魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第159話 霊夢とマリサの歴史⑧ もう1人の観測者

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 霧雨マリサの記憶が戻ってから、107日経過した、西暦205X年5月17日午前11時30分。五月晴れの日のこと。場所は迷いの竹林の中にひっそり建つ小屋。小脇に竹ざるを抱えた霧雨マリサが、玄関の扉をノックする所から始まる。

 

『お~い妹紅。いつもの奴持って来たぜー』

『分かった。今出るよー』

 

 言葉通り数秒後に引き戸が開き、竹籠片手に藤原妹紅が現れた。

 

『助かるよ。いつも筍ばかりだと飽きるからな』

『それはお互い様だぜ。ははは……』

 

 藤原妹紅は筍が詰まった竹籠を差し出し、霧雨マリサは、魔法の森産のカラフルな茸が山のように盛られた竹ざるを相手に渡す。この時代の彼女らは、時々こうして地産の食材を交換するくらいに交流を深めていた。

 

『にしても、魔法の森のキノコって相変わらず変な色してんだな。これとかどう見ても毒キノコじゃないのか?』赤と青の水玉模様のキノコをつまむ妹紅。

『そいつは一晩、酢漬けにしてから食べると辛みが抜けて美味いぜ。つーか、お前なら毒に当たっても死なないから良いだろ』

『うっわー酷い言い草ね。ま、事実なんだけどさ』

 

 苦笑いを浮かべる藤原妹紅。『……それじゃ用も済んだし私はこれで』立ち去ろうとした彼女に、『なんだ、もう行くのか? 折角だしお昼でも食べてかない?』と誘いをかける。霧雨マリサはゆっくりと振り返りながら言った。

 

『……悪いな。今はそんな気分じゃないんだ』

『どうした? いつになく元気がないじゃないか』

 

 心配そうにする藤原妹紅。この短いやり取りの間、彼女がずっと作り笑いを浮かべ、声に張りがないことを見抜いた上での発言だった。霧雨マリサは少し迷いを見せてから口を開く。

 

『……一昨日早苗が息を引き取ってさ、それでちょっと……な』

『早苗?……ああ、山の巫女か。そうか、何年も会ってなかったけど、もうそんな年だったんだな』

『還暦過ぎた頃はまだ、杖を突きながらも歩く元気はあったんだけどさ、ここ一年は殆ど外に出なくなっちゃったよ。亡くなる三日前に会いに行った時も、布団に伏せたまま辛そうにしてた』

『……』

『『マリサさん。これまで色々ありましたけど、私は自分の人生に満足してます。今までありがとうございました』別れ際に早苗が最後に遺した言葉だよ。その時は、笑えない冗談は止せよ、って茶化したんだけどさ、まさか本当になってしまうなんて……』

 

 霧雨マリサの頬を伝う一筋の涙。『友達を失うってのは辛いもんだな。私なりに覚悟していたつもりだったんだけどさ。いざその時が来たら全然だよ』唇を噛み、眉間に皺を寄せていた。

 

『そうか……』

 

 藤原妹紅は玄関の壁に背中を預け、ポケットから取り出した煙草を咥え、火を付けた。

 

『生きる時間が長い分、沢山の出会いと別れを繰り返す。それが妖怪の人生ってもんだ。私も飽き飽きする程に経験してきたよ』

 

 彼女の脳裏には、博麗霊夢が巫女だった時代、オカルトボールを巡る異変で出会った、オカルトマニアの女子高生が浮かんでいた。

 

『楽しかった思い出も嫌な思い出も、十年、百年と経つ内に記憶の彼方へと消えていく。果たして私は、どれだけの思い出を忘れてしまったのだろうな』

『妹紅……』

 

 藤原妹紅は紫煙を吹かせ、竹の葉の隙間から雲の流れを覗き込んでいた。

 

