魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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最高評価ありがとうございます。

一話しか投稿できずごめんなさい


第210話 (2) 魔理沙の記憶③ マリサの異状

 その後会計を済ませて喫茶店を出た私達は、アンナの自宅へ移動すべくマセイト繁華街地区の外に向かってぞろぞろと歩いていた。

 というのも、マセイト繁華街地区内は現実・仮想世界問わずあらゆる乗り物が禁止されているらしいので、車に乗る為に場所を変える必要があったからだ。

 ちなみにこれは喫茶店でアンナから聞いた話だが、宇宙ネットワークの利用者は、圏内であればプライベート空間や禁止区域を除いてどこにでも瞬間移動できるらしいのだが――アミューズメントパーク『ウェノン』にいた私とにとりの所へ一瞬で来たのもこの機能を利用したらしい――その機能を利用する為には精神と肉体の完全な仮想化が必要との事。

 距離や範囲によって変わってくるので一概には言えないけど、魔法で同じ事を再現するなら膨大な魔力と経験が必要になるので、この星の科学は相当凄いことをやってのけているんだなと私は感心していた。

 さて、現在の時刻は午後9時20分。地球ならとっくに星のカーテンが降りている時間帯でも、街の活気や人混みは衰える気配がなく、眠らない街の異名に相応しい様となっている。 

 

「そういえば皆さん明日観光したい場所の希望はありますか?」

「私はマグラス海上を飛んでいる街が気になるな」

「おっ、気が合うな妹よ。私もちょうどそれを言おうと思ってたんだ」

「空中都市ニツイトスですね。あそこは都市全体が一つの遊園地になっているんですよ」

「へぇ、面白そうだな!」

「どんなアトラクションがあるんだ?」

「ふふ、それは行ってからのお楽しみってことで」

「私はマグラス海底都市かなぁ。水の中に街を造るなんてかなり興味を惹かれるよ」

「そういえばあんたって河童なんだっけ」

「まあ本能的な部分もあるし、発明家兼メカニックとしても知的好奇心を掻き立てられるのさ」

「あたしは建築に詳しくないのでその方面の話はできませんけど、有名なスポットなら知ってますよ」

「何が有るの?」

「マグラス海底都市の一番の名所と言えば虹色の珊瑚礁ですね。太陽の光が珊瑚礁に反射して海の中に虹を描く神秘的な場所なんですよ」

「それは凄い! ますます興味がわいてきたよ」

「妹紅さんと霊夢さんは何か意見はありますか?」

「私はそこまで強い希望はないし、皆に合わせるわ」

「右に同じく」

「フィーネはどう?」

「私は護衛任務中だから皆の計画に意思表示できないわ。ごめんね」

「ううん、気にしないで。フィーネもあまり気を張らずに楽しんでね?」

「となると、候補は空中都市と海底都市の二択になるな。どうする?」

「どうするも何も、多数決で考えるなら私と妹が空でにとりが海なんだし空で決まりだろ。海底都市は明後日以降にすればいいじゃん?」

「うん。私もそれでいいよ」

「それでは明日の予定は空中都市ニツイトスの観光に決定~!」 

 

 そんなことを話し合いながら歩いているうちに、マセイト繁華街地区を抜けて、十字路交差点へと到着する。

 

「ここから先は現実の世界で行動するので、皆さん眼鏡を外してください」

「ん、了解」

 

 アンナの一声で眼鏡を外すと、喧騒と人や物で溢れた大都会が一気にゴーストタウンへと変貌し、冷たいコンクリートジャングルだけが取り残された。

 この何とも言い難い気持ち悪さだけは何度体験しても慣れそうにない。 

 

「ん~やっぱし裸眼が一番ね。ずっと眼鏡掛けてると鼻と耳が痛くなってくるわ」

「そうか? 私はちょっとした気分転換になったけどなぁ」

「まあ霊夢は眼鏡とは無縁の生活だからな。慣れてしまえば気にならなくなるぜ?」

「あら、あんたってそんなに目悪かったっけ?」

「両目ともに視力1.5だ。調べものや魔法の実験をする時に眼鏡があると便利なんだぜ?」

「ふ~ん」

 

 ちょっとした眼鏡トークをしている間に、アンナは路肩に車を出現させていた。

 

「ささ、どうぞ。乗ってください」

 

 後部ドアを開くアンナに「行きよりも一人増えてるけど全員乗れるのか?」と訊ねた所、「車内を拡張したので大丈夫ですよ」と驚きの返事がきたので乗り込んでみると、その言葉通り車内は両手を伸ばせる程度に広くなっていた。

 

「おぉ、確かに広いね。見た目は軽自動車なのに中はワゴン車並だ」

「感心するのもいいけどさ、後ろがつっかえてるから奥に行ってくれ」

「あぁ、ごめんごめん」

 

