(やれやれ)
私は心の中で大きな溜息を吐いた。
人生は選択の連続だと誰かが言っていたけど、こうも立て続けに選択を迫られることになるなんてな。今回はちょっとした宇宙旅行の筈だったのにどうしてこうなってしまったのか。
(なんて、愚痴をこぼしてる場合じゃないか)
目の前の魔理沙は世界の礎となっていった多くの私達の代弁者であり、私の六倍以上の年を重ね豊富な経験を経ている。全ての種明かしがされた今、彼女の不可解な言動の意図も理解できたし、現状の歴史で固定する事には大いに賛成だ。
けれど私にはどうしても譲れない部分があった。
「――私は『宇宙ネットワークに発見されずにアプト星へ行く魔理沙Ⓗ』を選ぶぜ」
「「「!」」」
予想していなかったのか、この場の全員が驚きの顔で私を見る。
「要はアプト星近辺でタイムジャンプをせず、尚且つメモリースティックも使わずに行けば問題ないんだろ? 違うか?」
「……それは難しいだろうな。メモリースティックの中には、ナビゲーションシステム以外にもアプト星における通行証と身分証が入力されているんだ。お前も見た筈なんだが」
「え、そんなのあったっけ」
「お前が自宅で空中に投影されたアプト星の星図を見た時、左下辺りに自分の顔写真とゲストID№0001と記された事項が有ったろ?」
記憶の糸を辿っていき「……ああ~あれのことか!」と思い出す。あの時はスルーしてたけどそんな意味があったんだな。
「関所、パスポート、いつの時代でも人や物が移動する際には必ず時の政府の許可が必要になる。それは他の星だって同じだ。メモリースティックを通じて宇宙ネットワークに接続することで初めて有効になる。勝手に入ろうものならアプト星の軌道上に浮かぶ宇宙要塞から無数の宇宙船が飛んでくるぜ」
「そうか。う~ん良いアイデアだと思ったんだけどな……」
そうなるともう危険を承知で魔理沙Ⓕルートに行くしか手立てが無くなってしまうが、不幸な未来になる事が分かってて同じ道へ行くのは勇気が必要だ。
本当にこれしか方法がないのか? ……駄目だ、情報が足りな過ぎる。外の世界のテクノロジーすら怪しいのに、太古の昔の遠い星の事なんて分かる訳がない。
「なあ過去の私」思考の海へ潜る私を呼び戻すように300X年魔理沙が問いかける。「私の話を理解しているのならアプト星に行く事がどれだけ危険なことか分かるだろ? そうまでして何故アンナに拘る?」
分かりやすく困惑している彼女に、私は胸を張ってこのように答えた。
「アンナと遊ぶ約束をしたからだよ。かつての歴史で彼女は39億年もの時間をコールドスリープしてまで私に会おうとした。私はその気持ちに応えたい」
「!!」
霊夢やマリサの事で紆余曲折あったけど、この想いだけは一貫している。
それに300X年魔理沙の話の中でリュンガルトや宇宙ネットワーク関連についてはうんざりするくらいに登場したけど、アンナが一連の出来事に関与しているとは匂わせることもしなかった。見方を変えればアンナも私と同じ被害者なんだ。
「逆に訊ねるが、お前自身はアンナと過ごした事についてどう思ってるんだ?」
彼女も同じ私なら、私と同じ想いでアプト星へ行った筈。敢えて触れないようにしているのかそれとも……。いずれにしても私の決意は固い。
「……」
未だ衝撃から抜け出せない様子の300X年魔理沙は、無言になり真剣な表情で考え込んでいる。時計の針と微かな波の音が反響する部屋の中、やがて彼女は沈黙を破るように重い口を開いた。
「そう、だな。リュンガルトのことさえなければ良い思い出になっただろうな。タイムトラベルの打算やリスクばかり考えて初心を忘れていたよ。……全く、まさかこんな単純な事を過去の私に気づかされるなんてな」
遠い過去を懐かしむような表情の300X年魔理沙はすっくと立ち上がり、「渡したい物がある。五分後に帰って来るから待っててくれ」とだけ言い残し、行先を告げずにタイムジャンプしていった。
再び静かになった部屋で、にとりがポツリと呟いた。
「……未来の魔理沙が渡したい物ってなんだろうね?」
「さあな、見当もつかない」
あの雰囲気的に少なくとも有っても無くてもいいような物じゃないことは確かだ。
「彼女、私の知らない所でかなり重い経験をしてたんだな。結構な頻度で会ってたのに全然気づかなかったよ……」
「大分思い詰めていたみたいだったけど、大丈夫かな」
会話が弾む事もなく、各々が複雑な心境を抱きながら300X年魔理沙の帰りを待ち続け、午後3時55分、宣言通りの時間に帰って来た。
(あれが850年後の私のタイムジャンプ……!)
