魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第254話 (2) タイムホールの影響⑫ side 咲夜 咲夜の結末(前編)

 魔理沙が居ない――。想定外の事態に思考が止まる私に、しばらく考え込んでいた輝夜が口を開く。

 

「……ねえ、咲夜。魔理沙が時間遡航した時刻は、本当に今日この日で間違いないのよね?」

「ええ。間違いないわ」

「それなら、歴史改変の影響なのかもしれないわ」

「どういう意味?」輝夜の顔を見つめながら訊ねた。

 

「言葉通りよ。私や咲夜が預かり知らない時間で、魔理沙かそれ以外の第三者が起こした歴史改変の影響か、あるいは時間の境界のような現象によって、〝魔理沙がこの時間の貴女を訪れた”という結果が無くなって、〝西暦200X年9月2日の十六夜咲夜は時間を止めて一人で紅魔館の仕事を済ませた”となってしまっているのよ」

「待って。その理屈なら、私の記憶についてはどう説明するの? 少なくとも私にはこの歴史の記憶は無いわよ?」

 

 どれだけ回顧しても、今日の午前中は魔理沙と一緒に仕事をした記憶しかない。

 

「そこが謎なのよね……。歴史改変が起きた場合、私のような例外を除いて新たな歴史に沿って再構築されるから、本来なら記憶が無いのはおかしいのよ」

 

 難しい顔の輝夜はタブレット端末を鞄に仕舞いつつ「西暦215X年10月1日の午前8時45分に歴史αの記憶が蘇った時に、改変後の記憶が上書きされてしまったか、もしくはただ単純に、貴女が今日起きた出来事を忘れてしまっただけって線もあるわね」

「私が、忘れている……?」

「基本的に、記憶とは強烈な体験や印象を伴わない限り徐々に風化していくものよ。タイムトラベラーの魔理沙が現れた事実が無くなってしまった以上、貴女にとっては普段通りの日常に過ぎないわ。それとも、貴女は150年前の日々の出来事を全部覚えているのかしら?」

「そう言われると自信が無いわね」

「いずれにしても、今の私達に証明する手立ては無いのよね」

「……こうなってしまうと、私達の記憶は当てにならなくなるわね」

 

 もしかしたら、私達が再会しようと考えている〝タイムトラベラーの魔理沙”さえも、本当は存在しないのではないか――。そんな危険な考えが浮かびかけた所で、すぐに首を振る。

 人だった頃ならいざ知らず、お嬢様の眷属になった今、自分を信じられなくなってしまえば自己同一性の崩壊に繋がって、最悪の場合は死に至ってしまうわ。少し冷静になりましょう。

 私が今の私になった理由は、同じく人間を辞める決意をした霊夢の後押しがあったからで、彼女の考えを変えた大きなきっかけを辿れば、タイムトラベラーの魔理沙に行きつく。その〝大きなきっかけ”となる日付が今日だからこそ、魔理沙が現れないのはおかしいのよね。

 

「もしかしたら、タイムトラベラーの魔理沙と普通の魔法使いのマリサが二人いるように、今ここにいる貴女と、この時間を生きている〝十六夜咲夜”が異なる歴史を辿った別人という可能性もあるけれど……」

「それこそ有り得ないわ。私はずっと紅魔館でお嬢様に仕え続けてきたけれど、もう一人の〝私”なんて見た事も聞いた事も無いわよ」

「でしょうね」

「とにかく今は現状を把握する必要があるわ。タイムトラベラーの魔理沙が今日に到着した時、霊夢と過ごす為に、自宅にいたもう1人のマリサを眠らせてから博麗神社に向かったそうよ。念のためにこの二箇所を確認しに行きましょう」

「……それが妥当ね」

 

 私はまだ思いを巡らせた様子の輝夜を連れて魔理沙の自宅に向かい、窓から中を覗き込むと、散らかった部屋の端で机に向かって魔導書を読む後ろ姿を発見する。確認の為に時間を止めてから室内に侵入し、彼女の肩を軽く叩いてみるも何も反応は無かった。うん、このマリサはこの時代に生きるマリサね。

