魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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この話は『第220話 (2) 魔理沙の記憶③ 決着』の序盤で魔理沙がタイムホールを開いた後から始まり、『第221話 (2) 魔理沙の記憶③ 余波』の最後で魔理沙が紫と会う所までを描いています。

視点が時の女神咲夜になります。

時系列は『第222話 (2) タイムホールの影響①』~『第256話 (2) タイムホールの影響⑭ 試練のタイムトラベル(後編)(2/2)』です

文字数は21512文字です


第257話 (2) タイムホールの影響⑮ 女神咲夜の思惑

 

 

――西暦????年??月??日――

 

 

――時の回廊――

 

 

 

 あらゆる時間を超越した高次元世界、時の回廊。

 その創造主たる女神咲夜は、時の回廊の時間軸上に設けたゴシック調のウイングバックソファに深く腰かけながら、空中に浮かぶ透過スクリーン越しに時間旅行者霧雨魔理沙の主観的観測を行っていた。

 主観的観測とは、時間旅行者霧雨魔理沙の主観に合わせて、時の回廊から同時に観測する方法だ。

 この観測方法の利点は、時の回廊が記録する世界全体の歴史変動と、その中心地たるタイムトラベラーの観測を同時に行えることであり、改変される歴史を定義できることだ。観測対象の実時間に合わせる為、時間と手間が掛かるのが難点だが、確実性が高い。彼女が歴史の岐路に立った時や、歴史改変を行う可能性が高い時は常にこの手法で歴史を観測してきた。

 女神咲夜は彼女がアプト星に跳んだ時から主観的観測を行い続けており、彼女の主観時刻が時刻A*1に到達した瞬間、変化が訪れた。

 時空A*2と時空B*3にタイムホールが発生し、時空の歪みが生じ始めたのだ。

 タイムホールは次元の壁を無くし、時の秩序を破壊する事象である。直ちに対処しなければ、閉じられた時間――メビウスの輪になってしまう緊急事態なのだが、女神咲夜は時空Bのタイムホールを一瞥する事無く、透過スクリーンを注視する。

 現在の時空A周辺空域はリュンガルトの艦隊が封鎖しており、屋上では、光学兵器で武装したリュンガルトの集団と指揮官のレオンが、時間旅行者霧雨魔理沙、博麗霊夢、霧雨マリサ、河城にとり、藤原妹紅、アンナ、フィーネを取り囲んでいたが、タイムホールの出現で潮目が変わる。

 

『な、なによあれ……!』

『なにかの穴のようにも見えますし、裂け目のようにも見えますね?』

『ふむ、ワープの際に生じる空間の歪みや、ブラックホールとも違うようですが……』

『う~ん、どっかで見た事があるような気がするんだよね。どこだっけなぁ』

 

 この場の全員がタイムホールに気を取られている中、いち早く立ち直った時間旅行者霧雨魔理沙が鬼気迫る表情で叫ぶ。

 

『皆、私の身体に掴まってくれ!』

『え?』

『いいから早く! 別の時空に飛ばされるぞ!』

『!』

 

 気圧された博麗霊夢達が一斉に彼女の身体に触れた直後、時空の相転移現象が開始。

 時間旅行者霧雨魔理沙達を取り囲んでいたリュンガルトの戦闘員や、包囲していた艦隊がタイムホールに引き寄せられ、消えていく。

 

『おのれ霧雨魔理沙っ! まさか巨大なタイムホールによる時空連続体の破壊とは、とんでもないことをしてくれたな! この借りは必ず返す! 覚えていろ!』

 

 レオンが憎々しげに捨て台詞を吐いた後、最後まで耐えていたリュンガルトの旗艦エクシズがタイムホールに呑み込まれ、時空から消失した。

 それを確認した女神咲夜は、隣に新たな透過スクリーンを出現させると、時の回廊内部に侵入したリュンガルト艦隊のモニタリングを開始する。

 彼らの艦隊は当初は順調に航行していたが、やがて時間震に襲われ次々と墜落。120隻の艦隊は次々と時の回廊から脱落し、三次元世界へ弾き出されていった。

 女神咲夜は彼らが墜ちていった全ての時空点の記録を取っていく。時空間はバラバラで、規則性の無いものだったが、歴史への影響が無視できる程度であることを確認した所で、彼女は天を仰ぐ。直後、エクシズが高速で通過していき、時空Bに繋がるタイムホールに消えていく。

 時空を超えて飛んできた幻想郷に似つかわしくない訪問者は、八雲紫が適切に処理するだろう。

 

「魔理沙……」

 

 さる懸念を抱いた女神咲夜は、全ての透過スクリーンを閉じた後、砂漠地帯に建つ始まりの時計塔の屋上に瞬間移動する。

 周囲は何処までも続く青々とした空間が広がり、眼下には色鮮やかな四季景色を突っ切るように時の回廊が果てしなく続く。

 ここは時の回廊全体を視覚的に見渡せる場所であり、人間だった頃の意識が染みついてる彼女にとって、世界の内と外を観測するには最適だった。

 

「さて……」

 

 女神咲夜は時の回廊が記録した未来の観測を開始する。対象は『タイムホールがメビウスの輪に変化する確率』と、『彼女自身の未来』。

 結果は一秒もかからずに判明する。

 

『適切な措置をとらない限り、タイムホールがメビウスの輪に変化する。確率100%』

『時間旅行者霧雨魔理沙の未来⇒タイムホールの修復に失敗してこの宇宙から消失する。確率100%』

 

「はぁ……よりにもよってこの未来に行きついてしまったのね」

 

 目線の高さに浮かび上がった結果を見て大きな溜息を吐いた。

 最初の歴史で霧雨魔理沙に時間移動の許可を与えた時から視えていた可能性の未来。非常に確率の低い未来が、遂に現実のものになってしまったことに、強い失望を抱いていた。

 

「残念だわ、魔理沙。貴女とこんな形でお別れすることになるなんてね」

 

 女神咲夜にとって時間旅行者霧雨魔理沙は、幻想郷の分身たる十六夜咲夜と深い接点を持ち、尚且つ人間だった頃の自分とも良い交友関係を築いた友人だった。

 そんな縁もあり、多少の事柄には目をつむるつもりだったが、今回の時間軸の破壊は、女神咲夜にとっては最大の禁忌とされる罪であり、到底許容できるものでは無かった。個人的な心情で、自身に課したルール――時の秩序を破壊した存在は例外なく抹消する――を捻じ曲げる訳にはいかない。

 女神咲夜は粛々と歴史の初期化に向けて準備を開始する。博麗霊夢、十六夜咲夜、幻想郷、霧雨マリサ、八雲紫、霧雨魔理沙等、時空A主観の時間旅行者霧雨魔理沙が改変した全ての時間軸点を列挙し、例外なく彼女の干渉を修正する。

 やがて全ての準備が終わり、歴史の初期化に向けて最終確認を行っていく。修正箇所を再確認し、最後に時間旅行者霧雨魔理沙の未来を精査した所で、ふと違和感を覚えた。

 

「……おかしいわね。どうして曖昧なのかしら」

 

 彼女が行う〝観測”とは絶対的なものであり、結果だけではなく過程まで詳らかにする。望めば、対象となる人や物が、いつ、どこで、なぜ、どのように行動したのか、1秒刻みで判明するのだ。

