魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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前回のあらすじ

マリサを助ける為150年前に時間遡航しようとした魔理沙の前に、四季映姫が立ちふさがる。


第136話 四季映姫の主張

 ――西暦215X年9月21日午後4時18分――

 

 

 

 

 ほんの僅かな時間移動を終えた私の視界に飛び込んできたのは、互いに向かい合いながら言い争う映姫と霊夢の姿だった。

 

「私、言った筈よね? 二度と顔を見たくないって。どの面下げて私の前に現れたわけ?」

「貴女の意思は関係ありません。私は私なりの理由があってここに来たのですから」

「よくもぬけぬけと……! 魔理沙に何をするつもりなのよ!」

「貴女も大概しつこいですね。まだあの時の事を根に持ってるんですか」

「当たり前じゃない! 思い出したら今でもムカついて来たわ!」

「ま、まあまあ落ち着きなよ。私達はただ話し合いをしに来ただけだからさ」

「何が話し合いよ。最初からやる気満々だったくせに! あんたこそいきなり魔理沙に襲い掛かったりしてさ、もし魔理沙が怪我したらどうすんの!?」

「えぇ!? それは、その……」

 

 ヒートアップしつつある二人に小町が仲裁に入るものの、霊夢の怒りが自分に飛び火してしまい、たじろいでしまっていた。

 私は彼女らを遠巻きに見ているアリス達の元に歩いていき、質問する。

 

「なあ、私がいない3分間に何があったんだ?」 

「魔理沙が居なくなってから、霊夢が急に怒り出しちゃって、さっきからずっとあの調子よ」

「あんな冷静さを欠いた霊夢は久しぶりに見ましたわ」

「まあ気持ちは分からないでもないけどね。霊夢は魔理沙(マリサ)のことになると、見境が無くなるから」

 

 私のために怒ってくれてるのは嬉しいけど、怒りの矛先が向けられた小町が段々可哀想になって来たので、そろそろ止めに入ろうと思う。

 アリス達から離れて、霊夢達の元へと向かっていく。

 

「霊夢、もうその辺にしてあげてくれ。あいつらと過去に何があったかは知らないけど、ちょっと言い過ぎだ」

「……分かったわよ」

 

 霊夢は不満を露わにしながらも、渋々ながら引っ込め、小町はほっとした表情を見せていた。

 

「それで、私に話ってなんだよ。タイムトラベルについて聞きたいみたいだが……そもそもどうやって私のことを知ったんだ? お前も歴史改変の影響を受けない存在なのか?」

「事は今から100年前……人間のマリサが亡くなった所まで遡ります」

 

 そう前置きして、つらつらと語ったことを要約すると以下の通りになる。

 

 今から100年前、マリサが亡くなったことでその魂が地獄へ向かい、死者を裁く裁判が行われた。その時の裁判長がちょうど彼女であり、特に問題なく裁判が進みマリサの魂を転生させはしたものの、一つ気になる部分があった。

 それがマリサではない〝私″の存在であり、嘘や妄想の類にしては心が澄み切っていて、まるで真実であるかのように信じ切っていた。

 その事が頭の片隅に引っかかったまま月日が流れ、転機が訪れたのはマリサの死から51年の月日が経過した2108年の10月10日のことだった。

 この日は霊夢が仙人となってちょうど100年目となる年で、長く生き過ぎた人間の寿命を刈り取る為に、是非曲直庁から死神が霊夢の元へ派遣され、弾幕ごっこ抜きの本気のバトルを繰り広げたそうだ。

 そして死闘の末に霊夢は辛くも死神を退け、その時に私の名前を叫んでいたことで過去に抱いた疑念が深まり、翌々日、小町と共に霊夢の家を訪れた。

 霊夢は私の事を何も話はしなかったものの、霊夢の不審な態度でタイムトラベラーの私の存在を確信し、今年になってからその動向を部下の死神に見張らせていた。そして今日、私が姿を現した報告を聞き、急いで仕事を片付けて魔法の森までやって来たとのこと。

 

「……成程な」

 

 なんというべきか、未来予測っていうのはとても難しいなと思ってしまう私だった。

  

「この事に気づけたのは僥倖でしょう。亡くなったマリサの事が無ければ、私も気が付きませんでしたから」

「見張りが付けられていたなんて、一生の不覚だわ……。まさかあんなことやこんな事も視てたんじゃないでしょうね? プライバシーの侵害よ!」

「その辺りはきちんと配慮してありますのでご安心を」

「そういう問題じゃなーい!」

 

 プリプリとしている霊夢との会話を強引に終え、映姫は私と向かい合う。

 

「魔理沙。先程の貴女の口ぶりからして、私の預り知らぬ所で幾たびも歴史の改竄を行っていたようですね。貴女はその事の重大さを分かっているのですか?」

「何が言いたい」

「歴史とは、先人達の努力と知恵によって築き上げられて来たものです。それがやがて文化・社会となり、文明へと発展していきました。貴女のタイムトラベルは、そんな彼らの人生や想いを弄んでいるのですよ?」

「…………」

「一個人の手によって歴史を否定するような所業を、私の立場上見過ごす訳にはいきません。貴女は全ての命を冒涜しています!」 

 

 その宣告と共に大地が震え、稲妻のような衝撃が走る。見目麗しい容貌とは裏腹に、閻魔としての威圧感を露わにするものだった。

 

「これはまた……嫌な展開になって来たわね」

「あの閻魔の主張は、言ってみれば時間移動へのアンチテーゼね」

「でも言われてみればそうかもしれませんね。今私達がこうして居られるのも、先人達の礎の元に成り立っているわけですし。もしタイムトラベルの影響で歴史上の大きな分岐点が変化したら、現代にどんな影響が出るか想像が付かないわ」

「いまいちピンと来ないんだけど、幻想郷で例えるとしたらなんだろ」

「そうねぇ。私の立場から言えば、レミィが起こした吸血鬼異変や紅霧異変辺りを挙げたい所だけど、一番単純明快なのが〝もし幻想郷創設に携わった妖怪の賢者が居なかったら″でしょうね」

「妖怪の賢者って、八雲紫のこと?」

「ええ。もし彼女がいなければ、本格的に科学が発展し始めた明治時代には幻想郷は消滅していたでしょうね。それだけ、この幻想郷は彼女に比重しているわ」

「うーん、あまり深く考えてなかったけど、言葉にしてみると末恐ろしいわね」

「さて魔理沙はどう返事するのかしら。閻魔の言い分は筋が通っているように感じますが」

「私としては亡くなったマリサの為にも、諦めて欲しくないんだけど……」

 

 私と映姫の会話を見守っていた外野の声が、耳に入って来る。

 確かに映姫の発言を全て否定することは出来ない。私は自分の欲のままに霊夢の人生を変えたし、未来の幻想郷を救う為に頑張っていた筈が、地球滅亡という最悪の結末へ導いてしまったこともある。既に無かった事にしたとはいえ、その罪は大きいだろう。

 

「魔理沙……」

 

 押し黙る私を不安そうに見つめる霊夢と、一言も喋らずに傍観する小町。内心では反論の余地がなくて無言でいると思っているのかもしれないが、私にもちゃんと論がある。このまま言われっぱなしではいられない。

 私は頭の中で考えを纏め上げ、意を決して口を開いた。


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