魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第130話 霊夢の歴史⑨~⑫

 

 四季映姫の仕事がひと段落付き、博麗霊夢の自宅を訪れたのは二日後の午後4時20分のことだった。

 

『この家で間違いありませんね?』

『はい。寺子屋の先生や子ども達がそう話していましたし、間違いないでしょう』

『『霊夢様、霊夢様』と、人々から随分慕われているみたいねぇ』

『彼女は珍しく〝人間側″の妖怪ですからねぇ。これまでに起きた数々の異変からも人間達を守ってきましたし、博麗の名は伊達じゃないってことでしょう』

 

 博麗霊夢が仙人になってからちょうど100年が経過したこの頃には、彼女は人々の助けとなってくれる妖怪という事で、稗田一族が代々執筆する幻想郷縁起では人間友好度・高、危険度・低と記されており、上白沢慧音と並んでかなり名の知れた存在となっていた。

 

『人間と妖怪では善行の定義が変わってきます。彼女が巫女だった頃に善行を重ねていれば、と思ってしまいますね』

 

 そんなことを口にしつつ、四季映姫は呼び鈴を鳴らす。清涼な音が家の中に響き渡り、自宅で静養していた博麗霊夢は重い腰を上げ、玄関へと向かう。

 

『は~い、どちらさまー? ……うげっ、あんたは!』

『人の顔を見るなり失礼な物言いですね。そもそもあなたは日頃から礼節を欠いてる節がある――』

『ふん、わざわざ私の自宅まで押しかけて、そんな説教をしに来たのかしら? もしくは私の命を狙いにでも……?』

 

 四季映姫の後ろに立つ小野塚小町の姿をちらりと見て、距離を置いて身構える博麗霊夢。彼女は二日前の戦闘で受けた傷が完全に癒えておらず、見える範囲でも頭や腕、足首に包帯を巻き、とても痛々しい姿となっていた。

 その姿に、四季映姫は戦う意思のない姿勢を見せつつこう言った。

 

『いいえ違います。今日は幾らか尋ねたいことがあって来ました』

『その言葉、信用してもいいのかしら?』

『私は閻魔で小町は三途の川の船頭。そもそも〝管轄″が違いますから、貴女の命を狙う理由はありません』

 

 目を見てきっぱりと言い切る四季映姫。その目に噓偽りがなさそうだと判断した博麗霊夢は、彼女達に近づいて扉を開けた。

 

『……確かにそのようね。上がりなさい』

『お邪魔しますね』

 

 許しを得た二人は自宅に上がり込み、入ってすぐの畳部屋の中心に置かれたこたつ机の前に正座する。部屋の中は生活に必要最低限の家具が置かれているだけで、普段から質素な生活を送っていることが伺えるものだった。

 

『それで? 私に尋ねたい事って何よ? あんた自らが出張って来るなんて余程のことでしょうね』

『一昨日のことです。貴女は我々が派遣した死神と戦いましたよね?』

『ええ、それはもう大変だったわ。この怪我を見ればわかるでしょ? あんな卑劣な手を使うなんて地獄の連中は碌でもない奴ばかりね』

 

 着物を捲り、体の至る所に巻かれた包帯を見せつける博麗霊夢に、四季映姫は何も反論しなかった。              

 

『……そして貴女は戦いに勝利した後、『魔理沙に再会するまで死ぬわけにはいかない』と口にしたそうですが……どういう意味ですか?』

『な、なんでそれを知ってるの!?』

『単純な話です。小町に命じて一昨日の貴女の戦いを見張らせていました』

『……っ! そういうこと、趣味が悪いわね』

 

 歯ぎしりしながら二人を睨みつける博麗霊夢。敵意を向けられた小野塚小町は気まずそうな表情をしていたが、四季映姫は顔色一つ変えずに口を開く。

 

『彼女の裁判を行った時からずっと引っかかっていましたが、一昨日の貴女の言動で確信が強まりました。もしや幻想郷には、私達の知らない〝魔理沙″が存在するのではないですか?』

『……どうしてそう思うの? だって魔理沙は51年前に、な、亡くなってるのよ……? グスッ。ただの噓話とは思わないの?』

 

