(まさかこんなことになるとはなあ)
霊夢、映姫、さとり、マリサ、そして今回の咲夜……偶然か必然か、ここのところ大きな選択を迫られるケースが多すぎる。
とはいえそんなことを愚痴るつもりはない。彼女の言う通りしっかり考える必要はあるだろう。
(私にとって何が良いか……)
『もうタイムトラベル出来なくなる』そのように言い渡されたことについては特に何とも思わない。元々霊夢さえ助け出せればいいと思っていたし、彼女が仙人になって、マリサが魔女になった今の歴史は理想的な世界といえる。歴史の修正力が働こうとしたくらいだ、むしろ一つになるのが自然なのかもしれない。
では自分の本心はどうなのか?
『私はマリサのことを良く思っちゃあいない。霧雨魔理沙は私の筈なのに、なんでアイツの為に肩身の狭い思いをしなきゃいけないのか?』
200X年9月5日、地霊殿のさとりの部屋で、彼女に心の声を読まれた上でマリサについて聞かれた時、そう言い放ったのを思い出す。しかしその後『……それでもな、マリサは私なんだよ。死んだマリサの、悔しさや、後悔が、これ以上にないくらい痛感できるからこそ、何が何でも助けてやりたいんだ』とも答えた。
あの時は相反する気持ちを抱きつつも、マリサを助けることを選び、行動に移した。
それからマリサから本心を聞いて、私は霧雨魔理沙として在り続けるマリサに、一方で彼女は時間移動の力を持ち、霊夢の心を奪った〝私″に。互いが互いを嫉妬してると気づき、こんな事を考えていた自分が馬鹿らしくもなった。
彼女も私も、歴史は違えど同じ霧雨魔理沙だと認め、分かり合えた。同一化しても抵抗はなく彼女も受け入れてくれだろうし、その逆もしかり。なるほど、確かにどちらの道を選んでも不思議ではないな。
(私はどうしたいんだろうな)
終わりが見えない思考のるつぼにハマっていた時、彼女達の言葉が脳裏に浮かぶ。
『例え歴史が違っても魔理沙は魔理沙なのよ。私はあなたの支えになりたいの』
『150年後にまた会おう。その時になったら、私と一緒の時間を過ごしてくれないか?』
『――! ええ、分かったわ! 必ず会いましょうね!』
『貴女とはまだ話したいことがあるわ。いつでも紅魔館にいらっしゃい。その時は歓迎するわ』
『新たな歴史でまた会いましょう。貴女と再び顔を合わせる日が来ることを楽しみにしてますわ』
『魔理沙! 私、待ってるからね! 絶対帰って来てね!』
(――そうか。私にはちゃんと帰る場所があるんだな)
ポケットに右手を突っ込むと、指先に硬い何かがぶつかる。何だろうと思いながら取り出してみると、それは赤い長方形の小型メモリースティックだった。
『この中にはアプト星の地図と、あたしの自宅がある住所が記載されています。その……いつかあたしの家に遊びに来てください! もし来てくれたのなら歓迎しますよ!』
39億年前の地球で交わした、宇宙人の少女との約束。
「待たせたな咲夜。考えが決まったよ」
そう言って椅子から立つと、咲夜は私の目の前まで歩いて来た。
「200X年の霊夢はさ、マリサと古い歴史の私の違いを知った上で私を受け入れてくれた。そして私が生きる時代では、霊夢だけじゃなく、アリスやパチュリー、吸血鬼のお前だって私の帰りを待ってくれている。こんなに嬉しい事はない」
「貴女はここで立ち止まらず、進む道を選ぶのね」
「そうだ。それに私にはまだ行きたい所があるからな」
アンナから貰ったメモリースティックを見せつけた。
「……ふふ。やっぱり貴女は私の期待を裏切らないのね」
一瞬呆気に取られつつも、何かを察したように笑みを浮かべた咲夜は、右手を掲げ、指を弾く。瞬間、この空間の半分を覆っていた暗闇は跡形もなく消え去り、消えた春と秋の光景と共に、地平線の果てまで続く回廊が復活した。
「貴女の特異点化を強めておいたわ。もう行っても大丈夫よ」
「サンキュな」
「幻想郷の〝私″によろしくね」
見送る咲夜に別れを告げ、私は約束の時間へと戻って行った。
――side out――
時間旅行者霧雨魔理沙が去った後の時の回廊で、女神咲夜は先程の出来事を振り返っていた。
「まさか魔理沙が同一化する道を選ばなかったとはねぇ。未来が予測できないことがこんなに面白いなんて」
彼女はまだ熱が残る座席に座り、目の前に広がる巨大な透過スクリーンに視線をやる。
「さて、マリサが魔女になったことで幻想郷はどう変化したのかしらね。以前までの歴史と比較していきましょうか」
ありがとうございました。
今回魔理沙が女神咲夜の提案に乗った方の結末も、番外編として第4章が終わった時に公開できればよいかなと思ってます。