戦闘シーンは不慣れだったので自信が付きました。
お盆と言ってたのにかなり遅くなって誠に申し訳ございませんでした。
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私の両肘・両膝・首に一つずつ、更には魔王の頭上にも月を模した魔法陣が積み上がった状態で現れ、それは欠けた天井の外まで続いていた。
「『『――我が命を捧げよう。創造主エリスの名の元、人類の敵に裁きの鉄槌を下さん!』 ムーンフォール!』」
宣言が終わると同時に、全ての月の魔法陣がガラスが割れたような音を立てて砕け散る。
更に砲撃のような地鳴りが鳴り響き、魔王城が激しく揺れ始め、その震度は柱に掛けられていた蝋燭や肖像画が次々と落下する程に強いものだった。
(なんだこの揺れは!? マスタースパークにこんな効果はないぞ!? ――というかさっきのセリフと魔法は私か? 私なのか!?)
極太のレーザー光線が飛び出す代わりに知らない魔法が勝手に発動してるし、柱を背にして座っていた筈の私が、いつの間にか立ち上がって右手を天井に突き出すポーズを取っていたし、何が起きたのか理解が追い付かない。
分からない事だらけだけど、にとりからしてみれば、不利な状況を覆す絶好の機会となったようだ。
「む!?」
「『!』」
魔王は地震でバランスを崩し、にとりの首を狙って繰り出された剣は、空を切って彼女の顔の横に突き刺さり、そのまま彼女に覆いかぶさるような形で倒れ込む。
それを好機とみたにとりは、魔王を強く突き飛ばしてのしかかられた状態から脱出した後、遠くに転がっていた聖剣に向かって駆けだしていく。
そしてそのまま拾い上げるかと思いきや、目標の半分くらいまで距離を詰めた所で、いきなり踵を返して此方に駆けよって来た。
「たたた、大変だよ魔理沙! 空、空を見てよっ!」
「え? なっ――!?」
驚愕しながら空を指差すにとりにせがまれ、私はその視線の先にある欠けた天井の間から仰ぐ。
すると、先程までは全体像がはっきり捉えられるくらいのサイズだった深紅の満月が、外周が見えなくなるくらいに大きくなっていて、こうしている間にもどんどんと大きくなっていた。
「月が大きく――まさかこっちに近づいて来てるのか!? 嘘だろ!?」
「間違いないよ! 一体何がどうなってるの!?」
「わ、私に言われても分からないぞ!」
「これは魔理沙が起こしたことでしょ!?」
「いやいやいやいや、本当に分からないんだって!」
予期せぬ事態に平静を失っていたその時。
「ムーンフォールだと? 馬鹿なっ……! 人間の小娘如きが封印を解いたというのかっ!」
天を見上げたまま愕然した様子で言い放った魔王に反応するように、私の口が勝手に動き出した。
「『ふ、ふふふ……ええそうよ。例えこの身が滅びたとしても、貴方を道連れにできるのなら本望だわ!』」
「貴様ぁぁぁぁ!」
剣を片手に電光石火の動きで私に迫り、斬りかかってくる魔王。死を覚悟した瞬間。
「『やらせんぞ!』」
私と魔王の間に割り込んで斬撃を防いだにとりは、続けざまに右手で掌打を繰り出して魔王を吹き飛ばし、「『ホーリーバインド!』」と叫ぶ。
するとどこからか現れた光の鎖が魔王の手足に絡みつき、彼を縛りあげた。
「『ふっ、こんな小手先の技に引っかかるとは、相当焦っているようだな魔王!』」
「おのれぇっ!」
魔王が抜け出そうともがいている間にも、月は表面が肉眼で見えるくらいまで接近しており、それにつれて魔王城がどんどんと崩落していく。
その過程で視界が開け、崩れた壁の向こう側の状況が飛び込んできた。
魔王城前の平原で戦闘中だった魔王軍は、完全に戦意を失ったのか烏合の衆に成り下がり、蜘蛛の子を散らすように逃げている。
対する王国連合軍は、本陣に発生した異空間に有無を言わせず次々と吸い込まれており、その異空間には、青天の下、開けた新緑の平原に堂々と建つ西洋風の城が映し出されていた。
目まぐるしく変わっていくこの状況において、何かを考える暇もなく私の身体は勝手に動き、にとりの背中に優しく抱き着きながら、愛を囁くかのように情緒的に訴えた。
「『貴方を巻き込んでしまってごめんなさい勇者様。あの時交わした約束は守れそうにないわ』」
「『謝らないでくれオリーベ。私が力不足なせいで君に辛い決断をさせてしまった』」
続けてにとりは「『それにまだ全てを諦めるには早い。僅かでも生き残る可能性があるのなら、私はそれに賭けてみせる!』」と私を守るように盾を構えた。
そして数秒後、ついにその時が訪れる。
「うおおおおぉぉぉっっ!」
衝突する月、激しい轟音にかつて経験したことのない衝撃。魔王の絶叫と共に、私の意識がブラックアウトした――。
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
生温い風に当てられ意識を取り戻した私の視界には、月のない暗くて深い空が広がっていた。
「私は……生きているのか……?」
ゆっくりと上体を起こすと、目の前にはにとりが倒れていた。
「おいにとり! 生きてるか!?」
肩をゆすりながら呼びかけると、やがてにとりは意識を取り戻した。
「う、う~ん……。魔理沙? ここはどこ……」
「魔王城だと思うんだが、この有様だぜ」
