魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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最高評価感謝です。



前回のあらすじ

タイムトラベルをしようとした魔理沙の前に立ちふさがった四季映姫。
彼女はむやみやたらに歴史を変えてはならないと主張する。


第137話 魔理沙の主張

「……確かにお前の主張にも理があるのは認めよう。だがな、私は自身に降りかかった不幸な結末を認められなかったから過去を変えたんだ。誰だって『あの時ああすれば良かった』と過去を悔やむことがあるだろう? 私はその選択をやり直す力を得て、手の届く範囲内で幸福な結末を探っているに過ぎない」

「それは論点のすり替えでしょう。何が幸せで何が不幸か、なんて事は貴女が決めることではありません。結局は最もらしい理由を付けて自分の行いを正当化しているだけではありませんか」

「過去の失敗や間違いを変えられる手段があるのに、それを使わない方が間違ってると思うぜ。人間、誰だって幸せになりたいんだからさ」

「途轍もなく散漫な考えですね。貴女のタイムトラベルの影響によって、知らず知らずのうちに人生が変わった人だっているかもしれないんですよ?」

「私はあくまで、歴史の流れが自分の望む方向へ行くように仕向けているだけだ。その流れに乗ってくれるかどうかは、その時代を生きる人間達が判断することだよ」

 

 未来の幻想郷がその好例と言える。一時期、どれだけ頑張っても幻想郷滅亡の歴史へ収束してしまったのはその時代の世界情勢によるもので、人間達の意思決定によるものだった。

 なので世界の潮流を変える際には、その兆候が現れ始める前の時点で、革新的な変化を促さなければいけない。

 

「ついでに言うとな、歴史ってのは極僅かな誤差の範囲内なら現象の変化に至らず、元の歴史と同じ結末に収束するようになっているんだ。無から有を生み出せないように、個々人の行動原理や知識、自然現象などの複合的要因が因果に結びつかなければ影響は出ないぜ」

 

 そうでなければ、私が過去や未来へ時間移動した時点でそれまでの時間との連続性がなくなり、結果的には時間移動する意味がなくなってしまうからだ。

 原因と結果が結びつかなければ未来は変化しない。逆に言えば、事象の収束を越える現象を起こすことで、意識・無意識に関わらず人々の意思選択を変化させ、それがバタフライエフェクトや過去改変という結果として現れる。

 矛盾しているように感じるかもしれないが、これまでの経験則から間違いない。

 その事を説明したのだが、彼女は頑なな表情を崩すことはなかった。

 

「ああ言えばこう言う。あくまで開き直るのですね」

「当たり前だ。逆に聞くがお前はどうなんだ? 過去の選択に後悔したことはないのか? 過去をやり直したいと願ったことはないのか?」

「ありませんね。例えどんな結果になろうとそれが自然の摂理、運命だと思って受け入れています」

「へぇ、それはまた随分とご立派なことで。私の見地から言わせてもらうと、運命なんてもんはないけどな」

「当たり前でしょう。貴女はその運命すら、自分の都合の良いように歪ませているのですから」

「「…………」」

 

 正反対の主義主張が真っ向からぶつかり合い、火花が散るような睨み合いが続く私達。

 

「ふーん、面白い切り口から攻めて来たわね。完璧な反証にはなってないけど、相手を説得させるには充分な材料だわ」

「魔理沙の話パチュリーは分かったの? なんかもう、ちんぷんかんぷんなんだけど」

「要は風が吹けば桶屋が儲かるってことよ」

「……ああ、そういうこと」

 

 またもや聞こえてくる外野の声。

 

「お互いに平行線ですか。ならここで問答してても仕方ないですね。貴女の過去の行いによって全て判ります」

 

 そして映姫は懐から手鏡を取り出して見せながら。

 

「浄玻璃の鏡を使わせていただきます。よろしいですね?」

「……ああ」

 

 有無を言わさぬ圧力を掛けられ仕方なく頷くと、彼女は私に向けて一度だけ鏡面を見せてから、鏡の中を覗き込んでいった。

 

「へぇ、あれが噂の浄玻璃の鏡なのね。知識としては知っていたけど、実物は初めて見たわ」

「確かあれに映し出されると、その人の過去の行いが全て明らかにされちゃうんだっけ。嫌な道具よねぇ。プライバシーも何もないじゃない」

「魔理沙はすんなりと受けいれていたみたいだけど、何か策があってのことなのかしら」

 

 アリスの言う通り、過去を覗かれるのはあまり良い気分ではないのだが、変に拒否して心証を悪くするよりかは受けいれた方がいいと思っての行動だった。

 これで考えを変えてくれるのなら良し、まあいざとなれば、逃げてしまえばいいんだし。

 緊張感を抱きつつ彼女の反応を待っていた時、変化が訪れた。

 

「こ、これは……!? まさか、そんな……!」

 

 鏡の中を覗いていた彼女は、傍目から見ても面白いくらいに狼狽していて、小町や霊夢が目を丸くしながら映姫を見つめていた。あの反応からして、きっと過去に起きた未来の出来事を視たに違いない。

 

「私の記憶と過去を視たのなら分かるだろう? 運命に身を任せて何も行動を起こさなければ、悲惨な結果が待っていたことに」

「……!」

「それでもお前は歴史改変が悪だと言い切れるのか?」

 

 私の訴えに、彼女はしばし考え込んでから重い口を開く。

 

「…………貴女は、自分の行いに責任を持てるのですか?」

「もちろんだ。私はそうやって時間を旅してきた。そして今、私が過去へ遡るのも気に入らない歴史を変える為なんだ」

 

 試すような物言いに対し、私は確固たる意思を持って断言した。

 

「……気持ちは分かりました。魔理沙、貴女を信じて今回は見逃しましょう」

「本当か!」

「ですが勘違いしないでください。もし貴女が悪意の元に歴史改変を起こすようなことがあれば、必ず断罪します。どの時間に居ようとも貴女の行いは神様が見ていることをお忘れなく」

「精々気を付けるよ。それじゃ私は行くぜ」

 

 紆余曲折あったもののようやく過去に跳べそうだ。

 

「タイムジャンプ発動!」

 

 霊夢達の前で、再度歯車模様の魔方陣が出現する。小町は興味深そうに、映姫は険しい目つきでその行方を見守っている様子。

 

「行先は時の回廊!」

 

 私の体は捻じれるような奇妙な感覚と共に、魔方陣の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 ――side out――

 

 

 

 霧雨魔理沙がこの時間から跡形もなく消え去ったのを確認してから、四季映姫は口を開く。

 

「……行ったようですね。はてさて、私の言葉がちゃんと届いたかどうか」

「あんたが見逃すとは思わなかったわ。てっきり魔理沙を断罪しに来たのかと思ったんだけど、意外と柔軟なのね」

「彼女の人生の軌跡を見て総合的に判断したまでです。それにどうやら私も、世界の枠組みの一つのようですから」

「?」

「運命とは時として残酷なものです。同情すべきなのは彼女の方なのでしょうね……。壮絶な過去でしたよ」

 

 感傷に浸る四季映姫の本心は誰にも分からない。

 

「博麗霊夢。貴女は良き出会いに恵まれましたね。心の底から泣き笑い、命を投げ打てるような人間は一生涯の友人です。これからも大切にしてあげる事ですね」

「そんなの言われるまでもないことね。魔理沙(マリサ)は私のかけがえのない親友なんだから!」

 

 博麗霊夢は一切の恥を見せることなく、誇りを持って声高々に公言した――。

 

 

 


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