魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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ギリギリ年内に間に合って良かったです
来年もよろしくお願いいたします


本文中の後注は後書きに載ってます

※誤字報告ありがとうございました


第184話 歴史改変の法則

「話を聞く限りだと八方塞がりな気がするけどな」

「そうだよねえ」

「魔理沙Ⓑは知恵を絞ったが良い案が思い浮かばなかった。そこで魔理沙Ⓑは紀元前39億+1年のアプト星へ再度遡り、現実、電脳世界、時には近隣の衛星にも足を延ばし、リュンガルトと宇宙ネットワークについての情報を集めていった」

「そんなことしてリュンガルトに捕まらなかったの?」

「宇宙飛行機のワープ航法はリュンガルトの宇宙船よりも技術が進んでいたから、約一ヶ月の猶予があったんだ」

「ふーん」

「幻想郷とはまるで異なる文化・言語・社会に戸惑いながらも、魔理沙Ⓑはなんとかリュンガルトの成り立ちと宇宙ネットワークの概要を調べあげ、二つの候補があがった。リュンガルトがアプト星を追放されるきっかけとなった25年前のニレロ戦争、発足当時のリュンガルトの討滅……しかしどちらの方法も魔理沙Ⓑにとって抵抗があった」

「どうして?」

 

 にとりの純粋な質問に、300X年の魔理沙は少し顔が暗くなる。

 

「私のタイムトラベルは元々霊夢を助けるために研究したもの。そのタイムトラベルを利用して誰かの命を奪うような真似をしたくなかったんだ」

「あ……そっか、そうだよね」

「……」

 

 場の空気が更に重くなったが、300X年の魔理沙は話を続けて行った。

 

「困り果てた魔理沙Ⓑは時の回廊に向かい咲夜に助けを求めにいったが、『魔理沙の行動によって起きた歴史改変だから私は干渉できない』と拒まれてしまった」

「そこは都合良く行かないんだな」

「自分の蒔いた種は自分で刈り取れって事なんだろうね」

「そのかわりに咲夜は『魔理沙は時間移動について大きな見落としがあるわ。彼らの過去の発言も含めて、自分の歩んできた道を一度振り返ってみたらどう?』と助言を与えた。魔理沙Ⓑは助言に従って回想に耽っていくうちに、これまでのタイムトラベルの経験から【歴史改変による当事者の過去改変前の記憶は直近の歴史までしか復活しない】という法則を発見し、咲夜はそれを認めた。宇宙飛行機に戻った魔理沙Ⓑは新たに知った情報を元に自分達の戦闘力、資金力、倫理観から見て、魔理沙Ⓐの歴史で紀元前39億+1年8月19日のアプト星近域の宇宙ネットワークを改竄し、〝彼らがタイムトラベラーを観測した事実″を無かった事にするのが最良の選択だと判断した」

「なるほど、そうきたか」

「え、どういうこと?」

「直近の歴史?」

 

 私はすぐに理解できたけど、妹紅とにとりはいまいち分かっていない様子。300X年の魔理沙と一瞬のアイコンタクトの後、彼女は解説しはじめた。

 

「例えば私がにとりの朝食の内容について歴史改変するとしよう。にとり、今朝は何を食べた?」

「あんパンと牛乳だけど……」

「そうか。ならあんパンを食べたにとりを『にとりⒶ』として今朝――午前7時にしよう。午前7時の『にとりⒶ』は自宅であんパンを食べ、一時間後の午前8時に食べ終わり、午前9時に魔理沙αはその情報を知りました」

 

 300X年の魔理沙は紙の空きスペースにつらつらと書いていく。

 

「午前9時の魔理沙αはタイムジャンプして前日の午後10時ににとりの家を訪ね、パジャマ姿の彼女に次の日の朝食はご飯を食べるように勧めました。翌朝、あんパンを食べようと思っていた『にとりⒶ』は朝食をご飯に変更します。それにより歴史改変が発生して『にとりⒶ』は『にとりⒷ』となり、午前9時に『にとりⒶ』の記憶、あんパンを食べた記憶が甦ります」

「へぇ、実質二食分食べたことになるんだね」

「いやいや、にとりⒷは実際にはご飯しか食べてないから」

「つーか朝食が白米だけって寂しすぎるだろ、食事の時間も長いし」

「これはあくまで例えだからそこに突っ込まないでくれ」

 

