魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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投稿が遅くなってしまいすみませんでした。

サブタイトルの話はカウント間違いではございません。


第208話 (2) 魔理沙の記憶② サイバーポリス(後編)

(タイムトラベラーだという証拠を見せて欲しい……か)

 

「理屈は分かった。だがその前に幾つか質問があるんだが、答えてくれないか」

 

 彼女の提案は単純明快だし、過去に同じ方法でアリスやパチュリーに信じて貰ったことがあるので抵抗はない。

 だけど私には気がかりになることがある。

 

「お前達サイバーポリスとリュンガルトはどんな関係なんだ? そして何故私をリュンガルトだと疑ったんだ?」

 

 それはリュンガルトについて肝心な部分を聞いていない所だ。

 これまでの話を聞いて敵対関係にあることは分かるけど、私と彼女との間に認識の齟齬が起きている可能性があるので、はっきりとした言明が欲しい。

 この回答次第では先程のやり取りを無かった事にする必要もでてくるからだ。

 

「貴女に選択権はないのですが……まあ良いでしょう。答えてあげます。最初の質問についてですが、我々サイバーポリスの認識としては、『時間移動による時間の支配という大風呂敷を広げ、目的の為なら悪逆非道な実験すら躊躇わないマッドサイエンティストが多数所属する研究組織であり、早急に撲滅すべき集団である』と考えています」

「研究者集団……」

 

 私はふと、未来の幻想郷を救う為に時間移動していた時のことを思い起こしていた。

 最初に幻想郷が滅びるきっかけとなった柳研究所、彼らは非科学的な現象を解明したことで博麗大結界を破り、幻想郷を崩壊させた。あの時は歴史の流れが幻想郷滅亡という結果に収束していた為、流れを変えるのにかなり苦労したなあ。

 そして今回のリュンガルトは狂気の研究者集団だそうで、彼らが改変前の歴史でしでかした事を考えれば、彼女の辛辣な表現にも頷ける。つくづく研究者という人種に因縁があるな。

 

「次の質問についてですが、此方の捜査機密に関わることなので貴女の嫌疑が晴れるまでお答えできません。……最も、貴女はきちんと意思疎通ができているので、彼らの仲間ではないと思ってますが」

「おいおい、どんだけヤバい集団なんだよ……」

 

 もはや全く想像が付かない。

 

「ねえ、私からも一つ質問があるんだけどさ、そもそも匿名特権ってなんなの?」

「……アンナ、もしかして匿名特権のことを彼女達に教えてなかったのですか?」

「う、うん。後で伝えればいいかなぁって思って」

「仕方がないですね。私が変わって説明しましょう。まず前提としてこの星では生活の全てが宇宙ネットワークの上に成り立っています。現実世界で生きる人々は殆ど皆無と言ってもいいでしょう」

「うん、それは何となくわかる」

 

 確かに眼鏡を外した時の街は、人の気配がなく、ゴーストタウンのように閑散とした街並みだった。

 

「その為宇宙ネットワークに接続するための符号――宇宙ネットワークIDを取得するのですが、ここでは利用者の言動全てがサーバーに記録され、〝死″を迎えるその時まで残り続けます」

「ん? 記録されるってどういうことだ?」

「そのままの意味ですよ霧雨さん。食事を一例に挙げるなら、食事を摂った場所、人数、時刻、会話、献立、食材の種類に原産地、流通ルート等、関連する情報全てが詳細な記録として残ります」

「……マジか」

「プライバシーとかそういうの全くないんだね」

「あくまで宇宙ネットワーク上での話ですから」

 

 フィーネはそう強調してはいるものの、私の感覚的には息苦しいまでに徹底的な管理社会だ。

 そんな細かい記録をとって何の意味があるんだろう?

