魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第123話 霊夢の歴史①

  ―――side out ――――

  

  

 

 ――????年??月??日――

 

 

 

 

 

『ねえ、魔理沙。貴女も一緒に人間を辞めない? そしたら私の発言の意味が分かるわよ』

『私、は……』

『……うん」

『――私は人のまま生きて、人のまま高みを目指し、人のまま死ぬつもりだぜ』

『……そっか』

『さよなら霊夢。お前には失望したよ』

『魔理沙……』

 

「……あまり好ましくない方向性へ歴史が動き始めたわね」

 

 どの時間にも属さない特殊な時空間〝時の回廊″から、西暦200X年9月4日午後10時5分の博麗神社で、博麗霊夢と霧雨魔理沙が決別するシーンを観測した女神咲夜は、渋い表情で呟いた。

 

 彼女のすぐ傍には100インチ超えの大型透過ディスプレイが浮かび、まるでその場にいるかのような臨場感溢れるアングルで先述の光景を映し出している。

 

 もちろんこの2人の周囲にカメラは存在しない。

 

 女神咲夜の〝観測″とは、宇宙の始まりから終わりにかけて発生した森羅万象を認識し、把握することであり、この能力によってタイムトラベラーの発生を未然に防ぎ、宇宙の歴史を管理してきた。

 

 いつ、どこで、何があったのか。それを識別するために分かりやすい形で視覚化してるにすぎない。

 

 ありとあらゆるものを見通すこの力こそが時間の神としての権能であり、容易に世界へ干渉できない制約でもある。

 

「本来の歴史では、この日は宴会の片づけが終わった後すぐに解散していた。これも魔理沙の影響によるものね」

 

 博麗霊夢が時間旅行者霧雨魔理沙と別れてから、動向を逐一観察していた女神咲夜は、今回の出来事こそが、後々の二人の人生に大きな変化をもたらす決定的な瞬間なのだ。と確信を抱く。

 

「さて、この歴史の霊夢と魔理沙はどんな結末を迎えるのかしら?」

 

 女神咲夜は目を閉じ、西暦200X年9月4日~西暦215X年9月21日の期間に絞り込んで歴史を解明していく。

 脳裏に映るのはこの期間内に起こる全宇宙の出来事。言語や数値では表しきれない膨大な情報の波を、宇宙中のスーパーコンピューターを搔き集めても到底及ばない情報処理能力を用いて、改変前の歴史と照合し、転換点となる――もしくはなった、なりそうな出来事を見極めていく。

  

「言うまでもなく外の世界は変化なし。歴史改変の影響は幻想郷にのみ留まり、特に強い影響を受けた人は〝霊夢″」

 

 そう断定した女神咲夜は観測対象を博麗霊夢に絞り、〝博麗霊夢がこれから辿る人生の軌跡″の中で、時空改変の影響により発生した事象の中から、詳細に観測すべき出来事を取捨選択していく。

 後世の人間が歴史書で手早く過去の出来事を知るのと同じように、あらゆる〝結末″を見通せる彼女にとって、150年の歴史を観測する為に、わざわざご丁寧に150年の時間を掛ける必要はないのだ。

 

「……こんな所ね。霊夢に関する歴史を時系列順に見ていくことにしましょう」

 

 整理を終えた女神咲夜は、再び観測に入って行った――。

 

 

 

 ――――――            

 

 ――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 時刻は1日後の西暦200X年9月5日午後1時10分。場所は紅魔館の1階廊下。清掃中の十六夜咲夜が窓から忍び込む霧雨魔理沙を目撃した所から場面が始まる。

 

『こらっ! また勝手に忍び込んで、いい加減普通に玄関から入ってきなさいよ』

『うるさいな。私の事は放っておいて仕事に戻れよ』

『……随分と荒れてるのね。そういえば昨日の宴会の時に最後まで霊夢と話してたみたいだったけど、何かあったの?』

『何故そう思う?』

『だって霊夢が巫女を辞めるって宣言してから、しきりに彼女のことを気にしてたじゃない。傍から見ればすぐに分かるわよ』 

『別にお前には関係ないだろ』

『あら、そんな態度をとってもいいのかしら? 私の能力を使えば、今すぐにでも貴女を館の外に追い出すこともできるのよ?』

『脅すのか?』

『招かれざるお客様には当然の措置だと思うけど?』

 

 二人は一触即発の空気になったが、ここで争うのは得策じゃないと判断した霧雨魔理沙は渋々答えることにした。

 

