魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第211話 サイバーポリスの思惑

――紀元前38億9999万9999年8月18日午後6時20分(協定世界時)―― 

 

 

 

 それから間もなく広場の入り口に到着した私は、霊夢達を探すべく辺りを見回した。

 トルセンド塔を中心に据えるトルセンド広場は、マセイト繁華街地区のど真ん中に設けられており、そこから四方八方に伸びる道路は空から見下ろすと車輪のハブとスポークのようだ。

 広場の外周部にはファッション・雑貨・日用品・飲食等様々な業態の店が展開されていて、地球基準ではもう夜――といっても全然日が沈む気配がないけれど――に差し掛かる時間帯だというのに、人種や種族すら多様な大勢の人々が広場を行き交っており、昼間と変わらない賑いを見せていた。

 空を横切る宇宙船が墜落するようなことも、諍いやトラブルが起きている様子も無く、至って平和な都会の街中だったが、私にはふと気になることが。

 

(なんでこんなにサイバーポリスがいるんだ……?)

 

 数多の人混みでごった返す広場の中で、群青色の帽子とスーツを身に着けた人々がせわしなく動き回っており、彼らは街の北へ南へ散り散りになっていった。

 そんな疑問を抱いているのは私だけのようで、にとりは「かなり人が多いなあ。ねえ咲夜、他のみんなはどこにいるの?」と咲夜に訊ねていた。

 

「それなら――」

 

 言いかけたその時、「咲夜~こっちよー!」と街の喧騒に負けない程張り上げた霊夢の声が耳に入り、そちらに目を向ける。

 メイト通りに面したトルセンド塔入り口近くでぶんぶんと手を振る霊夢を捉え、隣には憮然とした顔で仁王立ちするマリサに、塔の壁に寄りかかりながらじっと此方を見つめる妹紅、前に手を組みながら苦笑するアンナの姿があり、私達は仮想世界の人混みの中を一直線に駆けていく。

 この星の人々が幽霊みたいに半透明に表示されているおかげで、実体のある彼女達は遠くからでも目立つものだった。

 

「連れて来たわよ霊夢」

「ありがと咲夜。これでようやく全員集まったわね」

「遅いぞ二人とも! 特に妹! タイムトラベラーが時間を守らないでどうするんだ!」

「二人してどこで何してたんだ? 魔理沙はてっきり霊夢達と合流しているものだとばかり思ってたわ」

「もしかして迷っちゃいましたか?」

 

 合流するや否やおもいおもいに苦言を呈する彼女達に、にとりは「メイト通りのゲームセンターで魔理沙とゲームしてたんだけど、その後ちょっと色々あってさ」と言葉を濁しつつ、流し目で私に視線を送る。

 

「随分思わせぶりなこと言うのね?」

「色々ってなにかあったんだ?」

「実は――」

「……もしかして、アンナ?」

 

 事情を説明しようとしたその時、私の後ろから声が掛かる。

 反射的に振り返ったそこには、金髪赤眼でサイバーポリスの制服を身に着けた背の高い女性が立っており、私はその顔に見覚えがあった。

 

(彼女は――)

 

「フィーネ!」

「やっぱりアンナだったの。こんなところで会うなんて奇遇ね」

 

 学生以来の友人の顔を見た瞬間アンナの頬が緩み、フィーネもまた微笑んでいる。改変前の記憶で私を問い詰めた時とはえらい違いだ。

 

「えっ? フィーネって……」

「綺麗でかっこいい人ねぇ」

「そうね。あのプロポーションはちょっと羨ましいわ」

 

 にとりは目を丸くしながら彼女を凝視していたが、霊夢と妹紅は初対面のような反応を見せており、マリサは「お前ら知り合いなのか?」とアンナに問いかける。

 

「はい! 彼女の名前はフィーネ。同じ大学に通っていた友達で、今はサイバーポリスに勤めているんです」

「へぇ~アンナの友達なのか」

「ねえ、サイバーポリスってなんなの?」

「宇宙ネットワーク内の秩序と安全を維持し、利用者の生命データ・財産の保護や、犯罪の予防・捜査、被疑者の逮捕を行う政府機関のことです」

「秩序と安全……人里の自警団みたいなものかしら」

「アンナ、この方達は?」

「先のミッションで知り合った地球人の友達よ。今この星を案内していたの」

「そう、貴女達が……! 太陽系から遥々アプト星へようこそ。改めましてフィーネです。よろしくお願いしますね」

 