 

「ってことは、私達の会話も全て記録されてるのか?」

「本来ならそうなのですが、そこに匿名特権が関わってきます。匿名特権とは宇宙ネットワークIDを隠し、〝個人を特定できる情報″を保護した状態で公共の場を行動することができる権利のことで、この権利を利用している間の詳細な行動はサーバーに記録として残らず、把握することができません」

「むしろそれって普通の事のような気がするんだが、なんで特権扱いされてるんだ?」

「宇宙ネットワーク利用者の過去の言動を分析し、犯罪歴や危険思想が無く、信用に値すると判断された〝善良な人間″にしか与えられないからですよ。今展開している遮音遮蔽フィールドも匿名特権の一つです」

「その匿名特権って大体どれくらいの人が持ってるの?」

「割合で答えますと、利用者全体の90%が匿名特権を受ける条件を満たしています」

「特権て銘打ってる割には、殆どの人が持ってるんだね」

 

 つまりそれだけこの星の治安は良く、住みやすい環境なのだろう。

 

「そしてアンナは惑星探査員という政府の中でもそれなりの地位にいますので、世間に流通していない特殊デバイスを保有したり、匿名特権を分け与える権利などが認められているのです」

「その特殊デバイスって、この眼鏡の事?」

 

 眼鏡のつるを触って訊ねるにとりにフィーネは頷き。

 

「はい。今回問題になったのは、それらの特権を政府の監査無く宇宙ネットワークに接続していない人間と共有したこと。それに尽きます」

「……へぇ、そういう理由だったのか」

 

(壁に耳あり障子に目ありどころの話じゃないな。どんな仕組みなのか見当もつかない。想像を絶する科学技術だ)

 

 同時にアンナと再会した時、やけに発言に気を遣っていた理由にも合点がいった。

 それにしてもアンナって割と謎の多い人物だな。

 今の状況が落ち着いたら、後で身の上話をじっくりと訊きたい所だ。

 

「理屈は分かったけどさ、身分制度に過剰な管理体制なんて、なんかディストピアみたいな世界だね」

「そういった側面があることは否定できませんが、社会秩序の維持には必要な事です」

「それは貴女が体制側の人間だからでしょ? 耳当たりのよい言葉ばかり並べてさ、本当は何か都合の悪い事を隠しているんじゃないの?」

 

 強い疑念を抱くにとりの言葉には棘があったが、フィーネは気にする事なく冷静に答えた。

 

「河城さんの言う〝都合の悪い事″が何に当たるのかは分かりませんが、宇宙ネットワークは三つの銀河と七つの惑星に跨って展開されており、日々何十億もの人々が利用しています。過剰な情報管理は、膨大な情報の交換を円滑に進め、社会体制を維持する為の手段に過ぎません」

「もしこの星がディストピアだったらマリー達を招いたりしませんよ。不幸になるだけですから」

「人権保護制度はありませんし、宇宙ネットワークに批判的な発言をした時点で捕まっていますよ」

「う~ん……言われてみればそうなのかな……」

 

 にとりは丸め込まれたように頷いていたが、私としては、既にその一歩手前まできている気がする。

 宇宙ネットワーク無しでは暮らせない程日常生活に根付いている以上、管理してる人の気まぐれでユートピアにもディストピアにもなりそうな危うさを感じるからだ。

 それとも私が知らないだけで、外の世界もこんな感じになっているのだろうか?

 

「他に質問はありますか? なければ先程言ったように、タイムトラベラーであることを証明してください」

「ああ、いいぜ」

 

 何度も言うが私が懸念していたのは、タイムトラベラーの存在をリュンガルトに知られ、改変前の歴史に逆戻りしてしまう事だ。

 だがサイバーポリスのスタンスを聞けた今となっては、彼らに自分の正体を明かしても問題はないと思うし、むしろメリットになるかもしれない。

 何故なら仮にもしリュンガルトに発見されるような事態になっても、サイバーポリスが躍起になって摘発してくれるだろうし、未来の私がとった方法よりも良い結末になるかもしれない。無意味に断る理由もないだろう。

 まあ宇宙ネットワークの仕組みについては驚かされたけど、彼女の話が真実なら言動は記録されてないみたいだし、大丈夫な筈。

 

