――西暦200X年7月21日――
翌日、私は霊夢と別れた後に新しい魔法を閃いたので、自宅に籠ってその開発に没頭していた。
机に向かいながら作業を続けていく内に、ふと昨日の出来事を思い返す。
「そういえば昨日の霊夢は様子がおかしかったなあ。なんだったんだろうか?」
いつも明るく、暗い気持ちをほとんど見せないあの霊夢が沈んだ気持ちでいるのはかなり珍しい。
(ちょっと気になるし会いに行こうかな?)
そんな事を考えていると、突然玄関のドアがバンと大きく開け放たれる。
「魔理沙、いる!?」
「うわっ!?」
私は椅子から転げ落ちてしまい、床の埃が舞い上がる。
「ゲホッゲホッ」
私は咳払いをしながら急いで起き上がり、飛び込んできた人物に怒鳴り散らした。
「アリス! 人の家に入る時はノックしろ!」
「ご、ごめんなさい。急いでて」
私の言葉が効いたのか、アリスは軽く謝った。
「まあいいさ。それで一体何を急いでいたんだよ?」
「そ、そうだった! 魔理沙大変なのよ!」
「うわっ、近い近い! だから落ち着けって!」
アリスは何度か深呼吸をした後、ゆっくりと口を開く。そこから語られた言葉は衝撃的なものだった。
「魔理沙、落ち着いて聞いてね――今朝霊夢が亡くなったわ」
「おいおい、そんなつまらない冗談はよしてくれよ。今日はエイプリルフールじゃないぜ?」
突拍子もない事を言い出すアリスを笑い飛ばしたが、彼女が真剣な表情を崩さなかったのをみて、私は次第に青ざめていく。
「おい……まさか本当なのか……?」
「だからそう言ってるじゃない! 私も信じられなかったけど事実なのよ! ……まあ直接見てもらったほうが早いわね。一緒に来て!」
「あ、ああ!」
私は着の身着のまま外に飛び出し、アリスと共に博麗神社へと急行した。
やがて博麗神社に辿り着いた私達は、急いで神社の中へと駆けて行く。
「霊夢!」
そこには布団の中で穏やかな表情で目を閉じる霊夢と、傍で静かに涙を流す八雲紫が座り込んでいた。
「おい、霊夢。起きろよ。もうお昼だぞ? いつまで眠っているんだ? 起きろって!」
肩を揺さぶりながら必死に呼びかけるものの、霊夢が起きる気配は微塵もなく、その身体は冷たくなっていた。
まさかと思いながら口元に耳を近づけた私は、その残酷な現実に言葉を失った。
(噓……だろ? 呼吸が……止まっている…………)
私はそばにいる八雲紫に掴みかかりながら、勢いそのままに問い詰める。
「おい、スキマ妖怪! なんで霊夢が死んでいるんだ! 詳しい事情を教えろ!」
スキマ妖怪――もとい八雲紫は、襟元を掴む私の手を振り払おうともせず、扇子で目尻を覆いながら答えた。
「……今朝私が霊夢の様子を見に行ったら眠ったままでね。私はそれをずっと見ていたんだけど全く起きる気配がなかったの。それでね、そろそろお昼になるから起こそうと思って傍に近づいたら息をしてない事に気付いたのよ。すぐに永遠亭まで運んだのだけれど、永琳にもう手遅れだって告げられてしまったわ」
「手遅れだって!?」
「『死因は睡眠薬を多量に飲んだことによる薬物死で、抵抗した形跡がない事から恐らく自殺で間違いない』と、永琳は話していたわ」
「睡眠薬で自殺だって!? そんなのありえないだろ! どうしてそんなものがあるんだ!」
霊夢の性格からいって自殺を選ぶ訳がない! ――ない筈なのだ……!
「というかどうしてそんなものがあるんだよ! 睡眠薬なんて簡単に手に入るものじゃないだろ!」
「昨日霊夢が私を呼びつけて『ぐっすり眠れる薬とかない? 最近夜の寝つきが悪いのよ』って言っていたのよ。それで私は手持ちの睡眠薬を渡したのだけれど……まさか大量に飲むとは思わなかったわ」
「なんだよそれ! ちゃんと薬の使用法の説明はしたのか!?」
私がさらに八雲紫の襟元を強く掴むと、彼女は扇子を放り投げ、大粒の涙を流しながら叫ぶ。
「もちろんちゃんと説明したわよ! 『その中の薬を大量に飲んだら人間は死んでしまうからね?』って! だけど霊夢は亡くなってしまったわ! これ以上私にどうしろって言うのよ!? ……私だって、悲しいんだからっ……!」
「そんな……!」
その言葉に、私は全身の力が抜けていく。
「……クソッ! なんでだ! なんで自殺なんかしたんだよ霊夢ぅ……!」
「魔理沙……」
私はその場に崩れ落ちたまま、声を殺して泣き続けた。