 それは時間旅行者霧雨魔理沙も例外ではなく、これまで彼女が行った歴史改変の〝過程”と〝結果”は、確率の低い未来として予め予測されていた。自由自在に時間移動できるとはいえ、彼女自身は時の流れに組み込まれた存在であり、女神咲夜が創造した時の回廊を利用しているからだ。

 ところが今回の場合、時間旅行者霧雨魔理沙の〝結果”のみが確定していて、〝過程”が観測できない。これは彼女が〝観測”を開始してから初めての出来事であり、〝過去”や〝未来”から〝現在の未来”を視た時には無かった結果だ。

 女神咲夜は透過スクリーンを開き、先程途中で止めた時空Aの続きの映像を再生したが、すぐに眉を顰める。今まで鮮明に映っていた彼女の未来は、靄がかかったようにぼやけて、時の回廊から観測できなかったからだ。

 

「……これは調査の必要がありそうね」

 

 前例の無い現象に興味を抱いた女神咲夜は、歴史の初期化を一旦保留し、原因の究明に乗り出した。

 彼女が指を弾くと、すぐ背後に先程と同じゴシック調のウイングバックソファが出現し、深く腰かける。右隣には丸テーブルと白磁のティーセットが用意されており、ティーカップからは湯気が立ち昇っている。

 まず彼女は、時間旅行者霧雨魔理沙の歴史が不確定になっている原因を時間軸上の記録から検索。結果はすぐに出た。

 

『時間旅行者霧雨魔理沙の歴史が観測できない理由は、確率不明で観測困難な不確定要素に起因する。詳細は可能性未来の観測を行ってください』

 

 指示に従って、時間旅行者霧雨魔理沙の可能性未来の観測を行う。

 可能性未来の観測とは、ある時空点を基準として、対象の人物が一定の時間内に取りうる全ての行動を定義することで、無数に分岐する仮定の未来を観測する行為である。あくまで〝もしも”の可能性である為、実際に起こるとは限らないが、未来予測の再現性は高い。

 今回はタイムホールが開いてから、メビウスの輪が成立するまでの30分――西暦換算――とした。

 虚空に視線を送り、時の回廊内に刻まれた彼女しか読み取ることが出来ない情報を引き出し、目前の空間に文字として表示する。

 

『前述の確率不明で観測困難な不確定要素を除いた歴史は以下の通り』

『タイムホールが開いた後、時間旅行者霧雨魔理沙がタイムホールの修復を目指す行動を取る確率は80%』

『内訳としては、霧雨マリサ及び、博麗霊夢、藤原妹紅、河城にとり、アンナ、フィーネの助力を得ながら強引にタイムホールを塞ぐ手法が50%。UTC紀元前38億9999万9999年8月19日午前0時以前への時間遡航によって、原因の発生そのものを取り除く手法が40%。アプト星の空間転移技術を応用した空間修復を行う手法が8%。リュンガルトのマザーコンピューターをハッキングし、タイムホール修復を検索する手法が1%。惑星フォレトに移動し、旧宇宙暦2200年に滅亡したフォレト文明が使用していたロストテクノロジー魔法(マホウ)を発掘する手法が0.9%。運を天に任せる手法が0.1%』

『いずれの手段においても、タイムホールの修復に失敗する』

 

 女神咲夜はソーサーごとティーカップを持ち、ダージリンティーを味わいながら文章を目で追っていく。

 

『残り20%の確率で、何も行動できずに制限時間を迎えて失敗に終わる』

『内訳は、非常事態宣言発令に起因する宇宙ネットワークの緊急避難プログラムによる強制転移が発生した際に、瞬間的なアクセス増加による大規模なネットワーク障害の影響で、刻限までに帰還不能になる確率が90%。フィーネに宇宙船空法違反容疑で現行犯逮捕され、有無を言わさずサイバーポリスに連行される確率が10%』

『現在の条件において、時間旅行者霧雨魔理沙が成功する確率は0%です』

『タイムホールが拡大する過程で、トルセンド塔が崩落する確率が100%。それに伴い、制御を失った人工太陽ラケノが制御を失って、アプト星に落下する確率は100%。時間旅行者霧雨魔理沙が恒星の衝突後に生存する確率は0%』

『メビウスの輪成立後、時間旅行者霧雨魔理沙の存在は確認されません』

 

 一区切りついた所で女神咲夜は、ティーカップとソーサーを丸テーブルに置き、ぽつりと呟いた。

 

「やはり不自然ね」

 

 彼女が望んだ詳細では無い事もそうだが、特に気になったのはタイムホールが拡大する過程の文章だった。

 まるで人工太陽の衝突によって全滅したかのような文章だが、それならば『存在は確認されません』という迂遠な表現にはならず、明確に『死亡』と表記される。

 加えて行動できなかった可能性未来においては、彼女の身柄はアプト星から離れている。その時代の法律と照らし合わせても、彼女が死亡する要素はない。

 何故彼女はこの宇宙から消えてしまったのか? その疑問の答えを求めて、文章の続きに目を通していく。

 

『確率不明の不確定要素⇒西暦2008年4月5日の博麗霊夢、霧雨マリサ。西暦215X年10月1日の十六夜咲夜、蓬莱山輝夜、八雲紫』

『彼女達を含めた場合、時間旅行者霧雨魔理沙の可能性未来は以下の通り』

『タイムホールが開いた後、時間旅行者霧雨魔理沙が??????%』

『内訳としては、タイムホール????、?????、??????により???となる。この時??????が?????、??????。あるいは前述の歴史予測と同じ過程を繰り返す可能性が??%』

『この条件において、時間旅行者霧雨魔理沙が????する確率は??%です』

『タイムホールが???過程で、?????、?????、???、???』

『??????、時間旅行者霧雨魔理沙の存在は確認されません。      、      、      』

『          だ。ぜ        』

『                       』

 

「な、何よこれ!? 肝心な部分が殆ど分からないじゃない!」

 

 疑問符と空白だらけの文章に困惑しながらも、彼女は黙読を止めない。

 

『上述の内容の判明には、不確定要素の強い歴史に分岐する必要があります。条件は以下の通りです』

『前提①⇒時空A+5分以内に西暦2008年4月5日の博麗霊夢、霧雨マリサ。西暦215X年10月1日の十六夜咲夜、蓬莱山輝夜、八雲紫が存在し、時間旅行者霧雨魔理沙に協力する意思が有る事』

『前提②⇒時間旅行者霧雨魔理沙が、タイムホール発生からメビウスの輪成立までの未来に無知である事』

『観測条件⇒上記の前提を満たした上で、不確定要素が成立した歴史の未来と主観同期を行っていない現在この情報を読んでいる十六夜咲夜が、当該時空の時間旅行者霧雨魔理沙に対し、直接的な主観観測を行う事。これは過去や未来においても同義です』

『備考⇒観測機会は過去・現在・未来の全てにおいて一度限りであり、同条件で歴史の再構築を行っても再現されることはありません。また、これらの前提条件を全て満たしても、この歴史に分岐する保証はありません。時間旅行者霧雨魔理沙の主体的行動如何によって、全てが決定されます』

 

「…………」

 

