魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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今夜の紅い月は綺麗でしたね
皆既月食はとても神秘的なものです。




前回のあらすじ

霊夢の他にも、アリス、パチュリー、咲夜と再会した魔理沙は自宅へ移動し、アリスと咲夜が用意したお菓子を楽しみつつ、それぞれの事情を聴くことにする。


第133話 それぞれの事情

「そうだ。アリス、パチュリー、さっきはありがとな。私が自分の心に正直になれたのも、お前達が背中を押してくれたおかげだよ」

「え?」

「なんのこと?」

 

 食べかけのお菓子が盛られた皿を持ったまま、キョトンとしている二人。

 

「おいおい、とぼけなくてもいいだろ。生きる目的を見失っていた私の悩みを聞いて、立ち直る切っ掛けを与えてくれたじゃないか。多分時間的には――」

 

 と、ここで時計を見て初めて、私は初歩的なミスを犯していた事に気がついた。

 

(し、しまった! 今の時間は午後1時00分じゃないか! 帰る時間を間違えた!)

 

 紅魔館の大図書館でアリスとパチュリーに悩みを打ち明け、霊夢に会いに行くと決心してタイムジャンプを使用した時刻が今日の午後3時。今から2時間後のことであり、この時間はまだ悩みを打ち明けている真っ最中だった。

 これまで、過去・未来、どちらの方角に跳ぶにせよ、タイムジャンプの際には〝それを使用した時刻より5分以上先の時間″に戻るよう、計算してタイムジャンプを行って来た。同じ時刻に〝二人の私″が存在することは歴史にどんな影響が起こるか分かったもんじゃないし、タイムパラドックスの可能性が生まれ、何かとややこしい事態を引き起こしかねないからだ。

 ところが、霊夢と別れてタイムジャンプをする時、あの時の雰囲気に呑まれ、無意識のうちに今日の正午を指定してしまっていた。すなわち、今この時間の紅魔館の大図書館にはもう一人の私が……

 

(……いや、待てよ? 目の前にアリスとパチュリーがいるのにそれはおかしくないか?)

 

 ここから紅魔館までどんなに急いでも10分以上は掛かる距離だし、アリスとパチュリーはもっと前の時間からここで私を待ち構えていた様子。私が大図書館を訪れた時は、帰る時まで一歩も外に出ていなかった。

 同時刻に同一人物が別の場所に同時に存在し、それぞれが自我を持って行動することは、フランや萃香のような一部の例外を除いて不可能であり、アリスとパチュリーはその例外に当てはまらない。これは明らかにおかしいことだ。

 記憶と現実のギャップ、この明らかな矛盾に説明を付けるとするならば。

 

(あの会話そのものが今回の歴史改変で上書きされたのか? だとすると、その前の時間の出来事も……)

 

「……魔理沙、魔理沙!」

「!」

 

 思索に耽っている私を呼び戻したのはアリスの声だった。

 

「どうしたの魔理沙? 急に黙り込んじゃって」

「なにか言いかけてから途中で止めないでよ。凄く気になるじゃない」

 

 考えに夢中になっている間に、全員の注目を集めていたことに気がついた。

 

(これは確かめる必要性がありそうだな)

 

「アリス、パチュリー。〝私″と最後に会ったのはいつだ?」

「〝私″って〝貴女″?」

「ああ」

 

 私に向けて人差し指を差すパチュリーに、はっきりと頷く。

 

「霊夢からタイムトラベラー魔理沙の話は聞いていたけど、魔理沙に直接会ったのは今日が初めてよ」

 

 パチュリーの言い分にアリスも無言で頷いている。

 

「私の認識ではアリスには『五日前』、パチュリーとは『四日前』に会った筈なんだが、覚えてないか?」

「その日の私は、自宅で丸一日新作の人形の制作にかかりっきりだったし、家には誰も訪ねてこなかったけど」

「私はいつもの大図書館でずっと読書してたわ。その日に顔を見たのはレミィと咲夜と小悪魔くらいね」

「ふむ……やっぱりそうなのか」

 

