魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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多くの感想ありがとうございます。
前回の話は、かつて最終回にする予定の話でした。


あらすじ

元の時代に帰って来た魔理沙は、そこで霊夢と再会を果たした。


第132話 再会②

「……そうか。霊夢は仙人になったのか」

「うん。魔理沙が帰った次の日から修行を始めてね、翌年に巫女を後任の子に譲って仙人になったのよ」

「霊夢が仙人だなんて全然想像が付かないな。大変だったんじゃないか?」

「辛い事や苦しい事も沢山あったけど、魔理沙のことを想えば全然苦じゃなかったわ」

「私のためにありがとう。嬉しいよ」

 

 霊夢のことについて色々と聞いていた時。

 

「……完全に二人だけの世界に入ってる所悪いんだけど、そろそろいいかしら?」

「「!」」

 

 会話が終わる頃合いを見計らったようなタイミングでアリスに声を掛けられ、ひしひしと抱き合っていた私と霊夢は慌てて離れる。近くには、微笑ましい表情のアリスと銀髪の少女。

 霊夢に気を取られて周りが見えなくなっていたが、そういえばアリス達がいたんだっけ。ヤバい、さっきのやり取りを丸々見られていたと思うと、急に恥ずかしくなってきた。

 現に霊夢も、頬を染めつつアリスに向かって文句を付けている。

  

「な、何よアリス。驚かさないでよ。いつから見てたの?」

「いやいやいや、私ずっとここに居たからね? そんな居なかった人扱いしないで」

「くす、無理もないわよ。霊夢はずっと魔理沙のことを待ち続けてたんですもの。アリスの方こそ、魔理沙にかなりびっくりしてたじゃない」

「えぇそうね。正直な所霊夢の話は半信半疑だったけど、本当に魔理沙と再会できるなんて奇跡としか言いようがないわ」

 

 穏やかな笑みを浮かべるアリス。

 

「おいおい、奇跡だなんて大袈裟だな。アリスってそんなロマンチストだっけか」

「魔理沙には分からないでしょうね~。貴女が居なくなった時から、私達がどんな気持ちでこの日を待ち望んでいたことか」

「特に霊夢なんか、昨日はずっとそわそわしてて、落ち着きがなかったじゃない?」

「そうそう。霊夢はこの日の為に着物を新調して、普段以上に気合入れておめかししてるもんねえ」

「い、いつの間にそれを」

「霊夢が利用したあの呉服屋さんは私もよく利用してるのよ。そこのおばちゃんが教えてくれたわ」

「むぅ、あのおばちゃんはお喋りなんだから~! と、とにかく私の事よりも今は魔理沙でしょ!」

 

 何やら楽し気な会話をしているようだが、私は先程から気になる所があった。

 

「なあ、ちょっといいか? さっきからずっと気になってたんだが、そこにいる咲夜そっくりのメイドは何者なんだ?」

 

 自然と会話に混ざる彼女は、霊夢やアリスと随分親しげな仲のようだが。

 

「そっくりも何も、彼女は咲夜本人よ」

「えぇ! そうなのか?」

 

 思わず彼女の方を見てしまう私。確かに、瞳の色が紅色に変化してる所と背中に生えた羽以外は咲夜と瓜二つだが。

 

「霊夢の言う通り、私は正真正銘十六夜咲夜よ」

 

 彼女は自然な手つきで懐中時計を手に取り、竜頭を押す。私と咲夜以外の全てが写真のように切り取られ、目の前のアリスと霊夢は人形のように固まった。

 

「これは時間停止か」

「その通り。どう? 分かってくれた?」

「あぁ、これはまぎれもない咲夜の力だな」

 

 私が頷くと、世界が再び息を吹き返す。別に霊夢の話を疑っていたわけではなかったのだが、こんな芸当のできる人はそうそういないだろうし、彼女は私の知る咲夜で間違いない。

 

「しっかし驚いたな~、まさかお前が人間を辞めるなんて。その姿から見るにレミリアの眷属になったんだろ? どんな心境の変化があったんだ?」

 

 こうして近くで見ると分かるが、吸血鬼となった咲夜は、男女問わず虜にしてしまうような小悪魔的な魅力があった。最も、咲夜は自らの美貌を武器にするようなあざとい性格ではないが。

 

「その経緯を話すと長くなるわ。立ち話もなんだし、落ち着いて話せる場所に移動しない?」

「賛成。私も魔理沙と話したい事が山ほどあるし」

「んじゃ目の前に私の家があるんだし、そこで話そうぜ」

 

 かくして、私は霊夢達を引き連れて自宅へと移動していった。

 

 

 

「お邪魔しまーす」

「おう」

 

 玄関の扉を開けて、自分も靴を脱いで上がろうとした時、たたきの隅に揃えて置かれた、ブーツが目に入る。

 

(ん? 誰か来てるのか?)