 友好的に挨拶をする彼女に続いて、私達もおもいおもいに自己紹介を済ませていくと、フィーネは私とマリサを見比べながらこう言った。

 

「……驚きました。お二人は名前も容姿も同じなんですね」

「ちなみに私の方が姉で、こいつが妹なんだぜ」

「ふふ、なるほど。双子なんですね」

 

 フィーネはクスリと笑みを浮かべていた。

 ここまでの皆の反応を見る限り、どうやら改変前の記憶はないようだが……。

 

「ねえ、フィーネ。良かったら貴女も一緒に来ない?」

「魅力的な提案だけど、まだ仕事が残ってるからすぐに戻らないといけないのよ。ごめんなさいね」

「そっか~。残念」

 

 そうして立ち去ろうとしたフィーネだったが、このタイミングで彼女が現れた事が気になった私は呼び止めた。

 

「なあ、ちょっといいか? その仕事ってトルセンド広場にいるサイバーポリスと関係あるのか?」 

「言われてみればあんたと同じ制服の人間がうろうろしてるな」

 

 周囲は今も人混みを掻き分けるようにサイバーポリスの一団が行き交っており、誰も彼も真顔でいることからあまり穏やかな雰囲気とは言えなさそうだ。

 

「そうですね……」フィーネは少し考える素振りを見せた後、口を開いた。

 

「……まあいずれ公表する予定なので構わないでしょう。実は今リュンガルト壊滅作戦を実施中でして、サイバーポリスが多いのもその影響です」

 

(! このタイミングでその名前が出るとは)

 

「あれ、リュンガルトって確か魔理沙が話してた……」

「うん、そうだよね」

「おいおい、妹紅とにとりは知ってるのか? 私は初耳だぜ」

「リュンガルトとはかいつまんで言うと時間移動による時空の支配を目論む研究機関で、我々サイバーポリスが長年追いかけ続けている犯罪組織です」

「時間移動……」

 

 フィーネを除いた皆の視線が私に集まる。

 

「一つ疑問なんだけどさ、この星では時間移動は悪なのか?」

「いえ、そういうことはありませんよ。時間の事象について真っ当に研究している機関もありますし、時間移動を題材にした娯楽作品も溢れかえっています。ですがリュンガルトは倫理や禁忌を平気で破り、既存の社会システムの転覆を目論む危険思想を持つ人間が多数所属する集団なので、社会秩序の維持の為にも壊滅させなければならないのですよ」

「なるほど……」

「これまで我々はリュンガルトの存在を認知しつつも、決定的な情報が掴めずに捜査が難航していましたが、とある筋からリーク情報がもたらされたおかげで壊滅作戦に踏み切ることができました。今現在リュンガルトの本拠星にてサイバーポリスとアプト軍の精鋭部隊が交戦中です。制圧も時間の問題でしょう」

「やれやれ、物騒な話だな」

「まるで戦争ね。もっと穏便な手段は取れないの?」

 

 妹紅の指摘にフィーネは「……お恥ずかしい話ですが、この件に関しては身内の不祥事も絡んでおりまして、手段を選んでいる時間が無かったのです。この事件が片付いた後、組織内を改革し、セキリュティをより強化なものにしなければならないでしょう」と項垂れていた。

 

「ねえフィーネ、もしかしてこの近くにもリュンガルトがいるの?」

「今の所は確認されてないから大丈夫よ。念のために宇宙ネットワーク内を捜索する予定だし、アンナや皆さんに危害が及ばないように最善を尽くしますから」

「それは良かったわ。なんだか色々大変そうだけど、気を付けてねフィーネ」

「ありがとうアンナ。それでは私はそろそろ仕事に戻ります。色々とゴタゴタしていますが、この星を心ゆくまで楽しんでいってください」

 

 一礼したフィーネは実体化を解いて完全に仮想世界の住人になった後、そのまま雑踏の中へと消えて行った。

 

 


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