「現在の世界――つまり
「ええ」
「
「
「2日後には魔法の森上空にも開き、時間の流出現象によって瞬く間に魔法の森は消滅。今も土地は死んだままね」
「
紫が過去を語るごとに――
「2017年6月6日の深夜、
「
無色透明な心象世界はプラネタリウムのように彩られ、当時の出来事が再生されていく。
「2021年2月21日、再び時間の境界が博麗神社上空に開いたわ。霊夢とマリサが12年ぶりに帰って来たけれど、再び調査に向かったまま現在も消息不明……」
「その日の
彼女にとって、霊夢と出会ってからの164年間は――
「2052年8月3日には京都の酉京都駅前に時間の境界が開いたわ。偶々現場に居合わせていた秘封俱楽部の二人、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが好奇心のままに向かっていったわ。彼女達も行方不明ね」
「当時の記憶は定かではないけれど、彼女達が時間の境界を調査した事実が無いことだけは断言できるわ。ちなみに彼女達は今も存命よ」
非常に密度が濃く――
「9日前、魔理沙の自宅跡地で私達は魔理沙を待ち続けたけれど、日付が変わっても彼女は現れなかったわ」
「
色褪せない思い出となっている。
「そして今日の午前7時40分、魔法の森だった土地の上空に時間の境界が開いたわ。咲夜は運命に抗う為に永遠の姫の助力を仰ぎに向かい、
「
それだけに、彼女は何としても今の状況を精査して――
「午前8時25分、人里の空に時間の境界が開いたのを見て、
「
原因を究明し――
「午前8時44分、咲夜から借り受けた時計に手を伸ばしたところで
「
記憶の齟齬を解消する必要があった。
「こうして整理すると甚だしく変化しているわね。霊夢達がいない幻想郷なんて考えられないわ」
「
「「はぁ……」」
ひとしきり話した紫は、鏡写しのように寸分の狂いもないタイミングで嘆息を漏らした。
「一体どこで歯車が狂い始めたのかしら……」
「時間の境界が最初に開いた時刻は、α世界では今日の午前7時40分だけれど、β世界では2008年4月5日午前11時。以後、β世界では五回発生しているわ」
「日時、場所、境界が開いていた時間、規模全てがバラバラね。規則性は無いように思えるけれど……」
「唯一一致した時刻が、今日の午前7時40分と午前8時25分。でもα世界で午前8時25分から起きていた超高層ビル群の落下現象は、β世界では2052年8月3日の京都のみ発生したわ。もちろん、宇宙船なんて影も形も無かった」
「β世界では、魔法の森で時間の流出現象も起きたのよね?」
「咲夜と紅魔館の魔女の分析ではそうらしいわ。同じ場所・同じ規模なのにα世界との違いはなんなのかしらね」
「……分からないわ。時間の境界って一体なんなの? それに魔理沙の目的は……?」
困惑を隠しきれないα世界の紫の呟きは、やまびこのように反響する。
「β世界に魔理沙が現れなかったことと、何か関係があるのかしら? または
しかしどれだけ思考を巡らせても、結論を導き出せず、沈黙が場を支配する。状況を整理したことで却って謎が増えてしまい、彼女は思考の迷路に迷い込んでしまっていた。
そんな折、β世界の紫が質問をぶつける。
「……ねえ。
「ええ」
α世界の紫は思考を中断し、顔を上げて頷いた。
「彼女は本当に
予想外の問いかけに、α世界の紫は思わず「どういう意味?」と訝しげに聞き返した。
「彼女はもう一人の自分と友人を窮地に陥らせ、財産と居住地を壊し、幻想郷にまで牙を向いて自らも姿を消しているわ。おまけに咲夜の話によると、間もなく時間軸の逆行が始まって、私達の未来が閉ざされるのよ。客観的に見たら、破壊願望を抱いた狂人が世界を道連れにした壮大な自殺を試みているとしか思えないわ」
硬い表情を崩さず、声を尖らせるβ世界の紫に、α世界の紫は「絶対に有り得ないわ!」と反射的に声を荒げる。
「魔理沙は霊夢の命を助ける為に150年もの歳月を費やし、滅びの運命にあった未来の幻想郷も救ったわ。歴史改変の代償として、“タイムトラベラーの霧雨魔理沙”が存在した歴史が消えることになってもね。そんな彼女の為に、霊夢は人としての生と地位を捨てて共に生きることを誓い、マリサとその友人達も快く受け入れたわ。歩んできた歴史が違っても、魔理沙は魔理沙なのよ!」
理性と感情の衝突。α世界の紫は感情を露わにしながら語ったが、β世界の紫は依然として冷ややかな態度を崩さない。
「どうかしらね。彼女はタイムトラベラー。生きる時間が違う彼女と、私達の1日が一致するとは限らないわ。もしかしたら、
「それでも
「何の根拠にもならないわ。α世界の
「
じっと目を見据えて問いかけると、β世界の紫はバツが悪そうな表情で。
「……
「……ええ」
暗い顔で頷くα世界の紫は、「だからこそ真実を知る為に、時間の境界の先に向かう必要があるのよ。きっとそこで全ての謎が解けるわ」と説く。
β世界の紫はしばらくの間考え込んでいたが、やがて「……確かにそうね。ここで考えていても結論は出ないし、結局それしか方法は無さそうね」と受け入れた。
かくして方針と結論を改めて再確認した二人の紫は、示し合わせたように右手と左手を差し出し、びったりと手を重ね合わせ、優しく握る。
直後、二人に分かれた紫はコーヒーに注がれたミルクのように溶け合っていき、やがて一人になった。
今の彼女は、α世界に寄った意識と記憶に加えて、β世界の断片的な記憶が合わさったαβ紫に戻っていた。明鏡止水の如く澄み切った心象世界も徐々に浸食が始まり、元の深慮遠謀かつ混沌とした有様へと戻っていく。
「魔理沙……。是が非でも納得のいく説明をしてもらうわよ」
紫は黒く染まりつつある天を見上げながら強い決意が籠った呟きを残し、意識を現実へと戻していった。
この話で私(ワタシ)とルビが振ってあるβ紫は、第232話(2)~第236話(2)まで描写した紫です。
私(わたし)とルビが振ってあるα紫については、第4章151話~第5章第176話、第188話、第222話 (2)~第230話(2)で描写した世界に生きる紫であり、同じ歴史で繋がっています。
そして第231話(2)、第237話(2)、第238話(2)で描写した紫の主観はα世界から引き継いでいます。