『……悪いな、慰めるつもりが余計に辛気臭くなっちまった。月並みな言葉だけどさ、あまり気に病まないことね。話聞く限りじゃこの世に未練もないみたいだし、理想的な逝き方じゃないか。時が経てば悲しみも癒えるだろう』

『ああ……』

 

 曖昧な返事を返す霧雨マリサ。しかしすぐに涙を拭ってこう言った。

 

『だけど妹紅の言葉は一部否定するぜ』

『?』

『どれだけ時間が経っても絶対に忘れない大切なモノがある。だろ?』

 

 ニヤリとする霧雨マリサ。藤原妹紅は一瞬目を見開き、『ふっ、違いない』と笑ってみせる。霊夢と初めて出会い、魔女になると決めた日の事。今より1000年以上前、富士の山で蓬莱の薬を飲んだ日のことを浮かべていた。

 

『妹紅~、遊びに来たわよ~』

『輝夜!?』

 

 そんな時、ガサガサと音を立て、雰囲気をぶち壊すような、絶妙なタイミングで竹藪の中から姿を現した蓬莱山輝夜。

 

『お~永遠亭のお姫様じゃないか。久しぶりだな』

『あら珍しい。魔法の森の魔女が妹紅と居るなんて』

 

 気さくに挨拶を交わす霧雨マリサと蓬莱山輝夜。一方で藤原妹紅は咥えていた煙草を燃やし尽くし、『何しに来たんだ輝夜! さっさと帰れ!』と蓬莱山輝夜に詰め寄っていく。

 

『いきなり酷い言い草ね。今言ったでしょ? 暇してたから遊びに来ちゃった』

『私はお前に会いたくないんだよ!』

『またまた~そんな心にもない事言っちゃって。貴女ともう何百年の付き合いだと思ってるのよ?』

『……うるさいな。いいからあっち行けって』

 

 嫌悪感全開の藤原妹紅とは対照的に、愉快そうな蓬莱山輝夜。霧雨マリサはそんな二人の口論を見ながら、『お前らも相変わらずだな~』とこぼしていた。

 

『ねえ、マリサと何してたのよ? 正直な所、貴女達がどんな会話のやり取りをするのか、全然想像できないわ』

『別に何だっていいだろ』

『教えてくれたっていいじゃない~。減るものでもないのに』と、彼女は藤原妹紅にくっつこうとしたが、『おい、くっつくな! 離れろって!』と足蹴にされてしまった。

『何よ、もう~』

 

 少し残念がっている彼女と目が合った霧雨マリサは、藤原妹紅に代わって答えることにした。

 

『時々妹紅と茸と筍の交換をしててな、今日がたまたまその日だったんだぜ』

『な~んだ。至って普通なのね』

『お前は何を期待しているんだ』

 

 冷静なツッコミをする藤原妹紅であった。

 

『ねえ、マリサ。ちょうど良い機会だし、幾つか質問宜しいかしら?』

『今度はなんだ?』

『貴女は並行世界の存在を信じる?』

『……並行世界?』

『私の記憶の限りでは、確か貴女は既にこの世に居ない筈の人間なのだけれど。一体どんな切欠で考えを変えたのかしら?』

『!!』

 

 霧雨マリサは目を見開き、唾をごくりと飲みこんだ。

 

『おい輝夜。いったい何の話を』

『本当に何も知らないのなら、この話は生に飽いたお姫様の戯言だと思ってくれて構わないわ。何も知らないのなら……ね』

 

 問い詰めようとする藤原妹紅を無視しつつ、霧雨マリサへ優雅に話しかける蓬莱山輝夜。

 

『……どうしてそんな事を思ったんだ?』心臓が早鐘を打つ霧雨マリサ。

『私の能力はご存知の通り、永遠と須臾を操る程度の能力なのだけど、後者の須臾を操る能力というのがね、一言で例えるなら無限に広がる並行世界、人々の可能性を集めて異なった歴史を持つことが出来るのよ』

