魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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高評価ありがとうございます。
投稿が遅れてすみませんでした。


第182話 西暦300X年の魔理沙

 ――西暦215X年9月30日午前9時25分(協定世界時)――

 

 

 ――side 魔理沙――

 

 

 

 時の回廊を抜けて再び宇宙へ飛び出した私達を出迎えたのは、どこまでいっても真っ暗な宇宙の中で一際青く輝く地球だった。

 

「一週間後の魔理沙の話だと、地球はとうの昔に壊されて無くなってるらしいけど」

「ちゃんと残ってるね」

 

 現在の幻想郷時刻は西暦215X年9月30日午後6時25分、日没になってから1時間も経ってないせいか、地軸に沿って傾いた明暗境界線がギリギリ日本を避けるように東シナ海に引かれていて、じわりじわりとユーラシア大陸へ移動している。宇宙からだと世界中の雲の動きや、昼と夜の地域がはっきりと見れるので非常に興味深い。ちなみに夜になったばかりの日本列島は、北は北海道から南は沖縄にかけて各地に点在する都市の灯りでくっきりと形が浮かび上がっている。あんなに明るかったらぐっすり寝れなさそうな気もするけど、きっと外の世界の人達にとって昼も夜も関係ないんだろうな。

 全体を見渡しても地球は相も変わらず高速で自転しており、衛星軌道上には豆粒のように小さな人工衛星が数多く飛び回り、地球周辺には様々な言語でペイントされた外の世界の宇宙船がちらほらと見える。出発前と何ら変わりのない光景だ。これだけ見ると一週間後の魔理沙が嘘を吐いてる事になるが……。

 

「あっちの妹紅が『過去の選択が変化した!』って喜んでたし、〝元からアプト星へ行かない歴史″に未来が変化したのかな?」

「それだとますます魔理沙が手紙を出した意味が分からなくなるな。彼女が何もしなければこっちの魔理沙が悩むことなく、元の時代に引き返しただろうに」

「――ここで考えてても仕方ない。とにかく幻想郷に戻ってくれ」

「オーケイ」

 

 宇宙飛行機は日本列島に進路を向け、都市の灯りから遠く離れた真っ暗な地域に照準を合わせ、猛スピードで突っ込んでいく。ものの数分で大気圏再突入を果たし、そのまま高度を下げながら博麗大結界を通過して幻想郷に帰還した。出発する時もそうだったけど、宇宙飛行機の速度が非常に速いため景色を楽しんでいる余裕はない。

 幻想郷のどの辺りにいるのか確認しようと思ったけど、前に座る二人が期待に満ちた視線を此方に送ってきている。さっさとタイムジャンプしてしまおう。

 

「タイムジャンプ! 行先は西暦300X年7月10日午後1時!」

 

 

 

 

――西暦300X年7月10日午後1時――

 

 

 

 満天の星空から気持ちのいい青天に切り替わり、真夏の太陽がコックピット内を照りつける。妹紅は手で日差しを遮りながら呟いた。

 

「夜になったり昼になったり、タイムトラベルって忙しいよなー」

「生活リズムが狂っちゃいそうだよね」

「私は寝なくてもいい体だから気にしたことはないな」

「魔法使いってそういう所が便利だな」

 

 現在宇宙飛行機は幻想郷の上空、山よりも高く雲よりも低い高さを滞空していて、遥か下には野山が見えた。近くにランドマークはないが、強いてあげるなら南西の方角に博麗神社があるくらいか。

 

「それよりも、こうして300X年に戻って来た訳だけどなんか変化してるか?」

「ちょっと確認してみる」

 

 妹紅は席を立ち、こっちの窓や反対側、更には正面に移動しなから地上を見下ろしていたが、やがて振り返り「うーん、よく分からん! 多分元のままなんじゃない?」と困り顔で答えた。

 

「やっぱこの時間の魔理沙に直接会った方が早そうだな。にとり、魔法の森に――」

「その必要はないぜ!」

 

 コックピットに響き渡る私じゃない私の声。即座に振り返れば出入口のドアが勝手に開き、私が現れた。

 

「お前は……!? 300X年の私なのか?」

「ご明察! 幻想郷のタイムトラベラーと言えばこの私、霧雨魔理沙だぜ!」

 

 ウェーブがかった長い金髪をポニーテールに纏め、髪と同じ金色の瞳に、黒と白の魔法使いのドレス。300X年の魔理沙――1週間後の私同様下の名前で呼ぶことにする――は声も姿もそのままで、自らを指さしながら悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「これまた計ったようなタイミングで現れたなぁ」

「タイムトラベラーに不可能はないんだぜ」

「というかどうやってここに入ってきたの? 出入口は閉じてた筈なんだけど」

「そのからくりを見せてやるよ」3000X年の私は右手を前に突き出し「タイムジャンプ! 到着時空は1分後の幻想郷東砂浜海岸、博麗神社林道前高度十m!」と言い放つ。窓の外の景色がガラリと変化した。

 雲に近い高さに居た筈の機体は一瞬で地上に近い高さまで下がり、目の前には水平線が見えるくらいに果てなく続くコバルトブルーの海が広がっていた。穏やかな波が砂浜に常に押し寄せ、カモメなどの海鳥が飛んでいる。遥か彼方の海上には木々が生い茂る小島が見えるけど、あの島も幻想郷の範囲に含まれるのだろうか。

 真下に見える白い砂浜は、ここを始点に緩やかな弧を描く海岸線をなぞるように北へと続き、南には鋭利な岩が突き出た断崖絶壁の岬と一軒の小屋が建ち、西には絨毯のような深い森が広がっていて、遠くの山頂には博麗神社が建っていた。