今の私と違って魔法陣が七層に増え、精巧なローマ数字の文字盤をモチーフにした魔方陣模様は芸術的だった。それなのに現れる寸前まで――実際に姿を現した時も、気配やマナの流れをまるで感じなかった。本当にどんな仕組みなんだ?
そうして分析している間に彼女は着席し、「待たせたな。お前にこいつを授けよう」と一冊の製本を机越しに差し出してきた。私はそれを受け取る。
「なんだこれ?」
茶色いハードカバーの本には、表表紙、背、裏表紙のどこを調べてもタイトルが書かれておらず、小口を見る限りでは数十ページ以上あるようだ。早速開けてみると、クオーツ時計を分解したような模様の魔法陣やそれに関する魔法式らしきものが余すことなく記されていた。
え~と何々? ……ん? これは!
「ま、まさかこの本にはタイムジャンプ魔法のことが書かれているのか?」
「その通り、ここには私の五年の研究の成果が詰まっている。名付けるなら真・タイムジャンプ魔法だな」
「真・タイムジャンプ魔法……!」
なんとも安直なネーミングだが、分かりやすくて良いと心の中でフォローしておく。
「本気で行く覚悟があるのなら、これを習得して紀元前38億年9999万9999年8月17日のアンナの自宅前にタイムジャンプするんだ。星の外の警備は厳重だが、中に入ってさえしまえばアンナがなんとかしてくれる」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。タイムジャンプでそんな遠い場所にまで跳べるのか!?」
「『時の回廊は宇宙のどこからでもアクセスできる特殊な領域だ。逆説的に考えれば時の回廊を経由することで宇宙のどこにだって行けることになる』1億光年だろうと100億光年だろうと、タイムジャンプを使えば一瞬だ」
「はぁ~凄いな!」
あまりのスケールの大きさに、私は間抜けな言葉しかでなかった。
「そういうことなら有難く貰っておくぜ。……にしても、あれだけ反対してたのにどういう風の吹き回しなんだ?」
「なあに、私は自分のことしか考えず臆病になっていた。ただそれだけの話だよ」
彼女の意図を汲み取った私は、ポケットに戻していたメモリースティックを再度取り出し、全員に見せるように手の平に広げた。
「じゃあ今から壊すぜ」
「ああ、やってくれ」
メモリースティックの端と端を両手で摘んで反発するように魔力を込めると、クラッカーのような音をしながらあっけなく折れた。断面部分から人差し指くらいの小さな四角い機械が飛び出していて、焦げたような臭いがする。
「これで現在の歴史が改変されることは決定的になった。お前が別の時空に跳んだ瞬間からすぐにでも開始されるだろう」
「……」
淡々と話す300X年魔理沙に何か言うべきかと考えたがやっぱりやめた。彼女はそんなの望んでいないだろう。
私は左腕に本を抱えながら席を立ち、彼女達を見下ろしながらこう言った。
「今から時の回廊に行ってこの魔導書を学んでくる。アプト星から帰ってきたらタイムジャンプを封印するつもりだ」
「分かった。幸運を祈ってるぜ」
「にとり、妹紅、五分後にここに帰って来るからそれまで待っててくれ」
無言で頷くにとりと妹紅、白い歯を見せながらサムズアップする300X年魔理沙を瞳に焼き付けつつ私は宣言した。
「タイムジャンプ! 行先は時の回廊!」
ピントの合わないカメラのように世界が段々とぼやけていくのを感じ、私は目を閉じた。
――西暦????年??月??日――
時間移動特有のフワフワした感覚が終わり、地に足ついたことを感じ取った私は目を開く。飛び込んできたのは世界を貫くように地平線の果てまで続く回廊、私はそのど真ん中に立っている。回廊の外側には四季を象徴する景色が広がっていた。
(ここに来るのも何回目かな)
非現実的な光景なのにすっかり馴染み深いものになってしまった。思えば随分遠くまで来てしまったな。
「貴女の選択見させてもらったわ」
感傷に浸っていた時、なじみ深い声と共に女神咲夜が姿を見せる。
「貴女にはいつも驚かされてばかりだわ。過去・現在・未来、これまであらゆる時間を旅する貴女と幾度となく会って来たけど、その終わりも近そうね」
