魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第208話 魔理沙の推理

 ――side 魔理沙――

 

 

 ――紀元前38億9999万9999年8月18日午後5時50分(協定世界時)――

 

 

 

 

「おかえりなさいませ」

 

 ゲームの世界を出て、エントランスホールまで戻って来た私達を待ち受けていたのは、私を案内した時の女性店員だった。

 

「現実では決して味わうことのできない幻想と魔法の世界、楽しむことができましたか?」

「まあな」

「さようでございますか」

 

 私の素っ気ない返事にも、この女性店員は笑顔を絶やさずに応対していたが、専ら関心事は他にあった。

 

(パッと見た感じではこの店に変化は無さそうだな。……ちょうど良い機会だ。私の見た記憶がどこまで正しいのか確認してみるか)

 

 一度グルリと見回して判断した私は、女性店員に問いかけた。

 

「なあ、私達がゲームで遊んでいる時、何かおかしなことはなかったか?」

「おかしなこと、というのが何を指すのか分かりませんが、ゲーム環境につきましては、お客様が快適に遊ぶことができるように万全の体制を敷いております。もちろん問題があったという報告もあがっていませんよ」

「ふ~ん。じゃあ宇宙ネットワークアーカイブ機構ってのは知ってるか?」

「少々お待ちください……」

 

 女性店員は一度虚空に目線をやった後、私へと視線を戻し、口を開いた。

 

「お待たせしました。宇宙ネットワークを通じて宇宙のありとあらゆる事象、情報を蓄え、分析・管理する組織のことですね」

「その情報ってのは誰でも知ることができるのか?」

「この機構では独自の判断基準に基づいて、全ての情報に10段階のランクを付けて管理しておりまして。高ランクの情報ほど制約が厳しくなりますが、基本的にはどなたでも無料で情報を利用することができます」

「そいつは便利だな! どうやれば利用できるんだ?」

BMI(ブレインマシンインターフェイス)機能を有効にした後、宇宙ネットワークアーカイブにアクセスする意思を強く持つだけでサーバーに繋がりますよ。……ですが、匿名でのアクセスはいかなる状況においても認められておりませんので、お客様は残念ながらご利用できませんね」

 

 不便だとは思うけど、理屈としては納得できる。

 ゲームを選ぶ時もそうだったし、ひょっとしたらこの星では匿名だとできる事が少なくなるのかもしれないな。

 

「他に何かご質問はありますか?」

「タイム――ああ、ええと。私には私そっくりな姉妹がいるんだけどさ、ここに来てなかったか?」

「いえ、見ていませんが……」

 

 女性店員は困惑した様子で答えていた。まあそう簡単に尻尾を出すはずもないか。

 

「色々と答えてくれてありがとう。それじゃ私達は帰るよ」

「またのお越しをお待ちしております」

 

 女性店員の深々としたお辞儀を背に私達は店を後にして、メイト電気街メイト通りに移動した。

 地球基準では夕方に差し掛かる時間帯ではあるが、日が傾くことはなく雲一つない青天が広がっており、天まで届きそうな高層ビルがメイト通りを影で覆っている。

 等身大の視点に戻せば、宇宙ネットワーク上に築かれた仮想世界の街並みが広がっており、高層ビル一面に表示されている色とりどりの広告は、目が痛くなりそうなまでに圧倒的な情報量だ。

 宣伝されている商品が機械製品や宇宙船の部品ばかりなのは、このエリア特有の手法なんだろう。

 人の勢いもいまだ衰えず、通り沿いに店を開く電気店に吸い込まれる人々や、道路の真ん中に瞬間移動したり消えたりする人々が目立つ。仮想世界でなければ人混みの多さでパンクしていてもおかしくない。

 

「これからどうするつもりなの?」

「怪しいのは宇宙ネットワークアーカイブ機構なんだが……自分の素性を明かさなきゃいけないのはなぁ」

 

 私は秘密主義者ではないのだが、300X年の魔理沙が辿った歴史を考えるとその選択はできない。彼女の願いを考えたら尚更だ。 

 

「う~ん、街の中を練り歩いて変化した部分を地道に見つけていくしかないのか? にとりも手伝ってくれよ」

「そう言われても、私には改変前の歴史の記憶がないから比較のしようがないし、もし記憶を持ってたとしても、例えばお店の名前が変わった、とか、街を歩く人の顔ぶれが違う、みたいな些細な変化だったら分からなくない?」

「むむ……」

「ただ闇雲に探したって時間を無駄にするだけだし、行動指針を決めて動いた方がいいんじゃない?」

「そうだな」

 

 にとりの言い分にも一理ある。ここは少し考えてみよう。

 まず今私がいるこの歴史は、既に未来の複数の私によって『宇宙ネットワークによるタイムジャンプの観測不能』と歴史が修正されている。

 そこからさらに歴史を修正するとしたらどうなるんだ? ゲーム中に想起した記憶では、マスタースパークが原因でゲームが止まり、宇宙ネットワークを利用してゲームを直していたけど、それと何か関係があるのか?

 というより、今の歴史が改変後の世界であるならば、私が過去の痕跡を探し回ることで、未来の私の想定とは違う方向へ歴史が進んでいかないだろうか。

 

(う~ん……)

 

 腕を組みながら悩んでいると、その心を読んだかのようににとりがこう言った。

 

「随分と悩んでるみたいだね?」

「情報が足りなすぎて、行動の取っ掛かりを掴めないんだよ」

「過去や未来にも神経を尖らせなきゃいけないなんて、タイムトラベラーって大変だよねぇ」

「本当にどうしたもんかな……」

「ああ、いたいた。やっと見つけたわ」

 

 聞き覚えのある声が響き、声のした方へと振り向くと、そこには憮然とした様子で私を睨む咲夜の姿があった。

 

「咲夜。久しぶりだね~」

「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもないわ。集合時間になっても全然来る気配がないから、呼びに来たのよ」

「あれっ、もうそんな時間だったっけか」

 

 脳内時計に意識を向けると、『B.C.3,899,999,999/08/18 18:10:15』となっており、約束の時間を10分15秒オーバーしてしまっていた。

 

「やっぱり忘れてたのね。貴女達以外みんな揃ってるわよ。早く行きましょ?」

「ああ。わざわざ手間をかけさせてすまなかったな」

 

 ひとまずここは素直に従っておいた方がいいだろう。咲夜に頷き、私達はトルセンド広場に向かって歩き始めた。

 

「ところで貴女達は時間が遅れるほど何をしていたのかしら?」

「私はジャンク屋で宇宙飛行機に使えそうなパーツを漁った後、VRゲームをやったんだけどさ。これがもう凄く面白くて!」

「あら、どんなゲームなの?」

「勇者アードスの伝説っていうRPGでさ――」

 

 咲夜に得意げにゲームの話を語るにとりを見て、私は妙案を思いついた。

 

(そうだ! 咲夜なら私の記憶について知ってるかもしれないな)

 

「――って訳!」

「ふふ、随分と楽しそうね」

 

 私はにとりと会話がひと段落した所を見計らって、切り出した。

 

「なあ咲夜、少し聞きたいことがあるんだが」

「なにかしら?」

「私もにとりと同じゲームをしてたんだけどさ、その時に――」

 

 先程身に起きた出来事を語りかけたその時、陶酔するような感覚と共にデジャブが発生する。

 

(っ! まさかまた――) 

 

 考える間もなく、私の脳裏に記憶が甦っていった。

 




次回投稿日は9月30日です。

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