魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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かねてから予告していた番外編です。
第四章第152話 魔理沙の結末(前編)において、魔理沙が女神咲夜の提案を飲んだ場合の話となります


番外編
第153話 魔理沙の結末 後編(マリサ同一化ルート)


(まさかこんなことになるとはなあ)

 

 霊夢、映姫、さとり、マリサ、そして今回の咲夜……偶然か必然か、ここのところ大きな選択を迫られるケースが多すぎる。

 とはいえ、そんなことを愚痴るつもりはない。彼女の言う通りしっかり考える必要はあるだろう。

 

(私にとって何が良いか……)

 

『もうタイムトラベル出来なくなる』そのように言い渡されたことについては特に何とも思わない。元々霊夢さえ助け出せればいいと思っていたし、彼女が仙人になって、マリサが魔女になった今の歴史は理想的な世界といえる。歴史の修正力が働こうとしたくらいだ、むしろ一つになるのが自然なのかもしれない。

 では自分の本心はどうなのか?

 

『私はマリサのことを良く思っちゃあいない。霧雨魔理沙は私の筈なのに、なんでアイツの為に肩身の狭い思いをしなきゃいけないのか?』

 

 200X年9月5日、地霊殿のさとりの部屋で、彼女に心の声を読まれた上でマリサについて聞かれた時、そう言い放ったのを思い出す。しかしその後『……それでもな、マリサは私なんだよ。死んだマリサの、悔しさや、後悔が、これ以上にないくらい痛感できるからこそ、何が何でも助けてやりたいんだ』とも答えた。

 あの時は相反する気持ちを抱きつつも、マリサを助けることを選び、行動に移した。

 それからマリサから本心を聞いて、私は霧雨魔理沙として在り続けるマリサに、一方で彼女は時間移動の力を持ち、霊夢の心を奪った〝私″に。互いが互いを嫉妬してると気づき、こんな事を考えていた自分が馬鹿らしくもなった。 

 彼女も私も、歴史は違えど同じ霧雨魔理沙だと認め、分かり合えた。同一化しても抵抗はなく彼女も受け入れてくれるだろうし、その逆もしかり。なるほど、確かにどちらの道を選んでも不思議ではないな。

 

(私はどうしたいのか……駄目だ、考えが纏まらない)

 

 終わりが見えない思考のるつぼにハマり、ひたすら時間だけが過ぎていく。

 春と秋が消えた回廊の外、砂漠の中心に建つ時計塔は、短針と長針が12で固定されたままピクリともしない。背もたれに乗り出すようにして振り返れば、光さえ抜け出せない暗黒の世界が遠くに見える。咲夜は回廊の柱に寄りかかりながら、無表情で封鎖された未来を望んでいた。

 私のためにわざわざ宇宙の時を止めたのだから、軽はずみな気持ちでは決断できない。しかしどちらが私にとって最良の判断なのかも分からない。今までと違って、やり直しのきかない選択なのだ。

 

(このままじゃ埒が明かないな。いい加減すっぱり決めようぜ、私)

 

 発破をかけるように自らに言い聞かせ、私の望みがなんなのか、改めて自問自答していく。

 

(私は……私は……)

 

 全身全霊を傾けて考え続け、とうとう私は結論を出した。

 

(――そうだ。そもそも迷う必要なんかないじゃないか。元を辿れば、私は霊夢さえいれば良かったんだ。しかも〝霧雨魔理沙″になれるなんて、こんな降って湧いたようなチャンス二度とないだろう) 

 

 私は椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり、咲夜の元まで歩いていく。気配を察したのか、澄ました表情の彼女が此方を向く。

 

「どうやら考えが纏まったみたいね。聞かせて貰えるかしら」

「あぁ。決めたぜ咲夜。私はマリサと一つになる。それが私の望みだ」

「本当にそれで良いのね?」

 

 神妙な顔の咲夜に、私は彼女の目を睨みながらはっきりと頷いた。

 元から私はマリサのことを羨ましく思っていた。霊夢を助けることで、自分が〝霧雨魔理沙″だった歴史は消滅してしまい、新たに生まれたマリサこそが〝霧雨魔理沙″として大勢に認識され、自分(霧雨魔理沙)らしく思う存分振舞っている。

 嫌な言い方ではあるが、マリサが人のまま死ぬ世界であれば、彼女が死んだ後、そのマリサが築き上げた人間関係や立場をかっさらう形で〝霧雨魔理沙″と成る事ができた。しかし、霊夢にマリサの救出を乞われ、彼女の最期に共感し、真の魔法使いになる歴史改変を自らの意思で実行してしまった以上、最早それも叶わない話だ。