「もう私には必要ないし、それがアイツの意思でもあるからな。今回の件で、タイムトラベルの為ならどんな手段も厭わない存在がいるってことが良く分かったよ」
魔理沙Ⓓ程極端にならなくとも、これからはより一層慎重に行動しなければならないだろう。
「咲夜、今からタイムジャンプ魔法の改良に取り掛かろうと思う。しばらくここに居てもいいか?」
「もちろん」
彼女が指を弾くと、目の前に私の家と同じソファーとアンティーク調のテーブルが出現した。
「時の回廊は時間の概念が無い場所、何日でも、何年だろうと自由に使ってくれて構わないわ」
「悪いな」
「頑張ってね」
女神咲夜は空間に溶けこむ様にしてこの場から居なくなり静けさが戻る。私はソファーに腰を下ろし、頭の中で魔法使いとしてのモードにスイッチを切り替え、魔導書を読んでいった。
「よーし、終わったぜー!」
100ページにもわたる魔導書を読了しきった私は、確かな達成感と共に本を閉じる。ここは一切の音も景色も全く変化しない為集中するにはもってこいの場所で、気づけば主観時間で一週間も経過していた。
「お疲れ様、はいお茶どうぞ」
「おお、サンキュー」
隣に忽然と現れた女神咲夜から湯気が立っている湯呑を受け取り、ゆっくりと傾けていく。苦みがよく効いて口当たりが良く、自分で淹れるより断然美味い。
そうして味わっている間にも、彼女はかがみながら苺のショートケーキを机に置き、「勉強の後は甘い物がお勧めよ」と自然に勧めてきたのでそちらも頂くことにする。フォークで一口サイズに切り分けて口の中へ運ぶと、ホイップクリームが口の中で蕩けていき、スポンジの中で薄く切り分けられた苺の酸味が良いアクセントとなってほっぺが落ちそうな美味さだ!
「美味いな!」
「ふふ、喜んでもらえて良かったわ」
ここ一週間、彼女は時々様子を見にくるついでに色んなお茶菓子を出してくれていて、私の密かな楽しみになっていた。純白のドレスから紅魔館と同じデザインのメイド服に着替え「こうして誰かにお給仕するのも久しぶりね」と嬉しそうに語っていたのが印象に残っている。
それにしてもどこからお茶菓子を調達して来ているんだろう。聞いてもはぐらかされるし謎過ぎるけど、まあ美味しいから別にいいか。
やがてお茶を飲み干し、ショートケーキを完食した私は、「ご馳走様。それじゃ早速新しいタイムジャンプを試してみるよ」と言って席を立つ。彼女の手作りスイーツが食べられなくなるのは名残惜しいが、いつまでもここに居る訳にはいかない。
(跳ぶ時間は次の日の朝で良いとして、場所はどこにしようかな。……自宅前でいいか)
新生タイムジャンプ魔法は、従来のタイムジャンプ同様跳びたい時刻に加えて空間を指定するだけで良く、到着地点をより細かく鮮明にイメージすることで誤差を無くすことができる。と書いてあった。
更に凄い所は、到着地点となる地名・空間は過去も未来も含めて普遍的に呼ばれていた呼称で良く、時代に合わせて変更する必要がないので大変使い勝手が良い。
《例えば私が住む幻想郷は日本という国の一部にあるけど、8世紀以前は日本ではなく倭国と呼ばれていた。仮に22世紀から8世紀以前に時間遡航する時、日本の何処何処~と指定してもいいし、逆に倭国の何処何処~と指定してもちゃんとタイムジャンプできる》
「タイムジャンプ! 時間は西暦215X年10月1日午前7時、場所は自宅の前!」
身体の奥底から眠っていた魔力が静かに湧き上がり、手足の先まで行き渡るような充実感が生じる。今なら時間の壁のみならず、空間だって飛び越えられそうだ。
「いってらっしゃい魔理沙」
メイド姿の彼女が見守る中、歯車、機構、文字盤、針といった時計のパーツを模したバラバラな魔法陣が一つになり、足元で重なった瞬間私は消えて行った。
――西暦215X年10月1日午前7時――
暖かな日差しを感じて目を開ければ、普段から見慣れた森と瘴気が混じった湿り気のある空気が私を出迎えた。
「よし、成功だな」
これからは時間移動が俄然楽になるだろう。
(さて、戻るか)
