魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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 ――紀元前38億9999万9999年8月18日午後11時56分(協定世界時)――


第218話 (2) 魔理沙の記憶③ 可能性

「えっ!?」

「魔理沙じゃない!?」

「噓……だろ……? なんでお前がここに……?」

 

 二人目のレオンの登場――。

 予期せぬ事態に私達の間で動揺が広がる中、この時間のレオンは高笑いする。

 

「――クックック、ハーハッハッハッ!! どうやら未来の私がタイムトラベルをものにしたようだな!」

「馬鹿な――有り得ない!」

 

『全宇宙の過去から未来全ての時間において、能動的に時間移動を行える存在は霧雨魔理沙たった一人だけ』

 

 かつて女神咲夜はそのように語っていたし、実際に私以外のタイムトラベラーに今まで遭遇した事は無かった。

 それなのに、目の前の男は時間遡航してきたというのか?

 

「だがこれが現実だ。タイムトラベラー」

 

 新たに現れたレオンが私の反論を一刀両断すると、この時間のレオンの隣に並び立つ。

 

「貴様はこの後仲間の命と引き換えに我々に捕まり、タイムジャンプの魔法式を提供する。そのデータを元に我々は研究を重ね、マジックアイテムを開発した」

 

 そう言ってスーツの袖を捲って見せたのは、一見すると銀色の腕輪のように思える装身具だった。

 

「名前は【時間転移装置(タイムテレポーテーション)】。これにはタイムジャンプ魔法の術式が刻み込まれていて、貴様と同じように時間移動が可能なのだよ」

時間転移装置(タイムテレポーテーション)……」

「この発明により時間移動の優位性は覆された。分かるだろう? もう貴様の運命は決定しているのだよ。未来の貴様による歴史改変が発生せず、私がこの時間に現れたのがなによりの証拠だ」

「そ、そんなのまだ分からないだろ! 未来の私が放っておくわけないぜ!」

「この写真を見てもまだ、そんなことが言えるかな?」

 

 レオンが空中に投影した写真には、薄暗い牢獄の中、虚ろな表情で手枷と足枷に繋がれている私の姿が遠写されていた。

 

「ああ……そんな……」

 

 近い将来に起きる現実を見せつけられた私は、膝から崩れ落ちてしまった。

 

「終わった……。未来が……閉ざされた……」

 

 自らの迂闊な行動のせいで、最悪な結末に行きついてしまった。

 こんな結末になるのなら、未来の私の忠告を全て受け入れ、アンナとの約束に拘らず、タイムトラベルを捨てて元の時間で悠々と暮らしていれば良かった。

 しかしいくら後悔した所でもう遅い。私にはやり直すチャンスは無くなってしまったのだから。

 唯一助かる可能性があるとすれば、時の回廊の咲夜による歴史改変だが、私の今が変わってない以上、彼女は静観を決め込むつもりなのだろう。

 もはや希望はどこにもない。

 

「ふん――状況は変わった」

 

 投影された写真を消すと、この時間のレオンは懐から拳銃を取り出し、絶望に打ちひしがれている私に狙いを定める。

 

「未来の私がタイムトラベルを手にした以上、もう貴様に用はない。この世界にタイムトラベラーは一人で充分だ。消えて貰おうか、霧雨魔理沙!」

「…………」

 

 最早抵抗する気力も起きず、銃口をぼんやりと見つめていると、発砲の直前に私を守るように結界が展開される。

 発射された銃弾は結界に弾かれ、先端部分が八の字に枝分かれし、中心から細長い針が飛び出た銃弾が足元に転がった。

 

「やらせないわよ!」

「霊……夢?」

「さっきから黙って聞いていれば、随分と大層な口を利くじゃない。運命が決まったですって? 馬鹿じゃないの? 勝手に未来を決めつけないで!」

 

 威勢良く啖呵を切った霊夢は、続けて私に言葉をぶつける。

 

「魔理沙も魔理沙よ! どうして簡単に未来を諦めるの? 貴女は私とマリサの結末をより良い未来に変えてくれたじゃない!」

 

 霊夢に呼応するようにマリサは「ああ、そうだ、ぜ。150年前、私が自分の気持ちに、素直に、なれたのも、お前の、後押しがあったおかげだ」と、腹の奥底から振り絞るような声で語り。

 

「あたしはマリーのタイムトラベルに救われました。だから今度はあたしが貴女の力になりたいです!」

 

 両膝をついている私の目線に合わせながら、決意の表情でアンナは話し。

 