 新しい歴史にマリサがいる以上、どうせ帰っても私の居場所はなく、自らのアイデンティティも無いだろう。

 私は霊夢が無事ならそれでいい。一つの歴史に同じ魔理沙は二人も必要ないのだ。 

 

「……貴女の意志、確かに受け取ったわ」

 

 落ち着いた声で咲夜がそう言った瞬間、真っ暗に途切れた回廊は元の姿に戻り、春の美しい満開の桜模様と、秋の風光明媚な紅葉が出現した。

 

「ここに来る前に貴女が指定した時刻、西暦215X年9月22日正午に戻れば、貴女はマリサと一つになるわ。……だけどその前に、やってもらわないといけないことがあるの」

「なんでも言ってくれ」

「西暦250年6月9日午後1時17分に時間遡航して、野犬妖怪に襲われてる金色の髪の少女を助けてきなさい。場所は此方で指定するわ」

「今から1907年前、弥生時代だな? 別に構わないが、なにがあるっていうんだ? それに金髪の少女ってだけじゃ曖昧過ぎだし、もう少し特徴を教えてくれ」

「行けばわかるわ。それに、この時代の日本に金色の髪をした人間は皆無と言っても過言ではないわ。すぐに見つかるでしょう」

「分かったよ」

 

(これが私の最後のタイムトラベルだな)

 

 咲夜から一歩離れた私は、ぎゅっと握りこぶしを作り、宣言する。

 

「タイムジャンプ! 時間は西暦250年6月9日午後1時17分!」

「場所は日本の――」

 

 その際、間髪入れずに咲夜が干渉した場所は、幻想郷が存在する土地に近い地名だった。

 

 

 

(β)

 

 

 

 

「おかえりなさい」

「……ただいま」 

 

 咲夜の指示した通りに金髪の少女を救い出し、アフターケアもこなして時の回廊へ帰還した私を、咲夜は優しく迎えていた。

 

「貴女の活躍見てたわよ。きちんとやってきたみたいね」 

「あ、あぁ……」

 

 ニコニコしている咲夜に対し、私は後ろ髪を引かれる思いのまま、右手の平を見つめる。

 

『行かないでおねえちゃん……! お願いだから、もっとわたしのそばにいて!』

 

 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになりながら、懸命に掴んでいた少女の温もりが今も残っていた。

 彼女はあの時代でちゃんと生きていけるのだろうか。もっと付き添ってあげれば良かったのではないか――そんな迷いが私を苛む。

 だが、私と彼女とでは住む時代が違う。多少の恨みを買ってでも強引に戻らなければ、もっと別れが辛くなっていた。

 

「大丈夫よ。貴女がしたことは決して無駄なことじゃないわ」

「だといいんだがな……」

 

 顔に出ていたのか、気休めのような言葉を口にする咲夜だったが、私の心には暗い雲が垂れ込めていた。

 まさか邪馬台国があった時代にこんな出来事があったとは想像も付かなかった。彼女は未来で私のことを覚えてくれているのだろうか? もしそうなら、どんな顔をして会えばいいんだろう。

 気づけば私は、愚痴にも近い言葉が飛び出していた。 

 

「なあ咲夜。本当に私が彼女を助ける必要性はあったのか? 私が干渉しなくても、未来は変わらなかったんじゃないのか?」

 

 咲夜は一拍遅れてから答えた。

 

「……実を言うとね、貴女の主観から見てそう遠くない未来、全く関係のない因果によって発生するかもしれない出来事だったのよ」

「なんだと?」

「だけどね、貴女がタイムトラベルを捨てる道を選んだことで、事象の変動は収束し、歴史は完全に固定された。世界のため、そして過去の貴女の為に辻褄を合わさせてもらったわ」

 

 自らの台本通りと言わんばかりに語って行く咲夜。彼女は最後にこう言った。

 

「後は貴女が西暦215X年9月22日正午に戻れば全て終わり。もうここで貴女と会う事もないでしょう」

「そうか……今まで世話になったな咲夜」

「幻想郷の〝私″によろしくね」

「あぁ」

 

 あっさりとしたやり取りに見えるが、私達の関係にドラマチックな別れは必要ない。私は彼女の姿を目に焼き付けた後、宣言する。

 

「タイムジャンプ! 時間は西暦215X年9月22日正午!」

 