にとり達と約束した時間に戻るべく、脳内でタイムジャンプの準備をしていると。
「捕まえた!」
「キャッ、だ、誰!?」
突然後ろから腕を回されて身動きが取れなくなってしまい、おまけに変な声が出てしまった。何事かと思って首だけ後ろに振り返ると〝私″がいた。
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながらこう言った。
「ぷぷ、随分と可愛い声が出たな」
「う、うるさいな。いきなり何すんだよ!」
「ふふん、ここで待ってれば必ず帰って来ると思ったが、私の勘は的中したぜ」
「はあ?」
「なあ昨日はどこに行ってたんだ?」
「昨日?」
「夜の6時頃に宇宙飛行機に乗って宇宙へ飛んでいったじゃないか。忘れたとは言わせないぜ~」
「ああ~あれか!」
そうか、あの出来事からまだ13時間くらいしか経ってないんだな。
「しかも一緒に乗ってた妹紅は未来人だろ? 私をのけ者にして面白そうなことしやがってずるいぞ!」
「な、何故それを……!」
「慧音の家で妹紅が夕飯を食べていたのを目撃したからな。彼女が私より早く来るのは有り得ないんだよ」
得意げに答えたマリサは「さあ、答えろ! 言わないならこのままくすぐってやるぜ!」と、指先を細かく動かしながら、更に身体を密着させてくる。その仕草を見るだけで体が疼いて来た私は、観念するように答えた。
「分かった、分かったからいい加減離れてくれ。暑苦しいぞ」
「別の時間に逃げたりするなよ?」
「しないって」
マリサは腕を解いて一歩後ろに離れ、私と向かい合うように移動する。彼女は今か今かと子供のように目を輝かせていた。
「実はな、お前や霊夢が妖怪になる前の歴史の紀元前39億年にアンナって宇宙人の女の子に会ってな、別れ際にその子が住んでいる星に遊びに行く約束をしたんだ」
「前に聞いたことがあるな。確か1億光年離れた場所にあるんだっけか?」
「そうそう。その約束を果たす為に昨日宇宙に出発したんだが……紆余曲折有って結局行けなくてな、今からもう一度挑戦しようと思ってた所なんだ」
紆余曲折の部分を口で説明するのも面倒なのでここは省略する。
「それなら私も連れてってくれよ」
「! お前も来るのか?」
「外の世界の違う惑星なんて面白そうじゃん。この機会を逃したら一生なさそうだし。良いよな?」
「まあ……良いけど」
「決まり! ――そうだ! どうせなら霊夢も誘おうぜ」
「え?」
マリサは箒に跨り、「30分後に戻って来るから、勝手に行くなよなー!」と言い残してあっという間に空の彼方へ飛んで行ってしまった。
(はは、相変わらず強引だな)
とはいえ、昔の私を見ているようで悪くない気分だ。改めてにとりの元に戻るとしよう。
(え~とあの別荘の場所は確か幻想郷東海岸って言ってたよな。よし)
「タイムジャンプ! 時間は西暦300X年7月10日午後4時30分、場所は幻想郷東海岸の岬頂上に建つ私の別荘の中!」
宣言した後でこんな感じで良いのかと不安になったが、タイムジャンプは無事に発動し、私は未来へ続く魔法陣の中へ飲み込まれていった。
――西暦300X年7月10日午後4時30分――
渦のようにぐにゃぐにゃになった世界が段々と落ち着きを取り戻し、鮮明になる。別荘の中は改変前の歴史と全く変わっておらず、にとりがポツンとテーブルの前に座っていた。
「おかえり魔理沙。タイムジャンプは完成したの?」
「ばっちりだぜ」
「だろうね。魔法陣が前と比べて全然違うもん」
「ところで妹紅と未来の私はどうした?」
「魔理沙がタイムジャンプした瞬間に意識が途切れちゃってね、気づいた時にはもう居なくなってたんだ」
「ふーむ、そうなのか」
過去が変化したことでここに集まる因果が無くなってしまったのか……。考察していると入り口の扉が開き、外から妹紅が息を乱しながら入って来た。
「はあっ、はあっ、やあ、お待たせお待たせ」
「妹紅!」
「いや~いつの間にか自宅に瞬間移動してたからびっくりしたよ。過去改変ってのは何度体験しても慣れないねぇ」
(これも歴史が改変された影響か)
「この時代の私はどうなったんだ?」
「悪いがそれは教えられない。『
