魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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色々とありがとうございます。


第128話 霊夢の歴史⑦

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 次の時間は霧雨魔理沙の死から5日後の西暦205X年2月4日午前9時49分。次の舞台は永遠亭から場面転換して紅魔館の大図書館へ。この間に霧雨魔理沙のお通夜と葬式が執り行われ、幻想郷は悲しみに包まれた。

 

『こんにちは霊夢、アリス。魔理沙のお葬式の時以来かしら』

 

 大机に座ったまま、来客した博麗霊夢とアリス・マーガトロイドに挨拶するパチュリー・ノーレッジ。その普段通りの仕草が鼻に付いた博麗霊夢は、皮肉交じりにこう返した。

 

『あんたは相変わらず冷静なのね。魔理沙の死を知った時も大して驚いていなかったし』

『元々こういう性格なのよ、悪かったわね。それにあの子の若い頃を知っているだけに、輝きや情熱をすっかり失った姿を直視できなかったのよ。『老いる』ってとても残酷なことだわ……』

『その口ぶり、もしかして魔理沙の秘密に気づいてたの?』

『当の本人は隠してたつもりみたいだったけど、魔力の流れですぐに分かったわよ。敢えてそうする理由があったんでしょうから気づかないふりをしていたけど。全く滑稽よね。年老いたくらいで私が態度を変えるとでも思ってたのかしら』

『……』

『パチュリー!』

『……あまり死んだ人を悪く言うものじゃないわね。ごめんなさい』

 

 博麗霊夢の表情が沈んだのを見て、パチュリー・ノーレッジは自らの失言を恥じて謝罪した。

 

『皆さんお茶菓子をお持ちしました』

『ちょうどいいタイミングで来たわね』

 

 気まずい空気を紛らわせるように十六夜咲夜が現れ、人数分のティーセットを近くの大机に並べていった。

 

『それでは私はこれで』

『待って。咲夜はここにいて』

『? はぁ』

 

 一度は帰ろうとした十六夜咲夜だったが博麗霊夢に引き留められ、この場にいる全員が閲覧机についた。

  

『ところで今日はどんな理由でここに来たの? ただ世間話をしに来たわけじゃないんでしょ?』

『いつもながら話が早いわね。実は魔理沙が生前に遺書を残していたみたいなのよ。あんたにぜひ読んでもらいたくて』

『本当にいいの?』

『書き出しに『親愛なる友人たちへ』ってあるし、あんたにも読む資格があるわ』

『……分かったわ』

 

 魔理沙の遺書を受け取ったパチュリー・ノーレッジは黙読していったが、文章を読み進めていくにつれて顔を歪めていき、終いには『……後味悪い話ね。結局魔理沙の死は誰も得しない結末になったのね』と苦々しく吐き捨てた。

 

『この話には続きがあるの。パチュリー、これがなにか分かる?』

 

 アリス・マーガトロイドは持参した手提げ鞄から紙束を取り出し、パチュリー・ノーレッジに手渡した。

 

『ふぅん? 軽く流し読みする限りだと、何かの魔法のように思えるけど』

『魔理沙の家を整理していたら出て来たのよ。遺書にも書かれていた通り、彼女が死の間際にまで研究し続けていたみたいなんだけど、私には理解が追い付かなかったから、ぜひ貴女の意見も聞かせて欲しいのよ』

『私は魔法については専門外だしねー』

『……そういうことなら調べてみましょう』

 

 その後パチュリー・ノーレッジとアリス・マーガトロイドは、残された資料と睨めっこしながら、霧雨魔理沙が遺した完成途中の魔法、その究明に明け暮れていった。

 しかしその一方で、霧雨魔理沙の遺書を読んだ十六夜咲夜は、博麗霊夢に耳打ちする。

 

『ねえ、これってひょっとして時間移動の……』

『結論を急ぐのは早いわ咲夜。餅は餅屋って言うでしょ? あの二人に任せましょう』

『……そうね』

 

 やがて結論はまた後日ということになり、この日は解散となった。

 

 

 

 あれから1週間後の午前11時05分、博麗霊夢は再度紅魔館の大図書館を訪れていた。

 

『あれから何か分かった?』

 

 隣に座る十六夜咲夜が用意した紅茶を飲みつつ、閲覧机越しに着席する二人の魔法使いに問いかける。アリス・マーガトロイドはパチュリー・ノーレッジに目配せし、頷いた彼女が口を開く。

 