 直後、景色は暗転し、穴の中に落ちていくような自由落下と共に、体が溶けていくような感覚が生じた。

 

(ひょっとしたら、これが死ぬって感覚なのかな)

 

 そんなことを思いつつ、私は流れに身を任せていった。

 

 

 

 

 西暦215X年9月22日午前11時58分

 

 

 ――side マリサ――

 

 

 天高く昇る太陽に澄み切った空気、暑すぎず寒すぎず、弾幕ごっこをするには絶好の日に、私は自宅の前の空き地に立っていた。

 

「正午まであと二分ね」

 

 右手で日傘を差した咲夜は、左手の懐中時計に視線を落としたまま、淡々と現在時刻を知らせる。

 いつものように澄ました顔をしているが、あまり他人に興味なく、なにかと多忙な咲夜が、吸血鬼の天敵とも言えるこの時間に集まるくらいだ。かなり心待ちにしているに違いない。

 

「もうすぐね。この時をどれだけ待ちわびたか……」

 

 隣からは声が上ずり、もう既に感極まっている様子の霊夢が立っている。普段は地味な着物を使いまわしてるくせに、今日に限って目いっぱいのおめかしをしちゃって、もし相手が男だったら非常に複雑な気分だぜ。

 

「魔理沙も楽しみだけど、幻とも言われるタイムトラベルの瞬間をこの目で拝めるなんて、楽しみだわ」

 

 咲夜と相合傘をしているパチュリーは、立つ――というより、かかとを地面から僅かに浮かせ、魔力で器用に体を支えた状態で心待ちにしている。

 

「魔理沙……」

 

 そして両肩に上海人形と蓬莱人形を乗せたアリスは、祈るような思いで地面を見据えていた。

 生まれも育ちも、種族すらもバラバラな私達五人が集まった理由はただ一つ。150年前から今日この日に時間移動してくるもう一人の私を迎える為だ。

 

(長かったな……。アイツが帰ってきたら何から語ろうか。ふふ)

 

 各々が様々な心中を抱いていき、遂に約束の時間になった時、私の身に異変が生じた。

 

「ぐっ、これは……!」 

 

 立っていられないほどの強烈な眩暈。ドロドロに溶かした鉄を頭に注がれているような不快感。

 この体験は100年前、古い歴史の〝私″の記憶が蘇った時の感覚に似ているが、その時とは比べ物にならない程の気持ち悪さ。

 

「うっ……!!」

 

 恥とか外聞とかおかまいなしに、私は倒れてしまった。

 

「えっ!?」 

「マリサ、マリサ! しっかりして!」

「だ、大丈夫?」

「マリサー!」

 

 心配そうに体を揺する霊夢の声や、慌てふためく皆の声がどんどんと遠くなって行き、私の意識はここでプツリと途切れた。

 

 

 

 

「……い。お……い……」

 

(ん……)

 

 心地よいまどろみの中、私は薄らと目を開く。

 

(ここは……)

 

 眼前に広がっていたのは、まるで海の中にいるような、一面真っ青で、天も地もない曖昧な景色。全身が不思議な浮遊感に包まれ、この変な世界と一体化しているのではないか、とすら錯覚する。 

 

(私は確か魔理沙を待っていて……、くそっ、一体どうなってるんだ。この気怠さ、夢の中にいるみたいな……)

 

「目を覚ましたみたいだな」

 

(!)

 

 何もない無から〝私″の声が聞こえたかと思うと、目の前の空間の一部に穴が開く。

 

「よう、〝マリサ″」

 

(!?)

 

 中から出て来た人物は、なんと〝私″だった。

 彼女は何故か一糸纏わぬ姿で現れ、その全身がボディーラインに沿って光輝いていた。私には自分の肉体を見て喜ぶような趣味はないというのに。

 

(お前は誰なんだ? それにここはどこだ?)

 

「私は西暦200X年9月5日にお前と別れた、タイムトラベラーの霧雨魔理沙だ。そしてここはお前の心の世界。私は今、お前の深層意識に語りかけている」

 

(なんだって?)

 

「実はな、私はお前が真の魔法使いになるように歴史改変をした時、時の回廊の咲夜から提案されてな、考えた末に、お前と同一化することを決めた」

 

(は!? 全く意味が分からないぞ!)

 

「なあに、すぐにわかるさ。この世に霧雨魔理沙は一人でいいんだ。これからよろしく頼むぜ」

 

 そう言った途端、〝魔理沙″が私の胸に飛び込んだ。一瞬身構えてしまったが特に異常はなく、彼女はコーヒーのミルクのように溶けていく。

 

(魔理沙が私の中に……!)