 かくして全員が車に乗り込んだ所でアンナは車を走らせていき、およそ10分後に彼女の自宅マンションへ到着し、順々に車から降りて行く。 

 目的地に着いた事で気が抜けてしまったのか、身体が急に重くなり、立っているのが辛くなる程度の倦怠感が押し寄せていた。

 

「ふぅ……なんか身体が重いわね」

「霊夢もか? 私も急に疲れたんだよな」

「あ~怠いぜ……」

 

 見ればついさっきまで元気溌剌だったマリサまで顔色が悪く、げんなりとしていて、見かねた妹紅が「そんなに辛いなら肩を貸そうか?」と提案すると「悪い、借りるぜ」と寄りかかっていた。

 う~んこれは乗り物酔いなのか? でも今まで一度も酔った事は無いし、アンナ、妹紅、にとり、フィーネはピンピンしてるんだよなぁ。

 

「これは早く休んだ方がいいかもしれませんね。すぐに案内しますよ」

「頼むぜ……」

 

 アンナは妹紅に支えられながら歩くマリサに配慮しつつ高層マンションの中へと歩いていき、霊夢やにとりも歩調を合わせながら気遣いの言葉を掛けている。

 すぐさま私も後に続こうとしたが、道路の真ん中で佇むフィーネの姿が視界の隅に入り足を止める。

 彼女は額に手を当てながら、アンナの高層マンションと向かいの高層マンションの間の空を険しい表情で睨みつけているのだが、私が見上げても雲一つない青天しか無く、目立ったものは何もない。

 彼女の目に何が映っているのか気になった私は、思い切って訊ねてみた。 

 

「どうした? 何かあるのか?」

「……」彼女はその姿勢を維持したまま沈黙を続けたが、やがて此方に向きなおり「いえ、多分気のせいでしょう。なんでもありません。行きましょうか」

「あ、ああ」

 

 首を傾げつつも私とフィーネも高層マンションの中に入って行き、先にエレベーターに乗り込んでいたアンナ達と共に32階へと上がり、誰も居ない廊下を歩いていく。

 

「もうすぐ着きますから頑張ってください!」

「ああ……」

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫……じゃないな。なんでか知らんが身体に上手く力が入らないんだよ。お前は何ともないのか?」

「私は倦怠感があるくらいで、そこまで重症じゃないな」

「霧雨姉さん、そこまで辛いのであれば救急病院船を手配しましょうか?」

「なんだそれ?」

「病院の役割を果たす宇宙船のことです。48時間365日、プロッチェン銀河内であれば1日以内に駆け付け、人種・国籍・種族・身分の分け隔てなく傷病者を治療してくれますよ。ここは宇宙ネットワーク圏内なので、要請を送れば1秒もせずに到着するでしょう」

「そうだな……もうしばらく経っても良くならなかったら頼むぜ。できれば病院には掛かりたくないんだ」

「分かりました。あまり無理をしないでくださいね」

「あぁ」

「マリサさんあたしの家に着きましたよ。すぐに鍵を開けますね!」 

 

 そう言いながらアンナがドアノブに手を掛けると、スムーズに玄関の扉が開く。

 ドアノブに触れるだけで鍵が解除されるような仕組みになってるのかと思いきや、アンナはドアノブを掴んだまま怪訝な表情を浮かべていた。

 

「あれ、ドアが開いてる……鍵かけ忘れたっけ?」一瞬記憶の底を探るように沈黙したアンナだったが、すぐに思い直し「――ってそんなことよりマリサさんの方が大事ですね。皆さんどうぞ、入ってください」

「お邪魔します」

 

 アンナに招かれるようにして、私達は順々に玄関へ足を踏み入れて行った。

 それなりに広い玄関の先には一本の廊下があり、左右には引き戸が一枚ずつ、一番奥の突き当りにはすりガラスの開き戸が見えるのだが、それら全ての扉が僅かに開き、隙間風が吹き抜けているのが気にかかる。

 私が突然来たせいでかなり慌てて遊びの支度をしていたのか、はたまた意外とずぼらな性格なのか。

 ちなみにアンナは靴を脱がずに家の中に入っているので、恐らく土足のまま入っても良いのだろう。

 

「客用のベッドの用意にちょっとお時間がかかるので、ひとまずマリサさんはリビングのソファーに寝かせましょう。すぐに準備してきます!」

「頼んだぜ」

 

 アンナが小走りで廊下の奥へ向かい、曇りガラスの扉を開けて中に入ったその時。

 

「キャアアアアアア!」

「!?」

 

 絹を裂くような悲鳴が響き渡った。





次話は9割完成しているので早めに投稿できると思います

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