「そうか」
まあ無事でいるのなら問題ない。
「じゃあアプト星に出発しようか」
「オッケー!」
にとりは席を立ち、私達は一緒に別荘を出る。夏の強烈な陽ざしに顔を顰めつつ、麓の砂浜に駐機中の宇宙飛行機に乗り込んだ。
「にとり、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
機体の発射準備をしているにとりに、私は元の時代の自宅であった出来事をかいつまんで話した。
「――というわけなんだが良いか?」
「なるほどね。いいよ、一人二人増えても搭乗人数には余裕があるし」
「あの時のマリサは寂しそうだったもんなー。ますます賑やかになりそうだ」
それからにとりは宇宙飛行機を起動し、近くの森を見渡せるくらいの高さまで浮かび上がり、頃合いを見計らって私は宣言する。
「タイムジャンプ! 到着時空は西暦215X年10月1日午前7時30分の自宅上空!」
――西暦215X年10月1日午前7時30分――
「さて、アイツは来てるかな」
窓から見下ろすと、此方を見上げながら手を振るマリサの他に、手で日光を遮るように見上げる霊夢の姿があった。
「にとり、今から降りるからハッチを開けておいてくれ」
「オッケー」
私はコックピットから出て自動で開いたハッチから飛び降り、減速しながら地上で待つ彼女達の前に着地する。
「時間ピッタリだったな、ご苦労ご苦労」
「おう」
マリサに頷き、次いで風呂敷包みを持った霊夢に話しかけた。
「おはよう霊夢。来てくれたんだな」
「おはよう。事情はマリサから聞いたわ。朝早くだからビックリしたけど、ちょうど今日は暇だったし付き合うことにしたわ」
「『今日は』じゃなくて『今日も』だろ?」
「一言余計よ」
茶化したマリサを睨みつける霊夢。
「はは、それじゃ頭上の宇宙飛行機に乗り込んでくれ」
私はふわりと宙に浮かび、後から続けてマリサと霊夢も飛び上がる。やがて全員が乗り込んだ所で、ハッチが自動で閉まっていく。
現在私達はコックピットと機体の後部にある居住スペースを繋ぐ、円筒状の細長い貨物室に居る。
「へぇ~中は思ったより広いのね」
「入って左側がコックピット、右側が居住スペースになっててな、キッチンやシャワー室、あとトイレまで完備されてるんだぜ」
「まるで空飛ぶ家ね」
マリサが意気揚々と語っていると、コックピットへ続く扉が開き、にとりと妹紅が登場した。
「やあマリサ、霊夢。私の宇宙飛行機へいらっしゃい」
「今日はよろしくお願いするわね」
「任せてよ!」
「なあ妹紅、お前未来から来たんだって? 何年後から来たんだ?」
「300X年だから850年後だな」
「へぇ~、その時代の幻想郷ってどんな風になってんだ? 私はどうなってる? 城とか建ってるか?」
「ノーコメントだ。未来の事は教えられない」
「ちぇっ、ケチだな」
マリサは口を尖らせていた。
それから私達はコックピットへと移動し、妹紅の後ろにマリサが座り、にとりの後ろに霊夢が着席。私は出入り口の扉の前に立っている。
「ねえ魔理沙。アプト星ってどんな場所なの?」
「私も良く知らないから何とも言えないが、現代の外の世界以上に発展した星なのは確かだな」
「う~ん、宇宙船が飛んでたりするのかな」
「間違いなくそうだろうな」
「移動にはどれくらい時間がかかるの?」
「私のタイムジャンプで目的地までダイレクトにワープするから五分と掛からないぜ」
「あれ、タイムジャンプで瞬間移動は出来ないと聞いたけど」
「まあ色々事情があってな、話すと長くなるから後で説明するよ。それじゃ今からタイムジャンプするぜ~」
「了解!」
にとりは操縦桿を握り、私はメモリースティックで見たアプト星の映像を思い出しつつ宣言する。
「タイムジャンプ! 時刻は紀元前38億9999万9999年8月18日午前10時、場所はプロッチェン銀河ネプト星系アプト星のアンナの高層マンション前、地上32階高度120m!」
魔法の森を見下ろす光景から時の回廊へ切り替わり、その道の果てに空いた時空の渦へ宇宙飛行機は飛び込んで行った。
ここまでお読みいただきありがとうございました。