 

 驚く間もなく、脳内に記憶が流れ込んできた。

 

『……クソッ! なんでだ! なんで自殺なんかしたんだよ霊夢ぅ……!』

『もしこの魔法が使えたのなら、あの日に戻って霊夢の死を回避するんだ。今まで塞ぎこんでいた私に見えた唯一の希望の光なんだ。――だから時間移動を私の研究対象にしたいんだ』

『やった、ついにタイムジャンプ魔法が完成したぜ!』

『まさか人の夢の中に入って来る妖怪がいるなんてね。迂闊だったわ。今回は魔理沙のおかげで無事解決できたわ。もし私だけだったらどうなっていたことか……。ありがとうね!』

『私の知ってる〝魔理沙″はね、今からちょうど100年前に天寿を全うしたわ。まるで霊夢の後を追うように亡くなってしまったから、たった一年で立て続けに2人もの友人を失ってしまって、あの頃はとても悲嘆していたわ』

『私はね、咲夜の身をもっと案じてあげればよかったと、死んでからずっと後悔してたの。だからお願い! 一度、一度でいいから咲夜に会って謝りたいの!』 

『貴女が未来のお嬢様から預かって来た手紙……、それの返事を一昨日お嬢様に伝えたの。『私はお嬢様に仕えることが出来て幸せでした。ですからもう、私の事で苦しまないで未来を生きてください』とね』

『ありがとう。きっと手紙を送った〝私″も、報われている筈よ』

『ここが西暦300X年だって!? なんてこった……!』

『うふふ、見ての通りよ。幻想郷は壊れちゃった。妖怪も、人も、あらゆる生物は全て死に絶えて、後に残されたのは私だけ。アハハハハハッ、惨めでしょう?』

『ねえ、魔理沙。お願いがあるの! 今から500年前の5月27日に戻ってその時の私にこう言ってほしいのよ! 『A-10とNH-43の部分を修復するように』って! それだけで昔の私ならすぐピンと来るわ!』

『私は500年後の300X年5月6日から来た。そして未来のお前に『A-10とNH-43の部分を修復するように』と伝えるよう頼まれたんだ』

『結論から言いましょうか。幻想郷は200年前に完全に滅びてしまったんだ。……外の世界の人間達によってね』

『だから、魔理沙には〝非常識″を解明したこの憎い研究所を潰して欲しいわ! こいつらさえいなければ、私の能力でどうとでもなったのよ!』

『潰しても潰してもまた別の研究所が現れて、幻想郷が滅亡する未来へと収束してしまう……もしかして、滅亡は運命なのか?』

『つまりだ。月に行って人間達の邪魔をしないように月の民を説得するって作戦はどうだ?』

『これぞ宇宙飛行機! なんと、これさえあれば月にだって行けちゃうよ!』

『結論から言いましょう。原初の石をある程度――そうねぇ、10㎏くらい持って来てくれれば、地上への干渉を止めるわ』

『魔理沙さんと出会うことがなければ、きっとあたしはこの星で朽ち果てていたことでしょう。無限に続く時間の中、ここでこうして出会えた運命に感謝します』

『まず私の正体なんだけどね、私は時間の概念の象徴――ざっくり言ってしまえば神に近い存在なのよ』

『この宇宙には〝並行世界、多次元宇宙といった存在はないの″。宇宙は一つ、時間軸は過去から未来へと常に繋がっているわ』

『ええ、充分よ。約束通り、地上の民達への妨害は止めましょう』

『さっきからずっと探してるんだけど、地球が見つからないんだよ』

『今から840年前の西暦216X年11月11日、地球に侵略してきた敵性宇宙人との宇宙戦争に敗北し、彼らが用いた対星破壊兵器によって地球は滅亡。幻想郷及び全ての生物が死に絶えてしまいました』

『過去を変えるターニングポイントはアンナの口封じ、ボイジャー1号の破壊なので、魔理沙にはこの二つを遂行して欲しいのです』

『これが人類初の太陽系外探査の結末か。あっさりとした幕引きだな』

『あたしが良かれと思ってしたことが、遠い未来にこの星の滅亡のきっかけを作り出してしまうのであれば、今日の出来事は内緒にすると約束しますね。ご迷惑をお掛けしてごめんなさい』

