元の時間に戻るぞ~。準備はいいか?」

「了解」

「私はいつでも」

 

 時間移動の宣言を行う。

 

「タイムジャンプ発動! 行先は西暦300X年6月9日午前4時!」

 

 直後、機体の正面に時空の渦が発生し、宇宙飛行機は滑るようにその中に入って行った。

 

 

 

 

 紀元前39億年から西暦300X年へ、とてつもなく長い時間が過ぎていくその刹那。いつの間にか宇宙飛行機は消え去り、私は柱が立ち並ぶ巨大な廊下に立ち尽くしていた。

 

(ここは……時の回廊か? それにしては雰囲気が違うな)

 

 回廊の外側に広がっていた美しい四季は、地球を中心とした宇宙空間に変貌している。白銀の海は青色に変化し、一つに固まっていた大陸は7つに別れ、大陸には薄い緑が見えている。どうやら年代的には私の時代に近いようだ。

 

 何故推定形なのかというと、地球域近くに〝ドーナツに羽根をくっつけたような形をした直径100㎞以上ある巨大な人工建造物″や、〝透明なドームに覆われ、数多のビルが建ち並ぶ未来的な構造物″が合計で3つ漂っているからだ。少なくとも私はこれらについて見たことも聞いたこともない。

 

(これは……もしかして私が知らない未来の地球の姿なのか? だとするなら、あれは宇宙に進出した人間が造った〝街″なのか?)

 

 推測している内に、地球から豆粒程度の大きさの人工衛星が飛び出すと、それを契機に地球域を埋め尽くす程の宇宙船が次々と地球から飛び出し、先程の人工建造物と共に月と正反対の方向へ一斉に飛んで行き、やがて影も形も見えなくなった。

 

(?? よく分からんが、あの宇宙船一隻一隻に人が乗っているのだとするなら、相当な数の人間が別の星に行った事になる。まるで大移動のような……)

 

 目の前の光景に考えを巡らせていた時、ふと、横から聞き覚えのある声が。

 

「どうやら未来が変わったみたいだな。人類が宇宙進出に成功し、異星人の邪魔も入らなくなった今、新天地に向けて飛び出して行ったんだろう」

「妹紅! いたのか――」

 

 すぐさま振り向くと、そこにはポケットに手を突っ込みながら先程の映像を観賞していた妹紅の姿。だが、彼女の体には明らかな異変が起こっていた。

 

「って、その姿は……!」

 

 妹紅の肉体は、幽霊のように半透明になり、向こう側が透けて見えてしまっていて、今にも消えてしまいそうな儚さを感じる。

 

「あの時咲夜が言っていた歴史改変の影響だろう。過去へ飛ぶ因果が消え、特異点が解消された今、役目を終えた私はもうすぐ消えて無くなるのさ」

「妹紅お前――」

 

 咄嗟に手を伸ばして彼女に触れようとするも、空気を掴むような感触が残るだけ。もはや彼女の実体は、ここには存在しなかった。

 

「おいおい、そんな悲しそうな顔しないでくれ。今生の別れでもあるまいし、新たな歴史の幻想郷で待ってるからさ、また会おうぜ」

「――ああ、またな」

 

 私は口の先まで出かかった言葉をぐっと飲み込み、再会の言葉を告げる。

 妹紅は私にウインクしながら、霞のように消えていった。

 

(妹紅……)

 

 感傷に浸る間もなく、時の回廊の先、真っ暗闇の空間に裂け目が生じ、そこから漏れ出た光に向かって、体が勝手に引っ張られていく。

 

(この先に私の――いや、私達が望んだ未来が……!)

 

 私は確信と希望を抱きながら、光に飲み込まれていった――。


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