 彼女は少し冷めた紅茶を口に含み、難しい顔で文章を睨みつける。

 前提に指定された人物については検討がついていた。

 女神咲夜の見立てでは、時間旅行者霧雨魔理沙にとって博麗霊夢と霧雨マリサはかけがえのない人物で、十六夜咲夜、蓬莱山輝夜、八雲紫は唯一無二の能力を持つ妖怪の友人だ。彼女達は時間旅行者霧雨魔理沙によって多かれ少なかれ歴史改変を受けている共通項があり、理解者でもある。彼女達の存在は、時間旅行者霧雨魔理沙に大きな影響を与える事だろう。

 問題なのはそこではなく観測条件だった。

 時の神たる十六夜咲夜は、全ての時間において一つの主観を持っており、過去や未来が存在しない。タイムトラベラーが歴史改変を起こしても、改変前後の歴史の自分自身と意識が同期している為、彼女は無限の未来を見通すことができるのだ。

 しかし今回記された観測条件とは、過去・未来との繋がりを切り、現在――〝時間旅行者霧雨魔理沙がタイムホールを発生させた瞬間を観測し、彼女の処遇を決断する前の十六夜咲夜”――の主観に留まる事。それはつまり、時の神としての権能を一時的に封じて時の流れに帰属して、他の生命のように一つの〝個”として活動する事を求められている。

 次に直接的な主観観測とは、時の回廊からの観測ではなく、当該時空に降り立ち、自らの五感や道具等を駆使して結果を観測する方法である。

 時の回廊からの主観的観測とは違い、歴史の予測が非常に難しくなって、観測範囲も大きく狭まる上、女神咲夜の存在が世界に与える影響も大きく、基本的には利点が無い。

 今回の条件は、女神咲夜が歴史の分岐に至る要素をお膳立てをした上で、時間旅行者霧雨魔理沙と完全に主観を一致させて、観測者のいない空白の未来を創り出すことが求められていた。

 言い変えれば、時間旅行者霧雨魔理沙の判断に全てを委ねることになり、歴史の主導権を一時的に彼女に譲る事になる。こんな奇妙な観測条件は今まで一度も無かった。

 通常ならば、彼女がここまでお膳立てする義理は無いのだが、悩ませるのは備考欄の文章。『観測機会は過去・現在・未来の全てにおいて一度限りであり、同条件で歴史の再構築を行っても再現されることはありません』

 女神咲夜はこれまでに行われた全ての宇宙改変を記録しており、望めば改変前の歴史を再現する事も可能だ。

 例えば時間旅行者霧雨魔理沙の場合、彼女が初めて行った歴史改変を指定すれば、『人間の博麗霊夢が西暦2056年XX月XX日に天寿を全うする歴史』になり、十五回目の歴史改変を指定すれば、『地球が銀河帝国の宇宙人によって破壊された歴史』になる。

 定めた法則に則って条件と因果を満たせば、歴史の構築に例外は無い。

 

「……まさかね」

 

〝過程”が観測できないことに気付いた時、女神咲夜の脳裏に浮かんだ一つの仮説。

 それは決して有り得ないことであり、過去や未来においても一度も〝観測”されていない。故に端から除外していたが、可能性未来の予測に記された文章の不自然な空白と、前提②が自らの仮説をほんの僅かに補強している。仮にその可能性があるのならば、〝現在”の不自然な状況にも説明がつく為、決して無視できるものではなかった。

 完全に空になったティーカップを静かに置いた女神咲夜は、判断材料を増やすために、前提条件に指定された少女達の歴史を確認する。

 

『西暦2008年4月5日の博麗霊夢の歴史⇒博麗神社より時の回廊に侵入した後、時の界流に流されて西暦2021年2月21日午後1時30分に漂着。その後再度時の回廊に侵入するが、西暦換算にて20分後に存在の時間消失が発生して消滅する』

『西暦2008年4月5日の霧雨マリサの歴史⇒同上』

 

「なるほど……。メビウスの輪だからこそ成立する歴史ね」

 

 通常の時間軸ならば、西暦2008年4月5日の博麗霊夢と霧雨マリサが消滅する歴史――即ち、時空Aにタイムホールが開いた時点で、地続きの未来たる時空Aの彼女達も消滅する。

 しかしメビウスの輪という固定化された時間軸になった事で、過去と未来が分断された為、『西暦2008年4月5日の博麗霊夢と霧雨マリサの死亡』と『西暦215X年10月1日の博麗霊夢と霧雨マリサの生存』が同時に成り立つ奇妙な状態になっている。

 

『西暦215X年10月1日の十六夜咲夜の歴史⇒(前略)魔法の森上空のタイムホールにて時間遡航を行った後(中略)、最終的に自らの命を絶つ』

『同日の蓬莱山輝夜の歴史⇒(前略)魔法の森上空で十六夜咲夜の時間遡航に付き合い(中略)、最終的には精神的な死を迎える』

『同日の八雲紫の歴史⇒魔法の森上空から博麗杏子、射命丸文、摩多羅隠岐奈と共に時の回廊に侵入するものの、西暦換算にして45分後に存在の時間消失が発生して消滅する』

 

「……」

 

 幻想郷の自分の結末に思う所があったが、それを口に出すことは無く、真剣な眼差しで文章を追っていた。

 最後に、女神咲夜は時空Aの時間旅行者霧雨魔理沙と共に行動した6人の少女の結末を観測する。

 

『博麗霊夢の未来⇒タイムホール発生後、彼女は100%の確率で時間旅行者霧雨魔理沙の支援を行う』

『メビウスの輪成立後――』

 

 前段落の簡潔な文章に対し、彼女の生涯がつらつらと並ぶ。

 要約すると、霧雨マリサ、河城にとり、藤原妹紅と共に、時間旅行者霧雨魔理沙との再会と元の時代への帰還を目指して幾数もの銀河を渡り歩く。しかし環境の変化に伴い仙人としての生に限界を迎え、道半ばで死亡したという内容だった。

 

「霊夢……」

 

 彼女の心情を慮り女神咲夜は悲観的になったが、感情を押し堪えて別の人物の未来の観測を続ける。

 結果霧雨マリサ、河城にとりの歴史は死因も含めて博麗霊夢と共通点が多いことが判明した。

 

『霧雨マリサの未来⇒タイムホール発生後~メビウスの輪成立までの行動は博麗霊夢と同様』

『メビウスの輪成立後――』

 

 要約すると、博麗霊夢、河城にとり、藤原妹紅と共に、時間旅行者霧雨魔理沙との再会と元の時代への帰還を目指して幾数もの銀河を渡り歩くが、環境の変化に耐えられず、道半ばで魔法使いとしての死を迎えたという内容だった。

 

『河城にとり⇒タイムホール発生後~メビウスの輪成立までの行動は博麗霊夢と同様』

『メビウスの輪成立後――』

 

 要約すると、博麗霊夢、霧雨マリサ、藤原妹紅と共に、時間旅行者霧雨魔理沙との再会と元の時代への帰還を目指して幾数もの銀河を渡り歩くが、道半ばで種族としての寿命を迎えたという内容だった。

 

「…………」

 

 女神咲夜は黙読を続ける。

 

『藤原妹紅の未来⇒タイムホール発生後~メビウスの輪成立までの行動は博麗霊夢と同様』

『メビウスの輪成立後――』

 

 要約すると、博麗霊夢、霧雨マリサ、河城にとりと共に、時間旅行者霧雨魔理沙との再会と元の時代への帰還を目指して幾数もの銀河を渡り歩く。彼女達が死亡した後も、時間旅行者霧雨魔理沙の捜索を続けているが、メビウスの輪による繰り返しが起きる瞬間まで発見に至らず、地球への帰還も叶わない。という内容だった。