 どうやら私の仮説は正しかったようだ。

 客観的な時間で今から五日前の9月16日。この日は私が150年前の7月20日に時間遡航し、『霊夢の自殺』を『霊夢が人間のまま天寿を全うする歴史』へと過去改変してから元の時間に戻って来た日だ。

 この過去改変の影響により、私の『アリスやパチュリーの手を借りながらタイムジャンプ魔法を開発した150年』が、『私の存在が抹消されて、私とは違う歴史の〝人間の私″が誕生し、霊夢の1年後に死亡した』という歴史に修正されたことで、アリスに偽物と勘違いされて襲われたことがあった。

 その後お互いに情報交換をすることで誤解が解け、アリスの第二の自宅となっていた私の家を快く返してもらう――という歴史に繋がっていく。

 翌日――今から四日前――の9月17日には、紅魔館へ遊びに行った私にパチュリーが甚く驚き、アリスの時と同じように事情を説明して私のことを分かってもらい、そこで偶然遭遇したレミリアに、201X年に亡くなった咲夜を助けて欲しいと乞われ、再び200X年に時間遡航していった。

 

(きっとこれは、〝今日″私が200X年に跳んだことが原因なんだろうな)

 

 これらの事象は全て、『霊夢が人間のまま天寿を全うする』という史実の元に成り立っていた。故にその前提が覆ったことで、私が体験したこの出来事はなかったことにされてしまった。と考えるのが自然だろう。

 まあ最も、この時にアリスとパチュリーに話した、時間に纏わる複数の世界線――いわゆるパラレルワールド理論についての説明は完全な間違いだったので、その点だけ考えれば良かったのかもしれない。

 

「ちょっと! 一人で納得してないで、説明しなさいよ」

「あぁ、スマン。実はな――」

 

 たった今自分なりに考えて導き出した結論を、その前提となった200X年の7月20日から順に話していった。

 

 

 

「――ってことがあったんだ」

「魔理沙も苦労していたのね……」

「ややこしくてこんがらがりそうだけど、魔理沙の事情は良く分かったわ」

「ええ、とても興味深い話だったわ」

 

 神妙な表情で話を聞いている霊夢とアリス、何処かから取り出したメモに熱心に書き込んでいくパチュリー。唯一涼しい顔をしているのは咲夜くらいか。

 

「たとえ生きて来た歴史が違っても、私達との繋がりは深かったのね」

「三人寄れば文殊の知恵とも言うが、まさにそんな感じだったな。アリスとパチュリーには、時間移動の研究の時にかなり助けてもらったよ」

「そんな出来事があったのに、全く覚えていないのは残念でならないわ」

「誰の記憶にも記録にも残らないなんて不思議ねぇ」

「私達は魔理沙を認めてるから信じられるけど、そうじゃなかったら狂人としか思えないわね」

「記憶が残るのは歴史改変に関わった当事者だけだからな」

「それにもう一つビックリしたのが、過去の歴史ではとっくの昔に咲夜が亡くなっていたって事実ね」

「咲夜がいない紅魔館なんて想像が付かないわ。その歴史の私やレミィは何を想っていたのかしら……」

「私はむしろ咲夜がこの時代まで生きている事に驚いてるよ。ほんの数時間前に――ああ、いや。200X年の9月2日に会った時は人であることに固執してたのに、どういう風の吹き回しなんだ?」

 

 そう尋ねると、咲夜はゆっくりと紅茶を置いて200X年9月9日の出来事を語ってくれた。その事を要約すると以下の通りになる。

 同年の9月4日、その夜に博麗神社で催された宴会で、霊夢は年内に巫女を辞めると大々的に発表したそうだ。その発表を聞いたレミリアは、一度は諦めていた咲夜の眷属化の気持ちが再燃し、その日以降遠回しに咲夜へ迫るようになり始めた。

