魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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最高評価及び高評価ありがとうございます。
投稿が遅れてすみませんでした。


第197話 マグラス通り

「さあ、それでは観光案内の続きと行きましょうか」

「早くお昼を食べたいわ」

「それじゃあ時間を動かすわね」

 

 そう言って咲夜は軽やかに指を弾いたが、虚構の街は復活しなかった。

 

「ねえ魔理沙。時間を完全に動かす前に覚えて欲しいことがあるの」

 

 神妙な面持ちでそう告げる咲夜。どうやら時を動かすと見せかけて霊夢達の時間を止めた――正確には自身の能力の適用外にしたのか?――らしい。

 

「なんだ? 改まって」

 

 彼女達には聞かれたくない事なのだろうか。

 

「私がここに現れた時刻と貴女が今置かれている状況。私が時の回廊に帰るその時まで忘れないでね」

「? ああ、分かったよ」

 

 私の返事に彼女は満足気に頷き、再び指を弾くと、今度こそ世界の時は刻み始めた。宇宙ネットワークも復活し、空白の時間などなかったかのように賑わっている。

 それから咲夜はアンナから宇宙ネットワークが見える眼鏡を受け取り、全員が仮想世界の街を認識できるようになった所で私達は歩き出す。 

 トルセンド広場を北西へ行き、道路を一本挟んだ二つ目の分岐路を曲がると、今までとは違った光景がお目見えした。

 

「あっ、海だ!」

 

 現実世界の無機質な高層ビルに仮想世界が投影されているのは変わらないが、大きく違うのは一直線に続く道路の先にマグラス海を遠望できる所だ。

 宇宙飛行機から一望した時のような美景ではないが、動く看板広告に飾られた高層ビルの間に切り取られたエメラルドグリーンの海というのも中々悪くない。

 

「なんだか新鮮な光景だわ」

「道一本違うだけでここまで景色が変わるなんてなあ」

「ここはマグラス通りと言って、遠くに見えるマグラス海から名づけられています。私の紹介したいお店はここを進んだ先にあります」

「オッケー」

「あれ、ここは魚屋かな?」

「どれもこれも幻想郷じゃ見ない色の魚ばかりだな」

「でもカラフルで見てて楽しいじゃない?」

「なんか熱帯魚っぽい色合いだよね」

 

 マグラス通りは海産物を取り扱っている店も多く、物珍しさを覚えつつ進んでいき、やがてとあるビルの前でアンナが立ち止まった。

 

「お待たせしました! ここがそのお店です」

 

 アンナが指さした先には、『海鮮料理テール』のパラペット看板が掲げられた情緒溢れる雰囲気の店があり、その入り口には『天然素材使用! 新鮮な魚をお届けします!』と大文字で書かれた立て看板が置かれていた。

 

「このお店はとにかく自然食品に拘っていまして、すぐ西のマグラス海で捕れる天然魚やレトン畑で摂れる〝自然の″食材をふんだんに使用しているので、きっと皆さんのお口に合うと思いますよ」

 

 やけに天然であることを強調しているアンナに違和感を覚えた霊夢は、すかさずツッコミをいれた。

 

「天然天然って、そんなに珍しいの?」

「……そうですね。皆さんには簡単にこの星の食事事情を説明したいと思います」

 

 するとアンナは無地の小さなプラスチックボトルを手に出現させた。

 

「まず前提として、この星では万能サプリメントを一日一粒飲めば栄養が摂れるのできちんとした食事をする必要がないんです。こちらが実物になります」

 

 ボトルを開けて白桃色のカプセルを手の平に転がしてみせると、マリサとにとりがそれをつまみ、顔の前でじっくりと観察した。

 

「へぇ~。これ一粒でねえ」

「こんなもんで本当に満腹になるのか?」

「それはもう。飲めば胃の中で膨らんで神経に働きかけるので満腹感が丸一日持続しますよ」

「ふーん」

 

 気が済んだのかアンナにサプリメントを返す二人。次いで霊夢が疑問を口にする。

 

「幾らくらいするの?」

「この瓶が3000レルで、これ一つあれば1ヶ月過ごせちゃいます」

「かなりお手頃な値段なのね」

「大雑把に計算すると一粒100レルか。この星なら飢餓や飢饉に苦しむことはなさそうだな」

「そうですね。このサプリメントのおかげでアプト星では餓死する人はいません」

「でもその割には食べ物屋が沢山あるよね?」

「甘味処も見かけたわ。こんなに安くて便利な薬があるなら必要ない気もするけど」

「確かにおっしゃる通りですが、人間とは不思議なもので、合理性ばかりを追及していくと精神的に参ってしまうのですよ」

「合理性?」

「つまり、食事を楽しむ為に色々な料理を提供する飲食店があるってことなのか?」

「その通りですよマリー。いくら便利だからといって万能サプリメントだけ摂取するのは文化的な生活とは言えません」

「ふむ……」

 

 どうやらこの星での食事は娯楽としての一面が強いようだ。飽食の星だからこその考え方だろう。

 

「そして自然の恵みを受けた食材か遺伝子工学の粋を集めた培養食材かによって値段が1桁変わってきます。前者も後者も見た目や味に差は殆どありませんが、その稀少性とブランド価値から天然由来の食材が持て囃されているのです」

「そっか。だから水と宇宙食にあんな高値が付いたんだ」

「なるほどねぇ、よく分かったわ」

 

 食への価値観をタップリと聞いたところで、私達はそのお店へと入って行った。

 




短くてごめんなさい。
次回投稿日は5月3日です。

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