起き上がったにとりと一緒に近くを見渡せば、堅牢な石造だった魔王城は瓦礫の山と化し、その中心には、黄金色に燦然と輝く聖剣が突き刺さっていた。
月の落下は相当な衝撃だったようで、魔王城の上階に居た私達が地上まで落下したのは言わずもがな、遠くにあった筈の野山まで跡形もなく消滅してしまっていて、地平線の果てまで荒野が広がっていた。
最早元の地形は影も形も残っていない。
「魔界にいるってことはゲームオーバーにはなってないみたいだけど……酷い有様だね」
「本当、生きてるのが奇跡だよ」
今の私達のHPはお互いに1しか残っておらず、現実の体力に置き換えたら虫の息に近い状態だろう。
「それにしてもどうして月が落ちて来たんだろう」
「かなり焦りまくってたし、魔王がやった訳じゃなさそうだよな」
「そうなると……魔理沙はそんな魔法覚えてたっけ?」
「ないない。こんな派手な魔法があったら流石に気づくぜ」
「でも……う~ん、一度メッセージログを遡ってみた方がいいのかな」
難しい顔でそう結論付けたにとりは、メッセージウィンドウを開く。それから指で上へ上へとスクロールしていくと、あるメッセージが目に留まりスクロールを停止する。
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「なるほどねぇ、これのせいだったのか」
「ふむふむ……」
具体的に何とは指摘できないが、どこか違和感を覚えるメッセージだ。
「ムーンフォールの説明もあるみたいだね」
にとりが1行下へスクロールすると、以下のようなメッセージが表示されていた。
[オリーベはムーンフォールを唱えた。
説明⇒ムーンフォール:神級天空魔法。消費MP∞。創世の時代に創造神エリスが天と地を形作る際に用い、地上に空いた巨大なクレーターが海になったと創世神話に伝えられている伝説の魔法。月の軌道を莫大な魔力で変更する影響により、墜落地域一帯では大地震が発生する。
人間界・魔界・精霊界で一度しか使用できず、有史以来この魔法を使用できた者はいない。
効果:使用者も含めた範囲内の敵味方・オブジェクト全ての素早さ50%低下・HP100%ダメージ]
「おいおい、かなりとんでもないことが書かれているな」
だからさっきオリーベは死を覚悟したようなセリフを吐き、アードスは僅かな可能性、すなわちミラーシールドによる魔法の無効化に賭けたんだな。現状の結果から見れば大成功だろう。
「魔理沙の魔法ってこんな効果だったんだ。だからアードスは……」
「月が落ちる直前のやり取りに心当たりはあるのか?」
「ううん。確かにオリーベとは一緒に生き残ろうって約束はしたけど、ムーンフォールを使うなんて話は聞いてなかったよ」
「それにしてはかなり意味ありげな態度だったじゃないか」
「多分魔理沙のマスタースパークの影響だろうね。私のプレイでは習得していない魔法をシステムの都合で無理矢理使用したことで、辻褄を合わせる為に私も体験したことがないバックストーリーが勝手に追加されたんじゃないかな。自分でも演じててビックリだったよ」
「そう……なるのか?」
いまいち疑念が払拭されないでいたその時、目の前の瓦礫の山が盛り上がり、中から魔王がはいずり出て来た。
「おのれっ……! 矮小な人間如きにこの我が……!」
「魔王!?」
「おいおい、アレを喰らってまだ生きてるのかよ!?」
今の彼には先程までのような威圧感は無く、頭の角は根元からぽっきりと折れ、身を守っていた闇や鎧も粉々に砕け散っており、HPゲージはほんの僅かしか残っていない。
ああして立っていることすら奇跡に思えるほどボロボロの状態なのに、恐ろしい執念だ。
「うおおおおおぉぉぉぉっっ!」
天に向かって獣のような雄叫びを上げ、霧散した闇を集めていく魔王。
何かとんでもないことをしてきそうな予感があり、すぐに魔法で応戦しようとしたけど、MPは0だったため不発に終わってしまう。どうやらムーンフォール魔法で使いきってしまったらしい。
「!」
他方で私と同じく直感的に駆けだして行ったにとりは、散乱する瓦礫を避けながら突き刺さった聖剣を抜きさり、魔王の元へと突き進んでいく。
「死ねぇ!」
魔王が打ち出した闇弾をにとりは冷静に捌き、高く飛び上がる。
「『終わりだ魔王! はああぁぁぁぁぁぁっ!!』」
にとりは聖剣を突き出しながら襲来し、対する魔王は両手を前に伸ばして闇のバリアを展開する。
しかし魔王の元に集まった闇は一瞬のうちに振り払われ、バリアを貫通した聖剣はそのまま左胸に深々と突き刺さった。
「ぐぅっ! ぐがっ! ぐぎゃああああぁぁぁぁっっっ!」
膝をついた魔王は断末魔の叫びを放ち、その肉体はひび割れ、崩壊していく。
やがて風となって消え去った後、聖剣が瓦礫の山上に落ちる音だけが静かに響き渡った。
「『……終わったの?』」
「『ああ。これは私達の勝利! 世界は救われたんだ!!』」
聖剣を拾い上げたにとりが、天上に向けて聖剣を突き上げた瞬間、ファンファーレが鳴り渡り、以下の画面が表示された。
[Congratulations! Game Clear!]
「よ~し完全攻略だ! いやっほー!!」
飛び上がるように喜ぶにとりに惹かれるように私も笑みがこぼれ、彼女の健闘を讃えようと歩き出したその時、私の脳裏にある瞬間が甦った――。
次回投稿日は9月11日です。