 

『アンナの未来⇒タイムホール発生後~メビウスの輪成立までの行動は博麗霊夢と同様』 

『メビウスの輪成立後――』

 

 要約すると、惑星探査員としての仕事の傍ら、ツテを頼って時間旅行者霧雨魔理沙を捜索するものの、発見に至らず、心残りを抱えながら天寿を全うする。という内容だった。

 

『フィーネの未来⇒タイムホール発生後~メビウスの輪成立までの行動は前文に記載』

『メビウスの輪成立後――』

 

 要約すると、時間旅行者霧雨魔理沙をアプト星の崩壊を招いた重犯罪人として、複数の銀河にまたがって指名手配し、彼女が陣頭指揮を執って捜査する。しかし最後まで発見に至らず、彼女の死後100年目に未解決事件として記録される。という内容だった。

 

「さて、どうしたものかしらね」

 

 現状の歴史では、十六夜咲夜等が時空Aに辿り着く可能性は無い。前提条件を満たす為には、女神咲夜が自ら干渉する必要がある。

 しかし時間旅行者霧雨魔理沙の救出の為に、彼女が動くことは現時点では有り得ない。理由はどうあれ彼女の犯した罪は非常に重く、どうあがいても存在の抹消は免れないからだ。

 そして過程がどうあれ、『時間旅行者霧雨魔理沙が消失する』結果に収束していることが判明した以上、彼女に未来は存在しない。

 周囲の人物の結末も大きく歪んでしまった以上、時の神としての判断を下すならば、当初の予定通り歴史の初期化を行うべきだろう。実際、以前彼女がこの歴史に分岐した場合の未来を視た時、その歴史の自分自身はそうしていた。

 しかし女神咲夜は中々実行に移さない。消失後の不自然な空白文章が気になるのもあるが、心の奥底で言葉では表せない『何か』が引っかかっていた。

 

「……ふふ、まさかこの私が判断に迷う時が来るなんて。こんな感覚は初めてだわ」

 

 彼女は熟考を重ねた後、愉快な笑みを浮かべた。

 

「面白いじゃない。ここは一つ賭けに乗ってみましょう」

 

 幻想郷の存続、博麗霊夢と霧雨マリサの大団円――時間旅行者霧雨魔理沙は、完全な未来予測や未来視ができないにもかかわらず、確率の低い幸福な未来を何度も導き出してきた実績がある。女神咲夜にとっては驚嘆に値するもので、非常に興味を惹かれる存在だった。

 そんな彼女ならば、絶対的な確率(運命)を越えた『何か』をしてくれるのではないか? 赦すきっかけをもたらすのではないか――と淡い期待を込めて。

 女神咲夜はティーセットを片付けた後、時間旅行者霧雨魔理沙と、自身の規定時間を除いた全体の未来――不確定要素の歴史分岐に至るまでの僅かな未来を視つつ、自身が課したルールに違反しないような行動方針を立てる。

 

「そうね。目的は魔理沙の救出ではなく、不確定要素の強い歴史の観測にしましょう。それならギリギリ大丈夫ね」

 

 何度か精査を行って道筋が確定した所で、ゆっくりと立ち上がり、ウイングバックソファを片付けた後に行動を起こした。

 まず始まりの時計塔から西暦1998年の時間軸上に瞬間移動すると、ドローンの制御を失い漂流していた宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンの時間を止める。動かなくなった二人を、始まりの時計塔内にあるプライベートルームに連れていき、ベッドに寝かせた。

 彼女達は時間旅行者霧雨魔理沙とは直接の関係性はないものの、八雲紫と関係性があり、生存が鍵となる事を視ていた女神咲夜は救出を決めた。どんな経緯があるにせよ、メビウスの輪現象が解消された時、彼女達は元の時代に返されることだろう。

 部屋を出て屋上に上がり、時間軸上の方角を見下ろしながらじっと待っていると、しばらく後に西暦2008年4月5日の博麗霊夢と霧雨マリサがやって来た。

 

「ようやく見つけたわよ!」

「ほ~これが時の神の咲夜か。紅魔館の咲夜と本当にそっくりだな」

 

 それから事前に視ていた通りに話が進み、霧雨マリサは言い放った。

 

「それなら咲夜、弾幕ごっこで決着付けようぜ。私達が勝ったらお前の知っている事を全て教えてもらうぜ! もし負けたら、大人しく元の時間に帰ってやるよ」

 

 待っていたその言葉に女神咲夜は内心ほくそ笑む。

 

「……ふふ、全ては無理だけれど、貴女達の質問に答えるくらいなら構わないわ」

「約束さえきちんと守ってくれるのなら、それでもいいぜ」

「あら、私に勝てると思っているの? 幻想郷の“私”と違って、この私はあらゆる時間に干渉できるのよ?」

「勝負はやってみないと分からないさ。霊夢、後ろに乗ってくれ」

「始める前に一つ。私は弾幕ごっこのルールに則って戦うことを、十六夜咲夜の名にかけてここに誓うわ」

「? そんなの当たり前だろ?」

 

 霧雨マリサは不思議そうな顔をしているが、この答えにも意味はある。時間の神はあらゆる結果を操る事が出来る為、公平性を宣言する必要があるからだ。

 そして弾幕ごっこが行われ、結果は女神咲夜が事前に視た通り、博麗霊夢と霧雨マリサの勝利で終わる。

 

「……私の負けよ」

 

 結果が見えていたとはいえ、勿論手を抜いたわけではない。刻一刻と変化する未来を視ながら最適な行動を取り続けたが、弾幕ごっこに精通している博麗霊夢と霧雨マリサのコンビが上回っただけだ。

 女神咲夜自身の心情としては、二人に全てを教えたかった。しかし時の神としての在り方がそれを許さない。時を司る事は即ち、あらゆる因果を無視する全能性に等しい。故に私情で歴史を操作してしまえば、時間の秩序を乱す事になるからだ。

 故に、“弾幕ごっこに敗北することによってマリサとの約束を守る”という手順を踏む必要があり、その通りに事が進んだことに内心では安堵していた。

 それから女神咲夜は、答えられる範囲で彼女達の質問に答えた後、西暦215X年10月1日の八雲紫達を追って飛び去って行った霊夢とマリサを見送った。

 

「さて、次は……」

 

 女神咲夜はタイムホールを紀元前38億9999万9999年8月19日午前1時24分の地球に繋げると、原初の海に浮かぶ蓬莱山輝夜の元へと降りていく。

 気温54度、酸素濃度0.1%未満、海水温43度、小隕石の雨が降る過酷な環境下においても、彼女の身体は人形のように綺麗な形を保っていた。

 

「ごめんなさい輝夜……。貴女と〝私”は、必ず助けるわ」

 

 悲痛な面持ちで手を合わせると、女神咲夜はタイムホールを開いて時の回廊に戻り、その足で西暦215X年10月1日午前9時の魔法の森上空に繋がるタイムホールへと向かっていった。

 

 

 

 ――西暦215X年10月1日午前9時(暫定値)――

 

 

 

 ――幻想郷、紅魔館屋上――

 

 

 

