魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第214話 (2) 魔理沙の記憶③ 魔法

(あれっ?)

 

 頭上の文字盤と足元の魔法陣が一気に収束していき、時間移動特有の浮遊感もなく地に足ついたまま。

 周囲の景色に変化はなく、荒れ果てたリビングの中でじっと私の動向を見守る霊夢達の姿が映っていた。

 

(おかしいな、失敗したか?)

 

 私は再度魔法式を練りあげ、同じ言葉を繰り返す。

 

「タイムジャンプ発動! 行先は時の回廊!」

 

 だが結果は変わらず、その言葉だけが虚しく反響する。

 

(何故だ? 何故魔法が成功しない?)

 

 約三時間前は何の問題もなく使えてた訳だし、これまで何十回と成功し続けていた時間移動が連続で失敗することなんてある筈がない。

 そもそも頭の中で魔法式を構築している時はどこにも異常はなかった。

 

(まさか魔力切れか? ――いや、それはない。魔法陣はちゃんと展開されてるし、何よりあの時と違って魔力は充分に残っている)

 

 あの時とは二度目の幻想郷滅亡の歴史で西暦300X年5月6日のことだ。

 この歴史では、外の世界の人間達が幻想を解明したことにより博麗大結界が壊されてしまい、幻想郷が外の世界に吸収されてしまっていた。それ故魔法が碌に使えず、250X年の博麗神社からタイムジャンプした私は数百メートルの高さから自由落下する羽目になった。

 だけど今回は体内に魔力が駆け巡ってる感覚はあるし、幻想郷にいた時に比べると魔力量は落ちているものの、タイムジャンプ魔法を使えるだけの魔力は充分に残っている。

 第一150年以上も魔法使いをやってる私がそんな初歩的なミスを犯す訳が無い。

 

(となると原因はなんだ? そういえばさっきも魔法が不発に終わったよな……)

 

『我々がタイムトラベラー相手に無策で相対したと思うか? 手駒がこうもあっさり倒された事には驚かされたが、これも想定の範囲内。我々がここにいる時点で既に運命は決まっている。貴様らはもうこの時間から逃げられないのだよ。ハハハハハハッ!』

 

 消える間際にレオンが残した言葉が脳裏によみがえる。

 これは果たして偶然なのか? それとも彼らの陰謀なのか?

 

「どうしたの魔理沙?」

 

 思索に耽っていた私の意識を呼び戻す霊夢の声。

 気づけば、離れた場所に居たはずの彼女がいつの間にか隣に立っていて、不思議そうな顔で私を見つめていた。

 

「それがさ、何度試してもタイムジャンプできないんだ」

「えぇっ! それって一大事じゃない!」

「ああ。これは緊急事態だぜ」

 

 霊夢の驚きの声で、異変を察知した皆が私の元に集まって来る。

 

「タイムジャンプできないって……元の時間に帰れないの?」

「今のところはな」

「その割には随分と落ち着いてるんだな?」

「焦った所で事態は何も解決しないからな。こういう時こそ冷静にならないといけないんだ」

 

 妹紅に……というよりも、自分自身に言い聞かせるように発した。

 

「なんで魔法が使えなくなったの? メイト通りではタイムジャンプできてたじゃん」

「ええ。私もこの目ではっきりと見ていますから」

「もしかして魔力切れとか?」

「いいや、魔力が無い訳じゃないんだ。何て表現したらいいか……そもそも魔法ってのはさ、魔力を介して世界に働きかける事で、望んだ事象を発現させるものなんだ」

 

 体系・属性・種類・起源・マジックアイテム・魔法薬等、色んな要因が絡んでくる為一概には言えないが、基本的には魔力の質・量・熟練度で発現できる事象の種類や規模が決まる。

 私とマリサが火力に拘るのもそんな理由からだ。

 

「でも今は、事象を起こそうと魔力を注いでも発現しない状態になっている。まるで世界が魔法を拒絶してるみたいだ。こんなの初めてだぜ」

 

 先に挙げた歴史の西暦300X年5月6日の時は、魔力不足のせいでマスタースパークの火力が不十分だったが、現在は根本的に魔法が遮断されているような感覚だ。

 

「それって、マリサの具合が悪くなった事と何か関係があるのかしら?」

「分からない……けど、関連性が無いとも思えないな」

 