「ただな、私のタイムトラベルは仮想空間に対応してないんだ。実証するなら現実世界でやることになるけど、良いか?」

「構いませんよ」

 

 私が眼鏡を外すと、広告看板だらけの街並みが一瞬で無個性な超高層ビル街に早変わりし、大勢の人でごった返していたメイト通りはもぬけの殻となった。

 唯一変化がないのは、空模様とこの通りの西側に見えるトルセンド塔、遥か東の空を飛び交う数多の宇宙船ぐらいだ。

 

「仮想世界を出たら一気に寂しくなったなぁ」

「あたしはこの雰囲気、嫌いじゃないですよ♪」

「なるほど、やはりお二人は本物の姿だったのですね。安心しました」

「?」

「いいえ、此方の話です。それより、タイムトラベルする前に一つ伝えておくことがあります」

「なんだよ、まだあるのか?」

 

 フィーネはポケットからレンズが付いた小型の機械を取り出し、こう言った。

 

「霧雨さんの発言に説得力を持たせるために、タイムトラベルの瞬間を撮影しますが、よろしいですね?」

「別にいいけどさ、後でちゃんと記録を消してくれよ?」

「もちろんです、我々の情報管理体制に不備はありません。……それでは撮影を始めますね」

 

 フィーネは頷き、ビデオカメラをこちらに向けた。

 

「そういえばあたし、マリーがタイムトラベルするところを直接見るのは初めてかもしれません」

「あれ、そうだったっけ? それならきっと驚くと思うよ~」

 

 決定的な瞬間を収めようと黙々カメラを回すフィーネと、アンナの期待に満ちた視線も感じつつ、私はタイムトラベルの準備を進めていく。

 

(え~と今の時刻は……よし)

 

「今の時間は18時15分ジャスト、宇宙暦に換算すると36時15分だ。10秒後、そこに5分後の〝私″が現れるから見ておけよ」

 

 指さした先に全員の注目が集まり、それから10秒後に歯車模様の魔法陣が出現し、閃光と共に〝私″が現れた。

 

「じゃじゃーん! 5分後の未来からやって来たぜ!」

「わあっ、凄い凄い! 時計の魔法陣から登場するなんて格好いいですよっ!」

「ふふっ、そうだろそうだろ」

 

 爽やかな笑顔を浮かべながらVサインを作る5分後の〝私″に、アンナは興奮気味に拍手を送っていたが、当のフィーネは反応が薄くじっと見定めるような視線を送っていた。

 

「其方の霧雨さん、少し身体検査をしてもよろしいですか?」

「ああ、気の済むまでやってくれていいぞ」

「アンナ、これ代わりに持っててもらえるかしら?」

「いいよ~」

 

 それからフィーネはアンナにビデオカメラを預けた後、だらりと腕を降ろした5分後の〝私″の身体を真剣な表情で頭、肩、お腹、腰、足と上から下へ触っていく。

 

「なるほど……ありがとうございます」

 

 何か手ごたえを感じたフィーネは、アンナからビデオカメラを返してもらい、続けて〝私達″を見ながら口を開いた。

 

「霧雨さん。アンナが貸与したデバイスを見せてください」

「ああ」

「ほいよ」

 

 私と5分後の〝私″から差し出された眼鏡を受け取り、カメラ片手にじっくりと観察していたフィーネは、やがて何かに気づいたように声を上げた。

 

「なんと……! どちらのデバイスもオリジナルで尚且つ製造番号が一致しているとは。双子、クローン、アンドロイドといったトリックではなく、正真正銘本物の霧雨魔理沙さんのようですね」

「だから言っただろ? 私はタイムトラベラーだって」

「御見それいたしました」

 

 得意げにしている5分後の私に、フィーネは感服した様子で一礼し、〝私達″に伊達眼鏡を返す。

 

「それじゃ私は帰るぜ。また後でな!」

「はいっ!」

 