 途中で言葉が詰まり、無意識のうちにじんわりと涙が溢れ出す博麗霊夢。様子の変化に気づきながらも、四季映姫は敢えて見て見ぬ振りをしながら問い詰める。

 

『私はこれまで多くの死者を見て来ました。彼らが今わの際に抱く感情は、後悔、恨み、悲しみ、喜び――列挙してはキリがない程に複雑なものです。その経験則から言わせてもらうと、わざわざ仙人になってまで生に執着した人間が、生きるか死ぬか、極限の状況を切り抜けた直後に発した心の叫びが嘘とは到底思えません』

『っ!』

 

 四季映姫の言葉はまさに核心を突いたもので、反論の余地がなかった。それ故に博麗霊夢は誤魔化すのは無理だと悟り、四季映姫の目的を探ることにした。

 

『……か、仮に別の魔理沙がいたとして、あんたに何か関係があるの? まさか、魔理沙が〝有罪″だとでもいいたいの?』

『私はただ真意を見極めたいだけです。もし彼女が恣意的に運命を改竄しているのであれば、私の立場としては看過できませんから』

『魔理沙がそんなことするわけないでしょ!』

『それを判断するのは私です。貴女ではありません』

 

 一触即発の空気が漂いはじめ、黙って会話の成り行きを見守っていた小野塚小町は、もしかしたら殴り合いに発展するんじゃないか――とハラハラした気持ちでいっぱいになっていた。

 

『さあ答えてください。〝魔理沙″はいつ、どこに現れるんですか?』

『……あんたらに話すことなんて何もない! 帰ってちょうだい! 顔も見たくないわ!』

『……分かりました。小町、お暇しますよ』

『え? あ、はい!』

 

 涙ながらに声を荒げる博麗霊夢に、四季映姫は顔色一つ変えずに立ち上がり、小野塚小町は後ろ髪を引かれながらも、彼女に続いて家を出た。

 

 

 

『追い出されちゃいましたけど、良かったんですか四季様?』

『収穫はあったわ。霊夢のあの反応は答えを言っているようなものね』

『私としては彼女の心の傷を抉ったようで、罪悪感ありますけどねぇ。今度謝りに行かないと』

『嫌われるのはもう慣れてますよ。これくらいのことで音を上げていたら閻魔は務まりませんから』

『四季様……』

 

 淡々と話す四季映姫だったが、彼女が一瞬見せたナイーブな表情を小野塚小町は見逃さなかった。

 

『……これからどうするつもりなんです? 手掛かりも無くなってしまいましたし』

『亡くなった魔理沙の記憶と、一昨日の霊夢の証言を照らしあわせれば、〝もう1人の魔理沙″は西暦200X年から150年後――即ち今から49年後のいずれかの日に、霊夢は必ず魔理沙と接触するはずです』

『今年が西暦2108年だから、西暦215X年ですか。なんだか気の長い話ですねぇ』

『ですがこの時を逃せば二度と会えないかもしれません。再び別の時間に跳ばれてしまったら、私達に知る術はありませんから。この年になったら、霊夢に監視を付けるよう根回しをしておくことにしましょう』

『四季様、その時が来たらぜひ私にも教えてください。ここまで関わってしまった以上、結末が気になりますから』

『……いいでしょう。その代わり、ちゃんと働きなさいよ?』

『分かってますって!』

 

 そんな話をしながら森の中を歩く二人の背中が遠ざかっていくシーンで、映像はフェードアウトしていった。

 

 

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「魔法使いの次は閻魔と死神かぁ。色んな人から注目される魔理沙って人気者よねぇ。人間の〝私″とは大違い」

 

 魔理沙がこれだけ多くの種族から関心が向けられるのは、タイムトラベラーとしての価値なのか、はたまた彼女の特異な人間性か。恐らくその両方なのだと、女神咲夜は考えていた。

 

「約束の時間になった時に、果たしてちゃんと収拾が付くのかしらね? そこもしっかりと観察する必要がありそうだわ」

 

 続けて女神咲夜は、新たに歴史改変の影響を受けた四季映姫へと思考を持っていく。

 

