「ねえ、パチェ~ちょっと聞きたい事があるんだけど――!?」
私と目が合うと、レミリアは口をあんぐりと開き、面白いくらいに驚いていた。
心の中でその反応を楽しみつつ、私は旧知の友人に声を掛けるような態度で口を開く。
「よぅレミリアじゃないか。久しぶりだな? 元気か?」
「魔理沙!? あなたどうして……!」
「実はな――」
私の元へ一直線で向かってきたレミリアに、これまでの事をかいつまんで説明した。
「そんな、貴方は別の世界からやってきた魔理沙だと言うの!?」
「別の世界――うん、まあそうだな。たぶんそれが一番しっくりくると思う」
本当は大分違うのだが、そこを説明するのも面倒くさいのでとりあえず肯定しておく。
「彼女の話は本当よ。さっき時間移動魔法の理論を簡単に聞いたけど、この私ですら理解できない魔法理論を展開してたもの。これが嘘なら詐欺師の才能があるわね」
「おいおい……」
「……そうなの。でも、これは願ってもないチャンスかもしれないわね」
そうポツリと呟いたレミリアは、佇まいを整え、私の顔をはっきり見たうえで発言した。
「ねえ、魔理沙。私を過去に送ってくれないかしら?」
「! レミィ!」
「過去にだって? 何故だ?」
妙に動揺しているパチュリーが気になるが、今は不可解な事を言いだしたレミリアの方が気になっていた。
「魔理沙、十六夜咲夜って名前のメイドがいた事を覚えてるかしら?」
「お~よく知ってるぜ? この世界でも140年前に亡くなったらしいな?」
早逝だったことを覚えているし、ついさっきも彼女の話題があがり、思い出話に花を咲かせていた所だ。
「私はね、咲夜の身をもっと案じてあげればよかったと、亡くなってからずっと後悔してたの。だからお願い! 一度、一度でいいから咲夜に会って謝りたいの!」
今にも泣きそうな表情で懇願してくるレミリアに、私はきっぱりと告げる。
「残念だがそれは出来ない相談だ」
「なんでよ!?」
「レミリア、お前は確か〝運命を操る程度の能力″を持っていたよな?」
「それが何か関係あるのかしら?」
「時間移動ってのはな、非常にデリケートなんだ。そんな魔法とお前の能力が合わさってみろ。相乗効果が起こって、時空の狭間に落ちてしまうかもしれないんだ」
時空の狭間は全くの無が支配し、時間の概念がなく、永遠にそこから抜け出す事が出来ないとされている。もしそこに落ちてしまったら只事では済まない。
「さらに付け加えていうならな、因果律ってしってるか? 時間移動と運命操作の共通点はそれを操作する事だ。そんな似た力を持った存在同士がぶつかれば、ただではすまないんだ」
「私はそれも覚悟の上よ!」
「お前が良くても私は嫌だよ! そんな危険な賭けに乗る事はできん!」
実際この魔法の実験の最中、何度か向こう側へと引っ張られそうになったのだ。あれだけは二度と起こしてはいけない。
「魔理沙の意見に私も賛成するわ。きちんと話の筋が通っているし、恐らく本当の事だと思うの」
「パチェまで!? そんなぁ……うぅぅぅ」
その場に泣き崩れてしまったレミリアは、いつもの傲岸不遜な態度ではなく、一人の少女のような反応をしていた。それになんとなく気まずさを感じてしまった私は、こんな提案をする。
「あ~その、アレだ。お前を連れていく事は出来んが、何か伝言とかあれば伝えてやってもいいぞ?」
「本当に!?」
急に起き上がり、目を輝かせているレミリアに「お、おう」と気後れしながらも答える。
「ちょっと待ってて!」
レミリアは翼を広げ、急加速しながら図書館を飛び出していった。
「あんな約束をしちゃってよかったのかしら?」
一連の流れを見ていたパチュリーの問いかけに、私はこう答えた。
「私も死別の悲しみは痛いほど分かる。あんな顔されたら断れないさ」
「……そう。くれぐれもタイムパラドックスを起こさないように気をつけてよね」
「分かってるよ」
それから数分後、一枚の手紙を持ったレミリアが現れた。
「この手紙を在りし日の咲夜に渡してほしいのよ。私の想いの丈が綴ってあるわ」
「はは、いいぜ。時間はいつだ?」
「……私はね、咲夜を眷属にして永遠に手元に置いておきたくてね、その選択を迫った日が200X年9月1日なのよ。だからその日にお願いするわ」
「! 分かったぜ」
まさかの200X年――霊夢が自殺する筈だった年を指定された事に驚きながらも了承した。
「どこか跳ぶのにいい場所はないか? 私の時間移動は空間座標の指定まではできないんだ。過去のお前達にもし見られたらまずい」
今はすっかり寂れてしまっているようだけど、200X年頃の紅魔館なら大図書館の利用者もそこそこ多いだろう。
「それなら第二倉庫が良いと思うわ。あそこ普段は人の出入りが少ないし」
「第二倉庫ってどこだ?」
「ついてきて」
歩き出したレミリアの後を追って立ち上がった時、パチュリーは口を開く。
「魔理沙、過去の私によろしくね」
「はは、時間があればな」
そんなやり取りを交わし、私はレミリアの後をついて行く。
屋敷の1階の片隅にある第二倉庫に案内され、レミリアが見守る中私は150年前へタイムジャンプしていった。