 元の時間に帰って行く5分後の〝私″に、アンナは手を振っていた。

 

「風のように現れて風のように去って行ったなぁ」

「タイムトラベルってあんな感じなんですねっ! うふふ、凄い光景を目の当たりにしました。フィーネもそう思わない?」

「そうですね、実際に目撃した以上、疑う余地はありません。……今までの非礼の数々をお許しください」

「そ、そんな頭を下げなくても分かってくれたのなら良いよ」

 

 深々と謝るフィーネに、何故か私はバツの悪さを感じていた。

 

「約束通り、先程の遮音遮蔽空間内での会話記録と今の映像も併せて報告し、人道保護の資格を得られるよう上層部に掛け合ってみます」

「おう、頼むぜ」

 

 彼女が背中を向けると、身体のラインをなぞるように半透明の線が生じ、耳元に手を当てている。

 目論見通りにいくといいけれど。

 

「フィーネは今宇宙ネットワークに接続しましたね。あたしの方からも霊夢さん達に連絡しておきます」

 

 するとアンナも半透明の線に包まれ、此方もまた右耳に手を当てながら口をパクパクと動かしていた。

 宇宙ネットワークの中を外から見ると、目の前にいるともいないとも言える半端な状態になるんだな。

 

「んじゃ私はさっきのタイムトラベルの辻褄を合わせに【18時15分】に行ってくるぜ。今から5分後の【18時25分】に帰って来るからな」

「いってらっしゃい」

 

 手持ち無沙汰にしているにとりにそう告げて、今日の18時15分10秒へタイムジャンプしていった。

 

 

 

 ――紀元前38億9999万9999年8月18日午後6時25分(協定世界時)――

 

 

 

 記憶の中と一字一句同じセリフとポーズをとって予告した時間に帰ると、にとり、アンナ、フィーネが並んで私を待ち構えていた。

 

「おかえりなさい!」

「ふむ、何度見ても中々興味深い光景ですね」

「アンナとフィーネがここにいるってことは、もう話は終わったのか?」

 

 そう訊ねると、まずはアンナが口を開いた。

 

「はい。霊夢さんに連絡したところ、マリサさんと妹紅さんと一緒にトルセンド広場にある喫茶店で休憩しているみたいで、皆でジャンボチョコクリームパフェを食べているそうです」

「うわぁ~美味しそうだなぁ。私もデザートを食べたくなってきたよ」

「約束の時間からもう25分オーバーしてるけど、霊夢達怒ってなかったか?」

 

 にとりは能天気なことを口にしているけど、私はこっちの方が心配だ。

 特に霊夢は昔から怒ると怖いからな。

 

「最初は皆さん怒ってましたけど、事情を説明したら分かってくれたみたいで、マリーのことを心配していましたよ」

「それなら良かった」

 

 機嫌を損ねていないことを確認した私は、続いてフィーネに問いかけた。

 

「フィーネの方はどうだったんだ? 話はついたのか?」

「結論から申し上げますと、貴女達の滞在許可が下り、人権保護制度の資格を得ることができました。それまでの罪も緊急時の措置として不問にするそうです」

「おお、そうか!」

 

 もし駄目だったら元の時代に戻ることも考えていたので、とりあえずは一安心だ。

 

「それからもう一点、貴女達が滞在する間、案内役兼護衛として私も同行させてもらいます」

「えっ!?」

 

 思いがけない展開に大声を出してしまう私。

 

「フィーネも一緒に来るの!? わぁっ嬉しい!」

「護衛ねぇ……本当にそれだけなの?」

「これは上官命令ですので、私の意思が介在する余地はないのですよ」

「深く考えすぎですよにとりさん~」

「そうかなぁ?」

「そうですよ! さあ、霊夢さん達の元へ行きましょう!」

 

 私達は再び宇宙ネットワークに接続し、ステップを踏むアンナを先頭に喫茶店へ移動していった。

 

 

 

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ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きの話は11月15日までに書き上げて投稿します。

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