「四季映姫……、彼女は確か、地球が銀河帝国に滅ぼされた歴史でも忠実に職務を全うしていたのよね。尤も、死者の多さと、輪廻の輪の消滅のせいでどうしようもない状態に陥ったみたいだったけど」

 

 かつての歴史を思い出す女神咲夜。あの時は流石の彼女も大いに驚き、何が原因なのかを探るのに少なくない時間を費やした案件だった。

 その拗れてしまった歴史を是正する解決策として、自らの正体を現し、世界に絶望しかけていた魔理沙が立ち直るよう遠回しに仕向けたことで、直接的な介入を避けた――という裏事情がある。

 

「ところで善悪とは何なのかしらね。時代や環境によって、何が正義で何が悪なのか変化するものだけど、四季映姫が判断する善悪とはどこを基準にしているのかしら。遺伝子に刻まれた本能的な部分なのか、その時代に合わせて柔軟に変化していくモノなのか……」

 

 女神咲夜の思考が明後日な方向を向いている最中にも、透過ディスプレイの映像は次に観測すべき時刻を指し示していた――。

 

 

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 時刻は西暦2151年4月19日、午後4時35分。22世紀も中盤に差し掛かる時代になっても古き良き日本の風景が残る幻想郷。

 春のうららかな気候が心地よい晴天の日のこと、かつて霊夢と名もなき死神が死闘を繰り広げた山の中から観測が開始された。

 

『はっはっはっはっはっ』

 

 映像の中心には、息を切らして山道を駆け下りる20代前半の女性の姿。外の世界ではめっきり見なくなった和装に身を包む彼女はくたびれた竹籠を背負っており、その中には採ったばかりの新鮮な山菜が入っていた。

 

『ウォォォォ!』

『あぁ、ついてない! どうして私はこんなところまで来ちゃったんだろ! 欲張るんじゃなかった!』

 

 逃げて来た方角からは野良の狼妖怪の遠吠えが響き渡り、自分の軽率な行動に後悔しつつも、安全圏となる人里まで必死に手足を動かし続けていく。

 彼女はフルマラソンを走破出来るレベルの健脚の持ち主で、足にはかなり自信がある方ではあったが、さすがに狼相手では分が悪く、差をじわりじわりと詰められていた。

 

『はあっはあっ。まだ影は見えてないし、とにかく早く山を降りないと……きゃあっ!』

 

 追手を気にして足元が疎かになっていた彼女は、山道まで張り出した木の根っこに足を引っかけ、頭からおもいっきり地面に転んでしまう。

 

『あいたたた~……』

 

 転んだ衝撃で周囲に散らばってしまった山菜には目もくれず、体勢を立て直してすぐに走りだそうとする彼女だったが、その致命的なタイムロスを狼妖怪が見逃すはずもなく。

 

『そんな……!』

 

 彼女が気づいた時には、涎を垂らした亜麻色の毛並みの狼妖怪がすぐ目の前まで迫り、鋭い爪が彼女目掛けて振り下ろされ――

 

『――させないわ!』

 

 その時、草木の間を縫うように飛んできた一枚のお札が狼妖怪の胴体に命中。

 

『キャウン!』

 

 亜麻色の毛並みの狼妖怪は子犬のような悲鳴をあげながら、山道の脇の草むらへと吹っ飛ばされ、そのまま泡を吹いて息絶えた。

 

『い、一体何があったの……?』

『どうやら間に合ったようね。大丈夫?』

『あ、貴女は……! 霊夢様!』

 

 目の前で起きた出来事に唖然としていた女性だったが、繁みを掻き分けながら登場した博麗霊夢の姿を見て安堵する。

 

『危ない所を助けていただいて、ありがとうございます』

『いいのいいの。それより貴女、見た所人里の人間でしょ? なんで妖怪の対策も碌にしないでこんな山奥まで登って来てんのよ』

『山菜を採りに山へ登っていたらつい夢中になってしまって。あ、あはは』

『なるほどねぇ……』

 

 あまりにも間抜けな言い訳に、博麗霊夢はただため息しか出なかった。

 