 私はマリサが横たわるソファーへと近づいていく。

 彼女はあれだけの騒動があったにも関わらず眠り続けているが、依然として呼吸が荒く、額には脂汗が滲みでており、見ていて非常に辛そうだ。

 

「回復しそうにないな……」

「辛そうですね……」

「念の為マリサの魔力を探ってみるよ」

 

 マリサのソファーを囲みながら心配する皆にそう言って私は彼女に手をかざし、魔力反応を探りはじめたが、どれだけ神経を研ぎ澄ませても手ごたえが無かった。

 

(そんな馬鹿な! なら今度は……)

 

「悪いなマリサ。少し寒いだろうけど、我慢してくれ」

 

 事態の深刻さを感じた私は、マリサの毛布をめくった後、エプロンドレスの下に着た白いブラウスの第四ボタンと第五ボタンを外し、露わになったお腹のヘソの位置に右手を当てる。

 

「んんっ……」

 

 ピクリと微かに反応するマリサ。これは直接身体の中心部に触れることで、魔力探知の精度を上げる狙いがあってのことだ。

 

(かなり身体が冷たいな……。今度こそ成功するといいけど)

 

 めくった毛布を被せてから改めて魔力探知を開始すると、その目論見は当たり、彼女の魔力状態が右手を介して伝わりはじめた。

 

(よしっ)

 

 精神を集中させて解析を進めていくうちに、マリサの現状が明らかになっていき、程なくして体調不良の正体が判明する。

 

(これはっ……! なんてこった。まさか私の懸念が当たっていたなんて……)

 

 今の彼女には辛うじて感じ取れる程度の微弱な魔力しかなく、その僅かに残った魔力さえもどんどんと失われている状態で、深刻な魔力欠乏症に陥っている。

 魔法使いにとって、魔力とは単に魔法を使う為の力ではなく生命力そのものであり、これが体内から完全に失われてしまうと死に至ってしまう。

 私はすぐさま魔力探知を中断し、伸ばした手を引っ込め自分のスカートの右ポケットに手を突っ込む。

 目的はマナカプセル。今は一刻も早く純度の高い魔力を補給する必要があるからだ。

 

(あれっ、無い! こっちか?)

 

 今度は左ポケットに手を突っ込んだが、どれだけまさぐっても指先に物が当たる感触はなく、思い切って両方のポケットを裏返してみたものの何も入っておらず、仕方なく元に戻す。

 

(おかしい。なんで無いんだ!?)

 

 シャロンの萬屋で換金する際に、アンナの提案で持ち物はCRF(次元変換装置)で変換して宇宙飛行機の中に転送したものの、マナカプセルだけは手元に残しておいたし、ブティックで着替えた際にもちゃんとポケットの中に入れていた。

 このマナカプセルは外の世界でも純粋な魔力が失われないように細工を施しているし、あれからたったの数時間で、魔力の残滓すら感知できなくなる程完全に消失するとは考えにくい。

 

(これはまさか――! にわかには信じられないけど、そう考えると辻褄が合う)

 

 私の中で一つの仮説が浮かび上がったが、ひとまず今は彼女の体力を回復させなければ。

 

「ねえ、何かあったの?」

「悪い、その話は後にしてくれ!」

 

 私は再度右腕を彼女のお腹へ伸ばし、その手を通じて魔力を送り込んでいく。

 

「くっ……」

 

 魔力と共に体の力が抜け、片膝をつきながらも懸命に魔力供給を続けていくと、次第にマリサの呼吸は安定していき、みるみるうちに血色が良くなっていく。

 

(ほっ、ギリギリ間に合ったみたいだな)

 

 魔力供給を止めて心の中でホッと一息ついていると、マリサが意識を取り戻した。

 

「ううん……、あれ……私は……?」

「よう、お目覚めか?」

「マリサ! 良かった、目を覚ましたのね……!」

 

 私の隣でずっと様子を見ていた霊夢は安堵の声を発し、妹紅、にとり、アンナも一安心といった表情を浮かべていた。

 マリサは上体だけを起こし、一度辺りを見回した後霊夢に訊ねた。

 

