魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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2021/03/31追記

都合により第230話の後半部分を此方に分割して再投稿しました。申し訳ございません。
分割前の第230話の罫線で区切られた部分と展開や内容は何一つ変わっておりません。


第231話 (2) タイムホールの影響⑩ 変化した世界

 ――西暦215X年10月1日午前8時45分――

 

 

 

 ――幻想郷、魔法の森跡地上空―― 

 

 

 

 ――side 紫(三人称一元視点)――

 

 

 

「!?」

 

 突如として紫を襲った意識の断絶。彼女にとってそれはほんの一瞬、須臾の時間にすら満たない時間だったが、世界は一変した。

 つい先程まで会話していた藍の姿はどこにも無く、眼下に広がっていた魔法の森は、草木も生えない真っ白な更地に変貌していた。

 頭上には相変わらず時間の境界が空いたままとなっていたが、彼女が操作した重力と音の境界は元に戻っており、超高層マンション群の落下の痕跡は完全に消えていた。

 

「そんな……これは一体……?」

「どうしましたか?」

 

 あまりにも唐突過ぎる変化に理解が追い付かず、愕然としながら呟くと、間近から文の声が耳に届いた。

 紫が顔を上げると、気遣う表情の彼女と目が合う。その隣では杏子と隠岐奈が怪訝そうな視線を送っていた。

 

「貴女達気づかないの? 魔法の森が一瞬で消えてしまったわ……!」

 

 紫は動揺を隠しきれずに訴えたが、文は不可解そうな表情で「消えた……? この土地はずっと昔からこんな感じだったじゃないですか」

「――え?」

「おいおい、とうとう耄碌したか?」

 

 棘のある口調で責め立てる杏子、溜息を吐きながら首を振る隠岐奈。まるで自分が間違っているかのような反応に強烈な違和感を覚えた紫は、焦燥ながらに主張する。

 

「こんな時につまらない冗談はよしなさい! ほんのついさっきまで森があったでしょ!?」

「紫さん。私の記憶では、この土地が魔法の森と呼ばれていたのは149年も前の話ですよ?」

「紫、彼女の話は事実だ。時間の境界の影響でマナが枯渇して森が消滅したんじゃないか。今更そんな昔の出来事を掘り返すなんて、本当にどうしたんだ?」

「!?」

「失礼します」

 

 本気で心配する論調で答える二人に言葉を失いかけた時、紫の前にスキマが開き、藍が現れた。

 

「経過報告に参りましたが、隠岐奈様もいらっしゃっていたのですね」

「ついさっき帰って来た所だ」

「藍……」

「時間の境界の発生状況ですが、橙の報告によりますと博麗神社、紅魔館、人里、永遠亭、命蓮寺、神霊廟、守矢神社、妖怪の山、太陽の畑で確認されております。残りの地域はまだ調査中ですが、彼岸、天界、冥界、地底、魔界、畜生界では確認されませんでした」

「随分と広範囲に広がっているようですね」

「やれやれ、頭が痛いな」

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

 

 彼女達の会話に強い既視感を覚えた紫は、慌てて指摘する。

 

「その報告はさっき聞いたばかりよ?」

「いえ、私は初めて伝え上げましたが……もしかして橙が先に報告に来ていましたか?」

「そうではないのだけれど……」

「?」

 

 紫は、首を傾げて困った表情を浮かべる藍の仕草に言葉を詰まらせてしまった。

 

「あやや、紫さんどうしちゃったんでしょうか」

「紫の奴、今日はいつになくボケてるな」

「やれやれ、幻想郷の賢者様がこれじゃ先が思いやられるわね」

 

 彼女達に憐むような視線を向けられた紫は、心の中で疑念を抱いていた。

 

――これはどういうことなのかしら?

 

 先程から立て続けに襲いくる違和感に、噛み合わない話、まるで世界に一人だけ取り残されたような感覚。狂ってしまったのは自分なのか、それとも世界なのか。

 紫は思考を巡らせ、現状の把握を試みる。

 

――彼女達が私を謀っている可能性は? いえ、言動に嘘偽りは感じ取れなかった。何より藍が私を騙すなんてある筈がないわ。なら何者かによる記憶と認知の操作? いいえ、私と隠岐奈がそんな術にかかるなんて有り得ないわ。では、おかしくなってしまったのは私なの……?

 

 紫の胸中には、形容しがたい感情が渦巻いていた。

 

――我思う、故に我あり。昔の哲学者がこの言葉を残した時、こんな心境だったのかしら。……あら?

 

 紫はこの時初めて、時間の歪みを証明する為に用意したデジタル時計が手元に無いことに気づく。

 すぐさまスキマを操り現在時刻を確認すると、液晶画面には【AM8:48:22 10月1日土】と表示。彼女の現在と過去の持続性を裏付ける強力な証拠に、紫はほくそ笑む。

 

――なるほど、ようやく理解できたわ。魔理沙が歴史を変えたのね。

 

 紫は西暦215X年9月21日に魔理沙の歴史改変《マリサが種族としての魔法使いになる歴史改変》を身をもって体験しており、二日後の9月23日には時間移動の詳細を当人から聞いていた。

 

――隠岐奈達の様子を見る限り、改変前の歴史を知るのは私だけのようね。だけれど……。

 

 彼女がすぐにその可能性に思い当たらなかったのは、決定的な違いがあったからだ。

 

――あの時は改変後の意識をベースに改変前の記憶が復活したのに、今の私には改変後の記憶が欠落してしまっているわ。この歴史の私の意識と記憶は何処へ行ってしまったのかしら?