『良くやってくれたわ魔理沙! こうして幻想郷が復活したのも全てあなたのおかげよ! 本当にありがとう!』

『私は霊夢の自殺を防ぐその一心で過去へ遡り、無事に歴史を変えることができた。……けど本心はそれだけじゃなくて、霊夢ともっと一緒に過ごす時間が欲しかったんだ』

『今日は何しに来たのよ? 新しいスペルカードを開発する、とかでしばらく自宅に籠るんじゃなかったの?』

『本当のことを教えて魔理沙。あの時なにがあったの? 私は真実を知りたいの』

『魔理沙、私も150年後に連れて行って。例え歴史が違っても魔理沙は魔理沙なのよ。私はあなたの支えになりたいの』

『霊夢、何も今が別れの時じゃないんだ。150年後にまた会おう。その時になったら、私と一緒の時間を過ごしてくれないか?』

『あぁ、この声、この匂い、この感触。やっと本物の魔理沙に会えたわ……! 貴女がいない日常がこんなに寂しいものだとは思わなかった……!』

『結論から言うとね、マリサはもうこの世に居ないわ。今からちょうど100年前の205X年1月30日に亡くなったの』

『お願い、どんな形でも良いから過去のマリサを救ってあげて。こんなことを貴女にお願いするのはとても残酷なことだけど、私はどうしても過去のマリサを助けたい。この事態を招いてしまったのは私の責任だから……』

『……確かにお前の主張にも理があるのは認めよう。だがな、私は自身に降りかかった不幸な結末を認められなかったから過去を変えたんだ。誰だって『あの時ああすれば良かった』と過去を悔やむことがあるだろう? 私はその選択をやり直す力を得て、手の届く範囲内で幸福な結末を探っているに過ぎない』

『私は150年後から来た霧雨魔理沙だ。……悪かったよ、まさかお前がそこまでショックを受けてるとは思わなくてな』

『消えろ、偽物め! 誰だか知らんが、このマリサ様に化けた事を後悔させてやる!』

『理解できませんね、それは貴女の本意ではない筈。マリサを助けるということは、貴女が〝貴女(魔理沙)″として見られなくなるのと同じ意味になるんですよ? 分かってます?』

『……それでもな、マリサは私なんだよ。死んだマリサの、悔しさや、後悔が、これ以上にないくらい痛感できるからこそ、何が何でも助けてやりたいんだ』

『貴女の『百聞は一見に如かず』という発想は間違ってはいないでしょう。言っても聞かない頑固な人には、逃れようのない現実を見せてあげればいい』

『今日は西暦215X年9月21日。お前がいた時代から150年経っている。そこまで信じられないんだったら、この時代の幻想郷を見て来いよ』

『……あの頃の私はね、きっと優越感を抱いていたんだわ。霊夢の知らない秘密を自分だけ知って良い気持ちになって、マリサは私が居なきゃ駄目なんだって思い込んじゃって、甲斐甲斐しく世話を焼く自分に酔っていたの。彼女の苦悩なんてまるで考えていなかった』

『人間なのに、異変を起こした妖怪や神に恐れず立ち向かっていくその勇気、果てしない向上心と飽くなき好奇心。若かりし頃のマリサは、パチュリー様に限らず、お嬢様も一目置く存在だったわ。私の知る人間のマリサは残念なことになってしまったけど、そうではない道を歩んだ魔理沙がいる。貴女にはお嬢様のことでもお世話になった訳だし、会わない理由がないわ』

『今のまま年を重ねていけば間違いなく後悔する羽目になる。だからマリサ、考えを変えるつもりはないか? これはな、人生をやり直す機会を願った未来のお前の遺志なんだ。ここに居る奴らも皆それを望んでいる』

『きっと未来の私は変化を恐れていたんだろうな。いつまでも同じような日が続くことを信じて、大きな決断を下す事から逃げ出してしまった。大親友の霊夢にすら心の内を明かさなかった、見栄っ張りで、強がりで、負けず嫌いな弱い私。……決めたよ。本当の魔法使いになる。それで昨日のことを霊夢に謝って来るよ』

『ここからの観測で貴女が元の時間に戻った際、貴女自身が世界の上書きに巻き込まれ、消滅する可能性が視えたわ。だから私の権限で貴女を時の回廊に留め、一時的に未来を封鎖しているのよ』

『もし貴女が望むのなら、西暦300X年の妹紅みたく〝新しい歴史の霧雨マリサと同一化″できるわ』

『決めたぜ咲夜。私はマリサと一つになる。それが私の望みだ』

『行かないでおねえちゃん……! お願いだから、もっとわたしのそばにいて!』

『私はお前が真の魔法使いになるように歴史改変をした時、お前と同一化することを決めた。この世に霧雨魔理沙は一人でいいんだ。よろしく頼むぜ』

 

