今回の話の時系列は、
『第206話(2)魔理沙の記憶 それぞれの時間④ 魔王戦(後編)』から繋がっています。
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――紀元前38億9999万9999年8月18日午後5時53分(協定世界時)――
「いや~楽しかったねぇ」
「ああ、そうだなぁ」
ゲームの世界から帰って来た私とにとりは、ゲーム内の出来事を思い返しながらエントランスホールへと続く通路を歩いていた。
あの後異世界へと通じる次元の歪みを通ってアルメディア王国の王都へ戻ると、私達の帰還を待っていた大勢の臣民達から盛大に祝福され、英雄として祭り上げられた。
王城ではアルメディア王から魔王討伐の功績を讃えられ、にとりは次期国王になる姫様の近衛騎士として、そして私は王都に接する広大な領地と公爵位を与えられ、一介の村娘だった私は大出世を果たすこととなった。
更に祝勝会と称して、肉山脯林の宴が三日三晩に渡って開催され、魔界で共に戦った仲間達と心ゆくまで楽しみ、ゲームのプレイ時間が無くなる最後の瞬間まで、非常に贅沢な時間を過ごした。
それはもう、現実に帰るのが惜しくなる程に。
「宴会料理やお酒はどれをとっても美味かったなぁ。あぁ、思い返すだけでよだれがでてきちゃうよ」
「世界が平和になって、人々に笑顔が溢れててさ、まさに大団円って感じのエンディングだったな。軍の人達も皆気さくで良い人ばかりだったし、あの世界に永住したいくらいだよ」
「アハハ、そうだね」
やがてエントランスホールに辿り着くと、がらんとした室内の中で、受付カウンターで何かを話している二人の女性が視界に入る。
片方はゲーム世界に私を案内した女性店員だが、もう一人は群青色のスーツを着こなす背の高い金髪女性で、彼女は女性店員と違って〝実体″がちゃんとあった。
(なんだか真剣な雰囲気だな。話しかけない方が良いか)
そう思って無言で退店しようとしたが、私達に気づいた女性店員がこっちを指差した。
「出て来ました。彼女達です」
女性店員が金髪女性にそう言うと、彼女は私達の進行方向を塞ぐように近づいてきた為、仕方なく足を止める。
「すみません、私はサイバーポリスのフィーネという者です。少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
彼女が丁寧に頭を下げると、私との間に半透明の枠で囲まれた画面が浮かび上がる。それには縦横斜めの線が網目のように織り込まれた記章と、彼女の顔写真と名前が表示されていた。これは身分証みたいなものだろうか?
彼女の容姿を簡単に説明すると、私と同じ金色の髪を肩まで伸ばし、兎のように赤い瞳をしており、シュっとした鼻筋に健康的な唇と、同姓の私から見てもかなり整った顔立ちだ。
頭には身分証と同じ記章が施された群青色の帽子を被り、群青色のスーツの下に白いワイシャツと赤色のネクタイを締め、革靴を履いたフォーマルな格好をしている。シャロンのように外見に動物的な特徴もなく、私達と同じ肌の色をしていることからアプト人のようだ。
背丈はゲーム内で戦った魔王よりも高く、しなやかな体躯に凛とした声も相まって、男装の麗人という形容詞がぴったりと当てはまる女性だ。
「サイバーポリスってなんだ?」
「……それは本気で言っているのですか? 宇宙ネットワーク内の秩序と安全を維持し、利用者の生命データ・財産の保護や、犯罪の予防・捜査、被疑者の逮捕を行う政府機関のことです」
口をついてでた疑問に、フィーネと名乗ったサイバーポリスは困惑していた。
もしかしてこの星の住人なら常識レベルで浸透している組織なのか?