 そのプレッシャーに咲夜は悩み、思い切って霊夢に相談してみた所、9月2日――私が霊夢に150年後まで生きて欲しいと告白したあの日――の出来事を持ち出し、大切な人と過ごす時間がどれだけ貴重なものかを説いたそうだ。

 そうして心がぐらつきはじめていた時に、私が霊夢に何気なく話した咲夜の素性が本人の耳に入り、自らが抱えていた自己同一性――人間である事への拘りが薄れ、レミリアの願いを承諾したとのこと。

 

「なるほどなぁ。そんなことがあったのか」

 

 自分が何者なのかで悩んでいたとは。何でもこなす完璧超人だと思っていたけど、案外年相応な悩みがあったんだなぁ。

 

「今ではこの選択は正しかったと心の底から思っているわ。後押ししてくれた霊夢には感謝しないとね」

「私はあくまで話を聞いただけ。最終的に決断したのはあんたなんだから」

 

 二人の屈託のない笑顔が、お互いの間に築かれた深い信頼関係を窺わせる。

 

「そうそう。昔話ついでに、魔理沙に一つ聞いておきたかった事があったのよ」

「なんだ?」

「200X年の9月1日、貴女が未来のお嬢様からの手紙を持って来た時の話なんだけど。その時の私は未来のお嬢様からの提案を断って、別れ際に、『私の人生が終わった時に初めて、お嬢様の手紙にきちんとした返事が出来ると思うのよ』って言って、201X年6月6日に白玉楼で会う約束をしたんだけど、覚えてる?」

「もちろん。あの後すぐに約束の時間に跳んだぜ」

 

 即答した私に咲夜は微妙な表情をしていた。なんだ? 

 

「この時は人間のまま死ぬと決めていたけど、後になってお嬢様と同じ永遠の生を享受する道を選んだ訳だから、そのことをちゃんと説明しようと思って白玉楼に行ったのよ」

「ふむふむ」

「でも魔理沙は現れなくて、待ちぼうけになってしまったわ。あの時どうして来てくれなかったの?」

「え、私は夜の10時過ぎに、西行妖の木の下で咲夜と話をしたぞ」

「夜の10時過ぎ? 日付が変わるまで白玉楼で待たせてもらったけど、誰も来なかったわよ?」

「魔理沙が変な所から入ったんじゃないのー? そのせいで咲夜が気が付かなかったとか」

「確かに、魔理沙ならやりかねないわね」

「そんな下らないことするか! 妖夢の案内の元に正門から堂々と入ったんだって!」

 

 何故だか会話が噛み合わない。あの日は妖夢に西行妖の木の下まで案内され、そこで幽霊の咲夜と――。

 

「……ああ、そういうことか。そもそも前提から間違っているのか」

「?」

「私が行った時はさ、こんなことがあったんだ」

 

 そう前置きして、私は201X年6月6日――幽霊の咲夜に会った時の出来事を仔細に話していった。

 

「――ってことがあってな。お前の死に際は見事なものだったぜ」

「……自分が死ぬ瞬間を聞かされた時って、どう反応したら良いのかしらね」

 

 これ以上にないくらいに困惑している咲夜に、私はさらに言葉を続ける。

 

「これは仮説だけどな、咲夜が吸血鬼になったその時から私が過去に戻る因果が崩れ、結果として〝私が白玉楼に向かった″客観的事実が無くなり、お前の前に現れなかったんだろう」

「そういうものなのかしらね? なんか納得いかないけど」

「でも素敵よね。どちらの顛末に転がったとしても、咲夜は悔いのない人生を送ったんだから」

「こんなに愛されてるレミリアが羨ましいわね」

「……そうね。過去の私も幸せだったと願うばかりだわ」

 

 かつての自分に想いを馳せるように、咲夜は呟いた。

 

 

 

 お互いに話が一区切り付いた所で、私はこの家に入った時から気になっていた質問をする。

 