 暫定時刻西暦215X年10月1日午前9時。

 魔法の森跡地上空では、十六夜咲夜と蓬莱山輝夜が時間遡航に備え、地上では古明地こいしが魔理沙邸跡地に座り込み、空を見上げながら時間旅行者霧雨魔理沙の帰還を待ち望んでいた。

 一方その頃、紅魔館の屋上では、パラソル付きガーデンテーブルの前に座り、紅茶と洋菓子を楽しむスカーレット姉妹と読書に勤しむパチュリー・ノーレッジの姿があった。

 

「う~ん、やっぱり咲夜の作るお菓子が一番美味しいわね。早く帰ってこないかなぁ……」

 

 フランドール・スカーレットは、妖精メイド手製のマフィンを頬張りながら寂し気に呟いた。

 現在、紅魔館のみならず地球全体がタイムホールに覆い尽くされており、境界面には時刻Aのアプト星の様子が鏡のように映し出されている。

 

「…………」

 

 タイムホールからひっきりなしに鳴り続ける時の鐘に、読書中のパチュリー・ノーレッジは顔を顰めていたが、レミリア・スカーレットは紅茶を味わいながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、遂に始まったわね」

「随分とご機嫌なのね」パチュリー・ノーレッジは読書を中断し、仏頂面で「今の状況が分かっているのかしら?」と訊ねる。

 

 彼女達は十六夜咲夜の予言を確認すべく2時間前からこの場に集まり、現在に至るまでパチュリー・ノーレッジが放った鳥型の使い魔を通じて、幻想郷の様子を観測していた。

 そこから導き出された結果は、十六夜咲夜の予言通り、この世界に未来は無いという事実だった。

 

「あら。だって世界が終わる瞬間を体験できるのよ? こんな機会は二度と訪れないわ」

「貴女の思考は理解できないわ」

「149年前の4月12日、咲夜が私に未来をもたらした時からこの運命は視えていたのよ。この私が運命に弄ばれるなんて、皮肉な話だわ」

 

 自嘲する親友の姿に不安を覚えたパチュリー・ノーレッジは、読みかけの本をテーブルの上に置き、身を乗り出すようにして尋ねる。

 

「このままで良いのレミィ?」

 

 レミリア・スカーレットは、紅茶を一口飲んでから答えた。

 

「パチェ、私は咲夜と魔理沙を信じている。その為の布石も打っておいた。今は滅びゆく刹那を楽しもうではないか」

「布石って、八雲紫に伝えたあの言葉かしら?」

 

 時間を少し遡る事、今日の午前8時38分。タイムホールの発生状況の調査で紅魔館を訪れた八雲藍に、レミリア・スカーレットは言付けをしていた。

 

『八雲紫に伝えなさい。『私達は世界の終焉にまた一歩前進した。〝希望″を求める猶予は殆ど残されていない』――と』

 

「そんな大袈裟なものではないさ。あの言葉は彼女の背中をほんの少し押してあげただけ」

「じゃあ何よ?」

「私が咲夜の行動を許可した事、もっと言えば世界の分岐前に見えた運命――と言っても伝わらんか。すぐに分かる時がくるわ」

「そう」

 

 レミリア・スカーレットがティーカップを静かに置き、パチュリー・ノーレッジがティーカップに手を伸ばしかけたその時、世界は一変する。

 屋上の扉を開き、配膳ワゴンを押していた妖精メイドはその場で固まり、庭園を飛ぶ小鳥は羽を大きく広げたまま静止。門にいた紅美鈴は、門柱に寄りかかりながら空を見上げる姿勢のまま微動だにせず、大図書館で図書整理中だった小悪魔は、積み上げた本を抱えて歩く体勢のまま動く気配は無い。

 タイムホールからひっきりなしに鳴り続けていた時の鐘は止み、辺りに静寂が訪れる。

 彼女のティーカップはソーサーに張り付いたまま持ち上げる事ができず、開かれた本は糊付けされたかのようにページがくっついていた。

 

「これは――」

 

 異変に気付いたパチュリー・ノーレッジがポツリと漏らした驚嘆の声は、波紋のように広がり、山彦のように反響。慌てて口を抑える。

 

「あれ?」

 

 フランドール・スカーレットが食べていたマフィンは、スポンジが石のように固まり、歯が立たなくなっていた。

 

「…………」

 

 レミリア・スカーレットは、背もたれに身体を深く預けながら、真剣な表情で空を見上げている。タイムホールの境界面が僅かに揺れた事を見逃さなかった。

 

「遂に時間軸の逆行とやらが始まるのかしら……」

「それにしては様子がおかしくない? お姉様は何か知らないの?」

 

 度重なる異常に困惑が広がる中、彼女達の死角からハイヒールの足音と共に馴染み深い声が響く。

 

「お騒がせして申し訳ございません。私が時間を停止しております」

「貴女は……!」

「えっ!? ど、どうなってるの?」

 

 現れた少女――女神咲夜に視線を向けたパチュリー・ノーレッジとフランドール・スカーレットは驚愕し、レミリア・スカーレットは静かに目を細める。

 

「皆様、お久しぶりでございます」

「咲夜!」

「ふふ、やっぱり来たわね」

 

 花を咲かせたような笑みを浮かべるフランドール・スカーレットに対し、レミリア・スカーレットは落ち着き払っていた。

 パチュリー・ノーレッジは女神咲夜の背中を見て。

 

「貴女、私達の知っている咲夜ではないわね。さしずめ、別の時間の――いえ、時の神の咲夜かしら」

「ご明察の通りです。本日はパチュリー様にお願いがあって参りました」

「お願い?」

「その前に皆さんの記憶を復活させますね」

 

 女神咲夜が指を弾くと、メビウスの輪成立によって失われたタイムホール発生前の歴史の記憶が、時の回廊から三人の少女の脳内に送信される。

 

「!」

 

 レミリア・スカーレットは一瞬目を見開き、女神咲夜を凝視する。

 

「ん? あれっ!? なんでお茶会しているの? 珊瑚はどこ?」フランドール・スカーレットはキョロキョロと辺りを見回した後、「そうだわ。美鈴!」と席を立って、門に向かって飛んでいく。

 パチュリー・ノーレッジはテーブルの上の茶器と手元の本、更に景色を見て「あら、ここは屋上……?」と呟いた後、空を見上げる。

 

「水流が消えてるわね……。いえ、この記憶は?」

 

 困惑する間にフランドール・スカーレットが戻り、「止まっていたけど美鈴無事だったわ! あれ、でもどうして?」と女神咲夜に問い詰める。

 

「皆さん落ち着いてください。順を追って説明しますので」

 

 女神咲夜は、現在の世界で起きている事柄と、目的について全てを明らかにした。

 

「そんな……! 咲夜が死んじゃうなんて……」

 

 フランドール・スカーレットは強い衝撃を受け、

 

「今の歴史はメビウスの輪が成立しているのね」

 

 レミリア・スカーレットは得心が行ったように頷き、

 

「……理屈は理解したわ。まさかそんなことになっているなんて。どうやら、想像以上に深刻な状況みたいね」

 

 パチュリー・ノーレッジは真剣な眼差しで女神咲夜を見据えた。

 

「ご理解いただけたようで幸いです。そこで本題に入りたいのですがよろしいですか?」

「構わないわ」

「これから私は月の都に寄った後、西暦200X年7月20日の博麗神社に遡り、〝永遠”となって時間遡航をしている幻想郷の〝私”と輝夜の歴史改変を行う予定です。それに伴って、パチュリー様の魔法で私を魔理沙の姿にして欲しいのです」

