魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第253話 (2) タイムホールの影響⑫ side 咲夜 時間遡行(前編)

 ――西暦215X年10月1日午前9時(暫定値)―― 

 

 

 

 ――幻想郷、魔法の森跡地――

 

 

 

 side ――十六夜咲夜――

 

 

 

 改変された過去。停滞した現在。消えてしまった未来。

 全てが停止し、時間の概念が曖昧になった世界において、私の主観で幾ばくかの時間が経過した後、静止した世界が動き出したのを直感する。

 後ろに引っ張られるような不可思議な感覚と共に、懐中時計の針は逆方向に回り始めた。

 

「時間の逆行が始まったわね」

 

 1秒、10秒、60秒……時が遡るにつれて、空を覆い尽くしていた時間の境界は、魔法の森跡地全体を覆う程度にまで縮小し、先程吸い込まれた八雲紫達が目の前に吐き出される。

 

「なんま済が気といならやてっ言言一らたっ会に女ういかと沙理魔。ぁは」

「だりかばる祈を事く着り辿に地的目に事無。なだうそ……」

「すでずはる来出てっだ達私とっき、らかすでんるいが者駆先ういとんさ沙理魔。ねすでり通る仰のんさ紫にか確」

「いさなめ決を悟覚るえ越び飛を間時も達女貴、上以たっましてっなうこ」

 

 彼女達の会話はまるで外国語のように掴みどころが無く、それが逆さ言葉だと気付くのに幾分かの時間を要した。

 それも当然なのでしょう。彼女達の時間は未来に進んでいるのに対し、私達は過去に向かっているのですから。

 

「これが時間軸の逆行――興味深いわね」

 

 正常な時の流れにいる人妖は、時の流れを逆流する私達を認識できない。その証拠に、八雲紫達は私の手が届く距離にいるけれど、私達に全く気付いた様子は無い。

 

「咲夜」

「ええ」

 

 意識を集中させて、自らの能力――時間を操る程度の能力を用いて、時間を加速させる。

 普段なら自分だけが未来へ進むだけの力なのだけれど、時間軸が逆転してる今、世界の時間は過去方向に直進する。私達を除いた世界は、まるで映像を巻き戻しているかのように、全ての事象が反転していた。

 

 幻想郷各地に開いた時間の境界は収束し、太陽は空を赤く染めながら東に沈み、西の空を黄金色に染めながら登る。鳥や顔見知りの妖怪――その中には過去の″私”もいた――は、後ろに向かって飛んでいた。

 季節は巡る。

 妖怪の山を彩る茜色の木々は深い緑色に変化し、全てを溶かすような厳しい日差しが照り付ける。陽炎が立ち昇る日々が続いたかと思えば、空が暗い雲に覆われ、長雨が続く季節が訪れる。

 長雨が明ければ、穏やかな陽気と共に人々は田植えに精を出し――と言っても、此方からは苗を抜いているように見えるのだけれど――水田が真っ新になる頃、地上には散った桜の絨毯が出来上がり、空を舞って桜の木に桃色の花を咲かせる。間もなく花は蕾に還り、枝の中に埋もれていくと、緑葉を落とし、地面に溶けかけの雪の姿が見え始めた。

 やがて幻想郷に冷たい風が吹き荒れ、一面の銀世界に様変わりし、氷の妖精は踊るように遊んでいる。それも少しの時を経て徐々に消えていき、紅葉色の絨毯が姿を現す。落ち葉は空を舞って枝に戻り、鮮やかな茜色を見せびらかす。人々は笑顔で稲刈り――稲植え? に励んでいた。

 季節が一周する中、吹雪に襲われる日もあれば、暴風雨が吹き荒れる日もあった。けれど私達は世界の時間から浮いているからなのか、はたまた″永遠”になった影響なのか、10月上旬の涼しい感覚が続いていた。

 感覚としては、身体の表面に透明な膜が張られているような感じで、雨に濡れる事も、雪が積もる事も、風に当たる事も無かった。もしかしたら幽霊ってこんな感覚なのかしら。

 

「さあ、更に加速させるわよ!」

 

 心の中で気合を入れて、時間を限界まで加速させる。季節の移ろいは更に速くなり、冬秋夏春が次々とお目見えする。

 人里では腰の曲がった老爺は壮健な青年に、杖を突いた老婆は妙齢の女性へと若返り、やがて子供になり姿を消していく。

 朽ち果てた廃屋は新築に再生したかと思えば、大工の手によってあっという間に解体されて更地に。長い年月を経て新たに開拓された土地は徐々に雑木林に戻り、人里の規模も少しずつ小さくなっていく。恐らく人口も減っているのでしょうね。

 戯れで投げた銀のナイフは、私の手から離れた瞬間空中で停止。段々と形が崩れていき、終いには銀鉱石と木片に分解されて地上に落ちていった。

 輝夜のタブレット端末に表示された時刻も、目測で確認するのが難しいくらいの速さでカウントアップしていく。私の体感時間ではものの数分しか経っていないけれど、客観的な時間では既に50年が経過していた。

 ちなみにこの間、魔法の森跡地には人間が近づくことは無く、妖怪も数える程しか訪れていなかった。まあ何もない土地ですし、仕方のないことね。

 22世紀の訪れを祝う盛大な花火、人妖達の祝福祭、幻想郷誕生600年記念祭……。かつて経験した節目の出来事や、時々近くを飛行する代々の博麗の巫女の顔を懐かしみながら、ひたすら過去に進んでいく。

 胸の内を明けると、能力の連続使用はかなりの負荷がかかっていて、集中力が切れかかっている。つくづく魔理沙の時間移動って規格外なのね。

 

「西暦2022年9月26日を通過。もうすぐ2010年代に突入するわ。そろそろ減速して!」

「ええ!」

 

 時間加速をある程度緩め、地上に近い高さまで高度を下げた後、輝夜のタブレットを見ながらタイミングを計る。目標時刻は西暦2008年4月12日の午後3時24分。チャンスは一度きり。

 2000年代に突入、2009年、2008年……。4月に突入し、この場に見知った顔や懐かしい顔が集まり始めたのを機に、時間加速を解除。目標時刻になった瞬間、時間を停止する。

 

「――られないでしょうね。…………あら?」

 

 過去の私はこの場の全員――パチュリー様、文、美咲、八雲紫、八雲藍、摩多羅隠岐奈、宇佐見菫子――に向かって、魔法の森跡地の現状について熱弁を振るっていたけれど、突如反応が無くなったことで、一人狼狽えていた。

 

「そんな、どうして……?」

「降りるわよ輝夜」

「ええ。後は任せるわね」

 

 手元の懐中時計をじっと見つめている過去の“私”の前に降り立ち、声を掛ける。

 

「初めましてになるかしら。過去の私」

「!?」

 

 顔を上げ、私と目が合った彼女は目を丸くしていた。

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