『とにかくいつまでもここに居る訳にはいかないわ。歩ける?』

『大丈夫――いたっ』

 

 立ち上がろうとした女性だったが、右足に電気ショックにも似た痛みが走り、堪らず尻餅をついてしまった。

 

『あらら、これはしばらく動けそうにないわね。ちょっと見せなさい』

 

 博麗霊夢は彼女の足の怪我の具合を見て、背負っていた風呂敷包みの中から薬を取り出し応急処置を施していく。ついでに、辺りに散らかっていた山菜を拾い集めて彼女の籠に戻すのも忘れずに。

 

『こんなもんで良いかな。さ、麓まで背負っていくわ。乗りなさい』

『え? 宜しいのですか?』

『遠慮する必要はないわ。ちょうど私も人里に降りようと思ってた所だったし』

『何から何まですみません。お言葉に甘えさせていただきます』

 

 そうして博麗霊夢は自分よりも背丈が高い女性を軽々と背負い、下山して行った。

 

 

 

                    ◇◇◇◇◇

 

 

 

『~なんですよ』

『へぇ、そんな穴場があったんだ。舞さんは良く知ってるのね?』

『偶然見つけただけですよ。霊夢様もぜひ行ってみてください』

 

 あれから妖怪に襲われる事無く、背中の彼女と取り留めのない話をしながら歩き続け、博麗霊夢が人里近くまで降りて来た頃には、辺りはすっかり茜色に染まる時間帯になっていた。

 

『やっと人里が見えて来たわね』

『あぁ、生きて帰ることが出来て本当に良かった……』

 

 人里が見える距離まで近づいたことで、彼女の緊張の糸がほぐれ、大きく息を吐いた。幾つもの異変を解決してきた博麗霊夢と違い、彼女はか弱い人間に過ぎない。どれだけ平静を装っていても、先程狼妖怪に喰い殺されそうなった事への恐怖心は拭いきれずにいた。

 

『私が付いてるんだから当然よ。ところで足の具合はどんな感じ? まだ痛む?』

『はい……。まだズキズキ痛くて、満足に歩けそうにないです』

『それなら自宅まで送り届けてあげる。貴女の家はどこにあるの?』

『入り口の門をくぐったらそこの通りを直進して、次の角を右に曲がって――』

 

 彼女の指示通りに人里を歩き回り、10分もしないうちに辿り着いた場所は、景観に溶け込むように路地の一角に建つ、ごく普通の木造家屋だった。

 博麗霊夢は引き戸の枠を足で引っかけるようにして強引に開き、彼女を上がり框へと慎重に座らせる。

 

『おかえり、おかーさん!』

 

 ガラガラと玄関の扉が開く音を聞きつけ廊下の奥から駆けつけたのは、母親譲りの黒い瞳が綺麗な、年端もいかない少女だった。

 

『ただいま杏子。もう寺子屋の授業は終わったの?』

『うん! きょうもいっぱいべんきょうしてね、やっと九九をぜんぶおぼえたんだ!』

『まぁ、偉い偉い。杏子は天才ね!』

『えへへ』

 

 くしゃくしゃの笑顔を見せる少女は、ここで初めて見慣れない人物が母親の傍にいる事に気づき、関心が移り変わる。

  

『おねえちゃんだあれ?』

『私は博麗霊夢よ。山で転んで歩けなくなったお母さんをたまたま見つけてね、ここまで送り届けに来たの』

『そうなの? だいじょうぶ?』

『捻挫みたいだし、しばらく安静にしていればすぐに治るわ』

『そっかー。よかったぁ。おねえちゃんありがと~』

『ふふ、どういたしまして』

『帰ったのか~舞?』

 

 玄関が騒がしい事に気づき、舞と呼ばれた女性と同じ年頃の優男が奥から姿を現す。

 

『……え! れ、霊夢様!?』

 

 人里ではかなりの有名人である、博麗霊夢の思いがけない来客に素っ頓狂な声を上げていたが、舞の足に巻かれた包帯を認識すると、彼女に心配そうに声をかける。

 