『結論から言いましょう。ここ1週間アリスとずっと徹夜で調べ続けていたけれど、私達の知識をもってしても完全には理解しきれなかったわ。かの有名なヴォイニッチ手稿の如く、全てを知るのは今は亡き魔理沙って所かしらね』

『……』

『でもね、私達でも辛うじて理解できた部分と遺書の内容を照らしあわせて、魔理沙がなにを目指していたのかは何となくだけど分かったわ』

『それでも構わないわ。教えてちょうだい』

『どうも魔理沙はね、時渡りの術、いわゆるタイムトラベルを試みようとしてたみたいなのよ』

『……そう、そうだったのね』

 

 タイムトラベル――遺書の内容からして、もしかしたらそうなんじゃないかと薄々感づいていた博麗霊夢にとってはあまり驚きはなかった。だが同時に、ここでも現れた〝タイムトラベル″という単語に、強い因縁めいたものを感じていた。

 

『時間移動なんて未だかつて誰も成し遂げたことのない夢。志半ばで息絶えてしまった魔理沙の苦悩は、計り知れないものがあるでしょうね』

『…………』

 

 この時博麗霊夢の脳内では、ちょうど50年前、時間旅行者魔理沙が忘れていった時間移動の魔導書をパチュリー・ノーレッジに調べてもらった〝無かった事になった日″の出来事が浮かんでいた。

 

『でもまだ諦めるのは早いわ。今はまだ無理でも、時間をかければ魔理沙が考えていた理論が分かるかもしれない』 

『ええ。魔法使いとしての誇りに掛けて必ず解明して見せる』

『……いえ、もういいわ。これ以上は調べないでちょうだい』

 

 強い意気込みを見せていた二人の魔法使いに、待ったを掛けた博麗霊夢だったが、納得いかないアリス・マーガトロイドは珍しく語気を強める。

 

『どうして!? だって魔理沙が死ぬ間際にまで研究していた魔法なのよ?』

『そうじゃないの。どうせ調べようとしたって無駄なのよ。あんた達は忘れてるかもしれないけど、それは私が一度失敗した道なの』

『っ! 何意味分からない事言ってるのよ! 挑戦する前から諦めるなんて貴女らしくないわよ!』

『落ち着いてアリス。私は諦めてなんか――』

『遺言書にも書いてあったじゃない。『私の替わりに意思を継いで欲しい』って! 魔理沙の最期の願いを無駄にするの!?』

『いや、あのね。そういうことじゃなくて――』

『はいはい、ストップ。ここで喧嘩してもしょうがないでしょ。冷静になりなさいアリス』

『……そうね』

 

 パチュリー・ノーレッジにたしなめられたアリス・マーガトロイドは、胸に手を当てて何度か深呼吸をし、心を落ち着かせた。

 

『霊夢、貴女は何を知っているの? 教えて欲しいわ』

『それに先週は聞きそびれたけど、魔理沙の遺書は『……50年前の宴会の夜でお前が話していた事が真実なのだとしたら、そいつはきっと選択を誤らず、全てが上手くいった〝私″なんだろう。今の心境ならお前の話を信じても良かったかもしれない――』と締めくくられていたわよね? この言葉は何を意味してるのかしら?』

 

 二人の魔法使いに問い詰められ、ずっと黙って話を聞いていた十六夜咲夜からもアイサインを送られた博麗霊夢は、少し考えてから。

 

『……今から話すことはここだけの話にしてね』

 

 そう前置きして、博麗霊夢は50年前の夏に起きた時間旅行者霧雨魔理沙にまつわる出来事を事細かに話していった。

 

『――というわけ』

『タイムトラベルが実在していたなんて……! そんなことが現実にあり得るの? 信じられないわ』

『……興味深い話ね』

『けどこれは真実よ。魔理沙にもちゃんと説明したんだけど、聞きいれてもらえなかったのよね。……今思えばあの時から私と魔理沙の関係はおかしくなっちゃったのかなぁ』

 

 別の歴史の魔理沙の存在、十六夜咲夜の正体、なかったことにされた夏の日の出来事、どれもこれもが眉唾物の話に驚愕する二人の魔法使いとは対照的に、博麗霊夢は憂いた表情で大きな溜息を吐いていた。

 

『霊夢の話は噓ではありませんよ。私も一度タイムトラベラーの魔理沙と会ってますから』

『咲夜まで……』

『50年前のあの日、私も霊夢と一緒にフォローに回っていれば今日とは違った結末が訪れたかもしれませんね。その点が悔やまれる所です』

『咲夜のせいじゃないわ。どれもこれも私の説明不足が原因なんだから』

 

