魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第225話 (2) タイムホールの影響④

 ――西暦215X年10月1日午前8時20分――

 

 

 

 ――幻想郷、魔法の森上空――

 

 

 

 エクシズが太平洋に追放されて、再び静穏を取り戻した魔法の森上空。

 スキマを閉じて空中に浮かぶ八雲紫に、博麗杏子はおずおずと頭を下げていた。

 

「あ、あのっ! 助けていただいてありがとうございました!」

「あらあら、そんなに頭を下げなくてもいいわよ?」

「ですが私の力が至らないばかりに、貴女にご迷惑をおかけすることになってしまいました。私は博麗の巫女失格ですね……」

「そんな事ないわ。あの宇宙船は外の世界の科学すら凌駕するオーバーテクノロジーよ。貴女はよく頑張ったわ」

「…………」

 

 八雲紫はフォローしたが、強い責任を感じている博麗杏子の表情は暗い。

 そんな重苦しい空気を壊すように、射命丸文はおどけた態度で口を開く。

 

「いやぁ~助かりましたよ。それにしても狙い澄ましたようなタイミングで登場しましたねぇ。いつから見てたんですか~?」

「最初からよ。私がこんな異常を放っておくわけないでしょう?」

 

 八雲紫の手によってエクシズが消えたことで、魔法の森に再びマナが戻りはじめ、枯れた草木や茸は息を吹き返していた。

 しかし上空には依然としてタイムホールが空いており、射命丸文は不安げに話す。

 

「いったいあの大穴はなんなんでしょうね? 彼らはアプト星から漂着してきたと話していましたが、もしやSF作品に登場するワームホールの類でしょうか」

「それは有り得ないわね」

 

 タイムホールを見上げながらきっぱりと言い切った八雲紫に、射命丸文は驚きながら「何故断言できるのです?」と問いかける。

 八雲紫は視線を下し、射命丸文の顔を見ながら答えた。

 

「単なる空間の捻じれなら私の能力で修正できるわ。けれど、あれについてはどれだけ境界の操作を試みても全く干渉できなかったのよ」

「なんと……! 見当はついているのですか?」

「あれは時間の概念の事象。名付けるなら【時間の境界】と言ったところかしら」

「時間の境界――! では、あの向こう側は過去か未来に繋がっているのですか!?」

「恐らくね」

「なんということでしょう! ひょっとしたら文々。新聞始まって以来の大スクープかもしれません!」

 

 興奮した射命丸文はメモを取る事に夢中になっていたが、一方で博麗杏子は不安を浮かべていた。

 

「一体何故時間の境界が開いたのでしょうか?」

「そこまでは分からないけれど、彼らの言動から推測するに、この現象を引き起こした首謀者はタイムトラベラーの魔理沙でしょうね」

「九日前に彗星の如く現れた別の歴史の魔理沙さんですね。私達が知るマリサさんは妹と呼んでいるみたいですが」

 

 射命丸文の補足説明を聞いた博麗杏子は「では妹の霧雨さんを捕まえれば解決になるのでしょうか?」

 

「その可能性が高いけど、恐らく彼女はこの時間にいないでしょうね。念のため藍に魔理沙の捜索を命じておいたけど、望みは薄いでしょう」

「別の時間……」

 

 博麗杏子はタイムホールを見据えながら「あの向こうに霧雨妹さんがいるのかしら……」と、決意に満ちた表情で呟く。

 そんな彼女の次の行動を悟った八雲紫は、優しい声色で釘を指す。

 

「杏子、くれぐれもあの向こう側へ行っては駄目よ」

「どうしてですか?」

「時間はね、複雑で繊細な事象なのよ。生身の人間が無事に往復できる保証はないし、そもそも魔理沙があの先にいると決まった訳ではないわ」

「しかしあれを放っておくわけにはいきません! もしまた先程のように、外界からの侵略者が来たら――!」

「その時は〝私達″が何とかするわ。貴女は博麗の巫女という唯一無二の存在なのだから自重なさい」

「……分かり、ました」

 

 自らの時間移動が及ぼす幻想郷、ひいては博麗大結界への影響を指摘された博麗杏子は引き下がるしかなかった。

 

「これからどうしたらいいのでしょう……。紫さんはどのように考えていますか?」

「魔理沙が解決するのを待つしかないわね。恐らく彼女も異なる時空同士が繋がっていることに気づいている筈よ」

「何も出来ないのがもどかしいですね……」

 

 落ち込む博麗杏子。

 続いて、手帳に次号の新聞記事の見出しを書き出していた射命丸文が八雲紫に訊ねる。

 

