魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第185話 宇宙ネットワーク

 私と私の話し合いは既に30分の時間が過ぎていた。

 

「まあ魔理沙Ⓑの理屈は分かったけど、観測されたことを無かった事にするとはどういうことだ? そもそも宇宙ネットワークってなんなんだ?」

「一口で言えば、アプト星を含むプロッチェン銀河と他銀河の宇宙文明を築いた恒星間同士を仮想世界上の情報網で結んだ超光速通信システムのことだ」

「は?」

 

 自分でも驚くくらいに間抜けな声が出た。まるで意味が分からない。

 

「う~んなんて説明したらいいかな。外の世界で利用されているインターネットを宇宙規模に発展させたってイメージで伝わるか?」     

「あーそっち系ね。ようはアレだろ? 電話や郵便みたいに直接出向かなくても言葉や文章を伝えられるって奴」

「まあ大体そんなイメージで構わない。宇宙ネットワークの機能の一つにナビゲーション機能があってな、起動すると空間上に立体的な宇宙地図が投影されるんだ。銀河や星の位置は言わずもがな、宇宙ネットワークに登録して、尚且つネットワーク範囲内の宇宙を飛行中の宇宙船や、ブラックホールの位置まで瞬時に分かって、安全な恒星間航行には欠かせない技術だったんだ」

「へぇ~良く分かんないけど便利そうだな」

「他人事みたいに言ってるけどな、お前がアンナから貰ったメモリースティックもこの機能が搭載されてるんだぞ」

「え!?」

「なるほど、だから魔理沙は……」

 

 にとりは一人で何かを納得したように頷いていた。

 

「魔理沙Ⓐもそして私も、アンナのメモリースティックを宇宙飛行機に接続して宇宙ネットワークの導きの元アプト星へとワープしていった。アンナには決して悪気は無かったのだが、結果的にこの行為はリュンガルトに発見される原因の一つとなってしまったんだ」

「……そういえば、一週間後の私が現れたタイミングも端子にメモリースティックを差し込もうとした直前だったな。つまり〝観測されたことを無かった事にする″とは、メモリースティックを差し込まないことなのか?」

「魔理沙Ⓐの歴史で差し込んでいなければそれも通用しただろうが、魔理沙Ⓑの歴史でやってもリュンガルトに改変前の記憶が残るだけで結果は変わらない。差した事実は変えずにタイムトラベラーだと発覚されないようにするしかないんだ」

「どういうことだ?」

「それを説明するには宇宙ネットワークのナビゲーションシステムの原理から話す必要があるんだが、良いか?」

 

 私は頷いた。

 

「宇宙は果てしなく広く、138億年前にビックバンが起きて以来今も広がり続けている。そんな宇宙を飛ぶ宇宙船や、光さえも飲み込んでしまうブラックホールの位置をどうやって正確に割り出しているのか。それは宇宙を構成している暗黒物質に含まれる【ST粒子】を観測しているからなんだ。ST粒子は肉眼では見えない小さな物質で、光よりも速く動き、空間の歪みに反応する性質を持っている。宇宙飛行機も含めた宇宙船はワープの際に空間の歪みを起こし、ブラックホールのような超重力の天体は常に強い歪みを残し続けている。クッションに重い物を乗せたらその部分だけ深く沈みこむだろ? イメージ的にはそんな感じだ」

「あ、あぁ」

「タイムジャンプは高次元の領域にアクセスする魔法で、その際に莫大な負荷が空間にかかり巨大な歪みが残る。これはブラックホールとも宇宙船とも違う穴だったけれど、一般利用者は気にも留めなかった。ただリュンガルトのみがタイムトラベラーの可能性を疑ったんだ。普通の宇宙船がお茶碗だとしたら、タイムジャンプは丼鉢くらいだな」

 

 300X年の魔理沙は例え話を用いて分かりやすく伝えようと努力してくれているようだけど、やはり多少のリスク込みでも学習装置を使っておけば良かったかもしれない。彼女は本当に同じ私なのか疑ってしまうくらいに知らない単語を饒舌に語っていた。

 にとりは難しい顔をしながら訊ねる。

 

