本文の一週間後の魔理沙=215X年10月の魔理沙ともなります。
「……それは本当なのか?」
「この空間内では嘘は吐けない。さっきにとりで実証して見せただろ?」
「いや、それはそうだけど……」
彼女の話には明らかな矛盾が存在していた。
「そんな理由なら初めっから手紙なんか送らなきゃ良かったんじゃないのか?」
「そうだよ。『一週間後の魔理沙の話を信じて、アプト星へ行かずに元の時間に帰る』。それですんなり終わってた話だと思うんだけど」
妹紅とにとりも私と同じ矛盾を抱いたようで、疑問を口にしていた。
「それだと何も変わらない。私が手紙を出したことにはきちんと意味があるんだ」
「「へ?」」
「まず大前提として、紀元前39億+1年8月17日にお前の前に現れた『215X年10月の私』の話は全て事実だ。宇宙飛行機がアプト星へ行った事も、リュンガルトによって地球が壊されたこともな」
「ああ」
「そして今の私は『215X年10月の私』の850年後、リュンガルトによって地球が壊された過去を体験した未来の魔理沙だ」
「え~とつまり、お前は一週間後の私が抱えていた問題を解決した魔理沙なんだな?」
「ああ、その通りだ。歴史改変を繰り返し、『215X年9月30日の私』と同じ地球が存続する歴史に戻って来たんだ」
「なるほど」
物語風に例えるなら、私が会った一週間後の魔理沙はバッドエンドの道の途中にいる魔理沙で、300X年の魔理沙はバッドエンドからハッピーエンドへと軌道修正した魔理沙なのだろう。これなら地球が消えていなかったのにも納得がいく。
「そして私の記憶では――850年前の215X年9月30日の魔理沙だった時には、アプト星へ出発する前に300X年の私とこうして直接会話した事実はない。私とお前は初対面なんだ」
「初対面だと? お前は私の延長線上の未来にある姿じゃないのか?」
「そこで手紙が大きく関わって来るんだ」
「そういえば一週間後の私は『私は〝三度目″なんだ! 私ではない私が過去に二度同じ失敗している』と話していたが……。これも何か関係あるのか?」
「鋭いな。まずは一度目の私が辿ってきた歴史から話すべきだろう」
300X年の私はまっさらな紙と鉛筆を用意し、紙の上側に横一本の線を記すと、左端に紀元前39億+1年8月17日、真ん中に西暦215X年9月30日、右端に西暦300X年7月10日と縦線で区切り、横線の最後に正史と記した。
「この横線を【正史】として、この歴史の魔理沙を【魔理沙Ⓐ】としよう。西暦215X年9月30日の魔理沙Ⓐは、お前と同様にアンナから貰ったメモリースティックを見てアンナの星へ行こうと思い立ちにとりの家に向かった。そこで宇宙飛行機の整備が必要だと知った魔理沙Ⓐは、にとりを誘って300X年の月の都へと向かう。そこで依姫から条件を突き付けられた魔理沙Ⓐは弥生時代に遡り、現地で出会った少女の助けを借りながらセイレンカを採って、月の都に渡すために300X年6月10日の永遠亭前にタイムジャンプした」
「そこまでは私と全く同じだな」
出来事があった日付に鉛筆で印を書き込んでいく300X年の魔理沙を見ながら頷いた。なんだか幼い紫と過ごした弥生時代の三週間が遥か遠い昔のことのようになってきちゃったなあ。
「だがお前と異なるのはここからだ。お前はこの時間の永遠亭前で鈴仙から私の手紙を受け取ったが、魔理沙Ⓐは【私の手紙を受け取っていない】んだ」
「!」
「とりあえずここに印をつけておく。今は気に留める程度でいい」
300X年の魔理沙は左端の『紀元前39億+1年8月17日』と区切られた縦線から更に横線を左に伸ばし、その端っこに西暦300X年6月10日A´と記した。
「それから魔理沙Ⓐは月の都にセイレンカを渡し、1ヶ月の整備期間を経て宇宙飛行機を受け取り、妹紅を誘って紀元前39億+1年8月17日に遡りアプト星へと向かった。魔理沙Ⓐは215X年10月の私と同じ歴史を辿り、お前が紀元前39億+1年8月17日で体験した時と同様に、215X年10月の魔理沙Ⓐは215X年9月30日の魔理沙Ⓐに顛末を教えた」
彼女は続けて『紀元前39億+1年9月20日』と記した縦線から線を下に分岐させ、そこから分岐前と並行になるように横線を右に伸ばしていき、端に地球滅亡と記す。
他方で私は一週間後の魔理沙が必死に語っていた内容を思い返していた。本当になりふり構わずといった状態だった。
「この時、215X年9月30日の魔理沙Ⓐは【私の手紙を受け取っていなかった】為、何の葛藤や迷いもなく一週間後の215X年10月から来た魔理沙Ⓐの話を受け入れ、元の時間に帰って行ったんだ」
「やっぱり、手紙が無かったらそうなるよねぇ」
にとりは頷いていた。
「そして215X年9月30日の自分の行動を変えた215X年10月の魔理沙Ⓐ自身も歴史改変の影響を受けて再構成され、【一週間後の未来からやってきた自分の警告を聞いてアプト星へ行くのを止めた】魔理沙Ⓑと統合されたんだ」