 300X年の魔理沙は一度咳払いをして、脱線しそうになった話を戻した。

 

「続けて魔理沙αは前日の午後10時03分(あとがきではこの時刻になってました)に再びにとりの家を訪ね、先程勧めたご飯ではなくシリアルを食べるように勧めました。訝しげに思いながらも『にとりⒷ』は了承し、翌朝シリアルを食べました。歴史改変が発生して『にとりⒸ』となり、午前9時に『にとりⒷ』のご飯を食べた記憶が甦ります。ここで肝になるのが、にとりが思い出した記憶の『歴史』だ」

「それが歴史改変の法則なの?」

「ああそうだ。私以外の知的生命体が引き継げる記憶は一つ前の歴史まで。この例え話に当てはめると『にとりⒸ』から見て『にとりⒶ』のあんパンを食べた記憶は二つ前の歴史になるから絶対に思い出せないんだ」

「は~なるほどねえ」

 

 にとりは感心した様子で頷いていた。自分で言うのもなんだが非常に分かりやすい例えだった。

 

「図にしてまとめるとこのようになる」(後注1)

 

 300X年の魔理沙は時系列に沿って表を書き出し、私達に見せていた。

 

「この話にはまだ続きがある。魔理沙αは今度は午前5時に遡り、にとりの家に忍び込んで家中の食材を全部盗み出して午前9時に帰って行きました。午前6時に起床したにとりは食料が全て無くなっている事に気づきましたが、この時間に飲食店が開いている訳もなく、午前7時になっても何も有りつくことができませんでした」

「うわー酷いな」

「【にとりⒹ】は空腹の中泥棒を恨みながら日が昇りきるのを待ち続けました。そして午前9時になった時、『にとりⒹ』は『にとりⒸ』の記憶――魔理沙に勧められてシリアルを食べた記憶――を思い出し、『私が朝食を食べられなかったのは魔理沙の所為に違いない!』と腹を立て、9時10分に魔理沙の家へ殴りこみ、弾幕ごっこで彼女を破って見事に食料を奪還し、『魔理沙とはもう絶交だからね!』と言い捨てて帰って行きました」

「きちんとオチが付いたな」

「私そこまで好戦的じゃないんだけどなあ」

「誰だってお腹が減ってたら怒りっぽくなるでしょ。食い物の恨みは恐ろしいからな」

「『にとりⒹ』に絶縁宣言された魔理沙αは仲直りの為に謝罪の電話を掛けても着信拒否、菓子折りを持って家を訪ねても突き返されてしまいました」

「これはもう相当頭に来てるみたいだね」

「どうするんだ?」

「魔理沙αは考えた末に再び午前5時に遡り、盗みに入ろうとしていた魔理沙αに事情を説明して止めさせた後、元の時間に帰りました。それにより魔理沙αは【にとりの家に泥棒した記憶】を持った魔理沙βへ改変、『にとりⒹ』は『にとりⒸ´』へと戻りました」

「なるほど、泥棒したことを無かった事にする訳か」

「でもそんなことをしてもまた前の記憶を思い出して、にとりの心証が悪くなるんじゃない?」

「ところが結果は違った。『にとりⒹ』の時と同じく9時10分に魔理沙βの家に『にとりⒸ´』がやってきたものの、彼女は笑顔を浮かべ『全部思い出したよ! 魔理沙が私の朝食を救ってくれたんだね。ありがとう!』と感謝したんだ」

「あれ、どうなってるの?」

「前の歴史の記憶を思い出してるはずなのに展開が全然違うね」

「今回のケースで肝要なのは、『にとりⒹ』が泥棒の犯人を魔理沙だと断定できたのは、『にとりⒸ』の【未来から来た魔理沙αにご飯ではなくシリアルを勧められそれを食べた記憶】に由来するもので、【盗難現場から魔理沙αが泥棒だと結びつく証拠】を発見したことではないんだ。Ⓒ⇒Ⓓ⇒Ⓒ´と歴史が変わったことで、『にとりⒸ´』の記憶の引き継ぐ歴史が『にとりⒷ』ではなく『にとりⒹ』になり、その『にとりⒹ』はⒸの記憶に基づいて行動していた為、『改変前の記憶は一つ前の歴史まで』の法則によりそれらの記憶だけが全て抜け落ちてしまい、【にとりⒹが泥棒にあった】事実のみが『にとりⒸ´』に残った。『にとりⒸ´』から見れば【本来誰かに盗まれる筈だった食料が盗まれなかった】ことになるので、魔理沙βのおかげで今の歴史になったと思いこんだんだ」