 博麗神社から、果ては宇宙に至るまで、場所も、時間さえもバラバラな瞬間瞬間が、走馬灯のように駆け抜けていく。

 

(これが魔理沙の……私の記憶)

 

 幻想郷から殆ど出ず、霊夢達と楽しく過ごしてきた私と違い、非常に波乱万丈な人生を送ってきたみたいだが、彼女の行動趣旨は一貫して霊夢の為にあった。心の底から霊夢を大切にしていたんだ。

 私は彼女の全てを受け止めようと、目をそらさず、じっと記憶を、思いを吸収し続けていく。彼女の辿った軌跡を追体験するかのように。

 

(……!)

 

 永劫のような長い時間の果て、遂に魔理沙との融合が完了し、真に一つとなった私が真っ先に抱いた感情はこうだった。

 

(どうしてこんな選択をしたんだ、魔理沙)

 

 過去、現在、未来、彼女は色んな時間で多くの人々と絆を結び、支えられてきた。(マリサ)に限らず、霊夢やアリス達だってお前と会うのを楽しみにしていたのに、何故自分を捨ててしまったのか?

 いや、こんなことを聞かなくとも、彼女の葛藤や、決断に至った経緯も今なら全て分かってしまう。魔理沙は(マリサ)のことを気遣ったんだ。(マリサ)が居たからこそ、アイツは……

 

(クソッ)

 

 やるせない怒りが私を無力感で包み込む。こんなことになるんだったら、150年前に別れた時もっと強く言ってやるんだった。

 

「……リサ。マ……サ」

 

 世界を震わせる霊夢の声。ああ、そうか。これは夢だったんだっけ。

 私は天に向かって精いっぱい手を伸ばしていった――。

 

 

 

 

「ん……」

 

 目を覚ました瞬間に見えたのは、見慣れた天井。背中を優しく包み込むこの感覚から、自宅のベッドの上で眠っていたのだろう。

 

(なんだろう、何かとても長い夢を見ていた気がする)

 

「マリサ!」

 

 上半身だけ体を起こし、声のした方へ振り向く。傍に居たのは霊夢だった。

 

「れ、霊夢?」

「良かった……! もう、心配したんだからね!」

「私は一体……」

「今日の正午に過去から魔理沙が来る約束だったでしょ? 私達と一緒に予定の時間まで待ってたら、突然倒れちゃったのよ?」

「ああ……そう言えば、そうだったな」

「結局約束の時間に魔理沙も来なかったし、どうしちゃったのかな……」

「そのことなんだけどさ、実はな――」

 

 しょんぼりとしている霊夢に、私は先程夢の中で起きた出来事を話していった。

 

「噓……!? それじゃあ、別の歴史の魔理沙はもう居なくなっちゃったの?」

「ああ。私と一緒になっている」

「そんな……」

 

 この世の終わりのような顔で、一筋の涙を流す霊夢。

 

「な、なんで泣くんだよ霊夢!?」

「だって、だって、そんなのあんまりじゃない……。世界に認められなかったから、自分を消しちゃうなんて……! そんなことしなくたって、私は魔理沙の事をちゃんと見ていたのに! どうして自分を大切にしないのよ……!」

「タイムトラベラーの魔理沙は死んだわけじゃない。私と同一化したんだ。ちゃんと彼女の記録も、私の中にしっかり残っている」

「そんなこと言われたって、彼女の存在が消えてしまった以上死んだも同然よ! グスッ、そんな簡単に割り切れない……! せめて一言相談してくれればよかったのに! 私のことを信じてくれなかったのね!」

「……ごめんよ、霊夢」

 

 泣きわめく霊夢に、私はただただ謝ることしかできなかった。

 

「グスッ、もう二度とこんなことしないでね? 貴女が居ないと寂しいわ」

「もちろんだ」

 

 そして霊夢を抱き寄せた私は、彼女の耳元でささやくようにこう言った。

 

「霊夢、もう一人の私の分も含めて、改めてよろしく頼むよ。それがアイツの望みでもあるからさ」

「……そうね。彼女に申し訳がたたないもの、二人で新しい思い出を作って行きましょう」

 

 私達はしばらく抱き合ったまま、消えてしまった魔理沙の分まで生きていくことを誓いあった――。




ありがとうございました。
今回の結末はトゥルーエンドにするかギリギリまで迷った話でした。
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