 

 その言葉に、パチュリー・ノーレッジは虚を突かれたような顔で「……意味が分からないわ。貴女の話では、自分同士が出会う事によるタイムパラドックスは起こり得ないのでしょう? わざわざ変身する必要はあるの?」と問い返す。

 

「理由は三つあります。まず一つ目は私が時の神だからです。私の言葉は常に絶対で、真実でなければなりません。その為魔理沙への影響力が非常に強く、彼女を縛り付けて、可能性を狭めてしまう可能性が高いのです」

「だから魔理沙の姿を借りるの? 貴女より未来の自分の言葉を信じるのではなくて?」

「〝魔理沙”だからこそ、都合が良いのです。〝十六夜咲夜”では話せない事も、〝魔理沙”なら伝えられます」

「ふ~ん。二つ目は?」

「今回の分岐条件は非常に難しく、時空Aの魔理沙が直近の未来を知ってしまった時点で、御破算となります。彼女が未来を知る事無く未来を伝える――この矛盾した条件を成立させる為には、彼女の未来を誤認させる必要があります」

「それが魔理沙へ変身することなのね。三つめは?」

「個人的な願望なのですが、私の観測では全ての可能性において魔理沙が消失する歴史が確定しています。なので少しでも魔理沙に未来への希望を持ってもらいたいのですよ」

「……」

「ご協力いただけないでしょうか?」

 

 女神咲夜は深々と頭を下げる。静聴していたレミリア・スカーレットも「パチェ、咲夜に協力してやりなさい。それがこの世界の運命だ」

 

「!?」

 

 思わず頭を上げて驚きの表情でレミリア・スカーレットを見る女神咲夜。彼女は真剣な顔でパチュリー・ノーレッジを見つめていた。

 二人の様子を見比べたパチュリー・ノーレッジは「ふ~ん? レミィがそこまで言うなんて珍しいわね。まぁ、元々断る理由は無かったけれど」と、どこからともなく水晶玉を出現させて、大図書館の中を映し出す。

 

「小悪魔――は、今止まっているのよね」水晶玉を消すと「資料を取りに一度戻るから、少し待っていなさい」と立ち上がる。

 

 すかさず女神咲夜は指を弾く。

 

「パチュリー様の周囲の時間を動かしました。これで時間停止中でも、物質を触れます」

「そう」

 

 彼女は軽く頷いて、紅魔館に戻って行った。

 

「ねえ咲夜。本当に魔理沙はどうにもならないの?」

 

 不安そうに訊ねるフランドール・スカーレットに、女神咲夜は屈んで目線を合わせながら答える。

 

「はい、妹様。残念ながら……」

「あら、それは違うわよ」

 

 レミリア・スカーレットは尊大な態度を崩さず。

 

「魔理沙をあまり見くびってもらっては困るわ。彼女の運命はこんな所では終わらない。私よりも良く知る咲夜なら、理解していると思っていたのだけれど」

 

 女神咲夜は、レミリア・スカーレットが最初の歴史で霧雨魔理沙に助言を行っていた事を知っている。

 

「お嬢様は――」

 

 どこまで運命を知っていらっしゃるのですか? その言葉を遮るようにレミリア・スカーレットは。

 

「そこまでよ。この意味は咲夜自身がよく分かってるでしょう?」

「…………」

 

 女神咲夜は肯定するように黙り込む。

 先程のパチュリー・ノーレッジへの発言と現在の会話は、事前に女神咲夜が筋書きを描いた未来の中には無いものであり、表情にこそ出さないもの、内心では動揺していた。

 そんな彼女の内心を見透かしたように、レミリア・スカーレットは言った。

 

「ふふ、一つだけ予言してあげる。いずれ貴女は『観測者』ではなく、『当事者』として決断を迫られる時が訪れるわ。その時の決断で未来の在り方が大きく変わることでしょう。精々気を付けなさい」

「……ご忠告、感謝致します」

 

 女神咲夜は深々とお辞儀する。かつて人間だった頃とは立場が変化しても、レミリア・スカーレットが敬愛する主である事には変わりない。

 やがてパチュリー・ノーレッジは一冊の魔導書を抱えて戻って来た。

 

「準備が出来たわ。行くわよ?」

「お願いします」

 

 パチュリー・ノーレッジは魔導書片手に詠唱を開始する。女神咲夜の足元に星と月模様の魔法陣が出現し、そこから月光を模した光が彼女を包み込む。やがてパチュリー・ノーレッジが魔導書を閉じて詠唱を止めると、光が収束する。

 金髪金眼に、黒を基調にした魔女服。自称〝普通の魔法使い”霧雨魔理沙の姿がそこにあった。

 

「完了よ」

「アハッ、すごーい! 完全に魔理沙だ!」

 

 席を立ち、はしゃぎながら向かって来たフランドール・スカーレットを受け止めつつ、女神咲夜は手鏡を開く。普段見慣れた自分の顔では無い事を確認すると、手鏡を仕舞った。

 

「ありがとうございます、パチュリー様」

 

 お礼を述べた所で、声も霧雨魔理沙と全く同じになっている事に気付く。

 

「アハハ、魔理沙がパチュリーにへりくだってるなんて、変なのー」

「咲夜。魔理沙はもっと不遜な感じよ。ちょっと練習していった方がいいわ」

 

「そうで――」化け魔理沙は一度咳払いをしてから「そうだな。こんな感じでどうだ? パチュリー」とおどけた顔を見せる。

「いいわね」

「どうだフラン? 似てるか?」

「うんうん! 抱き着いた感じも似てるし、変身する瞬間を見て無かったら魔理沙だと思ってた!」

「ねえ魔理沙。私に言う事はないのかしら?」

 

 レミリア・スカーレットが肘をつきながら笑みを浮かべる。

 期待を込めた視線に射抜かれた化け魔理沙は「えっ、と……」困ったように口をパクパクした後、「申し訳ございません。お嬢様の名前を呼び捨てにするのは、畏れ多いですわ」

「あら、そう」

 

 レミリア・スカーレットは少し寂し気に呟く。満足したフランドール・スカーレットが離れた所で、パチュリー・ノーレッジは口を開く。

 

「その魔法は、貴女が元の姿に戻りたいと思えばすぐに解除されるわ」

「承知致しました」

 

 化け魔理沙は上品に礼を述べると、ふわりと浮かび上がる。

 

「それでは皆さん。失礼しますね」

「またいつでも遊びに来なさい。貴女なら歓迎するわ」

「お嬢様……ありがとうございます」

「頑張ってね~!」

 

 フランドール・スカーレットに手を振られながら、女神咲夜は時の回廊に帰って行った。

 

 

 

  ◇        ◇        ◇

 

 

 

 女神咲夜が帰還し、世界の時は再び動き出したが、時計台の針は動かない。

 フランドール・スカーレットが紅美鈴の元に飛んで行くのを見届けながら、着席したパチュリー・ノーレッジは訊ねる。

 

「それで、レミィはどこまで知っていたのかしら? あっちの咲夜が来ることは分かっていたのでしょう?」

「……そうだな。パチェに問おう。運命とは何だと思う?」

 

 反問に不意を突かれたような気分になりながらも、パチュリー・ノーレッジは答えた。

 

