「見つけたわ! マリサ、行くわよ!」
「おう!」
咲夜のすぐ前まで飛んだ所で、私はマリサと手を繋ぎながら一緒に飛び降りる。この間、彼女はずっと何かを考えあぐねるような顔で私達を見つめていた。
「ようやく見つけたわよ!」
背中のリボンに差していた幣を抜いて、威勢よく突き出したけど、彼女は私達をじっと見つめたまま何も答えない。宝石のように綺麗な蒼色の瞳には、どこか迷いがあるように感じる。
「ほ~これが時の神の咲夜か。紅魔館の咲夜と本当にそっくりだな」
一方マリサは物珍しそうにまじまじと咲夜を見つめていて、全然警戒していない。
こっちの咲夜と私達が知る咲夜との違いは、瞳は蒼色で、背中には吸血鬼の羽が無くて、人間だった頃の彼女の姿をしている所ね。あっちの咲夜を否定する訳じゃないけれど、私にとってはこっちの姿の方が見慣れている。
服装もメイドカチューシャとメイド服じゃなくて、レースの入った白いドレスを着ていて、神様というよりお姫様みたいな感じ。咲夜はスタイルがいいから、どんな服でも似合いそうだわ。
「ねえ、なんとか言ったらどうなの?」
こうしてじっくり観察しても私の勘は働かないし、目の前の咲夜は幻とかじゃないと思うんだけど……なんで黙ったままなのかしら。無視されるのは流石に傷つくわ。
こうなったらくすぐってみようかな――なんて思い始めたら、咲夜は私の心を読んだかのように重い口を開いた。
「……久しぶりね、霊夢。貴女の主観時間から見て、およそ8ヶ月ぶりかしら?」
「ええ、あの時以来ね」
「うん? お前達会った事あるのか?」
「去年の7月25日に、未来の魔理沙が忘れたルーズリーフを巡ってタイムリープした時に、一度だけ会っているのよ」
「あぁ、そう言えば前にそんな話してたな。思い出したぜ」
「改めて自己紹介をさせてもらうわ。私は十六夜咲夜、貴女達が生きる宇宙の時間を司る神よ」
咲夜は柔和な表情を浮かべながら、自然な所作で会釈する。さっきまでの不自然な態度は無くなってるし、どうやら、私達と話す気はあるみたいね。
「咲夜、私達がここに来た理由は――」
「知っているわ」
「え?」
まだ何も言ってないんだけど。
「私は時の観測者。貴女達の行動は全て観測していたのよ」
そう言って咲夜が指を弾くと、私達の目の前に、薄い透明な枠に囲まれた画面が急に浮かび上がる。
そこには私とマリサと美咲が博麗神社の縁側に座って、お茶菓子をつまみながらお喋りする光景が映っていた。
「え、私!?」
「私もいるな。てか、こんなの何処から撮ってたんだよ」
これは紫や早苗が話していたテレビっていう機械に似ているけれど、厳密には違うような気もする。だってこの映像はまるでその場にいるかのような真正面のアングルで撮られているし、カメラがあったら絶対気づくもん。
そんな事を思っている間にも、映像が進んでいって、画面の中の私達が急に立ち上がって空を見上げる。
『何……あれ……!』
『異変か。面白い事になってきたぜ……!』
それに合わせて画面が空に切り替わると、時間の境界が開いていて――ってあれ? なんだか見た事あるわね。
(確かこの後は紫がマリサの前に現れて――)
『魔理沙! 貴女、とんでもないことをしてくれたわね!』
『い、いきなりなんだよ!?』
『とぼけないで! 時間の境界を開けたのは貴女でしょ! 一刻も早く閉じなさい!』
『はぁ!? 何を言ってんだよ!』
画面の中のマリサの前にスキマが開いて、紫が血相を変えて問い詰めているけど、なんだかすごい既視感。
「ねえ咲夜。これってまさか、2008年4月5日のお昼前の映像なの?」
「ご明察」
微笑みを浮かべた咲夜は、次々と映像を切り替えていく。
時の回廊の中で、マリサが漂流する建物の残骸や壊れた宇宙船を掻き分け、飛ばされていくアリスの名前を叫びながら必死に手を伸ばすけど、あと少し届かなくて、私と一緒に時間の境界に呑み込まれる映像。
2021年2月21日の雪が降り続く博麗神社で、私、マリサ、咲夜、隠岐奈、美咲の5人が話し合い、私とマリサが咲夜から懐中時計を受け取って再び時の回廊に突入していく映像。
時の回廊の中で、私が桜地帯の下に落ちそうになりながらもマリサに助けて貰ったり、時計塔を目指してずっと同じ空をぐるぐる回った後、時の歪みを壊して一直線に時計塔に近づく姿まで。
私達が異変調査に乗り出してからの行動が全部、時系列順に記録されていた。
「ふぅん。随分と便利な力ね」
「覗き見なんて趣味悪いぜ?」
「悪く思わないで頂戴。これも必要な事なのよ」
「まあ説明の手間が省けたから良いわ。咲夜、今の幻想郷には何が起きているの? この異変は未来の魔理沙と何か関係があるのかしら」
「アリスはどうなったんだ? 生きてるのか?」
「残念だけれど、貴女達に教えることは何もないわ」
またまた咲夜が指を弾くと、今度は私達の隣に時間の境界が開く。境界面には、私の神社が映っていた。
「西暦2008年4月5日午前11時15分の博麗神社境内に繋がっているわ。貴女達は元の時間に帰りなさい」
「それは出来ない相談ね。私達は異変の調査に来ているのよ」
「右に同じだ」
何となくだけど、ここで帰っちゃったら二度と真実を知る機会は訪れない気がする。もう去年の夏みたいな歯がゆい思いはしたくない。
「貴女達ならそう言うと思ったわ。困ったわね。あまり実力行使には出たくないのだけれど」
「それなら咲夜、弾幕ごっこで決着付けようぜ。私達が勝ったらお前の知っている事を全て教えてもらうぜ! もし負けたら、大人しく元の時間に帰ってやるよ」
マリサの提案に、咲夜の表情が一瞬変わったのを私は見逃さない。
「……ふふ、全ては無理だけれど、貴女達の質問に答えるくらいなら構わないわ」
「約束さえきちんと守ってくれるのなら、それでもいいぜ」
「あら、私に勝てると思っているの? 幻想郷の“私”と違って、この私はあらゆる時間に干渉できるのよ?」
「勝負はやってみないと分からないさ」
そしてマリサは箒に跨り、「霊夢、後ろに乗ってくれ」と言われたので私も彼女の後ろに跨る。2対1になっちゃうけど、今の私達は離れられないししょうがないか。
「始める前に一つ。私は弾幕ごっこのルールに則って戦うことを、十六夜咲夜の名にかけてここに誓うわ」
「? そんなの当たり前だろ?」
「……」
(もしかして咲夜は……)
「霊夢、私は回避に徹するから、お前は攻撃に専念してくれ」
「珍しいわね」
「どうやら簡単に倒せる相手じゃないみたいだからな」
マリサの視線の先には、空中に無数のナイフを出現させては手品のように消す咲夜の姿があった。なんだか随分とやる気満々ね。
「スペルカードは3枚だ。準備はいいか?」
「いつでもどうぞ」
こうして、私達の命運をかけた弾幕ごっこが始まった。