「ここはどこだ……?」

「覚えてない? アンナの家のリビングよ。あんたが急に具合が悪くなっちゃったから、休ませてもらっていたのよ」

「そうか……うん、そうだったな」

 

 自身の記憶を擦り合わせるかのように生返事すると、マリサはアンナに視線を向け「悪かったな、迷惑をかけて」

 

「いえいえ、あたしは大したことしていませんから。それよりもお加減はいかがですか?」

「まだ身体が少し重いけど、さっきよりはかなり楽になったぜ」力のない笑顔でそう答えたマリサは、今度はこちらに視線を合わせ「……妹、お前が助けてくれたんだろ? ありがとな」と、右手を握り素直なお礼を述べた。

「その様子だと、もしかして最初から気付いてたのか?」

「いや、気づいたのは意識を失う直前になってからだ。私も疑ってはいたんだが、お前は普通に動いてたし、何よりもこの年になってまさか魔力切れを起こすとは思わなくてな」 

 

(まさか同じことを考えていたなんて。いや、彼女も〝私″だから当たり前か)

 

 私なりに納得した所で、更に言葉を重ねて行く。

 

「それなら今の自分の状態も分かってるんだろ? お前の方で治せないか?」

 

 マリサを回復させるために、タイムジャンプ一回分の魔力を除いた全ての魔力を渡したのだが、依然として魔力の流出が収まっていないので、一時的な措置に過ぎない。

 原因不明の魔力流出現象を収めなければ再び倒れてしまうだろう。

 私の問いにマリサは少し沈黙した後、「……駄目だ。私なりに体内で留めようと魔力の流れを意識して変えているんだが、収まる気配がない」と落胆した表情で首を振る。

 

「原因に心当たりはないか?」

「分からん。マセイト繁華街地区を出るときは何の問題も無かったのに、このマンションに移動してから急に気分が悪くなったんだ。お前は何ともないのか?」

「少し身体が重いくらいで、魔力の流出は起きてないぜ」

「ふ~ん……、条件は同じ筈なのに、お前と私で何が違うのかな」

 

 腕を組みながらマリサが考え込んでいると、怪訝な顔をした霊夢が疑問を口にした。

 

「ねえ、話が全く見えてこないんだけど?」

「あたし達にも分かるように説明してください」

「魔力がどうかしたの?」

「ああ、済まなかった。まずマリサの体調不良についてだけどさ、魔力探知をした結果魔力欠乏症だと分かってな、さっき私の魔力を分け与えたんだ」

「魔力欠乏症?」

「簡単に言うと体内の魔力が著しく不足する病気のことだ。魔法使いにとって魔力の有無は生死に直結するからな」

 

 一口に魔力といっても、魔法を使う為の魔力と生命を維持するための魔力の二種類があり、仮に前者が空っぽになったとしても、ただ魔法が使えなくなるだけで、安静にして自然回復を待てばいい。

 先に挙げた歴史の西暦300X年5月6日で、私がマリサのように倒れなかったのも、そういう根拠があったからだ。

 本来なら限界まで力を振り絞っても、魔力の性質が異なる為後者の魔力が減る事はないが、何らかの理由で後者の魔力まで失われる事態に陥ってしまうと、あらゆる生理機能が低下し、やがて死を迎えてしまう。

 その事を説明すると、霊夢達は納得したように頷いていた。

 

「それならマリサはもう大丈夫なのかしら?」

「いや、まだ完治はしてないんだ。今すぐにって事は無いけど、魔力が流出する原因を突き止めないといずれまた倒れることになっちまう」

「そんな……!」

「どうしたらいいんでしょう? 魔力が原因なら、もし救急病院船を呼んだとしても治せないでしょうし……」

「幻想郷を長く離れたせいなのかな?」

「それは関係ないだろう。魔法使いは他の妖怪と違って比較的外の世界でも生きやすい種族だし、たった一日で影響が出るとは考えにくい」

「タイムトラベルの副作用……ってことは無いか。もう何十回も魔理沙と跳んでるし」

 

 結論がでない議論を重ねていると、マリサは楽天的な態度でこう言った。

 

「ははっ、そんなに心配しなくても、一旦家に帰ってじっくりと調べればすぐに分かるぜ。タイムトラベルならあっという間だろ?」

「……そうか、マリサは知らないんだったな。実はさ――」

 

