魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

154 / 283
第153話 魔理沙の結末(後編)

(まさかこんなことになるとはなあ)

 

 霊夢、映姫、さとり、マリサ、そして今回の咲夜……偶然か必然か、ここのところ大きな選択を迫られるケースが多すぎる。

 とはいえそんなことを愚痴るつもりはない。彼女の言う通りしっかり考える必要はあるだろう。

 

(私にとって何が良いか……)

 

『もうタイムトラベル出来なくなる』そのように言い渡されたことについては特に何とも思わない。元々霊夢さえ助け出せればいいと思っていたし、彼女が仙人になって、マリサが魔女になった今の歴史は理想的な世界といえる。歴史の修正力が働こうとしたくらいだ、むしろ一つになるのが自然なのかもしれない。

 では自分の本心はどうなのか?

 

『私はマリサのことを良く思っちゃあいない。霧雨魔理沙は私の筈なのに、なんでアイツの為に肩身の狭い思いをしなきゃいけないのか?』

 

 200X年9月5日、地霊殿のさとりの部屋で、彼女に心の声を読まれた上でマリサについて聞かれた時、そう言い放ったのを思い出す。しかしその後『……それでもな、マリサは私なんだよ。死んだマリサの、悔しさや、後悔が、これ以上にないくらい痛感できるからこそ、何が何でも助けてやりたいんだ』とも答えた。

 あの時は相反する気持ちを抱きつつも、マリサを助けることを選び、行動に移した。

 それからマリサから本心を聞いて、私は霧雨魔理沙として在り続けるマリサに、一方で彼女は時間移動の力を持ち、霊夢の心を奪った〝私″に。互いが互いを嫉妬してると気づき、こんな事を考えていた自分が馬鹿らしくもなった。 

 彼女も私も、歴史は違えど同じ霧雨魔理沙だと認め、分かり合えた。同一化しても抵抗はなく彼女も受け入れてくれだろうし、その逆もしかり。なるほど、確かにどちらの道を選んでも不思議ではないな。

 

(私はどうしたいんだろうな)

 

 終わりが見えない思考のるつぼにハマっていた時、彼女達の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

『例え歴史が違っても魔理沙は魔理沙なのよ。私はあなたの支えになりたいの』 

『150年後にまた会おう。その時になったら、私と一緒の時間を過ごしてくれないか?』

『――! ええ、分かったわ! 必ず会いましょうね!』

『貴女とはまだ話したいことがあるわ。いつでも紅魔館にいらっしゃい。その時は歓迎するわ』

『新たな歴史でまた会いましょう。貴女と再び顔を合わせる日が来ることを楽しみにしてますわ』

『魔理沙! 私、待ってるからね! 絶対帰って来てね!』 

 

(――そうか。私にはちゃんと帰る場所があるんだな)

 

 ポケットに右手を突っ込むと、指先に硬い何かがぶつかる。何だろうと思いながら取り出してみると、それは赤い長方形の小型メモリースティックだった。

 

『この中にはアプト星の地図と、あたしの自宅がある住所が記載されています。その……いつかあたしの家に遊びに来てください! もし来てくれたのなら歓迎しますよ!』

 

 39億年前の地球で交わした、宇宙人の少女との約束。

 

「待たせたな咲夜。考えが決まったよ」

 

 そう言って椅子から立つと、咲夜は私の目の前まで歩いて来た。

 

「200X年の霊夢はさ、マリサと古い歴史の私の違いを知った上で私を受け入れてくれた。そして私が生きる時代では、霊夢だけじゃなく、アリスやパチュリー、吸血鬼のお前だって私の帰りを待ってくれている。こんなに嬉しい事はない」

「貴女はここで立ち止まらず、進む道を選ぶのね」

「そうだ。それに私にはまだ行きたい所があるからな」

 

 アンナから貰ったメモリースティックを見せつけた。

 

「……ふふ。やっぱり貴女は私の期待を裏切らないのね」

 

 一瞬呆気に取られつつも、何かを察したように笑みを浮かべた咲夜は、右手を掲げ、指を弾く。瞬間、この空間の半分を覆っていた暗闇は跡形もなく消え去り、消えた春と秋の光景と共に、地平線の果てまで続く回廊が復活した。

 

「貴女の特異点化を強めておいたわ。もう行っても大丈夫よ」

「サンキュな」

「幻想郷の〝私″によろしくね」

 

 見送る咲夜に別れを告げ、私は約束の時間へと戻って行った。

 

 

 

 

 ――side out――

 

 

 

 時間旅行者霧雨魔理沙が去った後の時の回廊で、女神咲夜は先程の出来事を振り返っていた。

 

「まさか魔理沙が同一化する道を選ばなかったとはねぇ。未来が予測できないことがこんなに面白いなんて」

 

 彼女はまだ熱が残る座席に座り、目の前に広がる巨大な透過スクリーンに視線をやる。

 

「さて、マリサが魔女になったことで幻想郷はどう変化したのかしらね。以前までの歴史と比較していきましょうか」

 




ありがとうございました。

今回魔理沙が女神咲夜の提案に乗った方の結末も、番外編として第4章が終わった時に公開できればよいかなと思ってます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。