 再度時間を動かし、私達は博麗神社へと向かう。相変わらず閑古鳥が鳴く境内に降り立ち、少し奥に進んでいくと、開け放たれた畳部屋の中心で寝転がりながら団扇で自分を扇ぐ霊夢を見かける。このだらけ方は、間違いなく一人で過ごしている時の霊夢ね。

 

「やっぱり魔理沙は来ていないのね」

 

 実際にこの目で見た事で、私が魔理沙から訊いた話と違う過去になっている事を改めて実感させられる。

 う~ん、今の歴史はどうなっているのかしら? タイムパラドックスが起きているような気がするのだけれど……。私の時代に居た霊夢とマリサに意見を聞きたい所だけれど、この歴史だと行方不明になっているのよね。

 

「ねえ咲夜、他に魔理沙が来る時間に心当たりはある?」ずっと考え込んでいた輝夜の問いかけに、私は答えた。

「直近では昨日――西暦200X年9月1日の午後1時過ぎね。私はこの時間にも魔理沙と会っているわ」

 

 この日、魔理沙は未来のお嬢様のメッセンジャーとして私の前に現れた。手紙には、私が早逝したことに対する謝罪と後悔と、お嬢様の眷属になる事を強く望む旨で、当時の私は大きな衝撃を受けた。

 この時の私は、人間をやめる覚悟が足りていなかった為お嬢様の要求を断り、私が死亡する時間――201X年6月6日の白玉楼にて手紙の返事を約束し、魔理沙と別れた。

 しかし後に私がお嬢様の眷属になる選択をしたことで、201X年6月6日に死ぬことも無くなり、結果としてその時刻に魔理沙が訪れた歴史は無くなった。今の私には、白玉楼で魔理沙に待ちぼうけを食わされた記憶しかないけれど、彼女曰く、改変前の歴史では幽霊になった私から手紙の返事を聞いてお嬢様に伝えたとのこと。

 私が人間のまま逝く歴史は無くなったけれど、200X年9月1日の午後1時過ぎに、魔理沙が未来のお嬢様の手紙を持ってくる出来事はまだ残っている筈。そうでなければ、私がお嬢様の眷属になる因果が無くなってしまうからだ。

 この事を伝えると、真剣に耳を傾けていた輝夜は微笑みを見せた。

 

「そう……! ふふ、貴女ってとても愛されているのね」

「ええ。敬愛するお嬢様に仕えることが出来て、私は果報者ですわ」

 

 今思い返せば、この時の私は愚かだったわね。自分のちっぽけなプライドで思い悩んで、自らの目を曇らせてしまっていた。迷いを晴らしてくれた霊夢と魔理沙には感謝してもしきれないわ。

 

「貴女の話を聞いて、思いついたことがあるの。聞いて貰えるかしら?」

「ええ」

「現在の歴史が貴女の知る歴史に沿っているか、この時間の貴女に直接訊ねるのはどう?」

「危険すぎるわ! ただでさえイレギュラーな事態が発生しているのに、更に混迷を深めるつもり!?」

 

 思わず声を強めた私に対し、輝夜は冷静に答える。

 

「そうかしら? 貴女の言葉に嘘偽りが無ければ、貴女が経験した過去と、今私達がいる現在に認識のずれが生じているわ。今までの謎に白黒つけるには最適だと思うのだけれど。そもそも私達は、西暦2008年4月12日の咲夜に未来の情報を伝えているわ。今更過去改変を恐れる必要があるのかしら?」

「その時と違って、今の私には西暦200X年9月2日に未来の私と接触した記憶は無いわ。私達の目的はあくまでも魔理沙よ。わざわざ余計なタイムパラドックスを起こすよりも、昨日に行けばすぐに分かることじゃない」

「昨日確実に魔理沙が訪れる保証はあるの? 私達は未来に進めないのだし、比較するなら今しかないわよ?」




次の話は来週投稿します。
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