 マリサが意識を失った後の状況をかいつまんで説明していくと、彼女は驚愕の顔を浮かべてソファーから完全に起き上がった。

 

「おいおい、一大事じゃないか! 全く気づかなかったぜ!」

「マリサ、お前は魔法を使えそうか?」

「試してみるぜ」マリサは深い切り込みが入った壁に向かって右腕を正面に突き出したが、少しして「……駄目だな。魔力が減っていくばかりで、簡単な魔力弾すら撃てやしない」と手を振った。

「私と同じなのか。となると――」

 

 先程の仮説が益々信憑性を増してきたところだな。

 

「何か思い当たる節があるのか?」

「原因不明の魔法封印現象に、マリサの魔力欠乏症……これらは全てリュンガルトの仕業かもしれない」

魔理沙(マリサ)程の魔法使いの魔法を封じることなんて可能なの? しかもこれだけ科学が発展した、魔法とは無縁の星でさ」

「その辺の理屈は分からないけど、こんな図ったようなタイミングで魔法が使えなくなるなんて明らかにおかしい。緊急時に用意しておいたマナカプセルまで蒸発してたんだから」

 

 私は外の世界によって幻想郷が滅亡する歴史を経験している。

 この歴史以上に文明が発達したアプト星なら、魔法を封じるような科学技術があったとしても不思議ではない。

 

「確かに、事実だけを見るなら、魔理沙(マリサ)だけ急に能力が使えなくなるなんて不自然だね。外の世界という枷があるとはいえ、妖力がそう多くない私ですら多少は操れるし、妹紅や霊夢に至っては普段と変わらない訳じゃん」

「私は蓬莱人だからな。どんな環境だろうと問題ないわ」

「私は全然駄目ね。さっきお札を使った時に気づいたんだけど、この星では霊力や仙術の類は殆ど使えないみたい。本当ならあの技で結界に閉じ込めるつもりだったんだけどね」

「フィーネは何か知らないか? 彼らが魔法を研究してたとかさ」

 

 マリサを調べていた辺りから、ずっと険しい表情で虚空を見つめているフィーネに話を振ると、一瞬驚いた表情を浮かべながらも此方に向き直る。

 

「私の知る限りではそのような報告は上がってきていません。もっとも、都合の悪い情報をレオンが改竄していた可能性は否めませんが」

「ふむ……」

 

 フィーネが知らないのなら、他の観点から魔法のことについて知る必要がありそうだな。

 

「なあフィーネ、他にも幾つか確認したいことがあるんだけど、良いか?」

「答えられる範囲内であれば」

「今日の午後5時――ゴホン。宇宙暦で34時26分頃、お前が『ヴェノン』に事情聴取に来た理由について、確か『宇宙ネットワークアーカイブ機構からロストテクノロジーによるシステムエラーが発生したと連絡を受けたから』だと話してたよな?」

「ええ」

「その宇宙ネットワークアーカイブ機構ってのはなんなんだ?」

 

 その質問にフィーネは訝し気な表情を浮かべる。

 

「……それが何か関係あるのですか? 今はもっと他に優先すべき話があるでしょう」

「これは大事な話なんだ。頼むよ、教えてくれ」

「……少し話が長くなりますが、よろしいですか?」

 

 私が頷くと、彼女は語り始めた。

 

「宇宙ネットワークを介して宇宙のあらゆる事象と情報を観測、それを適切に分析・管理している機構のことです。ここでは独自の判断基準に基づいて、記録されている情報に10段階の評価を付けて管理しておりまして、高レベルの情報ほど制約が厳しくなります。しかし宇宙ネットワークの利用者であれば、基本的に誰でも無料で情報を利用することができます」

「なるほど。ちなみに今そこに接続できるか?」

「平時ならば私やアンナのデバイスで接続できますが、今はオフライン――宇宙ネットワークに接続できない状態なので無理ですね」

「そうか、そうだったな」

 

 こんな状況になるんだったらあの時にちゃんと聞いておけばよかったな。

 仕方ない、次の質問に移ろう。

 

「次の質問だけどさ、さっき言ったロストテクノロジー、つまり魔法はこの星だとどんな扱いを受けてるんだ?」

「一般論で答えるならば、超自然的な力や非科学的な現象に対する比喩、ファンタジー系のフィクション作品で扱われる概念の一つという位置づけにありますね」

 