「そういえばさ、元々ここにいたであろう霧雨マリサはどうなったんだ?」

 

 霊夢や咲夜の人生が180度変化している以上、マリサの歴史も私の知識とは違った結末を迎えたかもしれない。単なる好奇心と言えばそれまでだが、別の可能性を辿った自分のことに興味がある。

 

「「「「…………」」」」

 

 そんな軽い気持ちで口にした言葉は、もしかしたら禁断の質問だったのかもしれない。彼女達は引きつった表情になり、先程までの和やかなムードから一転、真冬の湖のように凍り付いた。

 

「な、なんだよ。この空気」

「……そっか、こっちの魔理沙は知らないのよね」

「恐れていた時がついに来てしまったわ」

 

 困惑する私をよそに、霊夢達は身を乗り出し、辛うじて聞き取れるくらいの声でこそこそと相談を始めた。 

 

「どうするの? あの時は話し合いの末に〝託す″って決めたわけだけど……」

「魔理沙の気持ちを考えたらとてもじゃないけど無理よ。だって、せっかく霊夢に会えたのよ? このまま知らないでいた方が幸せだわ」

「そうよね……。魔理沙の居場所を奪いかねないもの」

「…………いいえ、やっぱり話すべきよ。他でもない魔理沙のことだし」

「霊夢……」

「人間のマリサのことは、私が代表して魔理沙に伝える」

「本当にいいの?」

「うん。それが私の責任だと思うから」

「……分かったわ。お願いね」

「辛い役目を押し付けてごめんなさい」

「気にしないで」

 

 やがて話が纏まったのか、霊夢が私に向き直る。

 

「待たせたわね」

「あ、あぁ。それで、どうなんだ?」

「マリサのことについて教えてもいいけど、これを聞いたら貴女にとって辛い現実が待っているかもしれない」

「え?」

「知らぬが仏ってことわざがあるように、世の中には知らない方が良い真実もあるの。今ならまだ聞かなかったことに出来るし、その選択をしても私達は責めないわ。……それでも、知る覚悟はある?」

「!!」

 

 潜めるような声で喋る霊夢から深海のように暗い感情を感じ取り、ぞわりと肌が粟立つのを感じる。周りを見渡せば、アリス、咲夜、パチュリーが固唾をのんで見守っており、決して冗談を言っているような雰囲気ではなさそうだ。

 いったいこの歴史のマリサは何をしでかしたのだろうか。何かの事件や事故に巻き込まれ、不慮の死を遂げたのか。はたまた、傍若無人な振る舞いをしすぎて嫌われ者になってしまったのか。あるいは、幻想郷から追放されるような人の道から外れた行いを犯し、今も拭い切れない悪評が後世まで残っているのか。考えだしたらキリがないが、少なくとも肯定的な結末でないことは雰囲気で分かる。

 だがこんなことで恐れるつもりはない。未来の世界で、幻想郷を存続させる為に粉骨砕身してきた事を思えば、大概の事は乗り越えられると信じているからだ。

 

「ああ。聞かせてくれ。同じ魔理沙として、知らなければならないと思うんだ」

「……ん。分かった」

 

 微かな声で頷く霊夢は陰鬱な顔をしていて、本心では私の答えを望んでいなかったような、そんな気がするものだった。




ここまでお読みいただきありがとうございました。

本文中に登場した日付に起きた出来事の詳細は以下の話に掲載されていす。

『五日前(215X年9月16日)』⇒第1章15話~16話

『四日前(215X年9月17日)』⇒第2章17話~18話

『200X年9月1日』⇒第2章19話~21話 

『201X年6月6日』⇒第2章22話

『今日(霊夢が寿命で死亡した歴史の215X年9月21日)』⇒第4章114話

『200X年9月2日』⇒第4章117話~120話

『200X年9月9日』⇒第4章124話


魔理沙が時間移動した歴史の順に並べてあります。
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