『そ、それにその足の怪我は……なにがあったんだ舞?』

『妖怪に襲われそうになった所を霊夢様に助けていただいて、ここまで送ってもらったのよ』 

『そうでしたか……! 私の妻がお世話になりまして、何とお礼をすればいいか……!』

『あなたは命の恩人です』

『べ、別に当然のことをしたまでよ』

 

 夫婦揃ってペコペコと感謝される博麗霊夢は、少しのむずがゆさを感じつつも、悪い気はしていなかった。

 

『それより、次からは山奥まで登っちゃ駄目よ? 私がたまたま近くに居たから良かったものの、一歩遅かったら大変なことになってたかもしれないんだから』

『今日の事で妖怪の怖さが身に染みました。誰もかれもが霊夢様のように人間に優しい妖怪ばかりではないのですね。これからはもう、人里から出ないようにします』

『そこまで極端じゃなくてもいいんだけど……。まあ貴女がそういうのであれば、止めはしないわ』

 

 そして話に区切りが付いたところで博麗霊夢は立ち上がり。

 

『さて、私はそろそろ行くわ。多分骨は折れていないと思うけど、もし痛みが引かないようなら医者に診てもらいなさい』

『怪我が治ったらお礼に伺いますね』

『おねえちゃん、またきてね!』

 

 若夫婦と少女に見送られながら家を後にした。

 

 

 ――――――

 

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 ――――――――――――――――――  

 

 

「ふ~んなるほど……」

 

 恐らく、時間旅行者霧雨魔理沙は予期していなかったであろう所から歴史の変化を観測し、注意深く映像を見つめる女神咲夜。

 今回観測した時間の出来事は、単に博麗霊夢が人助けをしただけのちっぽけな話に見えるが、タイムトラベラー魔理沙を取り巻く歴史の流れにおいては、少なくない意味合いを持つ出来事だった。

 

「この少女の〝心の闇″となる原因を知らず知らずのうちに霊夢が取り除いた事で、性格が180度変化することになり、215X年の未来が変わることになるのね」

 

 時間旅行者霧雨魔理沙が博麗霊夢を仙人の道へ誘う前の歴史では、この時間に杏子の母親は狼の妖怪に殺されてしまう運命だった。それによって杏子は妖怪に強い憎しみを持つようになり、博麗の巫女に任命されて以降、博麗神社に妖怪避けの結界を張り巡らせる行動を取る。

 そんな博麗杏子の事情を知らず、西暦215X年9月18日に博麗神社を訪問した時間旅行者霧雨魔理沙は襲われてしまい、逃げる為に使ったタイムジャンプの行先が偶然にも31世紀の幻想郷となり、破滅の未来を知った彼女はそれ以後31世紀の幻想郷を救うべく奔走する――という歴史に繋がる。

 そこに至る因果が今回の一件によって消滅してしまったことになるが、女神咲夜は楽観的な見方をしていた。

  

「だけどこの程度なら『31世紀の幻想郷の存続』という因果は崩れないでしょう。例え無かったことにされても、魔理沙が幻想郷を救った事実は揺るぎのないものだから――」

 

 

 

 

「さて、見た所これで終わりかしらね?」

 

 次に観測すべき時間が、西暦215X年9月21日――時間旅行者霧雨魔理沙と仙人博麗霊夢が再会する日付――なのを確認し、これまでの観測結果の総括に入っていく。

 

「こうして霊夢の150年を断片的に振り返ってみたけど……、全体的に重い話よねぇ。見ててあまり良い気分のものではなかったわ。魔理沙を中心に、多くの妖怪達の思惑が渦巻くこの状況。はてさて、この悲劇的な結末に対してどう対処するつもりなのかしら?」

 

 女神咲夜は、観測対象を時間旅行者霧雨魔理沙に変更し、彼女の動向を再び追い始めていった。




タイトルに『霊夢の歴史』と付けた話は、『時の回廊から、それぞれの時間に起きた出来事を観測する女神咲夜』という神の視点の元に執筆してきました。

今回の話でやっと時間が追い付いたので、次回からはタイムトラベラーの魔理沙の1人称視点に戻ります。

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