「定義としては、人間の意思を越えて幸福や不幸をもたらす力。巡り合わせといった所ね」

「世間的にはそうかもしれないが、私の考える運命とはそうではない」

 

 レミリア・スカーレットは、パチュリー・ノーレッジに見せびらかすように空になったティーカップを持ち上げる。純白に紅い薔薇の意匠が施されており、一目で高級品と認識できるものだった。

 

「このティーカップは先日人里で咲夜が購入してきたものだ。一般的な陶磁器製で、見ての通り傷やヒビは一切入っていない。さて、このティーカップを壊すにはどうしたらいいかしら?」

 

 パチュリー・ノーレッジは少し考えてから答える。

 

「一般的には、高い所から落としたら壊れてしまうのではないかしら」

「正解だ。他にも私が握りつぶしたり、パチェが魔法をぶつけてもあっさりと壊れてしまうだろう」

 

 レミリア・スカーレットは、割れ物を扱うようにそっとソーサーに置いた。

 

「これらに共通しているのは、〝衝撃を与えることで破壊される”だ。勿論衝撃以外でも、劣化・腐食、もしくはそもそもの器が欠陥品だった等の理由で壊れる事はあるだろう。しかし、何の理由も無く突然ティーカップが壊れる事は無い。運命もそれと同じだ」

「原因がある――ということね?」

「そうだ。破綻した因果は運命に結び付かないし、私も咲夜も考慮しない。〝有り得ない”事象を考慮に入れるのは〝杞憂”だからだ。ところが、今回の件は少し事情が異なる。咲夜はメビウスの輪によって〝結果”が確定していると話していた。これは〝原因”もしくは〝過程”が無視されているといってもいいだろう。私の能力も現在の世界では使えない」

「!」

「私は私なりに運命を操作して、今を作ってきたつもりだったが、この世界ではまやかしだった。私が何処で何をしても、今の歴史になっていたということね。それにしても改変前の歴史と同じ経緯なんて、何か意味があるのかしら――おっと、勘違いするなよ? あくまで、〝この世界”の話だ」

 

 レミリア・スカーレットはティーポットを持って空のティーカップに紅茶を注ぐ。次にテーブルの上に置かれた小さなガラス瓶を掴むと、中の血液をエッセンスのように振りかける。

 

「この世界で魔理沙が消えたのは、当然の帰結とも言えるわ。〝結果”が変化しない世界では、タイムトラベラーは存在しえないからな。故に魔理沙はメビウスの輪になる原因を取り除かなければならないが、タイムホール発生前には遡れない。従ってメビウスの輪に変化する過程で行動を起こさなければならないが、世界の法則が塗り替えられていく中で、生半可な事をしても〝確定した結果”――言い換えれば〝世界の収束”からは逃れられないだろう」

 

 レミリア・スカーレットはティーカップを見下ろし。

 

「魔理沙がメビウスの輪から逃れるには、〝適切な有り得ない”ことをする必要がある。先程のティーカップを例に挙げるなら、物理的、あるいは超常的な力を用いずにティーカップを破壊することが求められているわ。咲夜が歴史を観測出来ないのも当然だろう。〝そもそも考慮に入れてない”んだからな」

「――なるほどね。咲夜にはもう伝えたの?」

「言わずとも咲夜は理解しているし、間違いなくこの会話も事前に知っている。だからこそ、わざわざパチェの所に来たんだろう」

「……」

「魔理沙はこの矛盾に気付いて、理解した上で実行に移せるか。そこで彼女の運命は決まるだろう。これ以上はパチェにも話せないわ。私が全ての真相を明かす運命を0にしなければ、咲夜の〝条件”が消えてしまうからね」

「……難儀な話ね」

「ふふふ……」

 

 レミリア・スカーレットは紅茶を口に加えると、タイムホールと同化した空を見上げながら呟いた。

 

「頑張りなさい咲夜」

 

 

 

 ◇     ◇     ◇

 

 

 

「お嬢様、貴重なお話をありがとうございました」

 

 時の回廊から先程まで滞在していた時空を見下ろしていた化け魔理沙は深々と頭を下げると、その足で月の都に繋がる空間に向かって行った。

 

 

 

 

 

 ――西暦215X年10月1日午前9時(暫定値)―― 

 

 

 

――月の都静かの海――

 

 

 

 暫定時刻西暦215X年10月1日午前9時。

 幻想郷から遠く離れた月の裏側の静かの海にて、稀神サグメは宇宙を見上げながら一人思案する。

 

「…………」

 

 その視線の先には、タイムホールによって覆い隠された地球が浮かんでいる。彼女は幻想郷を基点としてタイムホールが広がっていくのを目撃していた。

 

「此方にいらっしゃいましたか」

 

 月の都から歩いてきた綿月依姫は、地球を見上げたままの稀神サグメに淡々と伝える。

 

「観測隊からの報告です。天の川外銀河に派遣した観測地点10か所にて時間の停止が確認されています。恐らく、現在の現象は全宇宙規模で起きているのでしょうね」

「……そう」

「やはり八意様はこの事態を予測していたのでしょうか」

 

 八意永琳は一日前に月の都を訪れ、中枢に封印されていた時間移動関連の電子記録を持ち帰った。綿月姉妹は永遠亭を訪れてその真意を訊ねるも、帰ってきた答えは到底納得のいくものでは無かった。

 

『このデータは未来に必要なことなの。理解してちょうだい』

「やはり我々も動くべきなのでしょうか?」

「その必要はないわよ?」

 

 二人の目の前に、空間をこじ開けるようにしてヘカーティア・ラピスラズリが登場する。

 

「貴女は……!」

 

 綿月依姫は腰に下げた刀に手を伸ばすが、ヘカーティア・ラピスラズリは手をひらひらと振りながら戦意の無さをアピールする。

 

「随分と酷い歓迎ね?」

「149年前の異変を忘れたとは言いませんよ?」

「違うわよ。今日は貴女達にとっておきの情報を持ってきたのよ」

「……いいでしょう」

 

 綿月依姫は柄から手を放し、臨戦態勢を解除する。

 

「まず幻想郷の現状だけど、八雲紫と摩多羅隠岐奈が動いたわ。彼女達はタイムホールを通って、時間遡航したね」

「タイムホール……地球を覆い尽くしている、次元の歪みの事ですか?」

「そうだ。この歴史では、タイムトラベラーの霧雨魔理沙が行方不明なのよ」

「なっ――!?」

「事態の解決に向けて、時の神が重い腰を上げたわ」

「時の神? そんな存在がいるのですか?」

「直接顔を合わせた事はないけれど、時の領域に住まう概念の存在は感知していたわ。普段は近くて遠い場所にいるのだけれど、時間の消失という事態を受けて、この次元に降りてきたようね」

 

 ヘカーティア・ラピスラズリは虚空を見つめているが、綿月依姫にはその意図が分からない。

 更に沈黙を貫いていた稀神サグメが綿月依姫とヘカーティア・ラピスラズリを見ながら口を開く。

 

「最早手遅れ。運命は既に固定された。私の能力が発動する気配が無いのがその証拠」

「……!」

「もし時間が逆転するのなら、次は違う世界になっていることでしょう」

「あながち間違いじゃないな」

 

 饒舌に語る稀神サグメに同意する声に、全員が注目する。

 

「魔理沙……!?」

「よう、久しぶりだな」

 

