魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第23話 レミリアの変移

 ――西暦215X年9月17日 午前11時――

 

 

 

 白玉楼を出た私は、人目の付かない適当な場所で215X年9月17日午前11時、レミリアに頼まれた時間の30分後に帰り、紅魔館へ向かっていた。

 彼女への依頼の報告もあるけど、咲夜が201X年に起こした行動によって未来が変化している可能性があるので、それを確認する意味もある。

 空を飛び続けることおよそ30分、ようやく紅魔館が目視で確認できる距離まで近づいた私は、その門前にゆっくりと降り立った。

 すると、壁に寄りかかったまま瞼を閉じていた門番が目を開き、ゆっくりと此方に近づいて来た。

 

「お待ちしていましたよ。魔理沙さん」

「え?」

「一応確認させてもらいますが、貴女はお嬢様の頼みで150年前の9月1日に向かい、それを終えて今この時間に戻って来たばかり――と考えてよろしいですね?」

「そうだけど。なんでそれを知ってるんだよ?」

 

 今朝レミリアの屋敷に入る時には、確かコイツは熟睡していて事情を知らない筈。

 それなのにこの物言い、何だかまるで私が来るのを待ちかねていたみたいだ。

 

「その事についてもお嬢様から説明がございますので中へどうぞ。地下一階の大図書館にてお待ちです」

「はあ、分かったぜ」

 

 妙に丁寧な応対をする門番に首を傾げつつ、私は門をくぐって紅魔館の中に入っていった。

 

 

 

「おお!」

 

 玄関を開けた瞬間、私は新たな未来の変化に気が付いた。

 荒れ果て散らかり放題だった紅魔館の中は、大理石の床や天井、さらには煉瓦の壁に至るまで、まるで新居の様に磨き上げられ、埃一つ落ちていなかった。

 廊下を歩けば、怠惰で移り気のある事で知られるメイド妖精達がせっせと家政婦としての仕事に勤しむ姿が見られ、その統率された様はさながら軍隊のようだった。

 そして図書館の扉を開けて中に入れば、奥のテーブルにレミリアとパチュリーが向かい合わせに座り、何やら話し込んでいる様子。

 

「おーい、来たぜー!」

 

 自らの存在をアピールしつつ彼女達に近づくと、会話を止めて声を掛けて来た。

 

「いらっしゃい、待っていたわよ」

 

 さながら旧知の友人に話しかけるように喋るレミリア。

 

「……凄い、レミィの話していた事は本当だったのね。こんなことがあるなんて……!」

 

 対して、驚嘆と動揺が混じったような声色で私を見つめるパチュリー。その反応から、確実に〝今朝″とは違う未来に来たと認識し、レミリアに問いかける。

 

「レミリア、お前はこの私を知っているのか?」

「ええ。貴女は良くやってくれたわ。私が今こうして立ち直れているのも、全て貴女のおかげと言っても過言ではないわ」

「お、おう。そうか」

 

 柔和な笑みを浮かべながらストレートにお礼を言って来たレミリアに、私はくすぐったさを感じ、話題を逸らす。

 

「あーそういえばさ、跳び立つ前と比べて、屋敷の中が随分と綺麗になっていたんだが。一体どんな手品を使ったんだ?」

「ん? ……ああ、成程。残念だけどね、それは違うのよ魔理沙。貴女は一つ大きな勘違いをしている」

「勘違い?」

「まずね、私の認識では魔法使いになった貴女と出会うのは初めてだし、150年前に跳ぶように依頼した事実もない。それはパチェも同じ」

「え、本当に?」

 

 私がパチュリーの方を見ると、彼女はそれに肯定するように頷いた。

 

「ならどうして」

 

 ――そんな訳知り顔で話せるんだ? そう口にする前に、レミリアがその答えを出した。

 

「140年前の6月4日、咲夜が亡くなる前日に全てを聞いたの。その時は言葉の意味が分からなかったけれど、翌日に咲夜が倒れた時、私はそれが真実だと悟ったわ」

 

 レミリアは遠い昔を懐かしむように語っていく。

 

「最初は咲夜の死を大いに悼んだけれど、彼女はそんな私を望んでいなかったからね。無理矢理にでも元気を出して、踏ん切りを付けたわ」

 

『私はお嬢様に仕えることが出来て幸せでした。ですからもう、私の事で苦しまないで未来を生きてください』

 

 その言葉による心境の変化が、今のレミリアにとって良い方に出たのだろう。

 

「だからね、改めてお礼を言わせてもらうわ。ありがとう。手紙を送った〝私″も、報われている筈よ」

「……それは良かった。私も過去に戻った甲斐があったぜ」

 

 その後レミリアやパチュリーと会話を楽しみ、夜まで非常にゆったりとした時間を過ごしていった。

 別れ際に「またいつでもいらっしゃい」と、昔のレミリアでは考えられないような温かい言葉に、(ああ、丸くなったんだな)と思った私だった。

 自宅に到着して家の中に入った所で、ふと、ある疑念が頭の中を掠めた。

 

「あ、そういえば……」

 

 未来が再び変わった事で、もしかしたら昨日のようにまたアリスに説明をしないといけないのかもしれない。

 レミリア達の反応を見るにその可能性が非常に高い。

 

「……面倒くさいからまた今度でいいか。今日は色々疲れた、もう寝よう」

 

 私はベッドに潜り込み、睡眠魔法を掛けて眠りについた。




この話で第二章は終わりです。
ありがとうございました。
次の話から第三章に入ります。


以下第二章で起きた出来事を時系列順に纏めました。
文字数は約600文字です
興味の無い方は読み飛ばしてくれても構いません。


 西暦200X年9月1日 
 
【B】 紅魔館で咲夜に遭遇。未来のレミリアがどうなってるかについて事情を説明したが、咲夜の信念故に断る。そして咲夜自身の気持ちを改めて問うために、死亡日時の10年後に跳ぶ。【C】へ
 
 
     同日深夜⇒レミリア、咲夜に眷属になるよう勧めるが、咲夜は魔理沙に説明したのと同じように断る。
 
 
 西暦201X年6月4日  咲夜が死亡する前日、レミリアは咲夜から西暦200X年9月1日に有った出来事や、思いの丈全てを聞きだした。
      

 西暦201X年6月5日 咲夜が仕事中に倒れ、そのまま意識が戻ることなく帰らぬ人となる。
 
      6月6日の未明頃 咲夜死亡
      
      
【C】 同日午後10時 魔理沙は白玉楼にて、幽霊となった咲夜から、自分の人生は満足だったと聞く。そして、幽々子お墨付きの元、輪廻転生の輪に乗るのを見届けて、報告のために西暦215X年9月17日に戻る。



 西暦215X年9月17日 紅魔館に立ち寄った魔理沙、しかしそこはかなり荒れ放題だった。パチュリーとの昔話に花を咲かせていた時、レミリアに会った魔理沙は、咲夜の過去を変えて欲しいと頼まれて、140年前に時間遡航する。西暦200X年9月1日午前10時30分 【B】へ   (旧)

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