『!』

『その力が今からちょうど4か月前の1月30日に発揮されて、私の認識する現実に対して違和感が起きたのよ。とはいえ、私は世界のすべてを知り尽くしている訳ではないわ。何かが変わったのは分かるけど、その肝心の〝何か″が分からなくて、霧がかかったような違和感が残っていたの』

 

 霧雨マリサと藤原妹紅は、蓬莱山輝夜の語りに聞き入っていた。

 

『半ば諦めかけていたのだけれど、今日、貴女を見てピンと来たわ。もしかしたらこの違和感の正体について、貴女が何かを知っているんじゃないかってね』

『理由は分かった。それを知ってどうするつもりなんだ?』

『別に何も? 単なる好奇心よ』あっけらかんと答える蓬莱山輝夜。『私はただ真実を知ることができればそれでいいわ』

『最近霊夢には会ったか?』

『いいえ?』

『じゃあここ数年、いや数十年には?』

『博麗の巫女になんて興味ないわよ』

『ふむ、そうなのか』

『ついでに言っとくとな輝夜、霊夢はとっくの昔に巫女じゃなくなってるぞ。今の博麗の巫女は――』藤原妹紅にとっては、人里で偶然会った時に話をする程度の関係性である少女の名を口にする。

『別に誰だって良いわよ、そんなの。私はマリサと話してるの!』うんざり気味に藤原妹紅に手を振った蓬莱山輝夜は『それで、私の質問には答えてくださるのかしら?』と、柔和な笑みを貼り付けながら霧雨マリサに向き直る。彼女は真実を話すべきかどうか、藤原妹紅と蓬莱山輝夜の両名を見回してから考えた。

 

『……』

 

 堂々巡りにも似た思考の末に、彼女が出した結論はこうだった。

 

『あいにくだが、私はその疑問に対する納得の行く答えを持ち合わせてないんだ』

『随分と思わせぶりな態度を取るのね?』

『だって事実だし。だけどな、お前の感じる違和感――歴史改変について、心当たりはあるぞ』

『えっ!?』

『100年後の西暦215X年にそれを引き起こした人物と会う約束をしてる。その時が来たら、お前の身に起きた現象について聞いてみる。……それが答えじゃ駄目か?』

 

 霧雨マリサは蓬莱山輝夜の目をそらさず見ながら、はっきりと答えた。しばらくの間、無言で見つめあう二人の可憐な少女達。蓬莱山輝夜に言いたいことが山ほどあれど、空気を読んで黙り込み動静を見守る藤原妹紅。

 

『……分かったわ。貴女の瞳を信じて待っててあげる』アイコンタクトから霧雨マリサの思惑を悟った蓬莱山輝夜は、霧雨マリサに背を向け『ふふ、ただ妹紅をからかいに来ただけなのに、こんな棚からぼた餅があるなんて。生きる楽しみが増えたわ』と、充足感を得たまま竹藪の中へと消えていった。

 

 

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「よくよく考えてみれば輝夜も災難よねえ。性質上、常に魔理沙のタイムトラベルに巻き込まれてしまうのだから、彼女に安寧の日々は訪れることはないでしょうに」

 

 すっかりケーキを食べ尽くした女神咲夜は、座席に着いたまま先程の映像を振り返っていた。

 

「幻想郷、いえ、地球が滅びる歴史になってしまった時も、それは22世紀~31世紀に起きたこと。魔理沙は西暦200X年以降の歴史しか改変していない。輝夜が輝夜として成り立っているヒストリーが手付かずのままになっているのが唯一の救いなのかしらね」

 

 そして観測映像は西暦2070年へと続いていく。




以下補足説明

第1章13話『暗示』及び第3章25話『幕間 人里にて』で、輝夜が歴史が変わったのは2回と話していましたが、この時点では魔理沙主観で二度しか歴史改変を起こしていないので、今回の話とは矛盾になりません。

もっと言ってしまえば、第1章13話と第3章25話の内容は、第4章で魔理沙が霊夢を仙人にした時点で歴史の上書きが起こり、古い歴史になっています。




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