紀元前39億+1年9月20日の部分から縦線が更に下に伸び、二本の線と並行するように魔理沙Ⓑと書かれた横線が新たに記される。
「これで一件落着かと思われたが、魔理沙Ⓑが元の時間に帰っても正史に戻らず、地球と月は宇宙の藻屑となったままだった。何故か分かるか?」
「え? ん~と……」
どうやらこの世界線も地球滅亡のようで、正史からどんどん遠ざかってしまっている。私は少し考えた末にこう答えた。
「…………リュンガルトが過去の自分達に情報を送ったからか?」
「半分正解で半分外れだ。【過去から未来に掛けて、物質、非物質、自発的、偶発的な事に関わらず、時間を自由に移動できるのは全宇宙の中で霧雨魔理沙だけ】なんだ。時の回廊の咲夜に確認を取ったから間違いない」
「ってことは過去へ跳んだ事が分かってても、そこへ情報を送る手段がないのか。ならなんだ?」
「実は万能に思えるタイムトラベルにも弱点があってな、リュンガルトはそこを突いて来たんだ」
「弱点だと?」
「なんだと思う?」
300X年の魔理沙は一々私を試すような物言いをする。
「……タイムトラベル先の場所を移動できないとか?」
幻想郷が科学を解明する研究所によって滅びる歴史だった300X年5月6日、外の世界のビルの屋上から自由落下した記憶が甦る。あの時は本当に死を覚悟したものだ。
「そいつはどちらかと言えばタイムジャンプ魔法の欠点だな。タイムトラベルの弱点には含まれないんだ」
「だとすると……もったいぶってないでさっさと教えろよ」
「タイムトラベルの弱点は全部で三つある。一つ目は『時間移動の範囲』、二つ目は『過去改変の記憶』、三つ目は『術者の心』。彼らは二つ目の『過去改変の記憶』を利用したんだ」
「うん?」
「過去を改変した場合、私以外にも歴史改変の当事者になる人物は改変前の歴史を思い出す。お前にも心当たりがあるだろ?」
「確かに別の歴史のマリサを魔法使いにするように歴史を変えた時、マリサ以外にも、霊夢、アリス、パチュリーに咲夜と改変前の記憶が残っていたな――もしかして!」
「察しがいいな。215X年10月の魔理沙Ⓐが215X年9月30日の魔理沙Ⓐの行動を変えて魔理沙Ⓑとなった時、リュンガルトの連中もまた魔理沙Ⓐが改変する前の歴史――アプト星近辺でタイムトラベラーを観測した記憶を思い出したんだ。彼らは自らに降りかかった、身に覚えのない記憶をタイムトラベラーによる過去改変によるものだと確信し、改変される前と同じ行動を取ったんだ」
「なんてこった……! そんなことが有り得るのかよ……!?」
「大抵の人間なら単なる既視感としてすぐ忘れていただろうが、彼らの研究した仮説の中に、『歴史改変に密接に関わった当事者は記憶を持ち越す』というものがあったんだ。恐らくそれが彼らの行動を後押しさせたのだろう。むしろ今までが幸運すぎたな。過去改変に関わった人妖全てが私に好意的だったからこそ、私の望む通りに歴史が変化した訳だからな」
私は言葉が出なかった。まさか彼らがそんな盲点を突いてくるなんて、悔しいがタイムトラベルに詳しいと認めざるを得ない。
「つまりお前はこう言いたいのか? 私が一週間後の私の話を聞いて元の時間に帰っていたら、魔理沙Ⓑと同じ結果になっていたと?」
「その通り。【215X年10月の私の話に従ったからではなく、全てを解決し終えた300X年の私の手紙によって行動を変えたこと】で、魔理沙Ⓐ、魔理沙Ⓑ、私とも違う第三の可能性が拓けたんだ。さっきお前と初対面だと言ったのもそういった理由から来ている」
「ううむ……」
ややこしい、ややこしいが芯は通ってるように思える。こうして唸ってしまうのも当然だろう。
ここで話を聞いていたにとりと妹紅が疑問をぶつける。
「なんで300X年の魔理沙の手紙で行動が変わるの? リュンガルトが改変前の記憶を覚えているのなら、紀元前38億9999万9999年に私達が一週間後の魔理沙達に出会っちゃった時点で、私達も地球が壊滅した歴史に分岐しちゃうんじゃないの?」
「私からも質問。魔理沙Ⓑってことは〝二人目″ってことでしょ? そこからどういう経緯で今の魔理沙に繋がるのさ? ついでにその後の魔理沙Ⓑはどうなったんだ?」
「あーあとさ、手紙を出した目的については分かったけど、理由については聞いてないぞ」
「それらの疑問については、【歴史改変の法則】が大きく関わって来るんだ。先程の魔理沙Ⓑに話を戻すぞ」
「う、うん」
私を含めた三人の注目が集まる中、300X年の魔理沙は語り始めた。
「過程は違っても結果は変わらず、過去改変という最強の切り札を封じられた魔理沙Ⓑは追い詰められた。ここからどうやって元の歴史に軌道修正すればいいのかと――」
続きは年内投稿を目指します。