 

 靴を脱ぎ捨て、リビングへ向かったそこには。

 

「久しぶりね魔理沙。お邪魔してるわ」

「パチュリー!」

 

 フカフカのソファーに身を預け、自宅のように遠慮なく寛ぐパチュリーが居た。膝には開いたままの魔導書、そして彼女の目の前のテーブルには、大図書館から持参したと思われる三冊の魔導書が積まれており、随分と長い間ここにいた様子。

 

「貴女達の会話は全部ここまで聞こえていたわよ。長年の願いが叶って良かったわね、霊夢」

「ええ、私は今とても幸せよ。また魔理沙と再会出来たんですもの」

 

 こっちが聞いてて恥ずかしくなるようなセリフを、何の躊躇いもなく笑顔で放つ霊夢。おかげで周囲から浴びせられる温かい視線が気になってしょうがない。……霊夢ってこんな性格だっけか?

 とはいえそれを否定するのも躊躇われるし、霊夢のことは置いておくことにしよう。

 

「パチュリーはどうして私の家に?」

「霊夢からこの時間に魔理沙が現れると聞いてね、中で勝手に待たせてもらっていたわ。頃合いを見て出て行こうと思ったんだけど、貴女達がここに来てくれたおかげで私が動く手間が省けたわ」       

「呆れた。私が誘いに行った時は面倒だからって言って断った癖に」

「無駄に時間を浪費するよりは、有意義に使った方が良いでしょう?」 

「はは、なるほどな」

 

 アリスはおかんむりだったが、何とも彼女らしい理由だと私は思う。

 

「ま、とにかく適当な所に座ってくれ」

「私、魔理沙の隣ね!」

「私はお茶菓子を用意してくるわ。キッチン借りるわよ」

「悪いな。頼んだ」

「咲夜。私も手伝おうか?」

「じゃあお願い」

 

 咲夜とアリスはキッチンへ向かい、一方で私と霊夢は空いていたソファーに座る。

 

「あの二人が作るお菓子は美味いからなぁ」

「ここ150年でかなり腕を上げたからね。期待していていいわよ」

「へぇ、それは楽しみだ」

 

 多少の高揚感と共に、咲夜とアリスを待っていた時。

 

「……」

 

 テーブルを挟んで向かい側のソファーに座るパチュリーが、読書の手を止めまじまじと私を見つめている事に気づいた。

 

「なんだよ?」

「ふふ、その希望と確固たる意志に満ちた強い瞳。とても懐かしいわ……。貴女はかつて私が惹かれた特質を失っていない魔理沙なのね」

「はぁ?」

 

 いきなり良く分からないことを言う。

 

「……パチュリーはまだ、あの事を引きずっていたのね」

「引きずっている――というよりかは、私が勝手に理想を押し付けて、失望し、嘆いていただけ。でもそれも今日で終わり。この眼を見れただけでもここまで足を運んで正解だったわ」

「……そっか」

「おいおい、それはどういう意味だよ」

「…………」

 

 パチュリーは私の質問に答えず、膝元に視線を落としていた。

 

 

 

「おまたせ~」

 

 やがて、キッチンからトレイを持った咲夜とアリスがリビングに戻り、人形を器用に操りながら、手際よくテーブルの上にお菓子が盛り付けられた食器とティーセットを並べていく。

 

「わぁ、美味しそう!」

 

 彼女らが用意したスイーツに目を輝かせる霊夢。というのも、二人が用意したお菓子はちょっとしたパーティーを開けそうなくらいの量だったからだ。

 

(マフィンにホールケーキにプリン、更には饅頭まであるのか。ちょくちょく時間が止まっていた事には気づいてたが、これを作っていたからなのか)

 

「凄い量のお菓子ね」

「アリスが手伝ってくれた甲斐あって、かなり奮発しちゃったわ」

「咲夜とアリスが作るスイーツはとても美味いからな、そんじゃ頂くぜ」

「どうぞどうぞ。遠慮なく食べちゃって!」 

「これ全部食べたら太りそうだわ……」

「あんたは線が細すぎるし、もっと沢山食べた方がいいと思うけどね」

「むしろ貴女の方が異常だと思うのだけれど。人間だった頃より食べる量増えてない?」

「仙人の修行は大変なのよ。しっかり食べて栄養付けないと」

「甘味ばっか摂ってるのはどうなのかしら?」

「うっさいわねー」

 

 おもいおもいにお菓子を手に取り味わっていく少女達。配膳を終えたアリスと咲夜はパチュリーの隣に座っていた。

 それらを横目に私も出来立てほやほやのマフィンに齧りつく。熱々のふんわりとした生地と、舌触りの良いバターの味が口の中で溶けていく。

 

「めっちゃ美味いな!」

「ん~幸せ~♪ 生きてて良かったわぁ」

「クスクス、霊夢はいつも大袈裟なんだから」

 

 咲夜が淹れた紅茶も、甘さが控えめで癖のない味となっており、マフィンと一緒に飲むと少しの酸味が効いたミルクティーに早変わりする。全体の調和を考えている所が流石メイドと称賛すべきか。私には到底真似出来そうにない。

 

「頬が落ちそうな味ね。とても美味しいわ」

「うん。我ながらいい出来」

 

 至福の表情でお菓子を味わっているアリスとパチュリーの姿を見て、私は出発前の一幕を思い出した。


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