――西暦215X年10月1日午前8時35分――
西暦215X年10月1日午前8時35分。
時を止めた状態で紅魔館を飛び立った十六夜咲夜は、やがて魔法の森がある方角の空に奇妙な違和感を覚えた。
飛行ルートの変更も一瞬考えたが、最短ルートの途中にある魔法の森の迂回は少なくない時間のロスになると判断し、当初の予定通りに飛んでいた。
だんだんと接近するにつれて、違和感の全貌が明らかになっていく。この時、彼女はそれに多少興味を惹かれていたが、今は主君の妹から命令された身であり、彼女同様に紅美鈴の怪我の具合が心配だった為、無視する心積もりであった。
ところが魔法の森上空に差し掛かった時、そこで起きていた異常事態にはからずも空中で停止する。
「なによこれ……!」
タイムホールから降り注いでいる200棟の超高層マンション群と、対応に当たる四人の少女達の姿。
低空飛行中のアリス・マーガトロイドは不可視の糸を操り、自身の周囲に浮かぶ100体の西洋人形の中から70体を突撃させる瞬間。
射命丸文は落下途中の超高層マンション群の隙間から、葉団扇で起こした四本の竜巻でタイムホールへと押し返している瞬間。
八雲紫は全長10㎞のスキマを開き、範囲内の超高層マンション群を呑み込んでいる瞬間。
そして博麗杏子は低空から陰陽玉と霊力弾を発射している瞬間で停止していた。
地上には落下した超高層マンションの残骸が広範囲に渡って散乱しており、至る所で草木が折れてクレーターが発生していた。
しかし現在の状況――超高層マンション群の落下が始まる前に博麗杏子が素早く結界を張っていた為、ここに暮らす住民及び住宅に被害は及んでいなかった。
「…………」
規模こそ天と地の差があるが、この場所でも紅魔館と同じ異変が起こり、博麗の巫女と八雲紫が動いていることを知った十六夜咲夜は、密度の高い空を掻い潜るように飛行して魔法の森を離れていった。
やがて人里全体を肉眼で見下ろせる距離まで接近したところで、彼女は目を僅かに見開く。人里も魔法の森や紅魔館と同じく、時空の相転移現象による超高層建築物の落下が発生していたからだ。
タイムホールの接続時空は、協定世界時(UTC)紀元前38億9999万9999年8月19日のアプト星ファブロ通り。アンナが時間旅行者霧雨魔理沙達を案内した時は、宇宙ネットワーク上でサンドレア大陸のコレノアドス国立公園を再現していたが、現実世界では無機質な超高層ビルが建ち並ぶエリアとなっている。
幸いにも、上白沢慧音と稗田阿音が事前に避難誘導をしていた為、大多数の人間は里の外に避難していた。しかし一部の人々が取り残されており、彼らを守るように六人の少女達が対応に当たっていた。
一人目の少女は魂魄妖夢。エクシズが八雲紫の境界によって幻想郷外へ消えた事を見届け、刀を収めて白玉楼に帰ろうとしていた矢先に今回の異変に遭遇。人々と建物に被害が及ばないように楼観剣を振るっており、人里上空で落下途中の超高層ビルを一刀両断した瞬間で停止していた。
二人目の少女は藤原妹紅。迷いの竹林入口付近で一服していた所で人里の騒動に気づき、上白沢慧音から事情を聞いて人々の避難の手伝いを行っていた。現在は民家の屋根の上に立ち、魂魄妖夢が時間停止前に切り刻んでいた超高層ビルの残骸に向かって複数の炎弾を発射している瞬間で停止していた。
三人目の少女は茨木華扇。妖怪の山からたまたま降りて来た所で今回の騒動を知った彼女は、動物を使役する能力を用いて様々な鳥類を人里に集結させた後、地上に降り注ぐ超高層ビルの残骸への対処を命じていた。現在は人里の一番高い建物の屋根の上に立ち、鳥達と人々の動きを注意深く観察している瞬間で停止していた。
四人目の少女は
五人目の少女は
六人目の少女は
聖白蓮、洩矢諏訪子、豊聡耳神子の三人は、それぞれ命蓮寺の住職、守矢神社に祀られている祭神、神霊廟の創造主で道教の聖人だ。宗教、活動拠点、種族すらも異なり、各自宗教勢力を率いる立場にある。
本日午前8時25分に再開した時空の相転移現象は、彼女達の神社仏閣にも影響が及び、各勢力はタイムホールからの落下建築物の対処に追われていた。
そんな時、各々の神社仏閣に加護を求めてきた信者達から事情を聞き、拠点の防衛を他の者に任せて人里に急行。信徒、異教徒関係なく人々を守るという意志の元、信仰の垣根を越えて一致団結して事に当たっていた。
「ここでも結構大事になってるみたいね」
時間に関連した大穴が幻想郷の至る所で影響を及ぼしていることを憂慮しつつ、十六夜咲夜は藤原妹紅の正面に降り立つ。
そして再び世界の時間を動かした後、間髪入れずに人里上空の3棟の超高層ビルと残骸全ての時間を止める。
「あれ、ここは人里……?」
十六夜咲夜に背負られていた紅美鈴はキョトンとしながら周囲を見回し。
「これは……!」
西の空では聖白蓮が超高層ビルが砕ける瞬間で停止していることに驚愕していた。
「ちょっといいかしら?」
「うわっ!」
藤原妹紅は目の前に突然現れた十六夜咲夜に一瞬驚いたものの、すぐに冷静になり。
「って、咲夜じゃないか。どうした?」
「美鈴が怪我しちゃったのよ。お取込み中の所悪いけど、永遠亭までの道案内お願いできるかしら?」
「任せな!」
快諾した妹紅は「仕事が入った! すぐに戻って来るからそれまで頼むぜ!」と他の5人に向かって大声で伝える。
彼女達は了承し、藤原妹紅が担当していた地域をカバーするように動き始めた。
「こっちだよ。ついてきてくれ」
「ええ」
炎の翼を生やして飛び立つ藤原妹紅の後に、十六夜咲夜も続いた。
「人符「勧善懲悪は古の良き典なり」!」
先程藤原妹紅がいたエリアからは、豊聡耳神子が腰に下げていた七星剣から黄金色のレーザーを空に向かって飛ばし、軌道上の超高層ビルを呑み込んでいた。
短くてすみません