(ふふ、驚いてる驚いてる)
当時の私は忽然と現れたもう1人の私に言葉を失ったのよね。我が目を疑うとはまさにこの事。
もちろん次に彼女が取る行動も知っている。ナイフを抜いて(「何者!?」)と警戒するのよね。記憶にある通りで安心したわ。
大丈夫なの? と言いたそうな輝夜の視線に頷き、私はいつもの調子で過去の私に向き直る。
「私は未来の貴女よ。そんなに警戒しないでちょうだい」
「未来の……私ですって?」
改めて私をじろじろと見た過去の私は、警戒態勢を崩さないまま「……いまいち信じられないわ。証拠はあるの?」と訊ねる。
当時の私の心境としては、今の私の言葉を半ば信じていたけれど、だからと言って鵜呑みには出来ないと思っていたわね。
「そうねぇ。例えば――」
私は
お嬢様方の食事の好みや、妖精メイド達のシフト、私の秘蔵品の収納場所、そして極めつけは。
「貴女のスリーサイズは――」
とっておきの秘密を耳打ちすると、「なっ――! ど、どうしてそれを!?」と動揺しながら私を睨みつけた。まあ気持ちは分かるわ。当時の私もかなり驚かされたし。
「これが私が未来の貴女である証拠よ」
「……そんなことまで知っているなんて。確かに未来の私で間違いないようね」
「信じてもらえたようね」
過去の私は表面上は冷静にナイフを仕舞う。ちなみにどんな数値なのかは勿論内緒。輝夜は興味津々みたいだけど、教えないわよ?
「それで、私に何の用かしら? まさか自分自身を驚かす為に時間旅行してきた訳ではないのでしょう?」
「結論から言うわ。私達は消息不明になった霊夢、マリサ、アリスの捜索と、時間の境界の影響で改変された歴史をタイムトラベラーの魔理沙に是正してもらう為に、西暦215X年10月1日から来たの。貴女にも協力してもらえないかしら?」
「……未来で何が起きたの?」
「今の世界は袋小路に入っているの。西暦215X年10月1日午前7時40分の魔法の森跡地に時間の境界が開いた時が終わりの始まり。そして時間の境界の先が見通せるようになった時、時間軸の逆行が始まるわ。その瞬間から私達の未来は閉ざされるのよ」
「時間軸の逆行?」
「時間の流れが未来ではなく過去に向かって流れるようになるのよ。それは即ち、ありとあらゆる“状態”が戻ってしまうの」
「!!」
「私は輝夜の永遠になる能力を利用して、自分の“状態”を永遠にすることで、時間軸の逆行に対抗したの。その後この時間まで時を加速させたわ」
過去の私が輝夜に視線を送ると、彼女は静かに頷いた。
「今私が時間を止めているのも、貴女達とは時間の流れが違うからよ。過去に向かって時間が流れる私達は、通常の時間軸を生きる貴女達に干渉できないの。唯一の例外が時間を止めている瞬間だけ」
「――なるほどね。タイムトラベラーの魔理沙は私の時間停止の影響を受けないから、接触には問題ないのね」
厳密には私がいた時間の魔理沙は、私の時間停止の影響を受けるので、同じ事をしても効果は無い。というのも、彼女が意識を変化するきっかけになった最大の要因は私にある。
私は普段の仕事をこなすために時間を止めているのだけれど、魔理沙もそれに引っ張られる為、生活リズムが狂ってしまう。とはいえ紅魔館の仕事量は膨大で、時間を止めないと片付かないので、時間停止を控える訳にはいかなかった。
この問題を解決するために、魔理沙は時間の神様の方の私にアドバイスをもらい、時間停止中でも止まっていられるように意識を変化したようで、実際に私もこの目で確認したわ。
そして私がこれから会いに行く魔理沙は、意識が変化するきっかけ――即ち、私が霊夢の後押しを受けてお嬢様の眷属になる決断を下す前の歴史の魔理沙なので、時間停止の影響を受けない意識になっている筈。
「これから私は西暦200X年9月2日の紅魔館に現れたタイムトラベラーの魔理沙に事情を話して協力を取り付ける予定よ。そこで貴女にもやってもらいたい事があるの」
「まさか私も過去に遡れって言うの?」
「違うわ。貴女は私の話を信じて、私と同じ選択をしてもらいたいの」
「……もう少し詳しく説明してもらえるかしら」
私は一呼吸置いてから話を続ける。
「私が貴女だった頃、未来の私から同じ説明を受けたわ。私は悩んだけれど、未来の私と同じ行動を取る事にしたの。私が私であるためにね」
「……!」
「貴女がより良い選択を取ることを祈ってるわ。輝夜、そろそろ行きましょう」
「もういいの?」
「ええ。伝えるべき事は伝えたわ」
詳細な未来を語る事は、過去の私の行動を雁字搦めに縛り付ける事に繋がりかねないわ。未来への希望を抱き、自分の行動に意味を持たせることが、私にとっても最善の選択になるでしょう。
これまで自分の決断が正しいか散々悩んだけれど、過去の私と話しているうちに吹っ切れたわ。きっと私が出会った未来の私も同じだったのでしょうね。
私達がふわりと浮かび上がると、過去の私は焦りながら呼び止める。
「ま、待って! まだ分からない事が多すぎるわ! そもそも歴史改変って具体的に何が起きたのよ?」
「西暦215X年10月1日午前8時45分に改変前の歴史を思い出すわ。その時に貴女の疑問が解けるでしょうね。――ああ、そうそう。この件に関しては八雲紫と協力関係を結んだ方がいいわよ」
「……何故彼女なの?」
「すぐに分かるわ」
困惑を隠せない様子で私達を見上げる過去の私に一方的に別れを告げて、私は止まっていた時間を動かした。