魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第210話 咲夜の思惑

 どれだけ推測を重ねても結論が出ない以上、一番事情を知ってそうな咲夜に聞くのが良い。

 そう思っての質問だったが、返ってきた答えは意外なものだった。

 

「申し訳ないけれど、今はその質問に答えられないわ」

「今は?」含みのある言い回しに引っかかった私は少し考え「……それって私の今後の行動に影響を与えるからか?」とさらに問いかける。

 

 すると咲夜は軽く頷き「時間が未来方向にしか進まない世界で、未来という高次な情報を知るにはタイムトラベルが必要不可欠。その因果を破る事はすなわち因果律の崩壊を招くことに繋がるわ。意地悪だと思うかもしれないけど、理解してもらえるかしら」

 

(なるほど、そうきたか)

 

 咲夜の考えとしては、どんな物事にも順序があり、過程を経てから結果へ辿り着かなければならず、一足飛びに結果だけを知るのは駄目ってことなんだろう。

 これは時間移動の性質的に矛盾しているように思えるが、時間移動という行為そのものが結果を導き出す過程だと解釈すれば辻褄が合う。

 答えを知ることができないのはもどかしいけれど、私も過去に同じ事をやってきたので咲夜を恨むつもりはない。

 

「なら質問を変えよう。お前が初めてトルセンド広場に現れた時、『私がここに現れた時刻と貴女が今置かれている状況。私が時の回廊に帰るその時まで忘れないでね』と話していたが、今回の件はこれと関係あるのか?」

「え? そんな話があったの?」

 

 にとりはきょとんとしながら私達の顔を見やっていたが、咲夜は意に介さずに即答する。

 

「関係があるとも言えるし、ないとも言えるわ」

「なんだそりゃ?」

「タイムトラベラーが関わる歴史は刻一刻と変化していくもの。今の段階ではまだ話せないわ」

 

(う~ん、この質問も駄目なのか)

 

 咲夜の言い方的に、私が過去に経験した出来事についてなら答えてくれるかと思ったけど、目論見が外れてしまった。

 今の私がまだ経験していない未来に関係することだからか? こうなってくるといよいよ質問内容が限られてくる。

 

(なんか何を聞いても無理そうな予感がしてきたけど……駄目元で聞いてみるか)

 

「最後の質問だけどさ、咲夜がこの歴史に降り立った本当の目的はなんだ?」

 

 すると咲夜は僅かに目を見張った。

 

「……その質問の意図を訊いてもよろしいかしら?」

「改変前の歴史の中で、待ち合わせ時間に遅刻することをアンナが霊夢達に連絡するシーンがあったんだけど、その時にお前の名前はあがらなかったんだ」

 

 思い出すのはアミューズメントパーク前の道端で発せられた、アンナと記憶の中の私の会話。

 

『はい。霊夢さんに連絡したところ、マリサさんと妹紅さんと一緒にトルセンド広場にある喫茶店で休憩しているみたいで、皆でジャンボチョコクリームパフェを食べているそうです』

『約束の時間からもう25分オーバーしてるけど、霊夢達怒ってなかったか?』

 

 この時アンナは霊夢とマリサと妹紅の名前を出した後に『皆で』と話しており、記憶の私はそれに違和感を抱いていなかった。

 もし改変前の歴史に咲夜が居たのなら、彼女について何か言及がないのは不自然だ。

 そう理由を伝えた後、「ただ遊びに来ただけなら改変前の歴史に現れてもおかしくないのに、お前はこの歴史になってから現れた。何故なんだ?」と、問いただす。

 

「……」

 

 どうやらこの質問は核心をついたようで、これまで淀みなく話していた咲夜が初めて返事を留保し、考え込む素振りを見せていた。

 今思い返せば、彼女のような存在が単純な目的で行動する筈がないのだ。必ず何か裏がある。

 この真剣な空気に押されるかのように、私とにとりが固唾をのんで見守っていると、やがて彼女は沈黙を破った。

 

「未来の貴女と約束を交わしたからよ」

「約束だと? それは一体――」

「今の貴女に話せるのはここまでよ。時が経てばいずれ真実が見えてくるでしょう。その時になったら包み隠さずに話すわ」

「ふむ……」

「それに誤解のないように言わせてもらうけど、トルセンド広場で語った話も決して嘘ではないわ。この時間軸はね、魔理沙が思っている以上に様々な因果が複雑に絡み合っているのよ」

「……分かった。そういうことならこれ以上は詮索しないよ」

「ごめんなさいね」

 

 咲夜は思わせぶりなことを言って煙に巻いたが、僅かなやり取りの中でも幾つか分かったことがある。

 それは記憶の想起がまだ続くことと、今の歴史が彼女によって多少なりとも手を加えられている可能性が浮上したことだ。

 私と違って咲夜は時の回廊からあらゆる時空を俯瞰的に見渡せるわけで、もし彼女が動いたのなら恐らく完璧な歴史改変をやってのけてしまうだろう。

 ひょっとしたらこうした私の言動すら織り込み済みなのかもしれない。

 

「そろそろ時間を動かすわよ」

「あぁ」

 

 懐に仕舞っていた眼鏡を掛け直すと、指を弾く軽やかな音と共に賑やかな街が出現し、何事もなかったかのように世界が動き始めた。

 果たしてこの先にどんな結末が待ち受けているのだろうか?

 私は期待と不安に胸を膨らませながら、トルセンド広場に向かっていた。




次回投稿日は11月27日です

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