『……あの夜は、霊夢が妖怪になろうと思った真意を訊ねただけだ。……結局よく分からん妄想しか返ってこなかったがな。これで満足か?』

『妄想って?』

『それ以上は本人からきいてくれ。私の口から話すのも腹立たしい』

『ふ~ん……』

『ちゃんと話したんだ。通してもらうぜ』

 

 十六夜咲夜は、大図書館に向かっていく霧雨魔理沙の後ろ姿を見送っていった。

 

 

 

 時刻が約2時間飛んで同日の午後3時30分、大図書館からいくらかの魔導書をくすねて帰って来た霧雨魔理沙は、自宅の前で博麗霊夢と遭遇する。

 

『あ、魔理沙』

『……何の用だよ。霊夢』

『その……昨日のことで、謝りたくて』

『私は今忙しいんだ。お前に構ってる暇はない』

 

 霧雨魔理沙は碌に応対もせずに自宅に入り、鍵をかけた。

 

 

 

 日付が1日飛んで西暦200X年9月6日午後3時20分。太陽が傾きかけてきた時間に紅魔館の中庭で行なわれた、博麗霊夢と十六夜咲夜のお茶会の一コマ。

 パラソルが付いたガーデンテーブルに座り、紅茶を飲みながら取り留めのない話で盛り上がっていた。

 

『~ってことがあったのよね』

『あはは。何それ面白い』

 

 和やかなムードのまま歓談が続き、話が一区切りついたところで、十六夜咲夜は昨日の出来事を思い出す。

 

『そういえばさ、昨日ここに忍び込んできた魔理沙と話す機会があったんだけどね、彼女かなり怒ってたわよ』

『うん、知ってる。昨日謝りに行ったんだけど門前払いされちゃって』

『あの宴会の夜に魔理沙と何があったの? 魔理沙はよく分からない妄想だって話していたけど』

『実は――』

 

 そう話しかけた所で、霧雨魔理沙に激しく拒絶されたあの晩の出来事がよぎり口ごもる。

 もし本当のことを話しても、あの時の彼女みたいに十六夜咲夜に信じてもらえず、関係がこじれてしまうのではないだろうか? 博麗霊夢にはそんな臆病な心が生まれていた。

 

『実は、なに?』

『……ううん、なんでもない。とにかくまた今度、ちゃんと話してみるわ』

『そう……。仲直りできると良いわね』

 

 結局十六夜咲夜には真相を明かすことなく、この日のお茶会はお開きになった。

 

 

 

 翌日の午前9時35分。昨日とは打って変わって暗い雲が垂れ込め、今にも雨が降り出しそうな不安定な空模様の幻想郷。博麗霊夢は霧雨魔理沙の自宅を訪れていた。

 

『魔理沙、いる?』

『……何の用だ?』

 

 玄関の扉越しに聞こえてくる霧雨魔理沙の声。

 

『その……前の宴会のことで謝りたくて』

『…………』

 

 博麗霊夢がおずおずと口にすると、長い沈黙の果てに扉の鍵が開く音がして、中から霧雨魔理沙が現れた。

 

『上がれよ』

 

 有無を言わさぬ命令に博麗霊夢は黙って従い、家の中へと上がり込む。

 

『『…………』』

 

 雑多に散らかるリビングのダイニングテーブルで、向かい合うように座る2人の少女。気まずい雰囲気を打ち破ったのは博麗霊夢だった。

 

『ねえ、魔理沙。まだ怒ってる? ……って、怒ってるよね』

『…………』

『あれからずっと考えていたんだけど、私にはもうただひたすら謝ることしか出来ない。本当にごめんなさい』

 

 真摯に頭を下げる博麗霊夢を見て、霧雨魔理沙は考え込んでから、重い口を開いた。

 

『……そうだよな。人間、誰にだって言いたくないことの一つや二つあるよな。お前の気持ちも考えずに、自分の欲求ばかり押し付けてさ。私の方こそ酷い事言ってごめん』

『違うのよ魔理沙。あの話は嘘じゃなくて――』

『もういい、もういいんだ霊夢。私がただ子供なだけだったんだ。お互いに自分の信じる道を歩めばいい。それでこの話は終わりにしよう』

『……』

『……よし! 仲直りのきっかけに弾幕ごっこでもやるか! ついてこい!』

『あ、待って魔理沙~!』

 

 外に飛び出した霧雨魔理沙を博麗霊夢が追いかける所で、映像がフェードアウトしていった。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――

 

 ――――――

 

 「この出来事がきっかけで、一時はギクシャクとしていた2人は関係を修復し、これからも良き友人として付き合っていくことになる。しかし、霊夢の説明を頑なに信じなかった魔理沙の心のわだかまりは、最期の時まで消えることはなかった……」

 

 女神咲夜の観測はまだまだ続いていく――。

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