魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第11話 運命の日②

 それからもただただぼんやりとしていた霊夢は、日暮れの時間になった頃、何かを思い出したかのように立ちあがり、神社の奥に入って行った。

 私は一旦観察をとりやめ、今まで見てきた霊夢の様子から彼女についての考察を始める。

 

(なんか、ただぼうっとしてるだけだったな。やっぱり調子が悪いのかな? 時間的に多分夕食を作りに行ったんだと思うけど……。これからどうしようか。いっその事睡眠薬を盗んでみるか?)

 

 しかし私はその案をすぐに却下する。

 

(いや、ダメだ。確か寝つきが悪いと言っていたな……。例えこの場で盗んでも、根本的な解決にはならない)

 

 後日霊夢が再び紫に睡眠薬を要求するかもしれないし、もしくは永遠亭で別の薬を貰ってくるかもしれない。

 

(他の手段は……)

 

 私の魔法で眠らせる、アリスか早苗に霊夢の様子を見てもらう――等幾つかの手を考えるも、どれもいい解決策とは思えない。

 

(こうなったら最後の手段を取るしかないか? でもなぁ)

 

 最後の手段とは、今の私が霊夢に会って問題を直接聞くという方法だ。

 しかし私はその方法には消極的だった。

 なぜならここで直接会ってしまう事で、未来がさらに悪い方へ変わってしまうのを避けたいからだ。

 参考にした魔道書には、『人間関係を変えてしまう事で未来が変わる』『本来会う筈のない人間が出会う事で、時間軸に多大なる影響を及ぼす』等と書かれていた。

 それにもしこれが失敗してしまったら、〝私″の存在によって霊夢の救出が一層難しくなってしまう。

 

(どうしようかな……)

 

 そう悩んでいた時、大昔に言われたレミリアの言葉がフラッシュバックした。

 

『貴女は将来大きな決断を迫られる事となるでしょう。その時が来たら自分の心に従い、後悔のない選択肢を取りなさい』

 

(大きな決断……多分ここだ! よし、こうなりゃ当たって砕けろだ。失敗したらその時に考えればいい!)

 

 決意を強めた私は、意を決して茂みから飛び出し、神社に近づいていった。

 

「れ、霊夢ー、いるかー!」

 

 心臓が口から飛び出そうな程バクバクしている中、努めて冷静に呼びかけたのだが、返事がない。

 

(んー? おかしいな。さっきは確かに居たはずなのに)

 

 私は靴を脱いで揃えた後、居住空間へと入っていく。

 

「霊夢ー、いないのかー?」

 

 そう言いながら奥の部屋の襖を開けた先には、畳の上に仰向けのまま倒れている霊夢の姿があった。

 

「!」

 

 私は急いで傍に駆け寄って声を掛ける。

 

「おい霊夢! 大丈夫か!?」

 

(まさか間に合わなかったというのか……?)

 

 そんな焦燥感があったが、幸いなことに霊夢からかすかに返事が返って来た。

 

「魔理沙……? どうしてここに……?」

 

 私は咄嗟に思いついた理由を口にする。

 

「今日のお前は様子が変だったから心配になって戻ってきたんだよ。それより大丈夫か?」

「ご飯作ろうと思ったんだけど、やる気が出なくてねー……、それで寝転がってたの」

「……重症じゃないか。私が作るからそこで待ってろ!」

 

 私は霊夢を寝かせたまま、台所へ向かった。

 

 

 

 神社にあった食材を使い、手早く野菜炒めとご飯と味噌汁を作った私は、霊夢の元へと持っていきちゃぶ台に並べた。

 

「できたぞ! ほら食べるんだ!」

 

 野菜炒めを箸で掴み、未だに寝転がっている霊夢の顔の手前にまで持っていくと、のそりと起き上がりながら。

 

「ちょ、ちょっと、そんな急かさないでよ」

「なんなら私が食べさせてやろうか? ほら、あーん」

「ひ、一人で食べれるから!」

「おかわりもあるからな。しっかりと食えよ!」

「わ、分かったってば」

 

 そんなやりとりをした後、霊夢は私の作った夕食を食べ始めた。

 余程お腹が減っていたのか、5分もかからずに綺麗に平らげた。

 

「ふう、ご馳走様。ところであんたの分はどうしたの?」

「私はいいよ。お腹減ってないし」

 

(それにもう食べる必要もないしな)

 

「ふーん……」

 

 霊夢は私をじろじろと見つめていたが、それ以上追及する事は無かった。

 そして私は、あの時から一番気になっていた事を訊ねる。

 

「それよりも霊夢、一体何があったんだ? 今日ずっと気分が沈みこんでいたじゃないか? 私に相談できない事なのか?」

「……なんでもないわよ」

「なんでもないわけないだろ! 現に私が見に来た時倒れていたじゃないか! それに睡眠薬なんか持ってるし! ……それとも私には教えてくれないのか? 私は霊夢の力になりたいんだ……!」

「……どうしたの魔理沙? いつもと様子が違うわよ?」

「いいから教えてくれ! 頼むよ……! この通りだ……!」

 

 怪訝そうな表情の霊夢に対して私は手を合わせ、必死に頼み込む。

 その願いが通じたのか、霊夢は少しの間逡巡した後。

 

「――笑わない?」

「ああ」

「それじゃ話すわね」

 

 霊夢はぽつぽつと話し始めた。

 

「最近ね、毎日のように悪夢を見るの……」

「悪夢だって?」

「その夢の内容は、いつも深い深い闇へと落ちていくの。必死に逃れようともがいても逃げられなくてね、その闇の中では恐ろしい事が起こるのよ」

「恐ろしい事って?」

「それがね、いつも思い出そうとしても全く駄目なの。只々怖いって感情だけが残っていてね。朝起きたら体中が汗でびっしょりになってるの。そのせいで最近は寝るのが怖くてね……」

「そうだったのか……。いつからなんだ?」

「3日前からなのよ」

「3日前か……」

 

(ここはもう少し情報がほしい所だな……)

 

 私はさらに質問を重ねていく。

 

「何か悪夢を見る心当たりというのはないのか?」

「心当たりと言われてもねえ……? いつもは何となく原因がわかるんだけど、今回に限って勘が全然冴えないのよね」

「うーん」

 

 霊夢の勘はもっぱら当たる事で有名なのに、それが働かないとなると……。

 

(一度3日前に戻ってみるか? だけど……)

 

 私の隣にいる霊夢は、一見いつものように澄ました顔をしているが、僅かながら手が震えているのが目で見て分かった。

 

(これは放っておけないな)

 

「よし、決めた。今夜は私が傍で見守ってやる」

「え?」

「隣に誰かいたら安心して眠れるだろ? 霊夢の様子がおかしかったらすぐに起こしてやるよ」

「――分かった。お願いね」

 

 私の提案に霊夢は少し驚いた様子を見せていたが、素直に提案を受け入れてくれた。


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