 

「海だ!」

「今の私は時間だけでなく空間まで移動できるようになったんだ。これを応用して宇宙飛行機に乗ったのさ」

「へぇ~なるほどねえ」

 

 にとりは感心しているみたいだけど、私は唖然としたまま先程のタイムジャンプを思い返していた。空間移動もそうだけど、一番驚いたのは間近に居た彼女から何の魔力も感じなかったことだ。タイムジャンプ程の大魔法にもなると必ず魔力の残滓が残るのに、どんな魔法式を構築すればこんな自然体で扱えるんだろう。

 魔法使いとして興味が湧いてきたが、今はそんなことよりも優先すべきことがある。この海についてにとりに語っている300X年の魔理沙に意を決して話しかけた。

 

「300X年の私よ。お前に聞きたいことがある」

 

 私の空気を察したのか、300X年の魔理沙も真剣な表情になった。

 

「『手紙』のことだろ? 【215X年9月30日の私】――今のお前と、【215X年10月7日の私】のやり取り、時の回廊から見てたぜ」

「! 見てたのかよ、趣味が悪いな。……けど、それなら話が早い」私は300X年の魔理沙に手紙を突きつけ「一週間後の私が語った話とこの手紙の内容が明らかに相反しているんだが、一体何を考えている? 一週間後の私が言った『私を貶める為の罠』とは本当なのか? ……お前は私の敵なのか?」と問い詰める。ここに来るまでの間色々と思考を巡らせてみたものの、やはり彼女の動機がさっぱり分からない。過去の自分を混乱させて何がしたいんだ。

「そんな怖い顔しなくても全部話すつもりだ。お前に見せたい物もある。私の別荘に案内するからそこで話をしようじゃないか」

「別荘?」

「あの岬のてっぺんに小屋が建ってるのが見えるだろ? あれがそうだ」そして300X年の魔理沙はこの場の全員に向かって指示した。「ここからは自分達の力で飛んで行く。にとり、着陸してくれ」

「はいはい」

 

 にとりは周囲に誰も居ないことを確認した後操縦桿を手に取り、ゆっくりと高度を下げて砂浜に垂直着陸した。ざっと見てもあの岬に宇宙飛行機を着陸できそうな広い場所はないので、反対意見は出なかった。

 

「それじゃついてきてくれ」

 

 先に歩き出した300X年の魔理沙に続いて、私達も宇宙飛行機を降りていく。

 磯の匂いがする生温い海風に心地の良い波音、海鳥たちの鳴き声、天気も良く絶好の海水浴日和なのだが、海岸には誰も人の気配がなかった。たまたまそういう日だからなのか、あるいは人里から遠い博麗神社よりも更に奥の僻地にあるからなのか。

 

「泳ぎたいなあ……」

 

 水棲種族としての血が騒ぐのか、にとりは物欲しそうに大海原を眺めていたが、すぐにその誘惑を振り切って私と妹紅に追いつき、先を飛ぶ300X年の魔理沙の後についていく。冷暖房の効いた機内と違って直射日光がかなり暑いけど、海風のおかげで多少はマシになる。ものの5分程度で岬の頂上の小屋の前へと辿り着いた。

 正面には一面の海を見下ろし、背後の陸地には森を見下ろす好立地に建つ別荘は、外観はとりたてて言う程のことでもない一階建ての木造家屋だった。

 300X年の魔理沙に続いて中へと入ると、ひんやりとした冷たい空気が私達を歓迎する。屋内は十畳程の小さな部屋が一つあるのみとなっていて、天井からはランタンがぶら下がり、壁一杯に敷き詰められた本棚には無数の本が詰まれ、本棚の隙間に一つだけ空いた窓からは大海原が見える。床一面にはペルシャ絨毯が敷かれ、中央には四人掛けの机と椅子があったが、読みかけの魔導書や実験道具、謎のガラクタなどで散らかっており、300X年の魔理沙は机と椅子に乗っかっていた物を簡単に片付けていた。

  

「それじゃ、かけてくれ」

 

 片付け終わった300X年の魔理沙に勧められ、彼女と私、にとりと妹紅が向かい合うような形で座った。閉め切られた室内の中、微かに聞こえてくる波音。300X年の魔理沙は切り出した。

 

「215X年9月の私が私を疑っていることは良く分かってる。なので、こういう仕掛けを使わせてもらうぜ」

 

 300X年の魔理沙が詠唱すると、私達四人を丁度包み込むように透明なドームが出来上がった。

 

「なんだこれ?」

「この魔法の中にいる人間は嘘を吐けなくなるんだ。例えば……にとり、お前のスリーサイズは幾つだ?」

「88-56-80だよ――!? な、なんで!」

「この通り。秘密にしておきたいことまで喋ってしまうんだ」

「へぇ……」

「うう、酷いよ魔理沙……。なんてことを言わせるのさ……!」

 

 にとりは顔を真っ赤にしながら口を塞ぎ、妹紅は彼女のボディーラインを興味深そうに見つめていた。にとりの反応からしてどうやら本当の事らしい。それにしても私より胸があるとは、着痩せするタイプだったんだな。

 

「ま、まあ効果は分かった。それじゃこの手紙について聞かせて貰おうか」

「結論から言おう。私の目的は215X年10月の私と同様に、【215X年9月30日の私がアプト星へ渡航した】事実そのものを無かった事にして、タイムトラベルを放棄させることだ」




途中で終わってしまいすみません。
必ず完結させる気持ちで続きを書いているのでお待ちください。

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