そんな疑問が顔に出ていたのか、にとりは「幻想郷でいう自警団、外の世界でいう警察と同じ役割を果たす組織のことじゃない?」とフォローする。
「あぁ~なるほど。それで、そのサイバーポリスが何の用だ?」
「別に私達は警察にお世話になるようなことをした覚えはないよ」
そう話すにとりに頷くと、彼女は理由を語りはじめた。
「今から3分前、こちらの店舗で貴女達が『勇者アードスの伝説』をプレイしている最中にシステムエラーが発生したそうですね。その原因がロストテクノロジーによるものだと、宇宙ネットワークアーカイブ機構から連絡がありまして、事情を伺いに来たのですよ」
「3分前? ……あぁ、あの時のことか」
そういえばゲームの中と外では時間の流れが違うんだったな。私の体感時間的には既に三日前の出来事だ。
「それって警察の仕事なの? どっちかといえば民間企業の範疇じゃないの?」
「確かに単なるシステムエラーであれば我々の出番はありません。しかし今回のエラーには宇宙ネットワークアーカイブ機構が関わっています。公共性の高い社会インフラに関する事件は我々の管轄になるのですよ」
「ふーん……」
「詳しく話を聞かせてもらえますか?」
「どうする魔理沙?」
「まあまだ集合まで多少時間があるし、少しくらいなら大丈夫だろ」
特に断る理由もないし、不慣れな土地で下手な行動をとるくらいなら、ここは彼女に協力して手早く済ませた方が良いだろう。
「ありがとうございます。早速話をお伺いします……あら?」
彼女は私とにとりを見て、何かに気づいたような声を漏らしていた。
「なんだよ?」
「貴女達は匿名特権をお持ちの方でしたか。恐れ入りますが、宇宙ネットワークIDを提示してもらえますか?」
「えっ?」
「ここのところ匿名特権を悪用した事件が増加傾向にあるので、最近では宇宙ネットワークIDの確認を義務付けられているのです。お気を悪くするかもしれませんが、どうかご協力願います」
「いやそうじゃなくてさ」
「……? 最初に宇宙ネットワークへ接続した時に表示されませんでしたか? 貴女の顔写真と20桁の数字、遺伝子情報・個人情報、渡航情報等が記録された識別情報のことなのですが」
不思議そうに私を見下ろすフィーネにどう答えたものかと考えていると、にとりがこっそりと耳打ちしてきた。
「ねえ、魔理沙。この警察官が言っている宇宙ネットワークIDってさ、多分アンナのメモリースティックに入ってたデータのことだと思うんだけど」
「そういえば、地図と一緒にそれっぽいのがあったな。けどもう折っちゃったから使い物にならないぞ」
「だよね。今の私達は身分を証明できるものが何もないし、そもそも正式な手続き無しにこの星に入ってるわけだから、ちょっとまずい状況かも……」
「それに匿名特権ってなんなんだろうな?」
「この眼鏡をくれたのはアンナだし、彼女なら何か知ってるかもしれないけれど……」
「何をこそこそと話しているのですか」
私達の内緒話を遮るように発せられた言葉には幾らか棘があり、先程までのへりくだった態度から一転し、此方を訝しむような態度になっていた。
「たかだか宇宙ネットワークIDの提示にここまで渋るとは。まさか貴女達、リュンガルトのメンバーではないでしょうね?」
「リュンガルトだって!?」
未来の私が苦渋を飲まされるはめになった元凶の名前を思わぬ所で聞き、自然と顔が強張ってしまうのを感じる。
「その反応、やはり何か関わりがあるようですね。素直に白状しなさい。今ならまだ任意聴取で済ませてあげますよ?」
動揺をうっかり顔に出してしまったことが良くなかったのか、ますます彼女に怪しまれる結果となってしまったようだ。
「いやいや、私達はただ観光してるだけだってば。というか、なんでこの話の流れでリュンガルトが出て来るんだよ?」
「問答するつもりはありません。否定するのであれば宇宙ネットワークIDを早く見せなさい! これは最後通牒ですよ!」
彼女は目に見えて苛立っており、その左の手の平にはミニチュアサイズの檻が浮かびあがっていた。状況から察するにあれで私達を捕まえるつもりなのだろうか。
後ろに見える女性店員の視線も痛く、なんだか雲行きが怪しくなってきている。
この不穏な空気をにとりも感じ取ったようで、再び私に耳打ちしてきた。
「な、なんか良くない雰囲気だよ。どうしよう魔理沙?」
いつも読んでくれて感謝します