「300X年の幻想郷を復興する為に、何度もタイムトラベルを繰り返した時の事、覚えているか? あの時は何度も何度も失敗したが、試行錯誤を重ねて理想の未来に辿り着いたじゃないか。絶望するにはまだ早いぜ」

 

 妹紅は私の肩を軽く叩きながら不敵な笑顔を見せた。

 

「妹紅の言う通りだわ。あんな運命なんて変えてやりなさい! 私達で明るい未来を掴み取るのよ!」

「!! ――ああ、そうだな!」

 

 彼女達の言う通りだ。

 私自身に定められた未来に弱気になっていたけど、不都合な未来なら変えてしまえばいい。

 今までだってそうしてきたんだ。立ち止まらなければ新たな可能性が生まれる。

 

 私はすっくと立ち上がり、「ありがとう、おかげで目が覚めたよ」と霊夢達に礼を述べる。

 まったく、こんなことで挫けてしまうなんて私らしくもない。

 

「うんうん、そうこなくっちゃ! 魔理沙が諦めちゃったら元の時間に帰れないからねぇ」

「おいおい、それが本音かよにとり」

 

 苦笑する私に、レオンは高慢な態度で「……クク、随分と立派なご高説を垂れているが、感情論で現状が覆る程甘くはないぞ」と水を差す。

 

 確かに今の状況は圧倒的に不利だ。いつ殺されてもおかしくない。

 だけど霊夢達の叱咤激励のおかげで、焦燥感は消えて無くなり、明鏡止水の境地に至っている。

 そのおかげで現状を整理するだけでなく、分析する余裕が生まれていた。

 

(宇宙飛行機が消滅した今、私達がこの状況から抜け出す理想的な手段はタイムジャンプだけど、時の回廊へ繋がる道はリュンガルトに封鎖され、魔法もアンチマジックフィールドによって封じられている。マリサの為にもアンチマジックフィールドを何とかしたい所だが――そもそもなんで私とマリサでこんなに差があるんだ?)

 

 辿った歴史が違っていても、私とマリサは遺伝子的にも全くの同一人物だ。

 魔法使いとしての実力も恐らく互角。それどころか、弾幕ごっこ等の実戦経験を含めたらマリサの方が上回るだろう。

 それなのに、マリサだけが魔力欠乏症に陥ってしまう程著しく影響を受けるなんて、明らかにおかしい。

 

(私とマリサの魔法使いとしての決定的な違いはタイムジャンプくらいだけど……。待てよ? 魔法といえば――)

 

 およそ40分前に、アンナの自宅のリビングで魔法を試した時、タイムジャンプは文字盤と魔法陣が展開されて発動寸前までいったのに対し、それ以外の魔法は魔法陣すら現れず、完全に不発に終わった。

 これはすなわち、タイムジャンプだけはアンチマジックフィールドの影響が及んでおらず、完全には封じ込められていないということだ。

 

(やはりタイムジャンプが突破口になるのか? だけど問題はリュンガルトのタイムジャンプだな)

 

 未来から来たレオンは、私について『仲間の命と引き換えに我々に捕まる』と予言していた。

 それはつまり、今のままではタイムジャンプは絶対に失敗する未来になってしまうということ。

 彼らの予定調和を崩すには、もっと大胆な手が必要だ。

 

(奴らの裏をかくには――)

 

 思考を巡らせていると、ふとおかしな点に気づいた。

 

(――そういえば、リュンガルトがタイムジャンプした時の時間が違っていたな)

 

 ここで言う時間とは、タイムジャンプ魔法陣と共に出現する文字盤のことだ。

 この文字盤には、タイムジャンプする前や後の時刻ではなく、術者が魔法を発動した時点での時間軸の時刻が表示される。

 今の時刻は23時58分で、彼らの時間遡航から五分も経ってないにも拘らず、文字盤の針は短針がⅥ、長針がⅢを指していた。

 宇宙暦の時刻という可能性も考えたけど、この暦に換算しても47時28分だし、そもそも1日が48時間で1時間が30分の宇宙暦が、西暦の文字盤で表示される筈がない。

 

(ひょっとして奴らのタイムジャンプは偽物なのか? だとすると、もう一人のレオンは何者だ?)

 

 しかし、どれだけ考えてもこの謎の答えは導き出せず、調べようにも時間がない。

 

(今はこの場を切り抜ける方法を考えろ――!)

 

 再度思考を巡らせ、辿り着いた結論は。

 

(〝タイムジャンプの暴走″――これしかない!)

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