 責任を感じ俯く十六夜咲夜をフォローする博麗霊夢に、アリス・マーガトロイドとパチュリー・ノーレッジはこの話は真実なのだ、と確信を得ていた。

 

『……つまりこれまでの話を纏めると、たとえ私達が時間移動の研究を推し進めても、咲夜の姿をした時の神様が介入してくるから意味がない。だから霊夢は私達に反対したのね?』

『概ねそんな感じよ。時間の秘密を探ろうとした私もタイムリープするはめになったからね。もし本格的に研究を始めたら〝歴史から抹消″されるかもしれないわ』

『そんな不条理な理由で調査を中止して欲しいなんて……! 時の神とやらの正体は咲夜なんでしょ? この惨状を見てなにも感じないわけ? 魔理沙が報われないじゃないのよ……』

『でもここで何を言っても無駄でしょうね。散々私の知的好奇心をもてあそんでおいてお預けにされるのは悔しいけど、歴史からの抹消なんて反則的な手段を講じられたらお手上げだわ。それに〝宇宙の歴史の保護″という大義名分の元に時間移動を禁じているのなら、むしろ時の神のスタンスは道理にかなっているでしょう』

『感心してる場合じゃないでしょ!』

 

 時の神十六夜咲夜に対して、次々と不満の言葉を口にする二人の魔法使い。〝自分ではない私″を責められている十六夜咲夜は居心地の悪さを感じ、ただ口をつぐむばかりだった。

 

『アリスの言う通り、もちろん私も今のままで良いとは思ってない。魔理沙が自分の人生に満足したまま亡くなったのならともかく、あんな後悔に塗れた遺書を見ちゃったら何とかしてあげたいわよ……!』

『……けれど、時間移動が禁じられている以上、どうしようもないわよ?』 

『元々私は未来の魔理沙と再会するために人間を辞めて仙人になったの。その約束の時間は今から100年後の9月21日。この日にさっき話した時間移動の魔法――タイムジャンプを完成させた歴史の魔理沙が現れるわ。彼女ならきっとこの結末を変えてくれる。その時まで待ちましょう』

『……成程。それが良さそうね。未来の魔理沙にはまだまだ沢山聞きたいことがあるし楽しみだわ』

『私も霊夢に賛成。また魔理沙に会えるのなら……』

『決まりね』

 

 そうして話が纏まった所で、女神咲夜は観測を一旦停止した。

 

 

 

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「深い絶望を味わった霊夢は、この時魔理沙に希望を見出したのね。それが彼女の生きる糧となり、道標となった」

 

 先程の映像から博麗霊夢の心情と行動原理を推し量る女神咲夜。

 〝十六夜咲夜″の気持ちとしては、ずっと落ち込んでいた博麗霊夢が前向きな姿勢になったことに喜び、〝時の神″としての立場からは、パチュリー・ノーレッジとアリス・マーガトロイドの両名が時間移動の研究を断念したことに、深い安堵を覚えていた。

 時の番人として存在し続けている以上私情を挟む事は許されない。幻想郷で十六夜咲夜としての人生を体験したことで、機械のように凍てついた心に人間らしい感情が生まれた彼女にとっては、かつての友人達を歴史から抹消するような真似だけは避けたかった。

 

「さて、魔理沙に会うために修行の日々を続ける霊夢だけど、西暦2108年――霊夢が仙人になってからちょうど100年目に、人生最大の試練が訪れるのよね。この時間を見てみましょう」

 




この章が始まってから大分時間が経ってしまったので、この後書きに4章のここまでの歴史年表を置きます。


文章量としては2000文字近くあって長いので、この後書きは読み飛ばしても構いません。



          
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【W】西暦200X年9月2日 タイムトラベラー魔理沙、人間の魔理沙と入れ替わる。霊夢と接触、
 
      
   同日午前10時20分⇒咲夜の時間停止に巻き込まれてしまったタイムトラベラー魔理沙は、仕方なく咲夜を捜すことにする。
   
   
   同日午後⇒霊夢に正体がばれてしまったタイムトラベラー魔理沙。思い切って正体をばらし、妖怪になるよう勧める。
   
   
   同日夜⇒ 霊夢、妖怪になることを決意。タイムトラベラー魔理沙はここで約束を交わし、未来に帰る。 

        その後人間の魔理沙が現れて、霊夢の自宅へ泊って行く。
        
        
 西暦200X年9月3日⇒霊夢、紫に博麗の巫女を辞めて妖怪になることを伝える。紫、それを承認。
 
  
   9月4日夜⇒博麗神社の宴会で人間を辞める宣言。最後まで魔理沙が食い下がったので霊夢が真相を伝えるも、魔理沙は信じなかった。
      
   
   9月5日午後1時10分⇒咲夜の証言によると、魔理沙は霊夢がふざけた事を話したことにいまだ怒っているようだった。   
      
    同日午後3時30分⇒霊夢は魔理沙の家に謝りにいったが、魔理沙は聞く耳を持たなかった。
    
    
   9月6日午後3時20分⇒紅魔館で行われた咲夜と霊夢のお茶会。何を言って怒らせたのか気になる咲夜だったが、霊夢は真相を話すことを恐れて何も話さず。翌日もう1度魔理沙に謝りに行く事に。
   