「へぇ~そういうことだったんだ」

「なんていうか、マッチポンプって言葉が良くあてはまる話だね」

 

 妹紅とにとりは呆れ半分感心半分といった様子で300X年の魔理沙の話を聞いていた。

 

「な~んかこれならやりたい放題出来ちゃいそうね。もし失敗しても再びやり直しちゃえば良いんだから」

「今回の例では対象が朝御飯だったから上手く行ったけど、現実はもっと複雑だ。原因が一つとは限らないし、大抵の過去改変は人間が密接に関わって来る。人の心を変えるのは難しいからな」

「ああ」

 

 300X年の魔理沙に頷いた。霊夢、マリサ、咲夜と皆確固たる信念を持って生きていたのを私はよく知っている。

 

「そして今までの話を図に表すとこんな感じになる」(後注2)

 

 300X年の魔理沙は同じように、時系列に沿って表を書き出し、全員がその内容を読んでいた。

 

「リュンガルトについてもこのたとえ話のように、魔理沙Ⓑの歴史で直接時空の歪みを観測したのではなく、魔理沙Ⓐの歴史の出来事から間接的に知った。そして魔理沙Ⓑの歴史では〝時の回廊の咲夜に話を聞きに行った瞬間だけ″しかタイムトラベルを使用していない。歴史改変の法則を当てはめ、この部分を修正した魔理沙Ⓑの歴史を挟んだ後に魔理沙Ⓐの歴史に戻れば、リュンガルトの改変前の記憶から私に関するものが全て消え去る。そして彼らが215X年9月30日の魔理沙Ⓐが起こした時空の歪みを発見してしまう前に宇宙ネットワークを改竄してしまえば、タイムトラベラーについて最初から知らなかったことになるのではないか――と、考えたんだよ」




※(後注1)

 前提、にとりは魔理沙がタイムトラベラーである事を知り、過去改変の法則も知っている。
    
    にとりは一つ前の歴史の出来事しか思い出せず、それに関連する行動(過去改変前の記憶によって変化した行動)も忘れる。


 正史(にとりⒶ)  
 
 午後10時30分⇒にとり就寝 午前6時⇒にとり起床 午前7時⇒にとりが朝食にあんパンを食べる。午前8時⇒食事終了 午前9時⇒魔理沙αがにとりの朝食の内容を知った時間。過去の歴史を想起する時間

 1度目の改変(にとりⒷ)

 午後10時⇒α魔理沙にとりⒶ接触   午後10時30分⇒にとり就寝 午前6時⇒にとり起床 午前7時⇒にとりご飯を食べる   午前8時⇒食事終了 午前9時⇒にとりⒶの記憶想起

 2度目の改変(にとりⒸ)
 
 午後10時03分⇒α魔理沙にとりⒷ接触 午後10時30分⇒にとり就寝 午前6時⇒にとり起床 午前7時⇒にとりシリアルを食べる 午前8時⇒食事終了 午前9時⇒にとりⒷの記憶想起
 


※(後注2)


 3度目の歴史改変(にとりⒹ)
 
 午後10時30分⇒にとり就寝 午前5時⇒魔理沙α泥棒 午前6時⇒起床したにとり、泥棒にあったことに気づく 午前7時⇒朝食無し 午前8時⇒何もなし 午前9時⇒にとりⒹ、にとりⒸの記憶想起。魔理沙αをとっちめに行く
 
 4度目の歴史改変(にとりⒸ´)
 
 午後10時30分⇒にとり就寝 午前5時⇒未来魔理沙α、魔理沙αの泥棒を止める。魔理沙αはβに改変 午前6時⇒にとり起床 午前7時⇒にとりシリアルを食べる 午前8時⇒食事終了 午前9時⇒にとりⒸ´Ⓓの記憶一部分想起。魔理沙βに感謝しにいく。

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