 言葉の定義は外の世界と大して変わらないのか。

 

「単語そのものは世間で広く知られていますが、それはあくまで架空の概念としてです。実在した過去の技術だと正しい認識を持つ人は極めて少ないでしょう。私も要請を受けて初めて知ったくらいですから」

「なんでそんなに認知度に差があるんだ?」

「私も気になって貴女の元に向かう前に簡単に調べたのですが、どうやら開示されている情報に格差があるようなのです」

「……どういうことだ?」

「宇宙ネットワークアーカイブ機構では、『魔法(マホウ)』の核心に触れる内容は、10段階中9段階目に該当する機密性の高い情報に指定されておりまして、『魔法(マホウ)はロストテクノロジーである』という情報もそこに含まれているそうなのです。恐らくこの閲覧条件の厳しさ故に、世間での認知度が低くなっているのでしょう」

「その条件ってそんなに厳しいのか?」

「9段階目の閲覧資格は、社会的信用度(スコア)が9000以上で、犯罪歴や過激思想が無く、圏内の星に実住所を持つ人間――と規定されてます。この条件を満たしたうえで、情報取得の目的と理由を説明し、認可されたのちに定期的な査察を受ける必要があります」

「……なんか色々と面倒くさそうだな。社会的信用度(スコア)ってなんだ?」

「言葉通り、その人が社会からどれだけ信用されているかを示した数値のことです。初期値が100なので、9000という数値は、高潔な精神と知識を兼ね備え、公益に資する人間でなければ到達しえない領域なのですよ」

「ほう」

 

 小難しい言い回しをしているけど、要は良識のある人間でなければ知識を得る資格がないってことだろう。

 見方を変えればそれだけ扱いが難しい情報とも言える。

 

魔法(マホウ)は1万年もの昔に滅びた技術です。貴女のように魔法(マホウ)を扱える人間は現存していないでしょうし、魔法(マホウ)技術を用いた物も残されていないでしょう。私見を述べるなら、ここまで厳重な管理が必要なのか疑問が残ります」

 

 淀みない眼で真っ直ぐ私を見ながら彼女はさらに語る。

 

「義務教育の学習指導範囲からも外れていますし、内容も含めてきちんと認知している人種は、歴史研究者か一部の好事家くらいでしょう」

「う~ん、そう……なのか?」

 

 今までの話を聞いてると、なんか凄い秘密が隠されてそうな気がするんだが……。

 

「どうしても引っかかるのであれば、後でアクセスしてみますか?」

「何? できるのか?」

「私のスコアなら支障はありませんし、貴女が正真正銘の魔法使いだと証明できれば、認可が特例で降りる可能性があります」

「そいつは渡りに船だな。ぜひ頼むぜ」

「ですが今はこの状況を何とかしなければならないでしょう。どうやら事態は思った以上に深刻です。先程からサイバーポリスの秘匿回線を通じて本部に繰り返し応援要請しているのですが、未だに応答がありません」

「それってつまり、サイバーポリスの助けは望めないってことか?」

「はい」

「えええっ!? それって一大事じゃないですか!」

 

 アンナは不安な面持ちで悲鳴にも似た声を上げていた。

 なるほど、さっきの不審な態度はこういう理由だったのか。

 

「そこに転がっている兵士は、リュンガルトの軍事力からすればほんの一部にすぎません。急襲が失敗した今、レオンはなりふり構わず貴女を捕えようとするでしょう。早急に退避する事をお勧めします」

「そうだな。にとり、宇宙飛行機を出してくれ」

「分かった!」

 

 ポケットからアンナのデバイスを取り出し、操作しようと電源を入れたが、アンナが慌てて止めに入る。

 

「ま、待ってください、にとりさん。この場所は狭いので実体化は無理ですよ!」 

「たしかに、こんな場所で出したら機体や翼が壁に埋まっちゃいそうだな」

「どのみち、宇宙船は離着陸許可が下りた開けた空間でなければ、実体化できないようになっています」

「一番近い場所はどこだ?」

「屋上です!」

「来た時と同じ場所か。よし、急いでそこへ向かおう!」

 

 私達は玄関へと駆け足で向かって行った。

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