 化け魔理沙は気さくに右手を上げて挨拶するが、気配を感じさせずに現れた事に少女達は警戒していた。

 

「魔理沙。貴女はこの異変に何か関係しているのですか?」

「さてな。私がここに来た事に重大な意味があるのかもしれないし、特に意味は無いのかもしれん。物事の意味が分かるのはいつだって結果が出てからだからな」

「つまり、私達に教える気はないということですか」

「そうは言ってないぜ。生憎だが全てを語る時間は無い。とりあえず現状の情報について渡すから、全員手を出してくれ」

 

 不審に思いながらも三人が右手を出すと、化け魔理沙は自分のこめかみに指を軽く当てて、三人の手の平を順につっつく。

 予め編集しておいた映像――時の回廊で女神咲夜が博麗霊夢と霧雨マリサに語った内容――が彼女達の脳内に転送されていた。

 

「なっ……!?」

「理解した」

「へぇ?」

「何も言葉だけが意思伝達の方法じゃない。お前らの文明レベルなら、言語を伴わないコミュニケーションを取れる筈だ。そうだろう?」

「え、ええ。確かにその通りですが……貴女は本当に魔理沙なのですか?」

「おいおい、私を疑うのか? なんなら、お前らが関与した過去を送ってもいいんだぜ?」

「いえ……」

「とにかくもう用は済んだ。そろそろ私は行くぜ」

「待ちなさい」

 

 背中を向けた化け魔理沙をヘカーティア・ラピスラズリが呼び止める。

 

「貴女は何がしたいの? わざわざここに寄り道する必要性を感じないのだけれど」

「これは保険だ。お前らが当事者になる事はまず無いとは思うが、可能性が無くはないんでな」

「私達に協力しろと言う事ですか?」

 

 綿月依姫の疑問に化け魔理沙は振り返りながら答える。

 

「〝私”の邪魔さえしないのであれば、何をしてもいいぜ」

「…………」

 

 綿月依姫は真意を探るように化け魔理沙を睨む。

 

「安心しろ。例えどんな形であろうと、次で必ずけりをつけるぜ」

「……いいでしょう。ですが、月の都に脅威が訪れた時は、此方も動かざるをえませんから」

「それで構わん。じゃあな」

 

 そう言い残して化け魔理沙は彼女達の目の前から姿を消す。

 

「へぇ……」

 

 ヘカーティア・ラピスラズリは、真意を悟ったように笑顔を見せていた。

 

 

 

 月の都から時の回廊に帰還した化け魔理沙は、休む間もなく西暦200X年7月20日午後13時50分の博麗神社に降り立った。

 

「さて……」

 

 縁側に座るこの時代の博麗霊夢と霧雨マリサが気付く寸前に何もない空間に手を伸ばし、時間の流れが逆転している十六夜咲夜の右腕を掴んで、正常な時間に引きずり出す。

 

「捕まえたぜ」

 

 同時に限りなく停止に近い状態まで時間経過を遅くし、驚愕する十六夜咲夜に言い放った。

 

「久しぶりだな。咲夜、輝夜」

 

 それから化け魔理沙は、本物の霧雨魔理沙のように振る舞い、核心に触れないようにしながら真実を語っていく。

 話の途中で、十六夜咲夜から改変前の歴史について尋ねられた時、記憶の一部が戻ってしまった事に対して謝罪した。世界の内側から〝自分”の歴史を改変する方法では記憶が残る懸念があったが、今は霧雨魔理沙である以上、この方法しか無かったのだ。

 それから話は順調に進んでいき、蓬莱山輝夜は訊ねた。

 

「魔理沙。まだ重要な点を聞いていないわ」

「なんだ?」

「【メビウスの輪を解決する方法】と、【貴女の失敗の内容】よ。前者がまだ判明していないのは察するけれど、後者は貴女が体験したことなのだから話せるでしょう?」

「それは……だな。……悪いがどちらも話せない」

「……“貴女”は過去の“霧雨魔理沙”を助ける為に私達に接触したのでしょう? それとも、この会話さえも“貴女”の手の平の内なのかしら?」

「“私”から言えるのは、ここで全てを明かすことは“時刻Aの霧雨魔理沙”の不利益になるという事だけだ。互いの思惑は違えど、私達の目的は一致している筈だ。違うか?」

「……ねえ、霧雨魔理沙。これまでの“貴女”の言葉、全部信じてもいいのかしら?」

「時の女神十六夜咲夜の名に誓って、嘘は無いぜ」

  

 ここで蓬莱山輝夜に正体を看破される事は織り込み済みであり、計画に狂いはない。

 それから十六夜咲夜と蓬莱山輝夜を送り届けると、化け魔理沙は変身を解除する。

 

「上手く行ったわね。さあ、これでお膳立てが整ったわ。後は魔理沙――貴女だけよ」

 

 時の回廊に戻った女神咲夜は、始まりの塔に瞬間移動した後、自分が干渉した少女達の現状を透過ディスプレイ越しに確認する。

 思惑通り、博麗霊夢と霧雨マリサ、十六夜咲夜と蓬莱山輝夜、八雲紫、射命丸文、摩多羅隠岐奈、博麗杏子のグループが無事に合流していた。

 彼女達は情報交換した後、メビウスの輪の始点となるタイムホールを調べていき、長い討論の末に結論を下す。 

 

『時空Aの二分後に到着した後の私達の行動方針は、『直ちに魔理沙達と合流し、現地で起こり得る様々な不慮の出来事に臨機応変に対応しつつ、魔理沙を全力で支援する』で良いかしら?』

 

 八雲紫の言葉に全員が同意し、時空Aの二分後に飛んだことを確認してから、女神咲夜は透過ディスプレイを閉じる。

 ここまでの展開は女神咲夜にとって理想的だった。

 元々博麗霊夢達が時間旅行者霧雨魔理沙に好意的で、異変の解決に向けて自発的に行動していた為、彼女達の意思を尊重する形で改変できたからだ。これも時間旅行者霧雨魔理沙の人徳が為せる技だろう。

 女神咲夜は足元の隠し階段を開いて自室に戻り準備を済ませた後、時空Aのタイムホールの前に瞬間移動する。

 

「いよいよね……」

 

 ここから先は時の女神でさえも予測できない未知の歴史。

 時の回廊に接続できない為、外の世界の観測機材を持ち込む事も考えたが、機械に頼るよりも自らの五感で感じた方が良いと判断し、31世紀の地球製光学迷彩のみに留めた。

 光学迷彩を有効にした彼女は、時空Aに繋がるタイムホールを見下ろす。

 

「さて、何が待っているのかしら……!」 

 

 未知の歴史に胸を高鳴らせながら、女神咲夜はタイムホールに飛び込んだ。観測者が不在となった時の回廊は、異様な静寂に包まれていた……。

*1
UTC(協定世界時)紀元前38億9999万9999年8月19日午前0時。

*2
UTC(協定世界時)紀元前38億9999万9999年8月19日午前0時、プロッツェン銀河ネロン星系アプト星ゴルン、ハイメノエス地区ラフターマンション。

*3
JST(日本標準時)西暦215X年10月1日午前7時40分幻想郷魔法の森上空。




ここまでお読みいただきありがとうございました。
これでタイトルに『タイムホールの影響』とついた話は終わりです。

次の話は『第221話 (2) 魔理沙の記憶③ 余波』の続きとなり、視点が魔理沙に戻ります。
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