「え~と、そのST粒子さえ何とかすればいいと魔理沙は言いたいの?」

「その通りだ。空間の歪みは目で見ることができず、西暦300X年現在でもST粒子に頼るしか観測する方法がないからな」

「ほほ~、けどさそんな単純に行くの? 恒星間航行が一般的な銀河なら人や機械の目がそこら中に有りそうな気がするけど」

「傍から見れば宇宙飛行機は宇宙を飛び交う宇宙船の一つでしかない。私達の姿が映り込んだとしても、それがタイムトラベラーだと分からなければ問題ないのさ」

「ふーん」

 

 にとりは納得したように頷いた。続けて妹紅が質問する。

 

「で、どうやってそのST粒子を対処するんだ? 話を聞く限りだと宇宙の至る所にあるんだろ? 水や空気みたいな存在をどうやって無くす?」

「そのことについても魔理沙Ⓑは既に調べあげていた。ST粒子の活動を鈍らせるVY粒子という便利な粒子が有ってな、そいつをタイムジャンプ地点に散布することで時空の歪みを検知できないようにするんだ」

「粒子には粒子をぶつけるってことか」

「そこまで分かっているのなら元の歴史に戻るまで秒読み段階だね」

「しかしVY粒子は空間の歪みを消す訳じゃなく、あくまでST粒子を妨害するだけ。つまり空間の歪みが生じる前に散布しておかないと効力を発揮しない欠点があった。今のままではどうあがいても時間移動した瞬間にST粒子が反応してしまい、完璧な改竄が出来ないんだ」

「確かに、タイムジャンプする行為そのものが駄目になるもんなあ」

 

 こういう時はタイムジャンプ以外の方法で過去に遡るしかなさそうだが……。私は300X年の魔理沙の言葉を待った。

 

「魔理沙Ⓑはタイムジャンプの更なる改良に着手することを決めて、彼らの手が届かない時の回廊に引きこもって研究を始めてな。空間座標の移動縛りを取っ払い、ST粒子のみならず肉眼以外のあらゆる観測装置・感覚・感応に反応しないようになるまでに主観時間で五年の歳月を掛けたんだ」

「そんなに……!」

「ひょっとして、さっきお前が使ってみせたタイムジャンプもこの時に?」

「ああ。時の回廊は宇宙のどこからでもアクセスできる特殊な領域だ。逆説的に考えれば時の回廊を経由することで宇宙のどこにだって行けることになる。咲夜が人間だった頃から時間停止と空間操作能力を持ってた訳だし、私だって同じ事が出来る筈だと思ってな。咲夜に色んな質問を繰り返しながら試行錯誤を繰り返したんだ」

「ほぉ……」

「最も、核心に繋がるようなことは教えてくれなかったけどな。『自分の歴史は自分で完成させなさい』ってね」

 

 彼女は苦笑しながら肩をすくめていた。あの現実味のない世界で二人っきりは寂しい気もするけど、同じ気持ちを共有できるだけ最初の150年に比べればマシかもしれない。

 

「宇宙飛行機に戻った魔理沙Ⓑは、咲夜に相談に行った時刻とタイムジャンプを改良した時刻の10分前へ時系列順に遡り、VY粒子を散布してST粒子が反応しないことを確認した後、再び時の回廊へ跳び、紀元前39億+1年8月17日に向かおうとしていた215X年10月の魔理沙Ⓐを捕まえて事情を説明し、215X年9月30日の魔理沙Ⓐの行動を改変させないように約束させた。それにより魔理沙Ⓑは、【魔理沙Ⓑの記憶を持った魔理沙Ⓒ】に再構成され、魔理沙Ⓐの歴史に戻ったんだ」

 

 彼女は歴史の流れを紙に書きつつ語って行く。

 

「それから魔理沙Ⓒは魔理沙Ⓑの歴史同様にVY粒子を入手した後、同年8月19日の午前3時のアプト星近域へタイムジャンプし、魔理沙Ⓐの乗った宇宙飛行機がタイムジャンプする地点に散布。こうして魔理沙Ⓒは元の歴史へと戻って来たんだ」

「おお~!」

 

 パチパチとにとりの乾いた拍手が響く。300X年の魔理沙は表を完成させていた。

 




文字数少なくてすみません
本当はもっと先まで書きたかったのですが前回、今回と話の展開が難しすぎて難航しています
途中で諦めるつもりは絶対にないので気長にお待ちください

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