「随分と魔理沙さんを信頼していますねぇ。そんなに悠長に構えていて大丈夫なんですか?」

「さっきも言ったけれど、こればかりはどうにもならないのよ。私の見立てでは時間の境界は安定状態にあるわ。今の状態が続くのであれば静観しても問題ないでしょう」

 

 八雲紫が自らの見解を述べたその時だった。

 現在時刻は【日本標準時(JST)西暦215X年10月1日午前8時25分】。

 魔法の森上空のタイムホールを基点に、一時中断されていた時空の相転移現象が進行。タイムホールが空いた時空全体に波及する。

 この現象を皮切りに時間軸の崩壊が緩やかに始まり、三次元世界に影響を及ぼし始める。

 上述した時刻の魔法の森上空のタイムホールでは、縁と空の境界線に亀裂が入り、範囲の拡大と共に中規模の時間震が発生。震度に換算すると4相当の揺れが魔法の森一帯の空間を襲い、地鳴りのような音が響き渡る。

 魔法の森近辺の虫、鳥、獣は本能的に危険を察し、一斉に逃げ出していた。

 

「身体が揺れてる……! え、地震ですか!?」

「いやいや、私達は飛んでるんですよ!?」

「これは……!」

 

 それは彼女達のみならず、魔法の森の住人にも影響が及んでいた。

 1人目の住人、アリス・マーガトロイド。

 マナが正常に戻り、自室の椅子で5分前に意識を取り戻した彼女は、人形を駆使してこぼれた紅茶の後片付けを速やかに行っていた。

 彼女が時間震に襲われたのは、掃除を済ませ、玄関先で時間旅行者霧雨魔理沙の行方を尋ねてきた八雲藍の応対をしていた時だった。

 空間全体の振動を地震と思い込んだ彼女は、すぐさま人形を操って、倒れそうな家具やインテリアを低い場所へと移動させていた。

 一方で只の地震ではないとすぐに感づいた八雲藍は、話を切り上げて八雲紫から借り受けた境界を操る程度の能力を使用。アリス・マーガトロイドから聞いた、霧雨魔理沙(マリサ)が頻繁に訪れる場所の一つである香霖堂へと向かう。この地点からの距離を考慮に入れた選択だった。

 2人目の住人、矢田寺成美。

 彼女もまた、アリス・マーガトロイドと同様のタイミングで意識を取り戻していた。

 急に倒れた事を不審に思った彼女は、自室へ移動してベッドに腰かけつつ、自らの能力で体調のチェックを行っていた。

 自宅が揺れていることに僅かな恐怖心を覚えつつも、体調の確認を進めていき、自身が健康であることを再確認していた。

 3人目の住人、森近霖之助。

 魔法の森入り口近くに香霖堂を構える彼は、ちょうどこの時、店内で開店に向けて準備してる最中だった。

 時間震が発生した際の彼の行動は早く、すぐに高価な品々が陳列されたケースを抑えにかかっていた。

 その最中、八雲藍が時間旅行者霧雨魔理沙の行方を尋ねに来たが、彼が落ちつき払った態度で姿を見ていないことを伝えると、八雲藍はお礼を述べて、紅魔館に繋げたスキマへ入って行った。

 そして魔法の森上空のタイムホールでは、論理の範疇を超えた現象が起きていた。

 

「噓……! なに、あれ……!?」

 

 博麗杏子は唖然としたまま空中に立ち尽くし。

 

「……前言撤回するわ。どうやら、速やかに問題に対処する必要があるわね」

 

 彼女の隣に浮かぶ八雲紫は、険しい表情で臨戦態勢に入り。

 

「そうみたいですね。いやはや、時間の境界とはとんでもないですねぇ」

 

 写真を数枚撮っていた射命丸文は、引きつった笑顔で葉団扇に持ち変える。

 異変を察知して空を見上げた彼女達の視界には、タイムホールから徐々にせり出す超高層マンションの一群。アプト文明の都市が、39億2156年の時を越えて幻想郷に顕現せんとする瞬間だった。

 時を同じくして、自宅のインテリアと家具の移動を終えたアリス・マーガトロイドは、外に出てタイムホールを見上げていた。

 

「……あれは放っておくわけにはいかないわね。魔理沙は大丈夫なのかしら?」

 

 八雲藍から経緯を聞いていた彼女は、この時異変への関与を決心。

 普段愛用している上海人形と蓬莱人形のみならず、自宅に飾られている人形を総動員して、無数の人形と共にタイムホールへと飛んでいった。

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