 

――それに時間の境界は残ったままなのに魔法の森が消えてしまうなんて、どう考えても状況が悪化しているわね。

 

 心の中で疑念を抱いていた紫は、ここでようやくアリスの姿が見当たらないことに気づく。彼女を探そうにも、魔法の森が消滅した現在の歴史では見当がつかなかった。

 

――彼女にも私と同じ記憶があるのか、確かめる必要があるわね。

 

 そう判断した紫は、平静を装いながら口を開く。

 

「ねえ、話は変わるけどアリスはどこへ行ったのかしら?」

 

 紫にとってはなんとなしに訊ねた質問だったが、話を振られた三人の少女は不可解な表情を浮かべる。

 

「アリス……? 誰ですか、それ」

「! 本気で言ってるの?」

 

 紫は衝撃を隠しきれず、隠岐奈と杏子の顔を見る。

 

「名前の響き的に、英語もしくはフランス語圏で多く見られる女性か。幻想郷内に白人女性が居たらかなり目立つと思うが、私は知らないな」

「そういえば童話の主人公にそんな名前の少女がいたな。ふん、幻想郷の賢者様はとうとう現実と虚構の区別すら付かなくなったのか」

 

 嘲笑しながら答える杏子に、紫は「こっちは真面目な話をしているのよ! 茶化さないで!」と憤りを露わにした。

 しかし杏子はどこ吹く風といった様子で答える。

 

「私からしてみれば、お前がふざけているようにしか思えんがな。これ以上茶番を続けるつもりなら、協力関係は解消するぞ」

「!」

「落ち着きなさい博麗の巫女。貴女まで居なくなられたら困ります」

「……ちっ、私が彼女と同じ轍を踏む筈がないだろう」

 

 藍の説得に、苦々し気な表情で強く舌打ちした杏子は顔を背けた。

 

「紫さん。博麗の巫女に賛同する訳ではありませんが、こんな状況でつまらない噓は吐きませんよ。せっかくですから簡単に説明してあげましょう」

 

 僅かな苛立ちを見せながら文は語っていく。

 

「ここに一番最初に来たのが博麗の巫女で、次に私、三番目に貴女、四番目に隠岐奈さん、五番目に藍さんです。アリスとかいう少女は後にも先にもいませんでした。思い出しましたか?」

 

 文の言葉に隠岐奈は頷く。

 

「そんな――」

「紫様……心中、お察し致します」

 

 紫は今度こそ言葉を失い、同時に確信を得た。現在の歴史は、改変前の歴史よりもさらに状況が悪化していることを。

 

――まさか彼女の存在そのものが消えてしまうなんて……。

 

 紫にとってアリスは単なる知人であり、深い親交があるわけではなかったが、それでも顔見知りの妖怪が消えた衝撃は大きかった。

 

――こうなってしまうと、私が把握している交友関係も怪しくなってくるわね。

 

 その顕著な例の一つが、博麗杏子の性格の変化だろう。

  

――新しい歴史の杏子は随分と荒んでいるわね。素直で聞き分けの良い子だったのに、乱暴な口調になって周りからの呼ばれ方も変わっているし、私に対する敵意が強いわ。一体何があったのかしら。

 

 紫が憶測を立てていた時、藍がおずおずと申し出る。

 

「あの、紫様。紅魔館を訪れた時にレミリア・スカーレットから言伝を預かったのですが、お聞きになりますか?」

「……なによ?」

「『私達は世界の終焉にまた一歩前進した。〝希望″を求める猶予は殆ど残されていない』とのことです」

「!!」

「はて、希望とは何を指すのでしょうか?」

「ふむ……」

 

 文と隠岐奈が疑問符を浮かべている一方で、紫は心底驚愕していた。

 

――驚いたわね。彼女にはこの状況すら視えていたの?

 

 予言にも近いメッセージを受けて、紫は新たな仮説を頭の中で構築していく。

 

――もし世界の終焉が歴史改変を指すのなら、魔理沙の行動は失敗に終わるのかしら? けれどそれなら〝希望″なんて表現は使わない筈……。

 

――分からないことだらけね。でも彼女の言葉を信じるのなら、私が私でなくなってしまう前に決断しなければいけないようね。……乗せられているみたいで癪だけど。

 

 紫は時間の境界を見上げながら、決意を固めていた。

 

「私は引き続き調査を続けます。紫様、お疲れのようでしたら、ゆっくりお休みになってください」

「待ちなさい藍」

「はい、なんでしょう?」

「魔理沙の捜索状況はどうなっているの?」

「申し訳ございません。懸命に捜索しておりますが、未だ発見には至っておりません」

「そう……」

 

――歴史が変わっても魔理沙はいないのね。

 

 紫が失意の中にあった時、文はおもむろに呟く。

 

「アリス……マリサ……。はっ! もしかして!」

 

 懐から古びた手帳を取り出すと、パラパラとページを捲りだし、10ページ目で止めた。

 

「紫さん。先程仰っていたアリスとは、ひょっとして人形を操る魔法使い、アリス・マーガトロイドのことですか!?」

「! ええそうよ! 知っていたの?」

「やはりそうでしたか! 確かに時間の境界が再び開いたのであれば、アリスさんやマリサさん、そして霊夢さんも帰ってくるかもしれませんからね!」

「ふむ、その可能性があったか。紫、先程は悪く言ってすまなかった」

「私も紫さんのことを疑ってしまってすみませんでした。こんな重要な事を失念していたとは、ジャーナリスト失格ですね……」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。貴女達は何を言ってるの?」

 

 話の流れが掴めず紫が問いかけると。

 

「え? 149年前の2008年4月5日、博麗神社に開いた時間の境界の調査中に行方不明になってしまった、霊夢さん、マリサさん、アリスさんを捜していたんじゃないんですか?」

 

 文はさも当然のように答えた。

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