   
   9月7日午前9時35分⇒魔理沙の家に再び謝罪にいく霊夢。霊夢の説明は最後まで信じてもらえなかったものの、魔理沙との関係を修復することはできた。
   
   
   9月9日午後2時57分⇒霊夢、咲夜とのお茶会で、咲夜がお嬢様から提案された吸血鬼になることを断ったことで、レミリアが圧力をかけてきていることに悩む。霊夢は、大切な人と過ごす時間がどれだけ貴重な物かを説いて、よく考えるように説得する。
   
   ついでに、ここで時間旅行者霧雨魔理沙の存在を、咲夜が知っていたことに霊夢が初めて気づく。お互いに情報交換を行い、咲夜は、霊夢の全ての秘密を知った。
   
   
   9月16日午後2時15分⇒紅魔館に招待された霊夢、そこで咲夜が吸血鬼になったことを知る。咲夜は霊夢の言葉で考えを改めて、永遠にレミリアに仕える道を選ぶ。
     
     それと同時に、女神咲夜≠十六夜咲夜となり、二人の存在は一致しなくなり、死後、女神咲夜の元へ魂が還る事はことはなくなった。(正確には死ななくなったので、女神咲夜の元へ魂が還らない。もし死ねば女神咲夜と記憶が一致する) 
             
   
 西暦2008年4月6日午前10時⇒ 霊夢、博麗の巫女を、後任の巫女(退魔師の家系の少女)に譲る。そして博麗の名を捨てることなく、霊夢は仙人になるべく茨華扇の屋敷へと向かう。
 
  
   10月10日午前11時05分⇒ 半年に渡る修行の末、霊夢は見事仙人へと昇華する。そのことを降りて魔理沙に伝えに行くと、魔理沙は複雑な気持ちを抱えつつも歓迎の言葉を投げた。そして、肉体の時間を止める魔法(老いをごまかす魔法)を使うかどうか迷う。      

 西暦2010年5月15日午後4時00分⇒仙人霊夢に弾幕ごっこで負けまくる17歳の人間魔理沙。魔女になってしまうかどうか悩むも、結局人として生きることを決意。姿を偽る魔法を使用する。
 

 西暦2020年3月29日午後1時20分⇒27歳の人間魔理沙。努力が実り霊夢と5分5分で戦えるように。この時霊夢に自分が魔女になったと嘘をつく。

 
 西暦2054年8月2日午後3時00分⇒霊夢と妹紅の弾幕ごっこを羨望の眼差しで見つめる魔理沙。
 

   同年8月3日午前11時30分⇒61歳の人間魔理沙。秘密を知ったアリスに、人間を辞めるように説得されるも、それを拒否。人であることの誇りを持って。そしてアリスにだけ、この世界をひっくり返す魔法を開発してることを明かす。
   
   
 西暦205X年1月30日午前10時02分⇒魔理沙、心臓発作を起こし死亡。さらに遺書を読んだ霊夢は悲しみに明け暮れる。
 

 西暦205X年2月4日午前9時49分⇒紅魔館で魔理沙の遺書と、遺した研究の書類を調査するアリスとパチュリー。結論は一週間後に
 

 西暦205X年2月11日午前11時05分⇒死の間際まで魔理沙が研究していた題材はタイムトラベルと判明。魔理沙亡き後研究を引き継ごうとする二人だったが、霊夢はタイムトラベラーの魔理沙の存在を告白する。話し合いの結果、霊夢が約束した100年後まで待つことに決める。
 

 西暦2108年10月10日⇒霊夢の歴史⑧で描写する予定

 

 西暦215X年9月21日 未来を救った魔理沙だったが、気持ちはすっかりと晴れない。紅魔館のパチュリーとアリスに相談し、霊夢に会いに行くことを決める。(西暦200X年9月2日へ時間遡航)【W】へ


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暫定的にこんな感じになってます。読んでくださった方には感謝です

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